27話 自由奔放
動物園には色々な種類の動物がいて、のんびり日向ぼっこをしながらくつろいでいる。
正直、大人になってからはその自由奔放な姿を見ると羨ましくなるほどだ。
エサは飼育員に定期的に与えられ、それを食べると動物園にくる客は声をあげて喜ぶ。
小さい頃はその動物のしぐさを見てキャッキャと跳ね上がっていたものだ。
今となっては、大人でも専門家など興味のあるものは熱心に観察するだろうが、多くは眺めるにすぎないであろう。
「それにしてものんびりしているな。あのゴリラ・・・」
「ふふふっ」
藍野と美姫はゴリラを観察していた。
生態系なんぞ全くと言って知らない。
大きい身体で、筋肉質で、毛がいっぱい生えている程度の知識に過ぎない。
そのゴリラを見る子供は大きい声をあげて驚いた様子だ。
「私はゴリラが大好きよ」
「は?」
「だって、たくましいじゃない。ドシッと身構えて、いつでも戦闘態勢にはいりそうじゃない?」
美姫の口から冗談交じりの言葉を話したのは初めてかもしれない。
久しぶりの再会からは謎めきに満ち、理解しがたい言葉を藍野は受け止めていたものだ。
今日まで、美姫は過去の悲惨な出来事を重く受け止める女性として、藍野は印象として心に刻み込んでいたのだから。
「なんだか、重荷を下ろしたみたいだな。美姫の素性が出ているよ」
「本当に?ありがとう」
動物園というチョイスも悪くなかったのかもしれない。
童心に帰るというか、素が出てくる場なのかもしれない。
あらかじめ、その狙いがあって動物園を選んだわけではないが、藍野は少しでも美姫に楽しんでもらいたいと思ったのだ。
「ゴリラのたくましいところは確かにかっこいいよな。僕もゴリラになりたいよ」
藍野も美姫の冗談交じりの言葉に乗っかる。
「頑張って!フフフッ」
美姫の顔にまた笑顔がこぼれた。マスク越しの笑顔が藍野の目に焼き付く。
藍野は平均男性と比較して華奢で背もそれほど高くない。ゴリラにあって藍野にないものは目で見てわかるほど対照的なのかもしれない。
「何が可笑しいんだよ。ゴリラみたいに暴れるぞ!」
そう言うとまた美姫が笑った。ほっこりとした空気は二人の肩を和らげて、ようやく遊びに出ている雰囲気に包まれている。
「とても楽しいわ・・・」
「それは良かった」
アイドルの話は一切しなかった。そして過去の橘ななみのことも何一つ話さなかった。美姫はしっかり前を向いている。
「私はこのデートが無かったらダメだったかもしれない」
そう言って美姫はジッと藍野の目を見つめた。
「藍野くん、本当にありがとう」
藍野の頬が少し赤くなった。赤くなった頬を手で隠した。
「照れるな・・・」
二人は日が沈むまで、動物園を楽しんだ。




