37話 二人の手
翌日、
藍野のスマートフォンに着信が入る。
亜子からだ。
「もしもし」
「もしもし、藍野さん!亜子です」
甲高い声が耳に届く。
「どうした亜子ちゃん?またサバイバルゲームのお誘いか?」
「その通りです!!」
予想的中。
「もちろん参加するよ」
藍野はサバイバルゲームにハマっているわけではない。
亜子からのお誘いが嬉しかった。
積極的に誘う天真爛漫なところに藍野は少し好意を寄せていたからだ。
「誘ってくれてありがとう。僕は彼女がいないし、大して友達もいない。本当にうれしいよ」
「藍野さん、これはデートのお誘いです!私を一人の女性として見てください」
「それって・・・」
「ううん!何でもないです!じゃあ今度のサバイバルゲームよろしくお願いします!」
そう言って電話が切れた。
何気ない会話に少し違和感が生じた。
まさか、彼女として亜子のことを見るように言っているのだろうか・・・。
亜子と藍野が店で待ち合わせたのは数日後だった。
二人は定休日で店を閉めているLove Duckに集まった。
「今日はよろしくお願いします」
藍野が丁寧に挨拶をした。
「真面目ですわね。兵隊さんの素質があるかもね」
冗談もほどほどにしないと、兵隊ごっこも藍野からしたら少し恐ろしさを感じるところもあるのだ。
下手したら亜子の人格も疑ってしまいかねない。
「顔が固いですよ!私の車で向かいましょう」
その時だった。
亜子が藍野の手をつないだ。
「亜子ちゃん・・・手・・」
思いもしなかった亜子の行動に戸惑う藍野。
「手を繋いだらだめですか?」
「いや、良いんだ。すごくフレンドリーというか。元から亜子ちゃんはそんなタイプだけど」
「藍野さんだから手を繋いだの」
「え?」
するとグッと力強く藍野の手を引いて先導するように歩き始めた。
「嫌だったら手を離しても構いません」
「いや、いいけど。力強いね」
「ごめんなさい!」
そう言って繋いでいた手をパッと放した。
「亜子隊長、行先までよろしく」
そう言って藍野は亜子の手を握り返す。
二人の手の温度が上がって火照る。
「こっちですわ。藍野隊員!」
二人の手は幾度となくぎゅっぎゅっと握りあう。
私の車に乗ってください。藍野が助手席に乗った。
運転席に乗る前に、亜子は深呼吸した。
そして亜子の顔は真っ赤になっていた。
高機能リュックから取り出したのは保冷剤だ。
頬に保冷剤を当てて火照った頬をじっくり冷やす。
すると扉越しに藍野が話しかける。
「隊長、大丈夫ですか?」
「戦闘準備をしているところよ!」
冷やした頬は余計に赤くなっていた。
亜子が乗り込むと藍野が笑った。
「日焼けでもしたの!?」
「違います!これは武者震いの一環ですわ!」
そう言って亜子は車のエンジンをかけた。
アクセルを踏んでエンジンをふかす。
藍野から見て、アクション映画のワンシーンに思えた。
「本当に戦いに行くみたいだね」
「出発進行―!」
ギアを入れて車を走らせた。
今日は助手席かと思いながらも、
亜子の振る舞いを受け入れる。
本当は運転を変わって男らしいところを見せたいところだが、
亜子が求めているのは今の状況なのだと察する藍野だった。




