38話 ハートを射抜く
車中で二人は沈黙が続いた。
手を繋いだ後だ。
少し気まずい雰囲気が漂った。
この雰囲気はしばらく続いた。
亜子がギュッとハンドルを握る。
何かを言いたそうだ。
唇をかみしめて首を横に振った。
「どうしたんだ、亜子ちゃん。大丈夫?」
心配した藍野が声を掛ける。
その後だった・・・。
「藍野さん、私はあなたが好きです」
「好き?」
突然の告白。
亜子の心臓の鼓動がバクバクとする。
それ以上に藍野の心臓が大きく揺れ動いていた。
車中で突然発した言葉に、藍野は動揺してシートベルトを片手で握りしめた。
「亜子ちゃん、それって告白?」
この状況は・・・。
藍野にとって全く予想していない出来事だ。
しかも遊びに向かう道中でありながらも、
亜子は積極的に告白したのだ。
「藍野隊員!今からサバイバルだ!返事は後にしてちょうだい!」
かわいい声で亜子隊長は命令した。
「あ・・・亜子隊長・・・。返事は後でって・・・」
隊長と隊員と、このやり取りはいつまで続くのだろうか。
しかし、藍野の心臓はずっと踊るように鼓舞していた。
現地に到着。
サバイバルをするために、
エアーガンや防弾チョッキの装着準備は出来ても、
心の準備は全くできない。
「藍野さん・・・大丈夫?」
さっきまで告白タイムだった二人の心は
とてもサバイバルゲームをする状況に踏み込めないはず。
亜子もタイミングを誤ったと後悔する。
藍野がアサルトライフルの引き金を引いたとき、
ヒデの言葉を思い出す。
(付き合ってみろよ・・・)
今までお付き合いをするところまでに至らなかった藍野の恋愛事情。
先日まではヘイヘイに心が向いていた藍野。
ここにきて、亜子との関係も近づいていたのも事実だと思い返す。
(亜子ちゃん、僕なんかで本当に良いのか・・・)
ゲームがもうすぐ始まる。
「亜子ちゃん」
「どうしたの、藍野さん」
一瞬ざわめいていた会場が静まり返ったように、
亜子は藍野が発しようとする言葉に聴き入ろうとした。
そして藍野が固唾を飲んでから言葉を発した。
「このゲームが終わったら僕が亜子ちゃんに告白するよ」
このゲームの終わりは、藍野と亜子ちゃんの恋愛の始まりとなる。
「しっかりと聴こえましたわ!藍野さん、全力で戦いましょう!!」
亜子はそう言って、エアーガンを乱射した。
迷彩服を着た相手が次々と撃たれていく。
「くっそー!やられた」
「亜子ちゃん強えぇー!」
相手の人たちを仕留めて敵陣に攻め入る亜子と藍野。
二人はとことん突き進んだ。
撃ち合って、その場を最後まで楽しんだ。
そしてサバイバルゲームを終えて、
二人はまた帰るために車に向かう。
「とっても楽しかったわ」
大きく背伸びをして深呼吸をした。
空気が美味しい。
「亜子ちゃん」
「何ですか亮介くん?」
藍野が心を決めて話そうとすることを、知ったかぶりする亜子。
「亜子ちゃん、一緒にいる時間が本当に楽しくて仕方ない。僕も好きなんだ。だから・・・・」
「だから・・・?」
「僕と付き合ってください!」
ついに告白をした。
直立不動で手だけが亜子の方に伸びる。
「告白してくれてありがとう」
亜子がそう言って笑みを浮かべた。
「亮介君、私でよかったらお付き合いしてください」
亜子は向けられた手に自分の手をそっと添えた。
二人は付き合うことになった。
二人の出会いはLove Duckからだ。
合鴨料理を食べ始めた時から、二人は結ばれる運命だったのだろうか。
二人はゆっくり歩み寄る。
そして藍野から亜子に手を添えて、
抱きしめあった。
力強く、
藍野は亜子の身体をしばらく腕で包み込んだ。




