21話 突然の恋
街コンで惨敗し、落ち込んでいたことなんてどうでもよくなった。
それよりも街コンで惨敗して落ち込んでいたなんて彼女に説明できない。
いきなり抱きつかれて動揺を隠せなかった拓斗は街コンの記憶がすべて吹き飛んでしまった。
「それにしても積極的だったな」
拓斗は自宅で家事をこなすなかで、心美に抱きつかれた記憶が時々頭によぎる。
「あぁ、思い出してしまうな。心美ちゃん、いつから僕のことを好きになったのだろう」
お互い近い距離にいた二人。職場でいつも一緒だった。拓斗にとって社内恋愛なんて眼中になかった。心美とは仕事を一緒にする仲間として接していただけだった。
しかし、心美の容姿は綺麗だとは思っていた。
黒髪で眼鏡をかけていて、地味な装いでも、鼻が高く、肌が白い純和風な顔立ちは美しい。
輝きを隠すように地味を装う彼女を拓斗は素敵な女性に思えてならない。
それでも、同じ職場の人間として接しており、恋愛の対象にするなんて到底できないと判断していたのだ。
「コピーよろしくたのむよ」
「はい、承知しました」
当たり前のような風景。仕事場ではいつもと変わらない関係で、二人は接していた。
「今日も一緒にご飯を食べませんか?」
やはり誘ってきたのは女性の心美の方からだった。
(本当に積極的だな・・・)
「僕から誘わないといけないのにごめんね。喜んでご飯をお供するよ」
ニコッと笑って昼食を一緒にとる約束をした。
近場の公園で長いベンチがある。
ふたたび二人はそこに座って昼食をとることにした。
「先日は、いきなり変なことをしてすみませんでした!」
いきなりの謝罪で頭を下げる心美。頭は深々と下げ、しばらく下げたまま止まっていた。
「やめてよ、心美ちゃん。謝ってほしくないな。僕は嬉しかったのだから」
拓斗は頭を下げる心美の肩を片手でポンポンと優しく叩いた。
「頭をあげて、昼食を食べよう。心美ちゃん」
いきなり抱きついてしまったことに対して、申し訳ない気持ちが心美にあったが、拓斗もその時抱き返したのは嬉しかった。
お互いの気持ちの距離が一気に近づいた瞬間はついこの間の話だ。
積極的な彼女に負けないくらい、拓斗も自分の気持ちを伝えようと思った。
「先日は正直驚いたけど、嬉しかったよ。心美ちゃん、お互い正式にお付き合いしようよ。彼氏と彼女の関係でこれからを過ごしていかないか?」
まっすぐな気持ちを拓斗は心美に話した。
「ありがとうございます。よろこんで彼女になります。これからよろしくお願いします」
二人はお付き合いをする仲になった。
Love Duckで先輩に決意してからすぐのお付き合いとなった。
拓斗は先輩の藍野にすぐ報告しようと思った。嬉しくて気分が高まり、胸が熱くなった。




