34話 郡上八幡section6 思い付きのサプライズ
ヘイヘイはキラキラ★Dreamの曲を歌い終えた。爽快感に満ちた顔で藍野の隣に座った。
「あぁーキラキラ★Dreamは最高ですね。いつ聴いてもいい曲だし、歌っていても気持ちいいわ」
藍野が思いついたことを言葉にした。
「キラキラ★Dreamの橘美姫に会いたい?」
「えっ?会いたいわよ。最近はライブに行けていないけど、会えるなら会いたいと思うわ」
「僕、橘美姫と友達なんだ」
「うそ!?」
ヘイヘイは藍野の言葉をすぐに疑った。有名なアイドルと友達だなんておかしな話だ。
「冗談が酷いわよ。ファンの私が怒るわよ!」
「本当だって」
絶対に嘘だと思えてしまうのは当然の事。ヘイヘイにとって橘美姫は舞台に立ち輝く歌姫であって、実在の人物とは思えないほど崇高な人間だと思っている。
二人はスナックで入り浸り、世間話をしながら時間を過ごした。
時折、スナックのママさんが話に入って団らんした。
田舎のスナックはガヤガヤと騒がしくなく、静かな雰囲気でさらに酔いしれる。
「明日は帰路に向かうからそろそろ旅館に戻ろうか」
旅館に泊まると言い出した時は、色々な妄想を抱いてしまった。
しかしそんな妄想や期待は何もなかったかのように、ヘイヘイはすぐに就寝する。
藍野は夜空を眺めながらスマートフォンを手に取り、電話を掛けた。
「こんばんは、突然だけど明日時間ある?」
「あるわよ。明日は休みだから」
電話の相手は橘美姫だ。
「お願いがあるのだけど、僕の知り合いが美姫のファンなんだ。会ってあげてほしい」
「いいわよ。親友のお願いは断らないわ。明日会いましょう」
心が広い女性だ。本当に突然のお願いなのに、いとも簡単に承諾する。アイドルという立場を十分わきまえつつ、藍野のお願いは心から答えてくれる。高校時代は辛いことだらけだったが、その辛いひと時も橘ななみを含めて乗り越えてきた3人だった。それは強い絆で結ばれているのだろう。
翌朝、ヘイヘイと藍野は旅館を出て東京に向かった。どれだけ遠い道のりでも、旅館で癒された身体は何の苦悩もなく運転に集中できた。
日差しが明るく、進む道が光るように照らされていた。
「駅に着いたら橘美姫がいるから、心の準備をしておきなよ」
「えっ!?昨日の冗談をまだ続けるの?」
話しても無駄だと思った。
駅に着いたら橘美姫に会えるなんてヘイヘイにとっては全く想像できない出来事だ。
最後の最後まで最高の時間を・・・。
親友の美姫も協力するサプライズはどうなるのだろうか。
長い、長い道のりは苦痛ではなく、もっともっと長い道のりにならないかと思えるほど藍野はこの時間を大切に思えた。




