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そうだ!温泉へいこう。11


こんな風でも京は楽しんで、その時をまっているだけだったが凛子にはそうは映らない。

訴えるような口調で凛子は、いい加減にしてと言いたげに京を注意する。


恐怖に怯えた様な愛那の碧眼を窺いながら、京はウザいけど可愛いとも思えるまでに心境は変わってきている。


もし、凛子と出会う前だったら愛那をとっくに許していただろうと考えて京は、また小さくクスリと笑う。ウザカワか!それもいいかもしんない、と。


後は京の満足するキーワードを愛那が言えれば、仲直りしてもいいとこの時には内心、思っていたのだがしかし、そこまで持っていけたのは愛那の言葉では無く、凛子の必死な説得とも取れる台詞の数々だった。


『和気あいあいと温泉楽しかったねって話したいし、ギスギスしに来たわけじゃない、寛ぎたくて無理言って来たんだった、わたしは。』


「みやこがあっ、・・・うっ、いつまでたっても、ぐすっ。敵みた、ぐしゅ、いにぃ・・・うぅぅえぇええっっ!」


「泣いたらどぅなるって?」


「だから、ダメだってば京ちゃん、何でそんなキツく当たるのっ?」



だがしかし、京に吊り上げられたそのままの態勢で京の心の移り変わりに気付けないまま、愛那は声を抑えながらも泣き出してしまう。


さっきまでの緩んだ気持ちが自分の中で一気に張りつめるのが京は解った。

どうにもまだ、仲直りは難しいなと。

諭す様に凛子が問い掛けるが頭に入って来ない。


『おっかしいなぁ?ここまでどうして子供ぶってる愛那が憎らしいのか、解んないんだけど?いつからこんななんだろ?わたしって・・・うーん、思いだせないな。』


京も内心そんな風に考えて、戸惑いを隠せないほど、温泉で無ければ不自然な汗を掻いていただろう。


「ぐしゅっ、ぐす。・・・ふぇえええっ!」


泣いてばかりいる愛那を見詰めて京は額に伸ばしきった指先を当てて何やら逡巡する。


京が以前言っていた言葉であめとムチと言うものがあり、凛子にはムチも振るったが飴もそれに負けない、ううん、それ以上に与えていたかも知れない。


が、愛那にはムチはこれ以上なく鋭く振るったまま飴を与えていなかった、まあ、愛那が京に怯えきって踏み込んでこない上に、イロイロ有りすぎて京もそれを忘れていたくらいだ。


あっさりと解は出てきた。『悪いことをしていた?んー、優しく接してないんだからかなり怖がられても仕方ないな』、と。


『怯えるくらいでウザいって思うのは止めよう、泣かれたくらいでイラってするのも我慢しなきゃ』、とも。


「ふん、・・・じゃぁっ!凛子は、わたしが悪いって言いたい?そうなら、さ。そう言えばっ?」


「あぁ、もうっ。」


内心、愛那が泣いているのも凛子の反応も楽しくなっていた京はだがしかし、裏腹にわざとキツく突き放した言葉で愛那と凛子の反応を窺うことにした。

だって、その方が楽しめそうだから、と。

愛那にも凛子にもはた迷惑でしかない、ねじ曲がった京の心情を周囲の誰もが量れない。


悔しそうに涙目で見詰めてくる愛那に、凛子に至っては京の態度がどうしても納得出来ずに、掌をぎゅうっと痛いほど握りしめて、諦めきれないがどうすることも出来ない自分自身が歯痒く天を仰いで心から叫ぶ。その様に満足げに一人、京は嫣然と微笑い凛子を見詰めていた。

やっぱり楽しくなってきた、と。


心と心からのぶつかり合いこそ京が、喉の奥から欲しがる楽しくて堪らなく求めるもので、自ら追い込んで作り出したギスギスした状況を思うに、笑いを噛み殺すのも必死になる。


『気づけるかしらぁ?凛子ちゃん。』


「・・・」


「・・・」


そうなると自然と無言でお互いを見詰める時間が生まれ、しかし、二人の表情は対照的に違う。

ニマニマと笑っている京と、苦虫を噛み締めたやるせない表情で、気持ちが伝わっていないと思っている凛子だったりする。


「ぐす、仲直り、・・・出来ないぃ?みやこぉー。」


睨み合う二人を順繰りに見詰めていた愛那が泣きながら、掌の腹で涙を振り払い再度、京に哀願した。

凛子と愛那、二人はまだ気付けてない様で京の雰囲気が変わっていっている事に。


「それなりの態──」


「京ちゃんっっ?」


楽しくギスギスした雰囲気を堪能している京が、そう易々と願ったり叶ったりの、今の状況を手放すはず無かった。

哀願を聞いても注文を付けて撥ね付けようと、京が心の奥であかんべをしながら口を開けば、凛子の真剣な真っ直ぐな瞳と、言わなくても解るでしょ?と語る表情に遮られ心ごと飲み込まれそうになり、唾を飲み込む。

敵もさるものと、凛子に高評価をつけて、


『じゃぁ、こう言うのならどうするのかなぁ?』と、京は心の内でケタケタと笑いながら、冷たい微笑みを浮かべる演技を始めると、


「わたし、そんなに悪者かなぁ・・・?ね、凛子ちゃんもそう思うの?」


伏し目がちにチラリと凛子を見詰め、わたし傷付いてますよ!なアピールをする台詞を語る。

語る、であり、そんなこと少しも思ってなど居ない・・・ロールプレイは京の得意とする所だったり。


「違う、違うよ。あいななりに歩み寄ろうとしてるの解らないのって、わたしは言いたいんだよ!」


しかし、京の考えを見破った訳では無いかも知れないが否定して、京が理解ろうとしない愛那をかばうような凛子なりの言葉で返す。


その時の京は内心こんなだったり。『ここはわたしに謝るとこじゃ?おっかしいなぁ、あぁ、うん。歩み寄ってるの解る、解るけど。何より今の状況が楽しいしさ?もうちょっと楽しませてよ。』


もう、何かイロイロと終わってる性格をしていると思われる京を、凛子は如何にして攻略すればいいのか・・・







「ぐす、ぐすっ。・・・凛子ぉー、解ってくれてありがとおっ。」


「・・・。」


泣きじゃくっていた愛那もようやく溢れる涙が収まりだし、凛子に向かって泣き顔のまま、にこりと微笑む。京は黙ってそんな愛那を見詰めていた。


そして、悪巧みを思い付いたと思われるしたり顔を一瞬浮かべると、すぐに冷たい微笑みを作れば京は泣き止もうと必死で熱い水滴を振り払っている愛那に、視線だけでなく体全体で向き直ると、


「悪口言われて、何も謝ろうとしないで『仲直りしましょ。』ってむしが良すぎるって思わない?まぁ、わたしが折れたら和気あいあいになるのよね?折れてあげようじゃない。んー?何、凛子、その顔。」


何の躊躇無く、悪女を演じきる京が自身の台詞に陶酔する様な気分で喋っていると、気に食わない、そんな事まちがってると言いたげに凛子が顎先まで瞳を近付け睨んでいるのに気付いて問いかける。

鋭く刺さる棘をいっぱいに孕んだ口調で。


「どぅしたらそんなねじ曲がった、ひねくれた言葉しか出てこなくなるの?」


すると、泣きそうな、今にも溢れ落ちそうな水溜まりを、瞳いっぱいに湛える凛子が数滴の涙を散らして、首を振り乱し京を説得しようと奮戦すると言う、京に取っては楽しくて仕方ない展開に。

内心、もうとっくに許しているんだから許すも何も。余興、おまけなのだ、京の中では。


「ごめんなさい。をさせたいなら、京ちゃんも柔らかく、弛んであげなきゃ。あいなも踏み込めないんだよ?踏み出したくっても・・・やっぱり『壁』が見えちゃう。だからっ、それ以上先に入れなくて言えないんだよ。ね?あいなもごめんなさい言いたいんだよね?」


水溜まりを全て散らすと一度、深呼吸をした凛子はキッと気合いを込めて、なかなか折れない京に何とか解って貰おうと、『愛那の伝えたい事』と感じた部分を心の奥で組み立てて口にし出し終えれば、どうだ!内心叫ぶと、目蓋に腕で蓋をして泣き止めないでいる愛那ににこっと微笑みかけ訊ねた。


「・・・うん、仲直り、したいよお。でも、ぐすっ。うちを見るみやこは凄く恐くて、・・・だからっ、言いたいけど、言えなくて──ごめんなさいっ。ぐすっ、へへ!・・・言えたよ、凛子ぉー。」


凛子を見詰めたまま、時折ぐすぐすと涙を堪えきれずに愛那はお辞儀をして謝罪をし終えると、凛子ににへらと惚けた顔を見せ微笑む、凛子に。こんな所からも理解るだろうか、愛那は天然だった。


「こぉら、わたしにごめんなさいしてもダメだってば。ほら、あっち!京ちゃんの瞳見て!今なら、壁、無いよ、きっと。わたしが壁に穴空けたからっ!」


「凛子ちゃん?わたしは何か?ラスボスか何か、そんな設定なのかな、んーっ?」


そんな愛那を見かねて、涙を左の腕でぬぐうと凛子はそう言って、愛那に促すように京を指差す。

指差された京はというと、温泉の水面を掬い上げて溢れ落ちていくお湯を眺めていたが、凛子が指差した事に気づくと、とぼけた口調で応えながらチラリと凛子を横目で窺う。


『まだだ、まだ引き延ばせる、折れるのは今じゃない。』と、思いながら。


「違う、ち、違うよ?えっ──」


「ごめんなさいぃ、みっ!みやこが恐くて、恐くて。2、3日前とかホントに近寄りたく無くて、いつ、見てもどっか血塗れだし、なんか黒いオーラ出てるみたいだし、ホントに恐くて・・・で、」


「──それ、謝ろうと思って謝ってるの?愚痴よね。」


凛子が弁解しようと口を開けばそれを遮って、心の内をぶちまけるように愛那が喋り出す。

それを耳に入れながら京は苦笑いを浮かべ、キッパリと愛那の謝罪を否定した。




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