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愛鴨  作者: 山本 宙
1章 ようこそLove Duckへ
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1話 交雑交配種な恋愛を


俺はもう高3で青春の終わりをもうすぐ迎える。


恋愛なんて・・・何もなかった。

本当に何もなかった。


青春??ふざけるな!

俺が思い描いていた青春ラブストーリーなんて

塵のように飛んで消えて、残ったのは目の前にある卒業アルバム・・・。


んっ!?もう卒業かよ!!!


そう、今日は卒業式だった。

式も終わって皆が下校する。

そんな皆の顔は色々な表情を浮かべていた。


ななみちゃん、

少し顔がくしゃりとして口元は震えている。

いったい嬉しいのか寂しいのか。


ヒデ、

遠くを見つめて明日を見ている眼は夢を抱いているようだ。


とおちん、

これで会うのは最後なんて言えない様子で。ぐっと奥歯を噛み締めて

涙をこらえているのか。


わけもわからない感情は桜とともに儚い。

その時にしか現れない素顔はまるで、すぐに散りゆく桜の花びらのようだ。


皆はそれぞれの道に歩んでいく。俺は・・・なんとも名残惜しい。


恋を抱きたい願望が卒業式になってから最上級になって湧き出てくるなんてね。



そして日は流れて、恋愛を逃した青年、藍野亮介はスーツを身にまとい、高い建物がそびえたつ東京で

コツコツとコンクリートの道を歩んでいた。


就職を機に都会へ飛び込み生活をしている。一人暮らしに適したワンルームマンションに住み、何気ない日々をおくっている。


毎日の自炊は乗り気にならない。奇麗好きが功を奏して部屋は清潔だが、時々面倒くさいを理由に外食をする。


ちょっと開拓してみよう思い、行ったこともない外食店に今日も足を運ぶ。


間食をしていない。専ら空腹だ。

たくさん食べれる店を探そうと思い、ボリュームがありそうな料理をもてなす店をネットで検索する。


肉厚のある合鴨が写真いっぱいに掲載されていた。合鴨か、お腹が膨れそうだな・・・。


合鴨を料理する店は歩いて15分のところにあった。

寒い道をコツコツと歩く。

寄り道をせず、まっすぐ合鴨料理店に向かう。ようやく到着し、店に入り席に着くさま注文表を開く。

「合鴨のワイン煮をひとつ」

「はい、かしこまりました。お飲み物は?」

外食をすると決めていた当初からお酒を飲むと決めていたが、仕事疲れで注文を忘れていたことに気が付く。

「生ビールで」

注文を終えてホッと一息ついた。

おしぼりで手を拭いて、いつものように暇を埋めるようにスマートフォンを手に取った。

ニュースの検索はエンタメ情報をタップする。宇宙一どうでもいいニュース。それでも、ついページを開いてしまう。すると・・・

「あの、すみません」

聴いたことのある男の声。一緒に青春を共にした声か。目の前に立つ人の顔を見上げた。

「もしかして・・・ヒデ?」

「久しぶりだな藍野!」

髪は長髪で肩まで下がっている。

髪の明るい色が蛍光灯の光で更に色あせていた。

青春時代の「ヒデ」の名の青年は短髪で好青年。

それを思い浮かべると随分印象が変わっていた。

「こんなところで会うとは思わなかったよ!」

上京をした二人は互いの現状を全く把握していない。それに、まさか東京で会うなんて思いもしなかっただろう。


二人が青春時代を過ごした場所は関東といえども、神奈川県相模原市であって、当時、二人は上京を視野に入れていなかった。

というのも藍野は高校卒業後は神奈川県の大学で勉学に励み、大学を卒業後は営業の仕事に就き、転勤に伴って上京した。

またヒデは高校卒業後は美容師を目指して美容専門学校を通うようになり、東京で働こうと決めたのは美容専門学校を卒業する頃だった。

もちろんヒデは美容師となって切磋琢磨し東京で日々活動している。



そんなことは合鴨を注文した藍野の席で、ヒデとの意見交換で知っていくのである。

「まさか東京で暮らしているなんてね。しかも意外と近所なんだね」

ヒデは藍野と同じ料理を注文し、ざっくばらんな近況報告をすれば、ケラケラ笑って突然の藍野との会食を楽しんでいた。

「でもさ、驚いたよ。ヒデが金髪になって、しかも美容師なんて」

藍野とヒデは同じクラスメイトだった。しかし、お互いは全くと言っていいほど干渉せず、将来の話なんて照れくさくて言えなかったのが現代の若気の至りだと言える。

「ところでさぁ」

ヒデが上京の話からガラッと話題を変えた。

「藍野って彼女いる?」

突拍子な話題振りは美容師の職業病と言ったら偏見だろう。

しかし、いきなりの質問に藍野も驚いた。

「なんだよ突然!まぁその話題になるよな」

藍野が少し苦笑いをして質問に答えようとした時、

「その苦笑いは・・・藍野彼女いないな?」

まさに拍子抜けだ。

「うるせー!出会いがないんだよ!大学生活も結局、思い描いていた青写真が実現しなかったよ」

苦笑いを洞察され、藍野は躍起になった。

「え!?大学も彼女いなかったのかよ!!それは想定外だ・・・」

完全に藍野の口が滑ったようだ。少し天然じみたところが笑える。


しかし、想定外と思うのも無理はない。

藍野は整った顔立ちでコミュニケーションも自分から話しかけに行くタイプだ。

異性に対しても決して後ろ向きではなく、むしろ話しかけに行くタイプなのだから。

でも、すれ違いが重なりすぎたか、もっと攻め抜くべきだったか。


大学時代のキャンパスライフは恋愛の発展が無かったのは残念でならない。

そんな男が営業ではバリバリ働くのだから大したもんだ。


「まぁ藍野君は出会いがないなんて言うけど、出会いなんかいくらでもあるって。今では婚活、恋活とか探そうと思えばイベントだらけだよ。恋愛にすごく鈍感というか。そこまできたら恋愛というジャンルは皆無の存在に見えてならないよ」


ヒデは昔から結構言う奴だ。

藍野はそこを許している。なんでも思ったことを口にするヒデのことをよく知っていて逆にそれが良いところとして受け止めている藍野だからお互いの友情が成り立つのだろう。



「そういうヒデはどうなんだ?」

藍野は恋愛事情をひでの話題に切り返す。ま、聞くまでもないと思いながら...



「俺は昨年に結婚したんだ。一つ上の女性とね」


ヒデは左手薬指に指輪をしていた。藍野は見落としていたが、やっぱりそれほど関心がないのだろう。


「結婚・・・知らなかったよ!式はまだだよな!?」


「えっと・・・まず結婚の報告ができなくて申し訳なかった。地元の友達には皆、報告ができなかったんだ。携帯電話が壊れててさ。それに式なんだけど、内々での結婚式にしたんだ。身内がほとんどだったよ。住まいは東京だから、そう友達も集まらないと思ってさ」



何にも知らない自分が恥ずかしく思えた。

仲の良い友達でも結婚報告を受けていなかったのは正直ショックであった。

だけど、祝福に満ちたヒデには「おめでとう」の言葉が一番望ましい。


「ヒデ、遅くなってごめんな。結婚おめでとう。今日の食事は祝いとして奢らせてくれよ」

二人は笑顔に包まれた。合鴨のワイン煮が出来上がったようだ。藍野とヒデが向かい合って座るテーブルに料理が置かれた。


合鴨のワイン煮は湯気が立っており、いかにも熱さが漂う料理だ。

その合鴨料理のワイン煮に手のひらを向けて店員が話す。


「お待たせしました。お熱くなっております。お気をつけて」

合鴨料理を見てヒデが話す。

「なぁ、藍野。合鴨って交雑交配種って言ってさ。人工的に色々な種を交ぜているよな。」

「いきなりなんだよ。気持ち悪いな」


どうでもいいような話をし始めたヒデに顔が引きつった。

何か面白い話に発展すればよいと思った。



「決して上から物申すわけじゃないから聞いてくれよ。

俺は恋愛に対して億劫なところがあったんだ。でも東京に来た年から結婚をしたいと思うようになって、いろんな女性と接するようにしたんだよ。常識に囚われない。気になった女性は声をかけて猛烈にアタックした。」

藍野はヒデを細い目で見た。

「なんだ?成功体験か?」

藍野も嫉妬しているような態度が恥ずかしいほど表情に出ている。


「いや、成功とかじゃなくってさ。とにかく恋愛に限らずだけど、その年は人との関わりが増えて、いろいろな恋愛を体験するきっかけの年だったんだよ」


ヒデはソースが絡まっている合鴨肉をフォークでスッとさして持ち上げる。

ホクホクと湯気を沸き立たせる肉をそのまま一気に口へと運び、

ゆっくりと噛み締めた。口に広がる風味がヒデを笑顔にさせた。

思わず、藍野もニヤっと笑顔をもらっていたところに

ヒデが話を続ける。


「とにかく。恋活のイベント情報とか藍野に紹介したいから、ぜひ参加してほしい。交雑交配種のような、いろいろな種とめぐり合わせて自分らしい合鴨になるんだよ。つまり、いろんな女性に猛烈アピールをしていってほしいんだ。同級生だった友人として心から応援したい」



ヒデは飾らず、そのままの気持ちを藍野に伝えた。同級生として本心は幸せになってほしい。

といったところか。藍野の感情はヒデの思いを受け止めたところで変化はなかった。

ただ、お節介に聞こえるヒデの言葉は藍野の恋愛事情をよく知っているからこそ、親身な言葉に聞こえた。


「ありがとう。とりあえず紹介してくれたら、そのイベントに参加してみるよ」

祝福に包まれた会食は長い時間、二人は大いに楽しみながら過ごしていった。

「交雑交配種・・・わけわからん。まぁいいや・・・」

酔っぱらった藍野の独り言、誰にも聞こえない微かな声だった。



ヒデはイベント情報の提供を約束して嫁が待つ家に向かって帰宅していった。




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