強者の習い
わたしは──笹茶屋京。性悪エルフって、今居るフィッド村ではね・・・悪目立ちし過ぎちゃったかなぁってのは、ある。
ありすぎる。
村に一つの酒場が、わたしの毎日の舞台になってたわけよ?でもね、わたしを畏怖を込めて見る視線は感じても、間違っても喧嘩を売りそうな視線は今は無い・・・どうしてかな?こんなにか弱そうな、ってアレっ・・・わたし、パジャマ姿でここまで来ちゃってた。ま、いいっ。
ちょっと露出がキツいかも、でも、カルガインじゃ良く上は脱いでたみたいだし、・・・覚えて無いけど興奮しちゃったら、トぶのよね、記憶。
「ズ・・・ズズ。」
いつものテーブル。
いつもの地酒。
いつものジョッキ。
でも、今日は何かいつもと違うと感じる。
まあ、シースルのベビドール姿で酒場にいるってのは、いつもとは違うんだけどねぇ。
冒険者の皆さん方には刺激、ありすぎたのかしらぁ。
「姐さん、さすがに姐さんに喧嘩売る奴いなくなっちゃいましたね。」
そう言うとゲーテは振り向いて酒場を見回す。
やめてあげなさいよ、皆さんあんなに震えて。
瞳を逸らして怖がってるじゃない?
別にゲーテを怖がってるわけじゃぁ、無いのよね?わたしが、怖いんでしょぉ?ふんっ、
「ゲーテ、相手してくれる?」
「ははっ、血だるまにならない程度に加減して貰えるなら、付き合いますっ。」
誘う様に、ゲーテの顎を弄びながら見詰める。
なんだっけ、クドゥーナが怖がってた表情なんだっけ?獲物を求めてるときの、わたしの貌。
今のわたしは、きっと。
血だるまになったゲーテを見たいんだと、思う。
だから、試すように。
「あー、そう、それだとストレス溜まりそうだからパ・・・」
スと言いたいとこを遮ってくる。
いい度胸じゃない!その身に刻んであげるわよ?わたしを、わたしと言う存在を。
「加減なしでいい!揉んでやってくれ。」
絡み合うわたしと、ゲーテの視線。
求めてる映像は違うだろうな、ゲーテがわたしに見てるのは、強者への憧憬。
「へーえ、ちょっといい顔するようになったじゃん。でもね、加減しないから、いこ。」
憧憬だけじゃ、ダメだって事解らせてあげるよ、ゲーテ。
カエル皮のぴっちりした二の腕まであるグローブを着ながら、入り口の扉にわたしは向かう。
その背にジピコスの応援・・・じゃあないか?まあその、ゲーテを心配する声が聞こえたんだけど、あなたはわたしともう戦りたく無い?ふふっ、戦る前から降参なの?
なっさけないわね。
「ズズっ・・・ゲーテ、死ぬなよ。」
ゲーテが今日は得物に選んだのは、木刀じゃない。
そんなのでいいの?確かにクドゥーナに簡単に壊れなくて、良くしなる素材でって頼んで作らせたけど。
それじゃ、殺せないわよぅ?
「ぬぅおおっ!」
「あっまいっ!ほら、ほらほら。やる気にさせて見なさいよ、のろまっ、ブタねブタ。」
吼えてゲーテは顔の横で木刀を構えて振り下ろし、一歩踏み込む、そのまま連続で何度も突いてくる。
軽〜くそれを躱してわたしは、ゲーテの腹を中段蹴りで払う。
あ、残念。
それは空を切る事になっちゃった、だってね?
へぇ、ちょっとマシになったわね?前へ前へだけのゲーテが、後ろへ飛ぶなんてね?
「俺だってね、稽古したんだって!!」
「えぇと、見てればいい?やり返して平気?」
プッ!と唾を横に吐き捨てゲーテが、下から掬いあげるっ!けど、遅い遅い。
よゆー、よゆー。
くすりと嘲って、ゲーテを見詰めるとゲーテの眉がぴくんと跳ね上がる。
稽古って凛子ちゃんとでしょ?その稽古じゃゲーテは強くならないわよねぇ。
強者との稽古なら得るものあるんだろうけど・・・ざぁんねん、死闘を楽しんでたのよ?わたしはっ。
濃い経験と、薄っぺらな稽古じゃ熟練度だって違うと思うんだけど?
今のゲーテじゃ、躱してるだけでいい、一つも入らないのが、手に取るように解っちゃった。
「くっそぅおおおっ、あたんねえええっ!ひらひら、躱しやがってえっ、このぉっ!」
「そう、見て捕えようとしてもっ、無駄よ?、っんっっ!」
でも、それは詰まらない、そうよね?ゲーテ、加減は要らないって言ったわよね?
掠りそうで掠りもしない上段、中段、下段と連続突きが執拗に。
それを挑発しながら躱し切る、ちょっと髪に触ったかな、まぁいいけど?
獣化──しないのぉ?
速さは格段に上がるじゃない、的が広がって蹴り易くなるのよね、アレ。
「しゃべってようが、隙だらけだろうが、あたんねえ!くっ、解ってたっ!けど格が違うっ。」
「や、最初よりはっ、マシよ。ま、マシってだけっ、んっっ、メスブタがオスになれた、くらいの小さい差だけど、っんっ、ね!」
木刀を振り回すゲーテ。
軌道が読めない、けど。
まだ躱し切れないってほどじゃないのよね、読めるけど躱せない突きって言うのはね、もっと殺意のない鋭い一撃だもの。
殺気や、殺意を消せないのは致命的なのよ?読める敵を相手にするには。
ゲーテ、あなたの剣の軌道には殺気が乗ってる、残念だけどそれじゃ、見えちゃう、ふふっ。
「くっそぅっ、隙だらけだろうがっ!何でだ、何であたんねえんだっ。」
ワザと隙を見せてるのに、まだ当てられないのかしらぁ。
野次馬から詰まんないって言われてるわよ?可哀想に。
解ってないのかしらぁ、詰まんないって言って良いのは、わたしだけ、そうじゃない?おまえじゃ、ゲーテにも負けるでしょう?
「んふふ、それはー、ひ・み!つっ♪」
それじゃ、そろそろこっちからいかせて貰うわね。
「ぐ、・・・ごぅっ、おっぼぉうっ!」
わたしは右足を軸に、腰をぎゅんと捩って振り抜く。
上段、中段、下段の華麗にコンビネーションキックを首、腹、膝裏に叩きこんだ。
「アハハハハ!ブタがブタなりにガード出来てるわねぇ、ね?いつになったら牙を持ったトラに戻れるかしらぁ。」
ちょっとだけ、褒めてあげる。
上段はガードされちゃった、当たり前よね。
見え見えだったから、それでもガードされたってゲーテを壊してあげられると思ったんだけどなぁー、ねぇ?わたしが渾身の力を込めた蹴りは美味しかったの?ふふっ。
腹は確実に抉れたものね、当然かぁー。
リバースしちゃってさ。
汚いわね。
「・・・うぐ、参りましたっ、最後の試合ありがとう、ございます。」
「はやっ、・・・でも何か変わりがすぅぐ見つかりそ♪」
ちぇっ、ゲーテめ。
まだ戦れる癖に。
逃げたなぁ?
でも、まぁいいけど?次の獲物が殺気ギラギラさせて飛び込んで来たみたいだしね。
ようこそ。わたしの独壇場へ。
「往来でなぁに、やってますのっ!」
群衆を掻き分けながら、吼えて駆け込んだのは意外に女の娘だった。
わたしと同じくらいか、ちょっと年上かなー?喧嘩を売ってくる冒険者たちとは、毛並みが違うんじゃない?身なりのいい紅い丈の短めなワンピース・ドレスを着てて。
それに高そうな花の飾りがついた、赤いつば広の帽子に、白いブーツ。
それに比べて、わたしはシースルのベビドールにぴっちりグローブとぴっちりタイツに、ハイヒール。
旅の人っぽいし、初見ならわたしはそれなりに奇異に映るんじゃない?今日は上、ベビドールだけだしね。
何か羽織るものっと、竜頭のマントが目に付いたから取り出す。
ん?ベビドールを傷物にしたくないだけよ。
ビジリアンめいた深い緑の皮製マントを羽織るとわたしは、相手の出方を見たいからゆっくり、後ずさって女の娘との距離を取る。
女の娘のその手に、握られた得物はエストック。
それも特注したのか、妙に片刃だけが鋭い。
アハハハハ!良いの?わたしも得物使わせて貰うよ?
「っん!、飛び入りもいいよー、楽しみましょう?」
「仲裁に入っただけですっ。」
真っ正直な殺気の塊が。
半身でヒラリと躱したわたしの前を通り過ぎていく、その刹那。
お互いの声が響いて。
金色の瞳と金色の瞳がぶつかる。
視線と視線が交錯する。
あぁ、同類だ。
それ、その瞳はわたしの求めてるもの。
血泥を見たくって堪らない、そうよね?あなたの瞳はそう語ってる。
きっと、わたしだって。
「そのわりに、殺気のかたまりじゃない?んっ、キレいいわね。なかなかよかったわよぅっ!」
「剣がっ!?」
刃の腹を狙って左足を軸に、腰をためて捻ったそのまま渾身の力と疾風の速度で振り抜いた、後ろ廻し蹴りが襲う。
手を離せば、折れなかったかも知れないわね?終わった事だけど。
突きを繰り出したのを躱した後、引き戻す隙を狙い澄まして、半分に叩き折ってあげましたわ。
「アレッ、それが無いと何も出来ないってわけじゃぁ、無いでしょ?」
「うっ、仕方がありません──受けましょう?この勝負。わたしはイライザ、貴女も名前、あるでしょう?」
皮肉をたっぷり含んで挑発をしてから、両手を広げて呼び込む。
わたしの舞台上へ、この娘をあげて、そこでっ!壊す!楽しみましょうね?村でのわたしの最後の舞台。
しばらく折れた剣と、わたしの顔を交互に見てたけど、うまく挑発に乗ってくれたみたい。
折れた剣をそのまま構えて、静かにでも、威圧する様にその娘はイライザ、と名乗って。
わたしの名前を聞いてきた、んふふ、忘れられなくなるわよ?あ、死んでも恨まないでね、てへっ。
うぐぐぐ、やっぱりゲーテでは役不足だったんだ。
あ、やっとこの娘でるんだ、思い付いた時から時間経ったからイマイチきゃら掴めて無い感あるわぁ、
本日中の更新はきゃら掴めて、ノリが良ければ。