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君の体温が好き  作者: ごん
第1章
3/20

涙と告白

ーーー2年前の夏、クラスの女子に聞かれたことがある。

「弥太郎くんって、好きな人いるの?」

「…なんで」

何でおれに聞くんだ、と質問を返すと、幼馴染みだから知ってるかと思ってと言われた。

「わたしの友達が弥太郎くんに告白したんだけど、好きな人がいるって断られたんだって。誰か知ってる?分かんなかったら好きなタイプだけでも教えて」

ふられたくせにそんな事聞いてくるのか。しかも人を使って。しばらくおれは黙っていたが、ただ腹が立ったからではない。分からなかったからだ。


弥太郎に好きな奴がいるなんて、聞いたことがなかった。



両親は親族と食事に行ったという。弥太郎は一人抜けて家には誰もいないから来て欲しいと言われた。家の外に出ると夕方の涼しい風が優しく頬をなでた。今まで何千回と歩いた幼馴染みの家までの道を、いつもより時間をかけて歩いた。そんなことしたって何も変わらないとは分かっていたけど。


家の鍵は開いていたのでいつものようにインターホンは鳴らさずに入った。弥太郎の部屋に向かう階段を登る。


コン、コン

いつもはしないノックをしてみた。あ、2回だとトイレみたいで失礼なんだっけ。

『入っていいよ、良晴』

ドアノブを握ろうとしたら、手が湿っていることに気づいた。何百回も来た部屋に入るだけで何で緊張しているんだ。


「良晴?」

弥太郎の方からドアを開けてきて一瞬心臓が止まったかと思った。

「あっ、よ、よう」

馬鹿野郎。動揺してるのバレバレじゃねぇか。それでも弥太郎はいつもと変わらない笑顔でおれを迎え入れた。いつも通り、部屋の真ん中にある足の低いテーブルの横に座った。あまり目は合わせられなかった。


「今日の葬式さ」

開口一番、弥太郎が意外なことを口にした。とはいえ、いきなり昨日の話を出されるのではないかと内心ヒヤヒヤしていたので助かった気がした。

「従兄弟の兄ちゃんのだったんだ」

弥太郎は懐かしそうに話し出した。

「お前とは会ったことないと思うけど…昔よく遊んだんだ。えーっと3つ上で、美術大学行ってて。すっげぇ絵うまかったなぁ」

弥太郎が名前を出した美術大学はかなり名の知れた所だった。あそこに入れたという事は優秀な人だったのだろう。

「でもさ、半年前から癌だったんだ」

弥太郎の表情が少し曇った。

「こんなに早く亡くなるとは誰も思ってなかったみたいでさ」

何だ、何が言いたいんだ?

「人間いつ死ぬかわかんないんだなぁって。おれだって明日死なない保証はないわけだし。生きてるうちに、やりたい事言いたい事済ませとかないとダメだなって……昨日のことは、もう冗談で終わらせようかと思ったんだけど…」

弥太郎は柔らかな笑顔で、おれに告白した。


「好きだよ、良晴。ずっと好きだった」


真っ直ぐおれに向けられた言葉は、昨日の屋上の告白より遥かに重く、覚悟のあるものに聞こえた。

「…いつから?」

自分でも不思議なほど冷静に聞いた。

「ずっとだよ。ずっと。まぁ細かくは保育園の時からか?」

「え、そんな前なの」

つい身を乗り出して聞いてしまった。その様子がおかしかったのか、弥太郎は少し笑って話を続けた。

「周りの友達はみんな女のコが好きだったから、最初はおれはちょっと違うんだなくらいに思ってた。でも他の男を好きになることはなかったから、良晴だけが好きなんだって。もちろん幼馴染みとしてじゃなくな。…これもホモなのかな?」

「いや、そこを聞かれてもな…」

あまりにも軽く話されたのでそこは拍子抜けしてしまった。


「…おれはどうしたらいい?」

告白してきた相手に聞くことではないと分かってはいたが、どうしようもなかった。弥太郎がおれのことを、幼馴染みとしてではなく好きだと言った。この事実をどう処理すればいい?

「どうもしなくていいよ」

弥太郎は表情を緩めて言った。しかし寂しさの色は隠しきれていなかったと思う。

「おれが言いたかったから言っただけだ。昨日は付き合ってって言ったけど、そこまでは求めないよ。おれがおかしいだけで、良晴におれと同じになれとは言わない」

…おかしい?

おかしいってなんだよ。


「誰か知ってるのか?弥太郎がおれのことその…好きって」

「まさか。誰にも言ったことない」

15年間も側にいて、おれは弥太郎の気持ちに何一つ気付けなかったのか?誰も気付かなかったのか?ずっと一人で抱え込んでたのか?


「おれのこと嫌になったなら、今後関わらなくてもいい。大喧嘩でもしたことにしておけば母さん達も何も言わないでしょ。それに大学も別のとこに行くかもしれないし…」


「ふざけるなよ」

つい声を荒らげてしまった。でも無理だこんなの。

弥太郎は自分が怒らせたと思って身を小さくした。

「ごめん、ほんと。そうだよな、だっておかしいもんな。男のおれがお前のこと好きなんて」

「そうじゃねぇよ!」

立ち上がって怒鳴ってしまったが構わない。この家には今、おれと弥太郎しかいない。

「お前…そんなことずっと隠してたのか!?一人で!!何でもっと早く言わない!!」

自分でもめちゃくちゃだと思った。そんなこと言えるわけないだろって、頭の中では分かってた。でも止まらなかった。

「っていうかお前一回女子と付き合ってただろ!!あれはなんだったんだよ!?」

萎縮していた弥太郎はムッとして反論してきた。

「だってあれは…お前が彼女つくるから!!だからもう諦めようと思ったんだよ!!ちゃんと女を好きになろうって!!でも…!!」

声がだんだん小さくなっていき、弥太郎の目からは大粒の涙がこぼれた。

「でも全然ダメだった…!全然好きになんてなれなかった…!良晴がいいって思ったら…それで…!!」

しゃくりあげながら必死で言葉を紡ごうとする弥太郎の顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。


気付いたらおれは弥太郎を抱きしめていた。

「弥太郎…もういいから。分かったから…ごめん」

出来るだけ優しい声で言ったつもりだった。弥太郎にも伝わったのか、呆気にとられた様子だったが黙っておれの腕の中にいた。

「おかしくなんかない。気持ち悪くもないよ。好きなら好きでいいよ…おれ嬉しいよ、そこまで言ってもらえて」

これは本心だった。男のおれを、とかそういうのはどうでもよく、ずっと一緒だった幼馴染みにそこまで言ってもらえて素直に嬉しかった。

「もうちょっとだけ、時間くれるか?ちゃんとお前のこと考えるから…な?」

弥太郎は黙って聞いていたけど、コクコクと頷いた。首元に当たるふわふわの髪がくすぐったくて少し笑ってしまってしまいそうになった。


「ありがと、良晴」



二度目の涙と告白。

初めて本当の弥太郎を見た気がした。

読んでいただきありがとうございます。

自分でも早くくっつけと思いながら書いてます。

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