32話 郡上八幡section4 お泊り
藍野とヘイヘイの二人は鮎料理と川の景色を堪能した。
「これからどうするの?」
ヘイヘイは日程を聞いていなかったため、藍野に聞く。
藍野は泊まることを考えておらず、そのまま帰るつもりでいた。
「えっと・・・東京に帰るつもりだけど」
「えぇっ!?今から東京に帰るの!?」
ヘイヘイは驚いた表情で藍野に話す。
「今から帰るって5時間はかかるじゃない!せっかく来たのだから・・・」
「来たのだから・・・?」
藍野のとぼけた顔にヘイヘイが睨みつける。
「宿泊に決まっているじゃない!長時間の移動で疲れたわよ」
頭を抱えてうつむく。
さすがに長時間移動した後は助手席でも疲れが溜まるだろう。
藍野は一応、次の日は休暇として休みを取っていた。
同じくヘイヘイも次の日は休日にしている。
「お泊りでけってーい!」
藍野は近くの旅館を調べて電話を掛ける。
「すみません。今日泊まりたいのですが、部屋空いていますか?」
電話越しに女将が答える。
「えぇ、空いていますよ。何名様ですか?」
「2名です」
「部屋は何部屋にされますか?」
一瞬、藍野はヘイヘイの顔を見て女将の質問に答えた。
「2部屋でお願いします」
ヘイヘイが腕組をして藍野に訂正を求める。
「1部屋で良いわよ!一緒の部屋で泊まるのよ」
焦って藍野は女将に訂正した。
「女将さん、やっぱり2部屋でお願いします」
藍野は本当に遠回しでヘイヘイの距離感を保とうとする傾向があった。
それに対してヘイヘイは間髪入れず、遠慮を却下する。
「亮介、どうしてあなたはそんなに奥手なのよ」
藍野は説教をくらうように語られた。
「遠慮はいらないわ。2部屋だなんてお金がかかって仕方ないわ。真面目過ぎよ!」
ヘイヘイは藍野の頬をつねった。
「いーっ!」
二人は近くの旅館まで自動車で向かった。
(旅館で同じ部屋・・・ヤバいよ)
藍野は運転しながら異常なほど緊張していた。
「亮介、固まっているわよ」
手が固まってしまう藍野だが、慎重に運転した。
少ししてから自動車は旅館に着く。
電話で会話をしていた女将が入り口で出迎えた。
「藍野様ですね。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「どうぞこちらへ」
女将の案内で部屋に招かれた。
二人は旅館の説明を受けた後、二人になった。
「せっかくの休みなのだから、ゆっくりしましょう」
ヘイヘイは旅館の床にぐったりと寝そべった。
束の間の休息といったところか。
「二人でゆっくりお酒を飲みながら語らいましょう」
「そうだね、ヘイヘイは初めから泊まる予定だったの?」
藍野が気になっていたことを質問した。
「当り前じゃないの・・・亮介は本当に律儀なところがあるわね。そういうところが素敵なところかもね」
ヘイヘイと藍野は一夜を共に過ごすことになった。
同じ部屋で男女二人きりで過ごすのは藍野にとって思いもしなかった出来事だ。
緊張がはしる時間を藍野はどうやりきるのだろうか。




