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君の体温が好き  作者: ごん
第1章
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電話の向こう

ーーー母親同士が友達で、家が近所で、アイツと出会う事は生まれる前から必然だったのだと思う。

「ほら、ハルくん、こっちが弥太郎くん」

弥太郎と呼ばれるそいつは、母親によく似ていて整った顔立ちだった。

「ちょっと引っ込み思案だけど、仲良くしてあげてね、良晴くん」


今の弥太郎からは到底イメージできない引っ込み思案という言葉は、当時のアイツにはぴったりだった。暗いというほどでもないが、明るくもなかった。口数は多くはなかったがおれには心を開いていたと思う。会う機会も多くてよく遊んだ。


でも、弥太郎が泣くところは、18年間で一度も見たことがなかった。



次の日、宣言通り弥太郎は来なかった。担任は身内に不幸があったと軽く告げただけだったらしい。

そういえば、誰が亡くなったんだろう。もしアイツのじいさんやばあさんだったとしたら、おれも小さい頃よく世話になったから他人事ではないなと思った。あとで電話してみようと考えたが、昨日のことが頭をよぎる。忙しいかもしれないからと言い訳して、携帯をリュックに突っ込んだ。


案の定、その日の授業は上の空だった。体調でも悪いのかと保健室に放り込まれた。体は何ともなかったが、適当な理由をつけて早退した。家には誰もいないし、別にいいだろう。午前中だったこともあって、帰り道はあの屋上の暑さよりだいぶ楽だった。



夕方まで自分の部屋にこもっていた。母親が選んだ淡い緑色のカーテンを開けると、弥太郎の部屋が見える。近いというほどではないが、思いっきりジャンプすれば渡れないこともない。昔はよく飛び移って怒られた。だが今日は向こうもカーテンが閉まったままで、人の気配はなさそうだった。


葬式はいつ終わるのだろう。火葬とか親族のこととかあるから夜までかかるんだろうか。

「…明日は来るのかな」

呟いても誰も答える者はいない。さっきから弥太郎のことばかり考えている。どうにも胸の中が晴れない。昨日の幼馴染みの初めての涙を見てしまってから、モヤがかかっているようだった。

意を決して電話してみることにした。アドレス帳から弥太郎の名前を探し出し、発信ボタンを力強く押してみた。コール音とともに自分の心臓の音がよく聞こえた。アイツに電話するだけなのに、こんなに緊張するのは初めてだ。


『もしもし?』

5回目のコールで聞きなれた声が耳に届いた。弥太郎だ。少し慌ててしまい早口になった。

「わりぃ、急に。今忙しいか?」

『いや、全然。もう葬式も終わったよ』

いつも通りの弥太郎の声だった。

「なぁ、誰が亡くなったんだ?じいさんかばあさんじゃないよな?もしそうだったらおれそっち行かなきゃ…」

『良晴』

少しぎこちなく名前を呼ばれた。

「なに?」

『…ううん、今家か?』

「ああ、なんか今日は面倒くさくなって早退してきた。」

『ははっ、お前も結構不良だよなぁ』

電話口の幼馴染みはクスクスと笑っている。お互い聞きたい事はあるようだが、話は平行線をたどっていて、喉に引っかかったままの言葉が気持ち悪い。どちらも話が切り出せず、しばらくはどうでもいいようなことを話し続けた。


『なあ』

先に話を変えたのは弥太郎だった。

『いま家にいる?』

「いるよ。さっき言っただろ?」

電話の向こうの相手には見えないが、少しだけ笑顔で答えた。

『今から会えないか』

弥太郎の言葉に心臓が跳ねた。なぜか会う、ということは考えていなかったので戸惑ってしまった。向こうも昨日のことで顔を合わせづらいだろうと勝手に決めつけていた。

『昨日のことで話があるんだ』

出来れば話したくないと思った。あんな弥太郎は見たことがなかった。何かが変わってしまうような気がしたから。でも、電話口からの真剣な声に応えないわけにはいかないと思った。



「いいよ。どこで会う?」


ーーー弥太郎がどれだけの気持ちを抱えていたのか、この時はまだ、知らない。

読んでいただきありがとうございます。

字数が毎回バラバラです。


わたしの勝手なイメージだと良晴の髪色は少し茶色がかっていて、弥太郎は真っ黒です。

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