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愛鴨  作者: 山本 宙
2章 P.S.帰ってきてよ
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11話 大きなひび割れ

 高校1年生の時、皆は新鮮な面持ちで学校に来る。

何もかもが新しい体験で、しどろもどろに授業に参加する者もいれば、友達と話すのが楽しくて授業中にもかかわらず喋り倒す生徒もいた。


「ねぇ、消しゴム落としたよ」


藍野が消しゴムを拾って喋りかける。

「ありがとう。気づかなかった」


橘美姫が消しゴムを拾って感謝した。

その二人は席が隣同士で、授業と授業の合間に話す仲だった。


「二人お似合いだね。付き合っているの?ふふふっ」


後ろから話しかけてくるのは橘ななみだ。

この3人の関係性は席と同じく近しいものがあった。


「ななみちゃん、ジョーダンやめてよ!恥ずかしいじゃないの」

赤くなった顔を両手で隠した。手の隙間から赤い頬がうすら垣間見える。

「美姫、顔が赤くなっているぞ」

からかう藍野に照れてしまい、美姫は藍野の肩を叩いた。

「藍野君もやめてよ。からかわないで」

この3人は周りから見ても仲良しで、教室の中にいるときはいつも一緒にいた。




ある日、美姫が女の子集団に呼ばれる。

「あんたさ、橘ななみとおんなじ苗字だけど、姉妹なの?」

気の強そうな女が話しかけてきた。

この女はクラスの女グループを束ねる中核的存在だった。

「ううん、違うの。姉妹じゃないけど苗字が一緒なだけ・・・」

「ふーん、そうなんだ」

女集団が隙間を埋めるように美姫を囲んだ。

「あのさ、あんたはななみと仲良いみたいだけど、私はあいつのこと大っ嫌いなのよね」

「えっ!?」

驚くように美姫が顔を見上げると集団の一人が美姫の頬にビンタをした。

「痛い!」

急に叩かれるなんて思ってもいなかった。

囲まれた時点で何か深刻な状況であることはわかっていたが、まさかビンタされるとは思ってもいなかったことだ。


「いい?あいつと仲良くするのはやめて。言うこと聞かなかったらあなたも仲間外れにするからね」

そう言って女集団に蹴飛ばされた。美姫は廊下で一人歩いて教室に戻った。




「どうしたの?美姫。何かあった?」

涙をこらえたまま言葉が出ない。

「体調悪いのか?」

藍野も心配して話しかけたが、全く返事をしなかった。次の授業が終わった後、美姫は学校から姿を消した。


その日、最後の授業が終わるチャイムが校舎に鳴り響いた。

走って帰る生徒達。ななみと藍野は二人教室に残っていた。

「なんか様子がおかしかったよね」

「あぁ、心配だな」

1人突然姿を消したことに動揺する。そして心配な気持ちが膨らむ。

いきなり電話で何があったか聞いても何だか悪い気がする。

ななみがメールを送ることになった。

「返信くるかな・・・」

「美姫ならきっと大丈夫だろう」


その二人は下を向いて寂しい気持ちがあふれていた。あの時の美姫は何かを隠していたこともわかっていた。

「ねぇ!ななみちゃん!一緒に帰ろうよ」

菜穂が隣の教室から駆け寄って話しかける。

二人の状況を全く読めていない感じだった。


「いいよ。藍野君また明日ね」


そう言って二人は教室を出た。

「ねぇねぇ、ななみは本当にかわいいよね!羨ましいよ」

「そんなことないわよ」

会話しながらそれぞれの下駄箱に手を伸ばして靴を取ろうとする。すると、ななみの靴に土が盛られていた。

「キャッ!!」

驚いたななみを見て菜穂が振り向きざま言葉を出した。

「どうしたの!?」


そこには、いたずらがされたななみの靴があった。

「酷い・・・」

何事もなかったかのように、ななみは靴を取りだして洗い場に足を運ぶ。蛇口から出てくる水で靴を洗った。

「菜穂ちゃん、気にしないで。私は平気だから」

土を落としても、汚れきった状態の靴を、ななみは履いて玄関の前に立つ。

「行くわよ。菜穂ちゃん」

「うん・・・」


二人の家は途中まで同じ方向で、一緒に歩く。いつもなら美姫も一緒で、美姫とななみはご近所で最後の最後まで帰りは一緒だ。でも、今日は2人で下校となった。

帰っている最中に菜穂が話を切り出す。

「私が犯人を突き止めようか?」

「いいわよ。そんなことしなくたって」

「だって許せない!」

「いいの。これは私の問題なのだから」

「でも・・・」

すべてを知っているかのような言い方だった。変に関わることで、菜穂もまき沿いになることは避けたかったのだろう。

「何もできなくてごめんね」

「謝らなくてもいいわよ」

二人はY字路で別々の方向へ歩んでいった。



その日以降は美姫も登校はするものの、ななみとの会話は一切なかった。

ほとんど毎日一緒に話していた仲だったのに、全てが無くなった。

藍野も二人の関係がわかっていた。


そしてななみのいたずらはエスカレートしたまま、時が経っていく。


ある時、美姫は学校にすら来なくなった。頻繁に女集団に隠れて呼ばれて叩かれていたことに嫌気がさしたのだろう。


「どうして・・・私はななみちゃんのことが好きなのに」

美姫は悔しい気持ちでいっぱいだった。歯を噛み締めて涙を流す。制服も勉強机に乗せたまま、着ることは無くなっていた。


幸せいっぱいだった3人の楽しかった日々が、大きく崩されてしまった。


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