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愛鴨  作者: 山本 宙
7章 折り箱
49/70

49話 儚くも強く

 「私と亜子はずっと前からの知り合いよ」


どうして亜子とヘイヘイが知り合いなのか、

藍野はその場で理解できなかった。


続けてヘイヘイが説明する。


「亮介に私は二つバーを経営しているって言わなかったかしら?」


「そうだね。二つのバー経営の一つがbutterflyで僕が行ったところだ」


「覚えてくれているのね。嬉しいわ」


二人は和むように語らう。


「そしてもう一つのバーをまだ亮介に教えていなかったわね」


「うん」


ヘイヘイは一度うつむき微笑ましくいた。

そしてゆっくりと藍野の顔を見て話し始める。


「あなたが通っているLove Duckの経営者は私よ」


藍野は耳を疑った。毎日のように通っていた店がヘイヘイの店だなんて

思いもしなかったことに対して・・・。


「本当なのか?あの店はバーではなくて、合鴨料理のレストランじゃないのか」


確かにお酒はある。しかし、butterflyとは大きく異なるものを提供している。

料理もサービスも、そして雰囲気も・・・。


「もともとLove Duckはバーだったのよ。でもあそこの立地条件ではバー経営は困難で、レストランに切り替えたのよ」

淡々と店の経営について語る。


(本当にLove Duckはヘイヘイのお店だったのか・・・)


「Love Duckの店長は、料理の腕が確かだったから、合鴨料理一本でも成り立つのよ」


だから合鴨料理を何度食べても飽きないわけだ。


「そして、亜子と私は同じ男性に恋をしていることがわかったの」


「それが、あなたよ。亮介さん」



それほどまで身近な存在が藍野の周りにいた。

何一つ知らなかった藍野にとって、

恐ろしいほどに世間は狭く感じてならない。


「私にとって恋愛と仕事は割り切っているから、亮介が選んだ女性が本当の恋人として受けとめる覚悟だった・・・。だから、亜子が一生懸命に亮介にアタックしても、軽蔑するような振る舞いをしなかったし、お互い恋愛ではライバルだ!って思ってた。私、負けず嫌いだから」



ヘイヘイにとって亜子は部下に値する存在だ。

必ず、不平不満を仕事でも出してしまうのが本来の人間の性に違いない。


でもヘイヘイはそうありたくないと思っていた。



自分が負けても前を向いていけるのは、それは亮介の気持ちが亜子だったことを否定したくなかったからだ。


「とにかく私は亮介が幸せになってくれればそれでいいの。そして亜子を幸せにしてあげて。私が伝えたいことはそれだけよ・・・」


藍野はその言葉を重く受け止めた。

別れ際に失恋相手に応援できるヘイヘイは、藍野から見て心の器の大きさを物語っている。



「僕はヘイヘイに幸せになってもらいたい。ヘイヘイには僕よりもずっと素敵な男性があらわれるよ」


「ありがとう・・・」


ヘイヘイが藍野に握手を求めた。

その手を見て藍野は、初めてヘイヘイの手を見た時のことを思い出す。


「ヘイヘイの手は心と違って本当に小さくて折れそうだよな」

そう言ってヘイヘイの手を固く握った。


「また、どこかで会えることを楽しみにしているわ。日本の親友である亮介さん」


「こちらこそ、Love Duckにはいつもお世話になっているんだ。本当に感謝しているよ。また会おうね」



二人の手はそっと離れて、ヘイヘイが背を向けて歩いていく。


「ヘイヘイ!」


藍野が呼び止めた。

ゆっくりと振り向いたヘイヘイは涙を流していた。


「ずっとLove Duckには通い続けるから!また帰ってきた時は連絡してほしい!」


「必ず連絡する!絶対に!!」


その言葉が最後だった。

別れの瞬間はとても儚い。


ヘイヘイの姿が見えなくなるまで藍野は見送った。一緒にいた美姫も同じくしてヘイヘイと藍野を見届けた。


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