そうだ!温泉へいこう。2
振り返ると上半身裸の山賊やってます!と自分で言っているかの様なゴロツキが立っていた、不敵な笑みを浮かべて。
クドゥーナが声を上げると京も体勢はそのままで、首を反る様に背もたれから長い黒髪が床を這うほど頭を落として入り口に立つ男を視線に捉えた。
「お前が性悪エルフだなあ?一つ勝負して貰おうか。」
そして、男の挑戦してくる様な言葉に体勢を戻すと深い深〜い溜め息を一つ。その姿のまま立ち上がると表に、喚き散らすゴロツキ──名乗りを上げたり、自分が如何に凄いかを自慢しているのを無視して連れ出して消え、10分程。
再び、返り血を頬や細い腕や白い足に浴びて京だけが食堂に現すと、その様は人1人殺したかの様で。
ネグリジェにまで少し返り血がついたのを発見して憂鬱そうに、その返り血をどこからか出したタオルで拭きながら、
「ふん、雑魚なんだから。遠慮!くらいしなさいよっ!」
怒気を孕んだ京の罵声が朝の食堂に響いた。
すると、返す必要もないその言葉にクドゥーナが律儀に返答をしてしまった。
この言葉には『お気に入りの』ネグリジェが返り血で汚れた為に、非常に機嫌が悪くなっていると言う裏があったのだが、勿論クドゥーナは知るよし無い。
「そうやってぇ、全部結局相手しちゃうからーぁ。噂に尾ひれ付いて独り歩きしちゃうんですよぉ?」
心配して待っていた訳では無く、単に厨房から冷たい水を拝借して飲んでいたそれだけだった、運が悪かったのかも知れない。
ネグリジェを着ていなければ、朝一で無ければこんな理不尽な怒りは生まれようがないのだから。
事実、冒険者やゴロツキの襲撃は暇潰しには丁度良いと京は言っているのだし。
その応えに、クドゥーナの気だるい態度にカチンと来たのか、
「・・・負けてやれって?そう、言いたい。で、良いのよね。そう取るわよ?」
獲物はクドゥーナに変わっていた。
失言だった?とクドゥーナが冷たく凛として響いた京の声に、恐る恐る肩越しに振り返ると、婀娜っぽく微笑んで、だがしかしギラリと獲物を狙い澄ました肉食獣の様な鋭い瞳で、クドゥーナの全身をがっちりと鷲掴みにする京が立っていた。
ここ数日は、味わって居なかった懐かしいとは思いたくも無い嫌な空気が、クドゥーナの周囲を包む中、京が動く。
クドゥーナの首に手を回し引き寄せて、鼻先まで覗き込んでくるその姿はクドゥーナにどう映っただろうか?誰かが見ていたとしたら、可愛い女の子同士でじゃれ合っている様に見えただろうが、クドゥーナには悪魔に魅入られた様に思えていたのである。
少しはマシになっていたとは言え、天敵に違いなかった、鼻先まで顔を近づけてにこやかに微笑んでいる美人は。
「いやいや、違うけどぉ・・・うーん、相手しないで追い返せば?」
震える声で勇気を振り絞ってなんとか言葉にする。
首に手を回されているので簡単には逃げ出せない、
クドゥーナは冷たい物が、顎先から垂れて落ちたのを感じて拭う。
冷や汗をかいていた。
蛇に睨まれた蛙が恐怖を感じて、汗をかくんだって聞いたけど・・・ホントだったね、今知ったよ・・・と、クドゥーナは拭った手に視線を移せずに思う。
今、悪魔に魅入られた哀しき生け贄と言えるかも知れないクドゥーナは沸き上がる唾も飲み下す事が出来ずに、覗き込んで視線を絡めてくる京から視線を外す事が出来ないくらい、全身が強張っていた。
ここが完結したら纏めたらいいよね! ってことでここで切ってみた。
次はもう少し長く出来るように切るとこ考えるかな。