43話 同棲 section4 これからの日常
朝、藍野が目を覚ました。
いつものように一斤の食パンを焼こうと思ってベッドから立ち上がる。
すると思い出すようにベッドを眺めた。
「昨日、亜子と寝たんだった・・・」
するとキッチンからいい香りが漂ってきた。
「おはよう。もうすぐ朝ごはんができるからね」
亜子は早くに起きて朝食の支度をしていた。
「朝、早いんだね」
藍野は目をこすりながらそう言って、食卓の座席に腰かけた。
「そうそう、張り切っているわけじゃなくて、これが私の習慣だからね。朝もちゃんと作るのよ」
「ふーん」
朝もキッチンに立つことは無かった。
これで良いのだろうかと内心思ったりもした。
なんでも亜子は自分でやってしまうため、とても世話をしてもらっている気持ちしかしない。
何か手伝おうかと言ったところで、手伝わせてもらえないのがオチだろう。
きちんと家事の役割分担を話し合わないといけない。
そう思って今夜でも役割分担の話し合いをしようと藍野は決めた。
「仕事頑張ってね」
玄関先までお見送り。
忙しいはずなのに、いとも簡単に家事をこなしてしまう姿は感心した。
藍野は家事に対して、手際よくこなすのは苦手だったのだから。
「いってきます」
一人暮らしでは言わなかったセリフ。
「いってらっしゃい」
亜子も今まで言ってこなかったセリフだ。
会社に着くと、すぐさま仕事の段取りに取り掛かる。
一日の仕事にきめ細かくタイムスケジュールを立てて準備をしていく。
これが藍野の日課だ。
すると後輩の望月拓斗が出勤してきた。
「おはようございます!」
「おはよう、拓斗」
「今日も間違えて女性専用車両に駆け込んでしまいました」
どうして同じ過ちを繰り返すのか不思議でならない。
冤罪にならないかが心配になる。
「三回目はやめとけよ。捕まっても知らないぞ」
「すみません、気を付けます。ところで藍野さん」
「ん?どうした?」
藍野は手を止めて、拓斗の方を見た。
「休憩時間にお話ししませんか?恋愛相談です」
「いいだろう」
丁度いい機会だし、藍野は彼女ができたと報告しようと思った。
仕事は順調に進む。時折、亜子の表情を思い浮かんでしまう時はあるが、
むしろ頑張る気持ちになれた。
(付き合うって結構、仕事も頑張れるな・・・)
ようやくひと段落付き、藍野は大きく背伸びをした。
しばらく座っていた身体がグッと硬直していたため、
とにかく伸ばしたい一心で天を仰いだ。
拓斗も両手を天井に伸ばして休憩の合図だ。
「さぁ、休憩しに行こうか」
そう言って拓斗の肩を二回優しく叩いた。
缶コーヒーを買って拓斗に向かって投げる。
慌てふためきながら拓斗は飛んできた缶コーヒーを両手でつかんだ。
「いつもそのコーヒーだよな」
「あ、ありがとうございます!」
早速、缶コーヒーを開けて一口飲む。
拓斗の恋愛相談って何だろう。
休息に入った途端に拓斗の一言を思い出す。
「恋愛相談だったな。いったいどうしたんだ?」
そう聞くとすぐに拓斗の口が開いた。




