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英雄伝説  作者: 耳かき
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斬殺

 新月、街の明かりも消え真実の闇が訪れる。

 持っている剣は深い闇にうずうずしている。貴族の護衛も飽きてきた。主人は先ほど宴会を終え、千鳥足で帰路につく。

 最近貴族が何人も殺されているというから護衛についているというのに、こんなにも無防備では守りようがない。

 俺は先輩の護衛兵に

「少し大袈裟じゃないですか?いくら物騒だからって人一人に五人も護衛をつけるなんて」

 と尋ねた。

 すると先輩はいつもの優しい笑顔で

「多いに越したことはないよ。君もその方が心強いだろう?」

 といってくれて少し安心した反面、こんな優しい笑顔で本当に人が斬れるのだろうかと不安になった。


 数分歩いた時、俺はどこからともなく視線を感じた。一瞬気のせいかとも思ったが、その気配からとてつもない恐怖を感じた。

 そして叫ぼうと思って息を吸った瞬間、主人の首がとび、夜空に鮮血がまった。

 見えなかった。闇のせいではない。きっと俺の真上に太陽があったとしても、見えはしなかった。

 主人を斬殺したそいつは小柄で猫のようだった。

 手にしている剣は細く、芸術的に反っている。

 風変わりな格好がなおも恐怖をかきたてた。

 返り血にまみれた顔で

「亡き主人につくしてここで死ぬか、恥を晒して生き延びるか、五秒で選べ」

 と俺らに問うた。

 俺は震えていた。死を目前にし、絶望で動けずにいた。剣を抜こうとしても手が動かない。

 だが、先輩は違った。あの優しそうな笑顔からは想像もつかないほど果敢に立ち向かった。そして、他の兵たちもそれに続けと剣を抜いていった。

 しかし、次の瞬間彼らを一閃が貫き骸へと変えた。

 そしてまた奴は俺を見た。

「お前はどうする?」

 言葉では言い表せないほどの悔しさと恐怖が込み上げた。しかし俺の体は一向に動こうとしない。

「悔しい。憎い。お前も、動かないこの体も。認めたくない。でも、ここじゃ死ねない。」

 殺してやる。こいつを必ず俺の手で。

「悪くない」

 そいつは剣の血を払い、闇へと消えた。


 数日後、先輩兵たちは埋葬された。

 その場所にはあの先輩兵の母親と思しき女性が来ていた。その女性は俺を見つけるやいなや、俺に迫り

「お前はなんで生きている!?うちの子が死んでなんでお前みたいな弱虫が!」

 と俺を責め立てた。

 その目はあの人斬りよりずっとずっと怖かった。

 その晩俺は寝れなかった。

 夜が明けるまでずっと強さとは何か考えていた。

 あの晩、俺が剣を抜いてあの人斬りに殺されていれば彼は助かったろうか?

 俺が剣を抜けなかったから、彼は死んだのだろうか?

 でも、俺がもっと強ければ彼らは死ななかった。

 それは確かなのだ。俺に足りなかったものはただ一つ、強さなのだ。

 じゃあ強さとはなんだ?よく愛は人を強くするという。しかし、あの母親は息子をどれだけ愛しても守ることは出来なかった。

 では勇気か?しかし、あの時俺が勇敢に立ち向かったとしても、先輩の運命は変わらなかったろう。

 そう、強さとは力なのだ。そしてその力とは、あの人斬りのように目の前に立ち塞がるものを有無を言わせず斬り倒す力なのだ。

 その力こそ唯一あの時先輩を守れる手段だったのだ。

 だからこそ、俺は強くならなければならない。償うために、守るために俺は何者をも斬り倒す力を手に入れなければならない。

 壊すことで守る。


 俺はまず武器屋に行った。

 一番いい奴を買えば強くなれる気がしていた。店に着いた瞬間

「一番斬れる剣をだせ」

 といった。

 すると店主は

「いい時に来たねぇ!……はいよ!これがうちで一番いい剣だ」

 といって、ゴツゴツとした変な剣を出してきた。

「もう一度言うぞ?一番 "斬れる" 剣をよこせ!」

 そういうと店員は訝しむような目を俺に向け奥から一つの細い剣を持ち出した。

「東の国からの仕入れものだ。切れ味で言えばこいつが一番にちげぇねぇ。だが、正直こいつは気味が悪い。ここまで芸術的なのに、それ自体は人を殺す為だけに洗練されてる。細いくせに異様に頑丈だし、正直どうやってこんな代物創り出したのか想像もつかねぇ」

 一瞬目を疑ったが違いない。目の前に置かれたそれはまさしくあの人斬りが使っていた剣にそっくりだったのだ。

 店主は買う人もいないからといって安値でそれを譲ってくれた。

 景光と言う名のその剣は持った瞬間、恐ろしい程に俺を駆り立てた。

 そして俺はそれを持って夜の闇に繰り出した。


 闇の中、目を凝らしあいつ探す。昨日も貴族が一人斬られた。あいつはまだ近くにいる。

 斬りたい、あいつを斬って自分の強さを確認したい。今夜は絶対に雪辱をはたす。全神経を研ぎ澄ましあの殺気をさぐる。



 僅かに感じた覚えのある殺気。近くにいる。


「リベリア卿がお帰りだ。お見送りしろ!」


 その声を聞き俺は確信した。狙いはこいつだろう。だが何処にいる。出てこい、ぶっ殺してやる。これだけの殺気、気付いてないこたぁないだろ?


 ”出てこい!”


 その瞬間、僅かな月光を反射したその刃は一直線に俺の首へと飛んできた。

 使い慣れない剣では受け止めるのがやっとだった。

「何の用だ弱虫?けったいな物持って。わざわざ俺に殺されに来たのか?」

「黙ってとっとと死ね」

 使い方は分からないが、この剣が俺にこいつを殺せと叫んでいる。こいつの血が飲みたいと懇願している。


 いいだろう、応えてやろう。だからお前も俺の期待に応えろ。

 力尽くで剣を振り払いある程度の距離を取る。


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