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愛鴨  作者: 山本 宙
1章 ようこそLove Duckへ
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3話 突っつかない鴨


 夜が明けて、真っ青な空がビルの間から見える。

その空は太陽に照らされて光を帯びていた。

ベンチに座る藍野はスマートフォンをポケットにしまって上を向いた。そう、スマートフォンをいじって、下を向いていては何も変わらない。


恋愛に対して悩むようになった藍野は何か行動を起こしたい気持ちが沸々と湧いてきたのだった。


ヒデとの会話を思い出す。

「気になった女性に猛烈アタックか・・・」

「イベントの件、こっちから連絡してみようかな。合鴨の話はよくわからなかったけど・・・」



空を見上げて手を真上に伸ばした。藍野は薬指を見てヒデの薬指を思い出す。

結婚指輪を目の当たりにしたときの衝撃は大きかった。人生を振り返ろうと思うくらいだ。

ヒデとの再会こそが、まさに恋愛に向き合うターニングポイントなのか。


「着信、藍野」

ヒデのスマートフォンが振動する。



仕事の休憩時間にヒデはコーヒーを飲んでいた。ヒデが電話に出る。


「オッス!藍野!この前は合鴨料理を奢ってくれてありがとう。めっちゃおいしかったぞ。」

久しぶりに出会った友人から、さっそく連絡があって嬉しかった様子で、電話越しでもにこやかに話しているのがわかる。

「こっちこそ、ありがとう。楽しかったよ。ところでさ、ヒデ。イベントの件だけど、恋活パーティーがあったら参加したいと思っているんだ。ヒデがおすすめするパーティーを紹介してほしいな」



なんとも恥ずかしい依頼だ。

それでも、藍野は恥じらいなく堂々と話す。

藍野にとってヒデは信頼があって何でも話せる仲だってことは今も変わらない。

それに自ら婚活サイトを巡ることはなかったものの、恋を掴み取る決心がついたのもあって、相手の反応なんてどうでもよいくらい前進を図っていた。



「藍野、いいよ。ついに前進する決心がついたようだね。もうすぐ始まる恋活パーティーを紹介するよ。

仕事終わったら、折り返し電話するから待っていてくれ」

夜になってヒデから連絡がきた。ヒデから紹介されたパーティーは


「海外女性と日本男性の交流会」


なんてインターナショナルなんだ。異国人との街コンといったところか。

国籍問わずの交流会で、ヒデが言うには言葉だけではなくて、とにかくパーティーを楽しむことも必要だ。とのこと。


このパーティーはヒデも参加したこともあって場の楽しみ方を教わった。

なんて得意げに話していた。

言わんとしていることはわかる。

でも本当に楽しめるのだろうか。

それに、恋愛に繋がるのだろうか。

あまりにも想像がつかなくて藍野は困惑していた。

しかも、日付は後1週間しかなかった。当日参加が可能な街コンだから。

結構ラフな雰囲気である感じがした。

敷居は低いと思ったが、現場では結構勇気を出して話しかけていかないと、時間だけが過ぎてしまうのではないかと心配になった。


「頑張ろう」

参加前に、ヒデが一度会って作戦会議を練るため一緒に買い物に行こうと連絡がきた。

作戦会議という口実で遊びたいだけなのではないだろうか。

ショッピングモールでヒデと待ち合わせる。

遊びたいだけなのではないだろうかという変な疑いはすぐに消えた。

「よお!藍野!いよいよ明日だな!今日はお前をコーディネートしてやる」

少しでも疑った自分を責めたくなった。

「え?ヒデは俺にそこまでしてくれるの?」


ヒデは結婚祝いで合鴨料理を奢ってくれた藍野に少しでも恩返しをしたかった。

今日は思い切って見た目を変えていくんだよ。と藍野の前をずかずかと歩く。

服は少し遊びを取り入れて、楽しい雰囲気が出るよう明るめの生地で攻めようぜ。

髪型はガチガチに決めてかっこよく見せたほうがいいと思うぜ。


パーティーに合わせた格好をチョイスして藍野に色々と勧める。

藍野も段々とパーティーが楽しみになってきた。

絶対に恋愛の発展につなげるパーティーにするぞ。


そして、刻々と時間が過ぎ、ヒデからのアドバイスはしっかりと頭に叩き込んでお別れした。


いよいよ明日か。

楽しみだな。


 あくる日・・・・パーティー現地に藍野は足を踏み入れた。

結構な人の賑わい。

でも日本人は男性がほとんどだった。やはり女性は外国人。

6人テーブルに男女3人3人でグループになった。


藍野は一人で参加したが同じテーブルの男性も一人で参加のようだ。

「コンニチハ」

発音が流暢ではない喋り方で藍野に話しかける女性がいた。

その女性が自己紹介を始める。

「私は中国の武漢出身のヘイヘイです。ヨロシクデス。」

「ヘイヘイ?」

やっぱりインターナショナルは挑戦的すぎたか。


場を飲み込めきれない。名前にツッコミを入れたいくらいだ。


「藍野亮介です。よろしく」


ヘイヘイさん。パーティーで最初に知り合った女性。

黒髪は長くツヤがあってきれいだ。

笑顔になるとえくぼができて愛らしい表情をする。

藍野はいきなり心がときめく。

パーティーが始まってほんの数秒しかたってない。

しかし、すぐテーブルチェンジになって相手の女性が席を立つ。

ヘイヘイとは話で盛り上がっていたが、席替えのことをすっかり忘れていて連絡交換もしていない。

次の女性も次の女性も話は盛り上がるのだが、連絡交換もせずただその場の話し相手で終わっていく感じが続いた・・・。


「なんだろう、これ」



何も変わっていない。


今までの自分と


何も変わっていない。


結局、話すだけで先の展開がないのは今も昔も変わらないのか。

女性と会話が弾んでも次の手を打たない。

これは恐ろしいくらい意識してしまう自分がいる。恐れているのか。

話だけで済ませようとする自分がいる。アタックをしない。


罪悪感?億劫?それとも臆病?


僕はただの鳴くだけの鴨。

ただ鳴くだけ。くわぁー、くぁーと鳴くだけ。


そう、僕は突っつかない鴨なんだ。


思い切って次のステップを踏めない鴨。


突っつかない鴨はただ時間だけが過ぎ去っていった。


しかし、最初に話した中国人ヘイヘイが声をかけてきた。

「連絡交換イイデスカ?」

わざわざ向こうから声をかけてきた。積極的な女性に思えた。まさか、このままパーティーが終わると思った。そんなまさか、女性から声をかけてくれるなんて。藍野の心がすさまじく揺れ動く。


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