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ハジメテノ・・・(修正)

修正です。それだけです


「届くわけねーから」


スリングを取り出し撃とうとしたら止められた。

わかってる、充分わかってるんだよ。


そう言ったってさ、撃ち落としたくなるじゃんか。

なにあれ。

良く見たら、


「キモッ、顔ついてないじゃん」


さっきより近づいて来たモンスターはもう確認出来るくらいの距離で。

幸いまだ気付かれていないようだ……けど。


「やるしか無いかあ、他に誰も居ないし」


苦手なんだよな、と続けた後で軽くため息をつくヘクトルは、それでも剣を手に取り走り出す。


どうしようか。

けどヘクトル行っちゃったしな。

しゃーないか。

しゃーない。


うんうんと自分自身を納得させると、ヘクトルを追いかけてまっ暗い石畳を、月明かりを頼りに走り出す。

手にはスリングを握りしめ。


しばらく走って、やっと追い付くとヘクトルにモンスターが襲いかかろうとしている所で。

ヘクトルも剣では届かないのわかってるから、構えて待っている。


ギイイ!!!


モンスターは奇妙な鳴き声で吠えて噛みつこうとした。

それをあっさりヘクトルは避けて、躱し際に羽の付け根に一撃。

なんか、あっけなく倒しちゃったな、流石ヘクトル。


「すごーい! やけにあっさり」


声に気付いてヘクトルは息荒く、


「あっさりじゃ、ねーよ。ったく、ヒールくれ」


ヘクトルに近づいて良く見ると血が額から流れていた。

他にもシャツの袖に血が滲んでいたり、そこらじゅう噛まれてるみたい。

えっと。。。

言われてマナを取り出してみるけど。

んー……?


「あー、えーっと……これ。説明書もマニュアルも無くて、どうしたらいいんだっけ……」


焦ってわたわたしてしまう。

取り合えず、手の中のマナに念を送ってみた。


……何も起こらなかった。


それを黙ってみていた、呆れ顔のヘクトルは額の血を雑に右手で拭い、


「まさか、……マナの使い方知らない?」


馬鹿にしたように言った。

ように聞こえる。


もう、なんか色々すいません……。


ヘクトルが言うには、スロットに嵌め込まないとマナの力は発動しない。

だから、武器にはスロットが有るんだって。

……覚えておこう。


「大事なのは一度嵌め込んだら外せない。二度と、だ」


さっきとうってかわって大真面目な表情で。

いや、近いから。

わかったから離れて。


「ヘクトルの剣の、それって……やっぱり?」


そういうことになると気になってしまう。

初見から妙な剣だと思ったんだ、だって―――


「そうだよ。全部マナスロット」


特注品なんだぜ。

自慢気にニマリと笑う。

柄にも刃の腹の部分にもたくさんの孔が空いてて、正直……、変。


きっとあれが全部スロットなんだろーなとは思ったけど、空けたんなら嵌め込まないと意味ないじゃん?

って、話を聞くまでは思ってた。

そっか、二度と外せないのかあ。

となるとこのヒール、じゃあ何に嵌め込んだらいい?


「うあ、悩むわー!」


外せないんじゃ適当に嵌め込んだら勿体無いしね。


わたしの悩む声を聞いてヘクトルは睫毛を下げてちょっと考え込む仕種を取っていたけど、


「狩りに出る前にあげた飾りはどうだ?」


閃いた!と顔を上げてそう言った。


「ちょっと、待ってー」


うん、やってみる。

アイテム袋から取り出した飾り兜?には孔がひとつ。

ここに嵌め込んだらいい?

さっさとしないとアイツが痛そうだしさ。


『えっ!!』



嵌め込まないとと、孔に近づけると音もなくマナがマナスロットの孔にぴったりと収まった。

これでヒール、使えるようになった?


何が変わったとか無いんだけど。


取り合えず叫んでみた。


「ひ、……ヒール!」


するとキラキラ、と何かがマナからヘクトルに向かって飛んでった。

え、……これだけ?

まあ、一般的なマナだから余計なエフェクトとか無いのかも。


「傷、治った?」


恐る恐る聞いてみた、すると。


ヘクトルは傷口を触ったり、額をぺちぺちしてある程度確認した後で、『おう。』とだけ。


血は止まってるし目立って傷痕もついてないみたい。

取り合えず、ヒールは効果あったんだ。

それで、


「これ、どうするの?」


視線の先にはさっき倒したモンスター。


「別に? ザコだし、いるならやるよ」


「いらないし……」


「急がないと。襲撃だとしたら、町全体が破壊される」


「ザコなんでしょ?」


なら、そんなに心配なことないじゃん。


「おまえなら苦労するだろうな。泥がレアじゃないだけで弱いってわけじゃねーし。ひとまず」


泥漁っとけ。

と言ってヘクトルは息を調え終わるとまた走ってわたしを置いて行ってしまった。


ちょ! こんな所に置いてくな。

どこだかわかんないんだぞ。

すぐに迷子になっちゃうかも知れないだろー!


言われたからってわけじゃ無いけどさ、何が手に入るが解んないし泥漁ろう。

んー、なにこれ……空色と褐色が混ざった怪しげな石が出てきた。

ヘクトルに見せて聞いてみよ、後で。


他には鉄っぽい金属とモンスターの(はらわた)のなにか。

えーとワームフライって名前なのか、こいつ。

LVは35かあー。

確かにわたしにはきついな。


めぼしいものは他に無かったのでヘクトルが走って行った方に足を進める。


ま、激しく戦闘音してるからあっちに居るんだろーけど。








その場所に着くとそれまでの、どこかふわふわとした浮わついた気分がわたしの中から吹っ飛ぶ光景が広がっていた。


壊れた建物の瓦礫も相当だけど、辺りを包む空気が全く違う。


今、目の前では生死の死線と言えるものが、まさに引かれようとしていた。

そんなもの間近で見てしまうと思わず体がすくんじゃう、そうして強烈な吐き気が襲ってきた。


……死の臭いとはこう言うものなのか。


なにこれ……、ヘクトルを追って探していると町の南門に近い広場に出たんだけど、今まさに死に絶えようとする町の防衛隊なんだろう兵士達が居た。

急がないと死んでしまう。

NPCとか、そんなことなんか。

頭からぶっ飛んでた。


「ひっ!ヒールっ」


思わず兵士に向かって覚えたての魔法を唱える。

助かって!



目の前で死なれると寝覚めが悪いじゃんか!!


しばらくすると、軽く咳き込んで息を吹き返す兵士を取り合えずほっぽって次の兵士に魔法を掛ける。

残念ながら動かない。


連続して掛けるものの反応が帰ってくる気配が感じられない。


吐き気を堪えながら、瓦礫に半分埋まった別の兵士にも魔法を唱える。

やはり何も変化は無い。


それに、早くここを離れないと……、兵士達がこうなった元凶は今、わたしには見えないけどまだ近くに居るかもだし。


結局、倒れていた十人の兵士達の内、二人しか反応を返してくれる者は無かった。


「立てるっ? 取り合えずっ、ここを離れましょう!」


「くっ、力が入らん」


呼び掛けに答えた兵士さんは、必死に槍を杖代わりに立ち上がろうとする。

でも黙って見ていられないし、何て言っても時間が勿体無い。

二の腕を持って手助けする。


もう一人は息をするだけで、精一杯みたいで倒れていた時のまま起きる気配も無い。


「ノクスは、生きてるのか? あいつを……、助けてやってくれ……」


起き上がった兵士はもう一人を気遣って、自分の事はもういいと言う。


「ノクスさんっ? 肩貸しますからっ」


返事の無いノクスと呼ばれた兵士を無理やり起こそうとすると、ぐぅっと言う呻き声をあげる。


腹の傷はヒールで塞げたけど、傷みを完全に取るには……わたしのヒールでは足りないみたいだ。

脇から抱き起こして腕を自分の肩に掛けて、引き摺るようにその場を離れようとしたその時。


「ち、ちくしょうっ!」


トロルだ!

槍をやっと杖代わりに歩いている兵士が震え上がる声で叫ぶ。

目の前で建物が崩れ瓦礫が吹っ飛んでくる。

低い唸り声を上げて広場の惨状の元凶が姿を現した。


瓦礫の向こうからトロルの右腕が振り上げられ、固まったままのわたし達にまさに振り下ろされようとした刹那。


だあああああああらっしゃあああああっっっ!!!


張り詰めた空気を切り裂く叫び声が聞こえて、固まったままその光景を見ていたわたしの目の前で、袈裟斬りにぶった斬られたトロルの血飛沫が辺りに舞う。


「へ、固いなコイツっ!」


そして、気付いたら目の前には、大丈夫か? などと、無表情で宣うヘクトルが立っていた。

助かったよ?

助かった、けどさあ。

もうちょっと何か、無いの?


「助けてくれて、あ、ありがとう」


取り合えず、言うことは言っとこう。

出てきた言葉は震えて、うまく音にならない。

半分死んでたようなトコだったし、正に絶体絶命よね?


「よし。それじゃ、ありったけヒール掛けて」


言われて見てみると、ぜーぜーと息が荒いヘクトルが居て、しゃーないなーと、言われた通りありったけのヒールをわたしは唱える。

なんとかなったかな。


「コイツで5匹、ぶっ倒したけどまだまだ来るぞっ」


兵士からも、感謝の言葉を掛けられてたヘクトルは、まだまだこんなもんじゃないと言う。


あのさあ、もういろいろ無理なんだけど?


き、気持ち悪い……意識が朦朧として急速に視界が狭まっていく。

あ、なにこれ……走馬灯かな?


とか思っている内に意識がふっ、と途切れた。







『はっ!』


物凄い嫌悪感で目覚めた。

そこは、見馴れた自分のベットの上。


『なんだ、夢かあ』


やけにリアルな夢だったなあー。


『もっのスゴい汗。キモチワルイ……』


脇とか首筋とか、嫌な汗の量だ。


「え!」


何となく。

触ってぬるり、とした感触の。

それは、血の様に、紅く――――


うわああああああっ!!!!???


悲鳴と共に現実に引き戻されて気付く。


嘘……だあ。

今までこっちが夢だったでしょう? 嫌だよ。


目覚めたそこは見覚えの無い部屋の隅で、ベット代わりのシーツを被せただけの台の上だったから。


回りにはテーブルに突っ伏して寝てるヘクトルだけ。

なんだ、こいつ。

寝てんの。

ああ寝てたね、わたしも。

「起きて!」


軽く揺すっても起きないから、何度も揺すったら起きた、やっと。


「ん、だよ。後ちょっとだけ……、しつこい!」


どっちがだ。


「おはよっ」


「ん──? ……おはよ」


ここ、どこ?


そもそもなんで寝てんだっけ。

ヘクトルが言うには、いきなり吐いてその後寝た。

というか、わたし、気絶したらしい。


そーいえば吐き気を堪えながらいろいろあったなあ。

イロイロ。

……あっ!


「兵士さん、どうなった?」


「知らん」


「なんでよ?」


「俺も、ここにおまえ運んですぐ。寝たから」


それは、どうもすみません……。


「そーいえば、もう一人かな? ユーザー見かけた」


「どこで?」


「んー、ここに着く前。門の方に走っていく奴等に混じってたぞ」


「行ってみよっ?」


どれくらい寝てたかわかんないけど、他のユーザーと話してみたい。


「まだ寝てたい、って言ったら──」


だめか?


って言うからダメですってヘクトルを引っ張り起こす。


取り合えず、門にいかなきゃでしょ。


部屋を出るといきなりの瓦礫。

こんなトコで寝てたんだ。

もう、この辺りは無事な建物はろくに残ってないのかも知れない。


この建物も半壊していたし。


そういえば、ヘクトルが見た門はどっちだろ?


町の門は三つある。

意識が途切れる前は、南門近くに居たから南門なのかも。

こーかなー、と思案を巡らせていると、


「あっちだ、たぶん」


ポンと肩を叩かれて振り向くと、寝惚けまなこのヘクトルが欠伸まじりに立っていて、親指で方向を指し示していた。


「急ごおっ」


その方向からは煙が上がっていて何か、大きな建物が倒れたような地響きがこっちまで響いてくる。


何が、……出来るかわからないけど、もしかしたら、助けられるかも知れない。








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