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愛鴨  作者: 山本 宙
2章 P.S.帰ってきてよ
10/70

10話 全てをさらけ出して

 菜穂が街路を歩いていると、見覚えのある男性が歩いていた。

「あれって・・・藍野君?」

少し離れた所に藍野の姿があった。

「ちょっと驚かせてやろっと」

いたずらをしてやろうと悪巧みに後を追った。少し距離を開けて歩いていると、藍野が急に立ち止まった。菜穂も一度立ち止まって様子を見る。すると藍野の前に女性が立っていた。

「あれ?藍野君彼女いたのかな」

菜穂が首をかしげて女性の顔を遠くから見つめる。



「うそ!?」

全身が固まった。そして自分の目を疑った。藍野の前に立つ女性がこの世にいる人なのかとも疑った。

「橘ななみ!?」

菜穂は唾を飲み込み、焦るかのように物陰に隠れた。

「そんなはずがない。ななみちゃんはもうこの世にいないの」

自分に言い聞かせて目を閉じた。深呼吸をして自分の過去を振り返って深呼吸をする。

「何を勘違いしているのよ。私ったら」

過去を振り返っていると藍野のセリフを思い出す。

「俺、橘ななみに会ったよ」



まさか、そんなはずがない。全てを疑ってしまうような気持になった。

すべてが夢だとも思えてしまうような出来事だ。

死んだはずの友人が蘇ったのか、それとも事故は嘘だったのか。

菜穂は物陰に隠れながら顔だけ出して、藍野が立つ方向にそっと目を向けた。


藍野と橘ななみと思える女性が話し合っている。疑いが晴れるまで、菜穂はしばらく様子を見ることにした。


「どこかで腰かけて話をしないか?」

「いいわよ。会ってくれてありがとう藍野君」

二人は隣り合って歩いていく。菜穂は後を追った。


「ここでいいかしら」

「あぁ」

街路を少し離れて、周りに建物がない路地でベンチに腰をかける。

菜穂は相当離れた所で二人の行動を監視するかのように立ち尽くしていた。

「橘ななみだなんて冗談は無しにして本当の事を言ったらどうだ?」

少し苛立てている感じに話し、女性を睨みつける。


「怖いわねぇ、藍野君ったら。あなたも私の事を橘ななみにそっくりだと思っているのでしょう。私は橘ななみよ」

そう言って女性はにやける。そう聞いて大きくため息をつく。しばらく二人は沈黙が続いた。

「確かに、最初見た時は橘ななみだって思ったよ。そっくりだ。さすがな整形手術だな」

「何よ」

女性は頬に手を当てて藍野を睨む。(整形手術)は今までで言われたことのない言葉だった。

「藍野君、変なこと言わないでよ」

「いい加減にしろ!」

怒りが頂点に達した。今まで怒鳴ったことが無かった藍野に女性は身体を仰け反るように驚く。遠く離れて見ていた菜穂も藍野の大きな声に驚いて耳を塞いだ。

「そんなふざけたお遊びは終わりにしろ。美姫。」

美姫・・・・。

同級生だった友人に美姫と言われたのはどれくらい久しぶりなのか。女性は目を潤わせた。

「藍野君、どうして私の名前を」

女性は聞きたくなかった自分の名前に涙を流す。

「さっきも言ったけど最初はななみだと思ったよ。美姫の顔は変わったけど、首元のほくろは整形手術で変わらなかったみたいだな」

女性は美姫だった。美姫は首に手を当て泣き崩れた。



橘美姫(たちばなみき)

橘ななみと同じ苗字だった。

「どうして・・・どうしてよ!」

美姫は狂うように大声をあげてうなだれる。遠くにいた菜穂が心配になって駆け寄った。

「大丈夫!?何があったの!?」



「菜穂・・・どうしてここに」



藍野は駆け寄った菜穂に言葉をかけた。

うなだれる美姫に目を配りながら。

「だって・・・ななみちゃんだと思って追いかけてきちゃったの」

そう言ってハンカチを泣き崩れた美姫に渡した。

「ななみちゃんにそっくりね。あなたは?」

ずっと沈黙を貫こうとする美姫に藍野が杭をさす。

「自分から名乗ったらどうだ?」


ゆっくりと顔をあげて溢れる涙をハンカチで拭いた。

少し化粧が乱れるくらいの大泣きだった。


「橘美姫よ。あなたに私の名前を言ってもわからないわよ。どうして藍野君は私の名前を?」

菜穂は確かに名前を聞いても覚えていなかった。

橘美姫という女性を全くと言っていいほど覚えていなかった。

同級生にいたのだろうかと疑問を抱くほどだ。


もう頭が混乱していて、わけのわからない状態に整理がつかなくなっていた。

「もう、わけわかんない。藍野君、説明してよ」

菜穂は両手で頭を押さえて首を振った。


橘美姫が誰なのか。


どうしてななみと顔がそっくりなのか。


どうして泣き崩れているのか。


疑問がいくつも浮かんできて自分の力ではどうしようもなかった。

助けをすべてゆだねるかのように説明を求めた。

「美姫。話していいかな。」

「うん」

小さな声で返事をして手を差し伸べる。そしてゆっくりと顔をあげた。

「私もすべてを話すわ」



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