05
グリシーヌ・リオン・アシリア第二王女。
王女という身分でありながら地下牢へ通い、挙げ句そこで捕らわれていた殺し屋をあっさり近衛騎士にと迎えてしまう変わり者。
ノアが睨み付けてもびくともしなかったし、彼女は地下牢だけでは飽き足りずに処刑場にまでちょくちょく通っているようだ。どうやらこのお姫様、相当に肝が太いらしい。
そしてこのお姫様は、父であるアシリア王からこの上ない寵愛を受けている。だからこそ、本来ならば咎められるような行為であってもある程度は見逃されているらしい。それが身をもって分かったのは、顔見せの名目で王と謁見した時だ。
「ノアと申します、国王陛下」
豪華な玉座に、値の張るだろう調度品や絵画。見るからに平民には縁のないような豪奢な空間で、玉座には絢爛な冠を被った恰幅の良い王様がどっしりと腰を下ろしている。
そんな謁見の間で、慣れない言葉遣いで名を名告り、ノアは膝をついて頭を垂れた。この国の王を敬う気持ちなど持ち合わせてはいないが、今後逃げ出して自由を手にする為に、ここで反意ありと見なされるわけにはいかなかった。
「地下牢で拾いましたのよ。ねえお父様、この子を是非わたくしの近衛騎士にしてくださいな」
グリシーヌの甘えた声を聞き、王が咎めるような顔をしたのはわずか一瞬。お姫様の花のような微笑みに、その老いた目許が緩んだ。
「シーヌの好きにするが良い」
「まあ嬉しい! 有り難く存じますわ、お父様」
砂糖菓子よろしく甘く微笑むお姫様に、でれでれと頬が緩んでいる。一国の王がこんな体たらくで良いのだろうか。
「うむ。ノア、シーヌをよろしく頼むぞ」
「はい。この命にかえてもお守り致します」
もう一度深く頭を垂れ、思ってもいない言葉を吐く。お姫様を殺すつもりはないが、守ってやる気も更々ない。彼女が危険に晒されようと、ノアの逃げる隙さえあればお姫様のことなど放り出して逃げるに決まっている。
――大事な娘を罪人に預けるなんて、脳みそ腐ってんじゃないの。
思わずそんな言葉が浮かんだが、馬鹿正直にそんなことを言えば斬り捨てられることが分かっているので思うだけにする。
王様とお姫様が他愛ない会話をいくつか交わしてから謁見が終わり、お姫様と謁見室を出る。王様のあの態度、あれは絶対お姫様を目に入れても痛くないほど可愛いと思っているに違いない。彼女が自由に行動できる理由が良く分かった。
意外にもあっさりと終わった謁見に拍子抜けしながらお姫様と回廊を歩いていると、ひとりの騎士とすれ違った。