痛々しいラザの事が私は心配で気掛かりでたまりません!
あれほど言ったのに!
ラザは無茶を通した。
シェリルさんが思った以上にしぶとく、ラザを翻弄したからだろう。
だとしても・・・やり過ぎだ。
地面はラザが暴れまわった跡が酷い、あちこち穴だらけだ・・・修復に何日費やすか、考えただけで頭が痛くなってくるな。
報告文に警備の者の文で良く書かれているのが、『見たことも無い技』を使うとか、容赦が無かったとかだな。
思った通り、ラザが圧倒したものの、シェリルさんは底が知れない、我々にとってシェリルと言う名の黒髪のエルフは・・・未知の存在と言っていい。
私はシェリルさんが青白い光を放ち始めたのを見て、あれは危険な光だと本能のままに、ラザに駆け寄ってラザを止めようとすがり付く。
その時。
シェリルさんの周りが眩く光る。
あれは、癒しの光──ヒール!
これで勝負は決まった。
報告文にあった、シェリルさんの仲間が駆けつけたんだと思う。
シェリルさんの方を窺うと、ピンク色の見ない服を着た冒険者仲間らしい少女が、シェリルさんの頬を平手で張った所だった。
・・・きっと、止めるように説得してくれてるんだろう。
良かった、終わった・・・ラザ、終わったんだよ。
還ってきて!
「──イライザ様っ!イライザさまっ。」
「・・・ん、んん・・・」
私が呼び掛ける声にやっと、ラザが反応を示してくれた、良かった・・・還って来てくれて。
「正気ですかっ、殺す気だったでしょう!」
揺り動かしながら叱りつけるように叫ぶと、私の腕の中に収まるラザの瞳がうっすらと開いて、
「・・・わ、わかんない。ただ・・・」
たどたどしいながらも、はっきりとラザは笑ってそう言う。
獣化がすっかり解け、今のラザはここに現れた時の姿、私がラザに渡した黒いマントを被せただけだったりする。
下着くらいは調達して置けば良かったと思う。
だけど、ラザの事が心配で一目も離せなかった。
まだ意識が安定しないのか、ラザの瞳は何かを求めてキョロキョロと動き廻っていた。
「ただ?」
「嬉しくて、・・・ごめん意識もってかれるなぁって、それは解ったんだ、解ってたんだけど。誘惑に負けちゃった。こんなに全力を出して、それを躱されて。嬉しくなっちゃったんだ、うん。」
キョロキョロと動き廻っていた瞳は視点がやっと合ったのか、一心に私に向けられる。
聞き返すとラザはくすりと可愛く笑って、私の瞳をじぃっと覗き込んだまま嬉しいと。
嬉しいだけで、命を賭けて戦ったというのは、残念ながら私には解らない、理解の先にある感情の様な気がした。
ラザの傷の具合を確かめる為に、下心は無いのだと自分に言い聞かせて。
マントを捲る。
あちこち傷まみれで、血糊が付いているだけかと思っていた、綺麗な顔からまで良く見ると血が流れている。
血糊と思っていたくらいだから、結構な量の血。
『ッ──』シェリルさんが斬り付けたラザの腕は、骨まで見えるくらい深い傷だ。
目を疑いたくなる痛々しいラザの腕の傷を見た瞬間、自らに起こった事の様に声にならない声で短く、小さく私は叫んでしまった。
可哀想に、ラザ。
私は、ヒールを使えない。
ラザの役に立てない。
私はラザの裸が周囲から隠れるように、そっとマントを戻す。
こんな事になるなら、あの時。
無理をしてでも止めるべきだったのに。
「・・・意味が解りません、ダンゼは、・・・私はっイライザ様のことがっ」
駄目だ・・・溢れるものが止まらない。
指の腹で熱いものを拭き取って続ける。
ラザは私の腕の中で、傷が痛むだろうに黙って、にこやかに笑って。
「心配で、・・・このまままた、・・・暴れるのではとっ。」
心配でした、ラザ。
バカです、ラザ。
こんなになるまで・・・あなたは勝ちに拘る訳でも、無い癖に。
「エヘ、そんなパワー余らないくらい叩き込んだみたいなの、もう。見て、ダンゼ・・・。」
ラザに言われて、マントの中で蠢くものに気付いた。
もう一度、マントを捲る。
「ね、・・・指の一本も震えるだけで・・・動かせないの、凄いなぁ、シェリルだっけ・・・エルフなのに・・・。」
マントの下で蠢くもの、それはラザの力無くふるふると震えるだけの、握るだけの力も枯れたラザの指先。
「シェリルさんの仲間が止めて無ければ、命は・・・無かったかも知れません。」
あの見たことも無い青白い光を思い出す。
あれは危険な光だった。
ちゃちな魔力じゃ、あんな事は出来ないはず・・・ハーフエルフの見た目だが、・・・ダークエルフの血が流れているのか・・・
「・・・それでも、嬉しかったんだ。これがリオグリスの業──師匠が言ってたの、強くなるのを欲っすのはリオグリスの業だって。わたくしは、本能から喜んで死すら構わないと、そう思ったのが──怖い。」
本能のままに戦いが嬉しい、楽しい、・・・そして死すら構わないと思えた本能が怖いと言うラザは心なしか、笑い顔にも力が無いように見えて。
血が流れ過ぎている・・・
無理に笑わないで、いいんですよ?
「陛下も・・・強者を求めます。親子なんですね、やはり。」
「エヘ、そうなのね。親子・・・エヘヘへ。」
力無く震える様に笑う、ラザ。
顔色が良くない。
傷口を塞がないと。
血を止めるか、ヒール・・・を。
「動けるようになりましたか?」
「ダメ・・・震えるだけで全然、あ。ダンゼ、だっこ。」
動けるなら、肩を貸して何とか救護が出来る所に運ばないとと、声を掛けたのに返事は意外なものだった。
ん?だっこと言ったんですか?ラザ。
「・・・は?」
「わたくしが許しますわ。だっこ、命令です、聞けませんか?」
おう、驚き過ぎて二度見してしまった。
だっこを命令された。
いや、下心、無いですよ?命令されたんですから。
「命令です・・・か。仕方ありませんね。」
私がそう呟きながら、急いでラザの脇の下と膝裏に手を入れ持ち上げたその時、
ヒール!
眩く金色の癒しの光がラザを包んで、
みるみる内に血が止まるのが解った。
「おや、何か用ですか?回復に来てくれた訳でないでしょう?」
もう大丈夫だ。
シェリルさんの仲間がヒールで、ラザの傷を癒してくれた。
あ、だっこは命令だから続行中ですよ。
ピンク色の見ない服の彼女の後ろには、引き摺られるようにシェリルさんが見える。
「謝らせないと、と思って。ヒール!」
彼女がヒールを唱えて、またラザの傷が癒されていく。
もしかすると、今ので腕の深い傷口も塞がったかも知れないな、良かった。
「わたしわっ、悪くないっ!」
こっちを見ないで、シェリルさんが上擦った声で叫ぶ。
シェリルさんは悪くないです、ラザが無茶をして貴女を追い込んだ、でも。
もし、取り返しの付かない事になっていたら私は、貴女を殺す!
殺していたかも知れません。
あの青白い光をラザが受けていれば、只では済まなかったのは解りますからね。
「殺すとこだったのに?はい、謝ろ?」
彼女が、こっちを向くのを嫌がるシェリルさんをずりずりと引き摺り、無理矢理私と私が抱えているラザの前に出した。
「凛子ぉ、やだ。」
良く見るとシェリルさんも、彼女だって泣いていたのか瞳が真っ赤で、眦にはまだまだ潤むものが湛えられている。
シェリルさんは恥ずかしいのか、口を鼻下から覆う様に押さえて嫌がっていた。
「ふふふ、駄々っ子みたいだよ?み、シェリルさん。」
「いいよ、もうー、解った、解ったよ。ごめん!」
ピンク色の服の彼女が背中を押すと、シェリルさんは一度俯いて小さな声で呟く様に一言喋って、勢い良く天を仰いで叫んでから、私の腕の中でにこやかに笑い掛けるラザに向かうと、両の手を合わせて謝罪をした。
シェリルさんの国元の作法だろうか?見たことも聞いたことも無い謝罪だな。
「これでいい?謝ったから、恥ずかしってば、凛子おっ。わたし、こんなのに負けたんだよ?」
「こんなのとは何です、姫に向かって・・・」
謝罪を終えてすぐ、シェリルさんは肩越しにピンク色の服の彼女に振り返ると、顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
ラザに向かって、こんなのとは何だ!
私がそう言って思わず口走ってしまうと、
「「え?」」
二人がキョトンとした顔で私と、ラザの顔を交互に見る。
「この方は側室の子とは言え、継承権もある立派な、この国──」
「ダンゼ、止めなさい、そこまで。」
王族だと解ってたんじゃないのか?二人に説明する為に、ラザを抱えている手にも自然と力がこもる。
「望んだのはわたくし、戦ったのもわたくしですわ?ダンゼ。」
「・・・イライザ様・・・」
だがしかし、説明し終える前に動くようになったらしい、ラザの掌に口を塞がれて黙らざるを得なくなった。
お約束なので、力を込めて説明するつもりだったのに。
なかなか文出てこないなぁーなんて、後のぅpは無い。
よぉし、次のプロット書き直しだぁー