わたしとわたし{笹茶屋京の苦難}
凛子達、イライザ率いるドラゴン討伐隊が村を発ってその後・・・・・・
「──み・・・──みや・・・京ちゃん──おはよー、生きてる?」
「・・・ん、ああもう。」
わたしが目覚めると凛子がわたしの頬っぺたを、むにむに引っ張っている所で。
どうしてそうなったの?
悪くは無い、むしろご褒美です、ありがとうございます。
けど寝起きは良い方じゃ無いから・・・頬っぺたを引っ張っられたまま、凛子を睨んでしまった、酷く不細工な顔に映ったのか凛子の顔がみるみる内に綻んで、含み笑いからケタケタと声まであげてそのままで笑う。
いいから、頬っぺたの手を外しなさい・・・
「くふふ、昨日は良く寝てたよ?京ちゃん。」
涙眼になるまで笑う事ないじゃない?凛子は掌で涙を拭いながら少し離れてそう言う。
「・・・嘘、そんなに、寝てた?」
まだ寝惚けたふりをして凛子をベッドに引き摺り込めないかな、と思って声のする方に寝返りをうつ、けど距離を取られちゃってて。
残念でした、わたし。
「起こさなくても良さそうだったから、起こしたほが良かった?」
そう言う凛子はいつもの服装で、わたしはシースルのベビドール。
もう朝は過ぎてるかな?と判断する。
頭が覚醒して来た気がする、もう起きれそうと思った時、くぅぅとわたしのお腹が鳴った。
その音に凛子はまた、くつくつと含み笑いをする。
可愛い、と一言溢して。
「・・・んにゃ、何かあった?無かったから起こさなかったのか、・・・ふぅー。」
・・・恥じぃ。
あー、顔が熱い。
食べてないんだからお腹が鳴るのは悪くない、タイミング今じゃないと、良かったんだもん。
誤魔化す様に話し掛ける。
静かな空気に凛子の含み笑いだけ、聞こえるのは痛かったから。
焦って話し掛けたから声も上擦って余計恥ずかしいー!
顔真っ赤だよ、きっと今。
「くすくす。・・・無かったと言えば無いんだけど、あったと言えば。」
そんな、含みのある言葉を口にする凛子。
気になるじゃん、そんな言い方されるとさぁ?
「何?何かあったの?」
思わず、即聞き。
もう熱かった顔も冷めてたから、凛子を見上げる。
「じゃぁ、起きれる?」
「う、・・・何とか。」
言われてから膝を曲げて確認する、動くし疲れも充分寝れたからか、どこかに吹き飛んでて。
持上げた右手でグッ、パー出来るのを見詰めながら凛子に返事を返した。
「降りてきて。」
わたしの態度に大丈夫そうと思ったのか、凛子は扉を開けてそう言うと部屋を出ていった。
興味を惹かれたからか、わたしは着替えるのも頭に浮かばずに、そのまま凛子の後を追って階下に続く階段に踏み出す。
「!──・・・えっ!」
まず、衝撃で軽く目眩がして声にならない叫びをあげてしまう、だってそこには・・・二度見を思わずしてしまったわよ、何で?
そこには眼を疑うってこう言う事かって、思わせるものが座っていたんだから。
「えへへ、吃驚した?」
「当たり前、でしょ?・・・な、何でわたしが居るの?」
にこにーと笑う凛子、引き釣るわたし。
布一枚巻き付けた姿のわたしがテーブルに座っていたんだもん。
物凄い無表情で。
「あ、みやこぉ。も、いいのぉ?・・・あ、この子?」
「コクコク。」
クドゥーナ・・・、愛那だっけ?の間の抜けた質問に声すら出せなくて、テーブルに座っていたわたしにふるふると震えながら、わたしは指を差して何度もゆっくり頷く。
「んー、と。ぐーちゃん。」
わたしの思考は一瞬、パニックでオーバーフローして焼け着いた、だって。
だってよ?グラクロは、わたしの知ってるぐーちゃんと呼ばれるぬいぐるみ大のそれは、少なくとも人類の姿では無かったし、わたしじゃなかっ!・・・何考えてるのか解らなくなって、酷く狼狽えちゃってわたしは。
笑いながら泣いた。
壁にまで下がったのは覚えてる・・・凛子が駆け寄って何か言ってたけど訳がわからなさ過ぎちゃって、ちょっとその声は届かなかった。
そのまま視界が狭くなってわたしは、何処か今の受け入れられない現実から逃げる様に意識を手放す。
「・・・み──みや・・・──京ちゃん?京ちゃんっ?」
「みやこぉ、どしたの?あ、気がついたよ。」
次に意識を取り戻すと頬っぺたをぺちぺちされてて。
凛子が、愛那が心配そうに両脇から頬を優しく叩く。
そこは遠慮せずに叩くものじゃない?意識を失ってるんだから・・・ま、何とかなってるしいいか。
そう思っていたら、
「──やぁ、シェリル。」
聞き慣れない女の子の声がする。
凛子と愛那が視界から離れて行って、わたしじゃなかった、ぐーちゃんと呼ばれるわたしがわたしの視界を支配した。
段々近づいて来て鼻先までわたしがわたしの顔を覗き込んでくる、鏡ではない事はすぐに解ってしまい、余計に鼓動が速くなる。
わたしはキョロキョロと所在無く瞳を動かしてるのに、視界の中のわたしはじぃっとわたしを見詰めてくる。
「──やっと、抱き締められる。」
「えっ?何で?」
ぐーちゃんと呼ばれるわたしにわたしはふいに抱き付かれ、ぎゅううと苦しいくらい抱き締められてて・・・夢って苦しいものじゃなかったのにな、と思うと心臓が早鐘を打つように大きく速くなっていく。
思わずドギマギした、上擦って聞き取れない無惨な声が出ちゃった、動揺を隠せない。
ぐーちゃんと信じようにも、体が拒否をする。
これはわたし、だと。
「──俺から話すのか?」
わたしに抱き付いたまま、ぐーちゃんと呼ばれるわたしは問う。
顔が向いた方には、この様を見てニマニマと笑う愛那が。
「うちが話す?えっとーお、起きたらいきなりこーなってたんだってぇ、ぐーちゃん。」
「んー!それ説明したことになるの?」
わたしがわたしと視線を集中させて見守るなか、愛那がドヤ顔で説明にならない説明をすると、凛子が空かさずツッコミを入れて。仲良さそうね・・・わたしが訳解らない事に巻き込まれてるって時に。
「えぇえ?だって、ねーぇ、ぐーちゃん。」
「──言ったままなんだよ、クドゥーナが。シェリルに気づいたらなってた。」
凛子が愛那がぐーちゃんが!わたしの姿になってしまった理由が解らないと言う。
わたしに抱き付かれるってのも豊かな胸の感触や、すべすべの磨きあげられた肌に触れられて、悪く無いと思え出してはいたんだけど。
「えーーー。」
理由が解らないのは困る、このままがずっとは色々マズいんじゃない?ま、双子です!で通らない事も無いかぁー、でも気づいた。
わたしにはそんな八重歯無いもん!まるで吸血鬼みたいな見事な牙。
「でね、服貸したげて欲しいの。だめ?」
困り顔でわたしを覗き込んでくる凛子。
「・・・ん、んんん。・・・いい、いいわよ。」
抱き付かれ抱き締められて段々気持ち良くなって、悪い虫がワキワキと動き出しそうだったわたしは、凛子のその声に両手をわたしから──わたし(偽)から名残惜しいながらも下ろして、まず引き剥がす。
「じゃ、コレ着て。」
そして、メニュー画面から一度着てから着てない系のコレクション服を取り出す。
わたしの手に握られたそれは、
「わ、ふりふりレースのワンピースなんてもってたんだ?」
凛子の言う通りピンク生地の細かいレース刺繍が施された、その名もプリンセス・ワンピース。似合わない事も無いけど好みじゃないし、可愛すぎる衣装はキャラに合わないから、一度着て見た後はアイテムBOXに今まで眠ってた。
「色々買ったし、貰ったし?拾ったし。」
ゲームだった頃は、毎日掘り出し物求めて市も眺めたし、メニュー画面からトレードをクリックで簡易トレード市場一覧が見えちゃうのだ。
ログアウトしててもグリムを払えば、勝手に売り買い出来る、寝惚けたトレ主がログアウトしたくて急いじゃって間違った桁違いの値で高価なマナを手放すって事もよくある話。
フルダイブは知らず知らず疲れが溜まるからね・・・どうしても身動き一つ取れないし、誰かが寝返りさせてくれる訳でも無いまま、連続ダイブで最大6時間フルダイブビューアーって、球体に入ってたり何だから当然なんだよ、わたしも思い出すと泣きたいトレードの一つだってある。
「わー!京ちゃんなのに可愛いー!」
「凛子・・・わたしの事普段どんな風に思ってるの?」
ぐーちゃんと呼ばれるわたし(偽)にプリンセスワンピースを着せて見ると、うん可愛すぎる、恥ずかしい。
わたしじゃなくて、わたし(偽)なんだけど可哀想に思えちゃった。
容姿がわたしのままだから、なんか重なっちゃって。
「せくすぃ系?」
凛子の声を聞いて思わず、攻撃的に睨んじゃっちゃったけど、返ってきた言葉と、可愛く首を傾げる凛子を見るとどうでも良くなった。
うっわ、お持ち帰りして抱き枕にしたいとか思ってないからね?あー、顔が熱い。
「・・・なら、いいわ。後で色々クドゥーナに渡すから。グラクロ、うーん変な感じね?」
グラクロってもう呼べないじゃん、わたしの顔してんだよ?
そんな風に必死に自然を装ったけど、鼓動がドンドン速くなる。
こんな事にキュン死しそうなくらい、凛子の事を好きで堪らないのかと思った時、またくぅぅとお腹から音がした。
そうだった、ご飯食べずに寝てたからだよ?凛子の事は好きだけど何か違うと思ったんだよね、あれ?
凛子、愛那も!
笑うなぁっ、生まれた事を後悔させてやるっ!
ちぃぃ、恥ずい!
恥死しちゃいそうだよぅ。
うーむ、ダラダラしてます。
イライザ達が山に発った後です、騒がしい程いた冒険者を引き連れて。
次回──まだダラダラしてるんじゃないかなぁ。
笹茶屋も回復したしそのまま、村を出るかも知れないけど。