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愛鴨  作者: 山本 宙
1章 ようこそLove Duckへ
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5話 Love Duck

 久しぶりにヒデと再会したレストラン。

もう一度ヒデとそのレストランで会うことになった。


「なぁ、藍野。まさかいきなりデートまでとんとん拍子でいくとは思わなかったよ。ずっと彼女ができなかった藍野だったから驚いたよ」

水の入ったグラスをグルグル回しながら話す。

話す顔は笑みを浮かべている。グラスを口に持っていき一口水を飲み、そっと机に戻した。


「自分でも正直驚いたよ。でも、ここでヒデと話した後、勇気が出て思い切ってアクションを起こせたんだ」

眼がまっすぐで、はっきりと口を動かして話す。

「さて、これからどうする?次のデートの約束はしたのか?」

束の間の休息も与えない。とんとん拍子をさらに飛躍させるように語り掛ける。

しかし、すっと沈黙が起こった。次の藍野の言葉をまるで店の空間が耳を傾けるように。

「どうすればいいだろう。中国人とのデートも会話も難しいよ」

勢いを遮ったかのように藍野はうつむき考え込んでいた。



「どうした藍野。なんだか元気がないぞ。確かに中国人とは育った場所が違うかもしれないけどさ。楽しく時間を過ごせただろ?」

何かあったわけではない。


ヒデは心配しているが藍野は楽しく過ごせた。

ただ、相手が楽しい時間を過ごせたのかはわからないし、次も本当に会ってくれるのかもわからない。

藍野はヘイヘイのことを思うと必要以上に心配になっていた。



「藍野、ヘイヘイさんのこと好きになったのか?」



その一言が出た瞬間、藍野の目が見開いた。感情が一気に沸騰した。

デートをしてから気持ちがヘイヘイに取られたかのような姿をヒデに抑え込まれた気がした。

それでもヘイヘイのことが思い込んでしまう自分が可笑しくて顔が真っ赤になった。



「本当だ。ここまで相手のこと思ったことなかった。デートの時間も終始緊張していたよ。俺、ヘイヘイのこと好きなのかな」

さりげなく言った藍野の言葉に驚いた。

「いっ!」

歯を食いしばって藍野をじっと見る。


「そうなのか?好きになったのか?」

聴いているヒデが恥ずかしくなる話だ。

「俺、きっと好きだ」

まっすぐな気持ちでまっすぐな言葉。

二人の顔は真っ赤に火照ったが、互いは自分を冷ますように冷水を飲んだ。


その後、デートの内容を話しては聴いて、二人の顔は笑顔で絶えなかった。

二人の間には合鴨料理が並んでいて、この光景はこれからも時折、やってくる時間になるだろう。


二人の間に恋の相談が生まれてくるとは、青春時代が今になってやってきたかのようだ。

時がたっても同級生だった者はいつまでたっても同級生で、悩みを抱え込むと返ってくる原点のようで、いつも心がそこにあるようだ。


「なぁ、今度少ない人数で同窓会を開こうと思うんだ。藍野も一緒に参加しないか」


同窓会。それは藍野が青春時代を過ごせなかった高校時代を過ごしたメンバーの集まり。


「もしかすると、高校生の時に藍野のこと好きだった女性が中にはいたかもしれないし、色々話を聞いてみたらどうだ?

俺ももちろん久しぶりに会って皆と話してみたいと思って企画することになった。

藍野と久しぶりに会ってそう思ったよ。だから一緒に参加してほしい」



もちろん返事はオッケーで、日程を合わせることになった。


ここまで世話になるとは思っていなかっただろう。

恋の相談と同窓会のお誘い。ヒデの存在は藍野にとってとても大きなものとなっていた。


「ありがとうヒデ」


今日も合鴨料理は完食。

残さず全てを食べ終えて、フォークとナイフを皿に置いた。

「ごちそうさま。また何かあった時はここに集合だ」



合鴨料理を出す店は(Love Duck)という看板を玄関に立てていた。

水辺をはしゃぐ鴨の絵が表に描かれていて、店の雰囲気を明るくしている。

外は夜で、二人は別れの際に、鴨の絵を背景に違う方向へと歩いていく。



きっとまたこの店に戻ってくるだろう。互いがそう思っていた。


店長が看板をしまう。

「店長、さっきのお客様が忘れ物をしたみたいです」


「どんなお客さんだったかな。亜子ちゃん、お客さんの顔を覚えていたら、また店に来た時に渡してくれるかな」


亜子という女性はにこやかに頷いて、マフラーをたたんで店の中に戻った。

「さっきのお客さんの顔すごく覚えていますよ。優しそうな顔していました。きっとマフラーがないと寒いでしょう。必ず渡しますね」

小さな店は二人の店員でまわしている。

おそらくまた私が接客するだろうと、藍野の顔をしっかり記憶した。


藍野のマフラーを亜子はギュッと握りしめた。


しゃべったことのない客だが、亜子から見ると二人の客はLove Duckでつながっているような気がして、特に大切なお客さんに思えた。


また必ず二人はくるだろう。

また笑顔で話し合いをしながら、合鴨料理を食べるだろう。

そんな気がしてならない。


しかし、亜子が藍野を見る目は普段と違っていたことを店長も傍らでじっと見ていたのだ。


長年の人生経験がものをいう。

「亜子ちゃん、若いっていいねぇ。仕事も生活も頑張れよ」

天を見上げて亜子に聞こえるように話した。

「もう、店長何言ってるのですか」

店長が見た星はキラキラと輝いていた。



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