39話 合鴨料理を噛み締めて
身体が暖かい。
今まで抱き合っていた後名残が愛おしい。
抱いていたのは亜子。
今までで人生初めての経験かもしれない。
いや、母親に抱かれていた記憶はある。
しかし、大人になってから女性と抱き合ったのは
人生で初めてだ。
こんなにも暖かかったのか。
人と人の触れ合いは
密着すれば心臓まで温度が伝わってくる。
亜子の体温・・・。
そう、二人は交流を深めるうちに、
心を授けあったのだ。
どうして亜子なのだろう。
他にも女は、いたはずだ。
それはLove Duckに訪れる以前から、
幾多の女と出会い、仲を深めた。
それでも最終的には亜子を選んだのだ。
そう、藍野が初めて心を許した女性。
藍野が自ら告白した女性。
ちょっとした出会いからだったかもしれない。
それでも藍野は亜子を好きになったのだ。
心は人を選ぶ。
人は心を選ぶ。
いつしか藍野は空を眺めていた。
さっきまで一緒にいた女はどこにいったのだろうか。
早く会いたい。
そうか、ヒデ。
恋愛ってこういうことなのか・・・。
心はいつも普遍的に相手を選ぶ。
そう、自分が好きだってことを。
藍野のスマートフォンにメッセージが届いた。
亜子からだ。
亮介へ
今日はありがとう。
一緒に遊べて楽しかった。
そして告白ありがとう。
亜子
藍野がメッセージを朗読する。
さっきまでの出来事は本当だったのか。
正直、夢だとも思えてならない。
「本当に今日は良い思いをした。そうとなったら、合鴨料理食べに行くか」
藍野の独り言は、決まってLove Duckに足を運ぶ心意気。
「Love Duckか・・・。亜子ちゃんがいる・・・」
そう、今まで通っていた店には彼女となった亜子がいる。
Love Duckは合鴨料理の店というタグ付は剥がれ落ちて、藍野の胸中では
Love Duckは亜子の店となっていた。
不思議な感覚だな。
そうだ。今度行くときはヒデも呼ばないと!
初めて彼女ができた報告をいち早く聞いてもらいたいのはヒデである。
しかし、いつも待ち合わせていたLove Duckには彼女本人がいる。
摩訶不思議な感情も湧き上がってくるが、
ここは思い切ってヒデをLove Duckに誘う。
そして、あくる日、藍野とヒデはLove Duckにいた。
藍野が辺りを見渡した。
(亜子ちゃんがいない・・・)
「どうした?藍野」
「いや、いいんだ」
そして藍野が口火を開く。
「ヒデ・・・心して聞いてくれ」
「何だよ。急に」
少し間が空く。早くしろと言わんばかりに、ヒデの眉間にしわが寄る。
遅いと思ってヒデが合鴨料理の肉を噛み締めていると、
「僕、亜子ちゃんと付き合った」
ヒデの口が大きく開く。
鴨肉が皿にボトンと落ちた。
今まで見たことのない表情だ。
そして、大きく開いた口から言葉が飛び出してきた。
「何――――――!!!!」
驚きの声は店中に広まった。




