33話 郡上八幡section5 偶然の重なり
旅館は昔ながらの建物で、周辺は山々に囲まれている。
鳥のさえずりが聞こえてきてのどかな風景にうってつけの音色が響き渡る。
藍野とヘイヘイは二階の部屋に入った。
「川の景色に感動したけど、ここの旅館から見える景色も最高だね」
旅館の外も川が流れている。
水の流れる音は静かで、心落ち着く。
「本当に癒される休日だわ。最後まで郡上八幡を優雅に過ごせそう」
ヘイヘイは十分満足していた。
いきなり帰ると聞かされた時は、憤りさえあらわにしていたが、今は落ち着いて景色にまた癒されている。
藍野は最初から旅館に泊まる計画を練っていればよかった。と振り返りながら思った。
「亮介、今晩はどうするの?」
その質問に藍野の顔が火照った。
完全に勘違いだ。変な妄想を抱いてしまった。
「亮介?今晩のご飯よ。いきなりの宿泊だから旅館は夕食を用意してないじゃない?」
藍野は我に返る。女性と二人で旅館に行くなんて初めてのことだから、色々な妄想を抱いてしまっても仕方がない。
「えっと、女将から聞いたけど、近くにスナックがあるらしいよ。そこに行こう」
「スナック?」
ヘイヘイは日本に来てバーを経営しているが、スナックという店を知らなかった。
「ヘイヘイが営んでいる店と似たようなものさ。お酒が飲めるところだよ」
「そうなのね。そこに行こうかしら」
ヘイヘイは笑みを浮かべた。
二人は早速荷物を部屋に置いてスナックへと足を運んだ。
スナックは旅館からとても近くにあって、歩いてでもすぐに到着した。
「いらっしゃいませ」
40代くらいの女性が客の二人を招く。
ヘイヘイがスナックに入ってすぐに目に留まったのがマイクだ。
「もしかしてカラオケ!?」
ヘイヘイの気分が高まる。
「歌も歌えるみたいだね」
それを聞いてヘイヘイが大好きなカラオケができると知って大喜びした。
「私はキラキラ★Dreamの曲を歌いたいわ!」
藍野はヘイヘイが言った「キラキラ★Dream」のグループ名で過去の記憶がよみがえる。
ヘイヘイと初めてのデートで歌ったアイドルグループ・・・
そして、グループメンバーの橘美姫・・・
藍野にとってすべてが繋がっていた。
こんな偶然は珍しい。そういえば、ヘイヘイはキラキラ★Dreamの曲が好きだったんだな。しかも、橘美姫のファンだって・・・。
藍野にしか味わえない偶然の重なり。
「ヘイヘイはキラキラ★Dreamが好きだったな。歌ってよ」
藍野は過去の記憶を走馬灯のように思い浮かべながら、ヘイヘイが歌うキラキラ★Dreamを聴くことにした。
ヘイヘイは気持ちよく歌う。
そして藍野はあの頃の思い出を、ヘイヘイの歌声と共に心に響かせるのであった。
「美姫、元気かな」




