第1回
『のんびり自転車をこげば、いつもの道でも違った風景に見えるはず。たまには何も考えずにぶらぶらするのもいいぞ。』
おじいちゃんがよく言っていた言葉だ。
小さい頃によく聞かされたせいか、暇なら家の前をぶらぶらする習慣が身についてしまった。
新しく引っ越してきた人には理解不能だったに違いない。越してきて1ヶ月の間は、確実にかわいそうな子だと思ってるに違いない。
そして今日。高校生になってもぶらぶらする癖は直らず、のろのろと自転車をこいで商店街のほうを散策しに来た。
この商店街は、市とか県が何かをしてもいないのに、外国料理の店が沢山ある。
と、言っても、どの店も親会社が『点心グループ』という会社だ。しかしこの点心グループ系列。この商店街以外で見たためしがない。
何を狙っている、点心グループ社長。この商店街じゃ収入の見込みがないぞ。
ちょうどそこは、『点心中華編』の店の前だった。何度も外見だけは見てきたものの、いまいち店に入りたいとは思わないそのたたずまい。
ゆっくりこいでたから、アルバイト募集の張り紙が目に入ってきた。普通に走ってたら、動体視力がよすぎない限り、まず見ることの出来ない張り紙だろう。因みに自給は1000円と、かなり高いと見受けられる。
せっかくの夏休みだし、自給のいいバイトでもして過ごそうかとのんきに考えていた矢先のこと。
目の前で、豪快に人がこけた。両手に持っていた買い物袋がくるっと1回転して、無惨にも地面に叩きつけられた。その反動で袋がパーン。ガラスの割れたような音がしたと思ったら、どろっとしている赤い液体が地面に広がっている。
さてどうしよう。自分的には、そこまで人が悪いと思わないので、素直に助けよう。
すっと、転んだ人の前に手を持っていく。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ・・・・・・ぁ、ありがとうございます・・・・・・」
にこっと笑って、どう見ても大丈夫じゃなさそうな女の人の手を持つ。
その人は、ようやく立ち上がって軽い会釈をした。
そして、その人は気づいた。大惨事の惨劇を・・・・・・
「つかぬ事をお聞きしますが、これは誰がやりましたか?もし犯人を知っているなら教えてください。 速攻で締めてきますんで」
おおっと、これはどうした。カワイイか顔して腹黒っ。いやぁまったく、いまどきの女子高生って、こんな物騒な言葉を使うんだね。勉強になりました。
「あぁ、残念ながら犯人はあなたですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
あっ、やべ。レッツ沈黙かよ。なんか地雷踏んだ?ここは『犯人は私です。なんちゃって』風に言うべきだったか?いや、これもまずいな。あぁ、どうすればいいんだ?
「てっ・・・・・・手伝いましょうか?」
いい案が浮かばず苦しい展開だが、ここはひとまずさっきの言動を忘れてもらうことにしよう。なんか、サンタはいないくらいに夢を壊されたような顔されたしな。
「・・・・・・・・・・・・」
なんか、とてつもない何かに押しつぶされそうな、とにかくやばい。死ぬ?死亡フラグ?5W1H的に言えばwhyだよ。いやwhatか。嫌だよ、まだ死にたくないよ。下界ってこえーなー。
ほんとすみません。投了です。
「あっ・・・・・・あの、ありがとうございます・・・・・・」
そうそう、そうやってちんも・・・・・・うん?すみません、冤罪ですね。ごめんなさい。あぁもう、気を取り直して片付けしよ。
結局片付けるのに10分くらいかかってしまった。瓶系のものは苦労したものだ。
「ふぅ、やっと終わったね」
「ありがとう。おかげでかなり助かったよ」
「それじゃあ、今度は気をつけなきゃね」
「あぁ、ちょっと待って」
おっとっと。そうやって、人が自転車をこぎはじめる前に肩をつかまないでくれるかな。今度は私がこけちゃうから。つか、なに?
「お礼がしたいんだ。食べてかない?」
彼女が指したのは言うまでもなく『点心中華編』だった。
中華料理なんてめったに食べないせいか、メニューを読むのに一苦労。頼んだ料理は、かろうじて読めた麻婆豆腐。ここはシンプルにチャーハンといきたかったものの、ご飯類のページがよく分からなかった。
そしてきた料理。オプションとしてこけた彼女がチャイナドレス姿で同席している。いまどきの中華料理店てのは、メイド喫茶風のおもてなしをしてくれるのか。勉強になりました。
「さあ、さめないうちに召し上がれ」
催促されるがままに一口。・・・・・・うん。なんと言えばいいのか。ストレートに言えば口に合わない。さて、ストレートに口に合わないといったらどうなる?即死亡。はぁ、どうしよう。
「あれれ。口に合わないって顔してるねぇー」
そうですか。あなたは人のココロを読めるんですね。すばらしい。でも今はその力発揮しないで。
「ううん、おいしいよ」
一気に2,3口食べる。さらに3口。無理に流し込んだが、気が緩むと戻しそう。
「大丈夫?そんなに見栄張られて戻されるのも困るし」
なんなんだこの店は。店員らしき人はチャイナドレスだし、料理もはっきり言っていまいちだし。大丈夫か、点心グループ社長。
「ここの料理は日本人向けに作られてないからね」
「どういうこと?」
「だからね、この店は中国人の人が、地元の味を食べる場所なの。簡単に言えば、日本のカレーと本場インドのカレーとはぜんぜん違うでしょ。それとおんなじだよ。
日本人向けに改良された味じゃなくて、本場の味をそのまま出している。それだけのことだよ」
なんか、分かったような分からないような。
それはそうと、この麻婆豆腐。どうすればいいのかなって考えない方がよさそうだな。今度こそやばそうだ。
主人公>ふぅ、やっと1話が終わったね。
こけた彼女>そうだね。それより・・・・・・
主人公>ん?どうしたの?
こけた彼女>この『こけた彼女』っていうのやめてくれる?
主人公>それじゃあ、何がいいの?
現在名称考考え中の彼女>・・・・・・・・・・・・
主人公>ホラね。こけた彼女がぴったりじゃない
こけた彼女(仮)>うーん、なんかむくわれないなぁ
主人公>そんなことより、この『点心中華編』は10話で完結らしいね。
こけた彼女(仮)>でっていう、ね
主人公>ごめん・・・・・・