グラクロと小さな影2
ガチャと呼んだ箱についたペダルをぐるりと回すと、まず箱を中心に異空間が現れて眩い閃光が疾った、何度も何度も──
「くふふふふ。一つ回して見るね、っと!出た出た・・・んー。」
漸くモジモジするのを止めた小さな影は、ガチャ──ソレは幼子の背丈サイズの正方形をした、黒い箱を模した異空間だったのだが、異様なのは幼子でも手の届く場所に丸いペダルがちょこんと付いている事だった。
このペダル以外は、異空間を見た目サイズに切り取った様にしか見えなかったから。
その丸いペダルを廻すと、異空間はウォオオオという耳障りな音を立てて、異空間が零れ溢れるかの様に箱から漏れだして稲光めいた閃光がビカッビカッと何度も何度も輝き、閃光が収まると漏れだしていた異空間が元のあった様に戻って、残されたのは小さな包み紙が一つ。
「──何がしたいのだ。」
黙って小さな影の動向を窺うように眺めていたグラクロが口を開いて訊ねると、いつの間にか消え去ったガチャの後に、ただ一つ残された包み紙を拾い上げ、パラリと解いて中身をふむふむと読みながら何やら納得できたのか、何度も頷いていた影はグラクロに振り返るとニコッと微笑んで、
「ふむふむ、なるほどなるほど。ん?何をしてるかって。ソレはね、ひ・み・つ・ですぅ。ふふふっ。」
そう言うと顔の前にピンと立てた人差し指を振って可愛らしく笑う。
「──さっきのだけどな、理解った!クドゥーナだな。」
秘密と言われても全く、伝わって来ないグラクロはガチャの事を諦め、先ほどの小さな影の問いの答えを思い付いて口に出す。
「ぴっ、んぽんぴんぽんピンポーン!大正解っ。じゃぁ、ドラゴンのなれの果ての写し身なあなたが、どぅしてえ、ふふっ。人類の言葉を解るのでしょ。」
すると、正解だったようで小さな影は嬉しそうに跳ねて叫んだり、俯くと喜びを噛み締めているのか、小さな掌をぎゅっぎゅっと握り込んでうっしゃとガッツポーズまでして見せて、再び顔を上げると悪戯っ子めいた表情になった小さな影は、なかなかハードルの高い質問をグラクロにぶつけた。
人差し指をびしぃと突き付けて。
「──?、奴らが俺と同じ言葉を話しているわけでは無いのかっ?」
「んっふふふふ、正解だけどハッズレ!神なる力が働いてるに決まってるじゃない、えっと、クドゥーナだっけ?異世界から巻き込んじゃった子は。今の主なんだよね?その子だけじゃないけど──神なる力が備わってるのよ、この、このっノルンの運命を背負わせてるの。」
動揺した様に瞳をギョロギョロ巡らせて驚くグラクロを尻目に、更に重ねてぶっちゃける小さな影。
『クドゥーナ達に、神の力が宿る?それだけじゃない、俺が喋っているのはその・・・神の力が及んだクドゥーナのせい、だと?。』
そう思ったグラクロは、主だと言われたクドゥーナを思い浮かべる。
「──アイツ弱いぞ?バカだ、その、神が。」
グラクロはグラクロか、シェリルが基準となっているのでクドゥーナの評価は恐ろしく低い、セフィスよりも低いくらいだったそのクドゥーナに神々はノルンの、この世界の運命を背負わせていると言うのだから。
グラクロでなくても、ドラゴンのように力ある種なら同じく、神々をバカにして嘲ったかも知れない。
「しっつれいしちゃうなぁ。ふふふっ、まぁね?そのままなら弱いだけ、人類だものね。」
グラクロが喋っている最中から、含み笑いを溢していた小さな影が、そう言うと優しく微笑んでグラクロを見詰めてくる。
「用はね?勝手に連れてきて、巻き込んじゃってもイイって神々に判断されちゃった暇な人達を、集めてるの。あ、でも、ここに来たのは違う用なんだよ。忘れそうだった、いっけなーい。えへへ。」
そして、更に爆弾の様な衝撃的な言葉をグラクロにさらっと告げると、小さな影は本来の目的に話を戻そうとしたのだが、グラクロにその部分は聞き取れなかった、何故なら。
クドゥーナや、シェリルを勝手に巻き込んで・・・まるで、消耗品を使い潰す様に説明されてグラクロは思考がショートしそうな程ショックを受けたからだった。
「──暇、な人達?クドゥーナ達みたいのがまだまだ居るんだな?ノルンに。」
「んっふふふふ、その話はもう終わったんだぞ。今からはおしごとのお・は・な・し。」
小さな影に肩を掴まれ揺さぶられると我に返ったグラクロが怒りの形相で訊ねると、小さな影はニコッと笑うとやんわりとはぐらかして、コテンっと首を傾げるとグラクロの金色の双眸を覗き込んで、ピンと立てた人差し指を振りながら喋った。
「──おしごと?」
「君、きみのおしごとなんだったかなあ。思い出してみ?んんっ、ほらほら。」
はぐらかされる様にグラクロは別の話題を問い返されたのだが、それに気づかないまま間髪入れず訊ねると、更に小さな影に促される様に問い返される。
グラクロは正しい答えを貰えずに唯、小さな影に翻弄されていたが、逡巡すると思い出した様で、
「──大地の守護。実にくだらんな、代わってくれていいぞ?神よ。」
そう言って不機嫌そうに目の前の神にずいっと顔を近付けた。
「あはっ、あははははは!・・・ムリ。わたしはノルンにそんなに留まれないのが理由。理解ったかな?」
すると、グラクロの言葉に何らかのダメージを受けたのか、必死に平静を装って笑っては居たが、寂しそうに、悔しそうに小さな影が口を開くと、グラクロは理解できない様でイラつくのを隠せないまま、問い掛ける。
「──で、何がおかしいのか?」
「マナの塊である君が守護をサボッたら、ますます隙を作っちゃって大変になる、解るでしょ。」
グラクロの問いに返す小さな影の言葉は、どこかなにか足りない。
「──それは解る・・・神よ、俺は疲れたよ。寝るだけの存在か、誰にも相手にされない存在。そんなものに未練は無い。消すなら消せ。」
それは何故か?グラクロを装置か道具扱いしているからだ。
悲しき物言わぬ装置に戻るくらいなら、生など要らないとグラクロは言い放った。
グラクロの感情を無視した、神である小さな影の物言いに絶望した様に俯くと、グラクロは楽しかった思いでを走馬灯の様に思い浮かべる。
「はいっ、逆ギレ禁止っ!ぶっぶーっ!不正解っ。例えば、あなたが護っていた土地が無くなっても未練は無い、そう言うの?アイツはそんな隙が出来るのを何千年だっててぐすね引いて待ってるような、そんな行け好かないカンジなんだ。」
すると、慌てた様子もなく悪戯っ子めいた表情を浮かべ、厳しい威厳ある口調で小さな影は訴える。
グラクロの護る土地、サーゲートに隙が出来るのを待っている存在がいると、そのままだと綺麗さっぱりなくなってしまうんだと。
「──この、生まれて初めて手に入れた彩りある生活を捨て、灰色の生に閉じ籠れと命令するのか。なら、消せ。」
しかし、グラクロの決心は揺るがないのか、小さな影を見る訳でも無く色の無い檻には帰りたくは無いんだと、吐き出す。
「だっから、──わっかんないかなぁ。出来ない、それは出来るけど、何の意味も無い事なんだよ。だから、その生活を捨ててってお願いに来たんじゃないからさ。そっか、それが不安だったんだね?オリテバロー、解るよ・・・独りは、辛いもんね?独りに戻りたくなんて無い・・・よね。」
すると、グラクロが頑なに、生を諦めてまで貫きたかった事情に、なんと無く気付いた小さな影は、グラクロのキモチに触れてお願いしたいのはそうじゃないと話した。
グラクロが勘違いをしているんだと、小さな影はグラクロよりも、ある意味でぼっちの先輩だったようなものなのだから。
神々が仕掛けた大がかりな謀。
知らず知らずに凛子たちはその謀に巻き込まれていた──
そんなこんなでグラクロを説得する小さな影は。
次回完結、てか・・・書くのが遅いだけね