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バイトして食堂に、わーーー!

することが無い。



超絶ないや・・・暇だーーー!


しなければいけないことは山積みになっているんだけど、そのためにも・・・早く役人のひと来てよー。




しなければいけないことは、この村で出来る事は無いのに10日も足止めを貰っちゃって、ムダに嫌な事、怖かった事を思い出す、オークの巣の事は最たるもので、あんなの来たばかりで目にしてたら、もっとトラウマになっちゃったンだろーな。




何だかんだで順応していっちゃってるな、なんて。




それこそ思い出すだけで、噎せ返る血の匂いが蘇って吐き気を覚えたり、憂鬱になっちゃうけど、さ?



この村で定宿にしている《古角岩魚の湖亭》のちょっとした食堂スペースに今、三つしか無いテーブルの一つを占拠して、朝食の並ぶテーブルの上に突っ伏してそんな事を考える。



昨日は、グラクロを探すつもりで、普通に村のあちこちを見て廻ってしまった。



村に一つの大通りには宿の食堂何かじゃなく、ちゃんとした食堂があった、革を鞣して服を仕立てる店があった、特に目ぼしいものは無かったけど生活用品なんかを取り扱う雑貨店があった、専ら農具を取り扱う鍛冶屋があった、肉や食材や野菜を売ってる商店があった、なんてゆーか。



全力で村しちゃってる、ここは。



大して街道から離れた訳でも無い立地だから、外に出られなくても10日・・・ひと月くらい・・・何が無くても騒ぎに為らない程豊か。



一方で武器は驚く程手に入らないって、ヘクトルがぼやいてたっけ。



わたしも矢を補充したいんだけど・・・武器は、矢一本に至っても役人が来るまで売れないんだって、もし足りなくなるとダメだからって。



融通利かないったら、それこそ外から運び込めばいいじゃーん・・・ドラゴン居るトコへ怖がらずに武器を納めにくる商人は、まあ、値を釣り上げて売るよね、そりゃ売り時って言ったらそうよねー、否定はしませんとも。




助け合い、成り立たないのかなー・・・一つ間違えば無くなっちゃう小さな村に、そこまでしてくれる商人は、居ないよね正直、はぁー。




深い、深ーい溜め息を一つ。




そうすると突然、気配が生まれて回り込まれる。



「なぁに、溜め息ばっかしてんの、よっ!」




なぁんだ京ちゃんかと、気を抜いた瞬間に、


「ッ───いつっ!」




鼻先にデコぴんを貰っちった。



えーと〈融幻視〉(マインドステルス)だっけ、対象からのみ姿が消えて最初から無い物と判断しちゃって、対象に触れると解除されるってゆう。




使い方はモンスターに気付かれ無いようにこっそり強力スキルを用意する時間を稼ぐ為・・・なんだろうけど、・・・考えれば考えるほどストーカー専用スキルじゃないの?これってさ。



監視用としては、これ以上無い優秀なスキルだと思う。




「辛気くさいったら、はぁはぁはぁはぁ・・・ん?溜め息じゃなければイイかも。」



そんなに溜め息ついてたのかな?京ちゃんが半目で嘲るぽく、何回も何回もわたしを真似て溜め息を吐く。


「な、何言って・・・痛いじゃん。」



「口ごたえする度に一発・・・トぶわよ?」



にやぁっと悪い笑顔で京ちゃんがデコぴんを構えていた。

一瞬、何をされたか解らないくらい速技で、デコぴんを今度は的確に額を叩き込んだと、その指を見て気付いたんだ。



「用があって帰ってきたん・・・」


「そ。そーなのよ!わたし達、暇でしょ?御手伝いってか、そうね───バイト、しよう。ね?はい、けって〜い。」




わたしの言葉を遮って、眦を吊り上げ爛々と瞳を輝かせる京ちゃんは勝手にバイトを決めた、決めつけた。



やる、なんて一言も言ってない、拒否権なんて無いじゃんか。



どーせ、最初から決まってたんでしょ・・・にしても、恥ずかしいから!


自分で歩くから!



襟首掴んで引っ張らない!


「えーーー?」


「不服?じゃぁ〜わたしのバイトと変わる?変わっちゃうー?」





京ちゃんが取り付けてきたお手伝いは、食堂のウェイトレス。



それ自体は悪くない、別に嫌じゃなかった。



京ちゃんの細い腕に握られた先にある、用意された衣装がヤだ、恥ずかしい、何コレ、胸を強調し過ぎ。



中に何か着るとしても、何で改造メイド服?


だってそうでしょう。メイド喫茶とかの制服っぽいんだよ。



で、だ。これを断ると、


京ちゃんのお手伝いと交替するかって・・・ヤな予感しかしない、よ。

それって。




「な、何か怖いんデスケド・・・」



恐る恐る、それとなく、訊ねてみた。



「怖くなんてナイヨ、唯のダンス踊るだけダカラ?」



唯のダンスって言うけど何かあるよね、絶対、絶対に。




「片言になってる!怪しい。」



態度おかしいもん。

今も、瞳を逸らして気取られないように口笛吹いてるし。



「ん?ちょぅーっち布地の少ない・・・」



「ダメじゃん!やだよ。うん、ここでいいよ。こっちやります、駄々捏ねてゴメンナサイっ!」




何かあった、やっぱり。

露出狂のダンスだった、ヤだよ、そんなの。

がしっと京ちゃんの掴んでた、改造メイド服を奪うぽく受け取って。

うわあ、って思いながら45°のお辞儀してゴメンナサイした。

だってだってだって!


布地の少ないって、京ちゃんが言うって事はホント下着かビキニだよ?そんな格好、恥ずかしくて人目に晒されながらダンスするって、それってどんなだ、罰ゲームじゃんか。

比べたらそんなの、こっちが数百倍マシに決まってる、決まってる筈なのに。

でも恥ずかしい格好って事は変わらない気がする。


嵌められた・・・。



「にひっ、解ればよろしい!わたしのバイト昼過ぎまで暇だからここで見物してるねっ。」




獲物をロックオンしたとでも言いたげに、婀娜っぽく笑う。

京ちゃんが、倒して捻り潰さなきゃ命の危険に曝されるモンスターみたくわたしの瞳に映った。


わたしの上げた非難の叫びは、虚しく食堂の裏の空に掻き消えていく。


「えーーー。」







ええ、ええ!ええ。


着ましたよ?


納得した訳じゃないですよ?


普段してるコルセットより1コマ、2コマ締め上げられて、一目見て解るくらい胸を強調するぽくあっちこっちから、肉とか、皮とか前面に集められて、それ全部、京ちゃんにされたんだよ・・・こんなの一人で着れないの、最初からわかってたんだよ京ちゃんはっ。

だから、必然的に胸も腰も嬉々としてる京ちゃんに触られて。


気付けば、メイド喫茶にでも居そうな、わたしの姿をしたメイドさんが出来上がってたってワケよ。


勿論───ウェイトレスなんて、やったこと無いですからして。

ミスばっかりなのは見逃してよね?




「あっ!」




あっ、ゴメンナサイ!


料理落としちゃったよぅ、ふぇえん。



「すいませんっ!」




今度は運んでたジョッキを、別のお客さんに溢しちゃった。

いいよ、いいよって赦してくれたからいいんだけど、そんなのヒールこんなに高い靴、10㎝だっけ?履き馴れてないからだしさぁ、元凶は4番テーブルでグラスを傾けながらにやにや笑ってる。はぁー。

昼過ぎまで暇だからって此処に居なくてもイイじゃんね。


憂鬱だ。とか、言ってる場合じゃないくらい忙しい。

他にもウェイトレスは二人居るんだけど・・・妙な格好したウェイトレス、つまりわたしの姿が、珍しいからってわたしに注文をしてくるし、水のお代わりを頼まれる。


そんな感じで注文をとってたら、


「ひっ!!」



やられたっ。

下婢た笑いを浮かべた、まだ若い男のお客さんに腰をさわさわっと。

振り向いて、スマイルを張り付けたまま視線だけで、睨んでやる。



「お客様ーぁ?ここは、そう言う、店じゃ、無いので、止めていただけますかぁー。にひ。」



すると、そのお客さんの手首を逆に握ってにやにや笑ってる京ちゃんが居た。

やけに速くない?



「・・・京ちゃん・・・」



そう言う事がしたかったんだな、この人は。

だからじぃっと、ずぅっとわたしを視線で追ってたんだ・・・心強いのか、更に心配になるのは何なのか───きっとそう、普段から京ちゃんがヤバい人だからだよ。




「わたしが騎士(ナイト)を努めるわよ?お嬢ちゃん。」




男のお客さんをきぃっと睨んでると思ったら、にこぉっと微笑んでそんな事を言う。

酔ってるね?台詞に。

そうしてる間に若い男のお客さんに京ちゃんは横乳をガン見されて居た、まあ、目の前に出されたら誰でも見るよね、横乳は常に見えるか見え無いか、ギリギリの服着てるんだから、京ちゃん。

お客さんの興味がわたしから削がれたのを理解ると、自分のテーブルに帰ってくれた。



「へ、へえー、一番危険人物に見えるのはナゼカナー?」




どうかなー?絶対危険人物だよね。

変な台詞を吐かれてどっと疲れが出たってば。


「気のせいでしょー。」




グラスを空にして、咥わえたまま半目でニヤリと笑ってる。

ヤな顔だ。

忙しいのにちょいちょいと京ちゃんに呼ばれて、テーブルに着くと京ちゃんがすぅっと横に立ってわたしに耳打ちした。


「・・・それとも、スク水でウェイトレスしたかった?」


そんなの無い、やだ、絶対。



「むっ!」


小さく唸って、テーブルを離れると振り向いて、京ちゃんに睨み付けてからカウンターへ向かった。

さっきから呼ばれてるからね。

注文を受けると、笑顔で厨房(バック)に伝えるために叫んだ。


「今日のオススメらんち2つと、ジョッキ2つ。」





「はいっ、大黒魚のソテー、っと、ダリ鳥の照り焼きでーっす。注文はお揃いですかーっ?あ、ジョッキ足りませんでしたか、すぐお持ちしますっ。」



ハムスターよか忙しく動き廻って、締め上げられてるコルセットが擦れて痛い。

ムダに胸を強調して肉を集めてるからか、普段ならそんな事気になら無いのに少し駆けただけで胸が跳ねる、痛・・・い。

今更だけどメイド喫茶のメイドさんってキツい作業なんですね、御苦労さまです!


限界まで締め上げられて背骨が悲鳴あげてるぅぅ。

頼まれたジョッキを厨房に取りに行ってホールに帰ればまた、呼ばれるわけで。





「店員さーん、こっちも頼む。」




ジョッキをお客さんのテーブルに運んで、すぐに次のテーブルに向かう。


ここ、《青い蟹亭》は外テーブルとテラス席を含んで全部で10のテーブルがあり、4人掛けのテーブルが今は満席で、カウンターも6人が座って順番待ちまでしていて、天井は2階分高くて、真ん中にマナで動かしてるのか大きなプロペラぽく羽が廻って心地好く優しい風を送ってくれていた。




「はーいっ!すぐに伺いまーす。」


この店の名物になっているって言う湖や川で捕れた食材がメニューのメインで、村の人は勿論、鉱山の出稼ぎに来た人達にも愛される食堂なんだって。




「御一緒でよろしかったですかー?全部で500ファタルになりまーすっ!ありがとうございました〜。」



それに輪を掛けて冒険者が鮭の遡上でもするみたいに、どんどん村に入っているものだから、その影響で食堂や酒場は喧騒が耐えないみたいで、忙しさが普段の倍々になっているって店長兼シェフのザックさんが言ってたっけ。




「終わったらこっちもー。」


「これ、5番さん。こっち1番さん。で、これが4番さん。」


「はーい、はーいただいま伺いまーすっ!」




そんな、こんなで、一息着く暇も貰えないまま働いてたら、段々と客足が遠退いてお手伝いも終わる・・・そんな風に思ってたのに、わたしがひけた後も、客足は衰えないぽく先輩ウェイトレスの二人は、いつの間にか四人に増えていて昼の人とは違う顔ぶりになっていた。

気づけば夕暮れで、外はオレンジ色が支配している。





「───疲れたってもんじゃないや。わたし、役に立ってたのかな?皿もあんなに割っちゃったし、ジョッキも落としちゃったし。」



厨房脇の従業員用スペース、小さなテーブル一つに賄いの大黒魚の焼き物とパンがトレイに乗せられてある。

退けてすぐ、わたしが渡されるまま、受け取ってそこに置いたんだからわたしの為の食事なんだけど、美味しそうな焼き物をパクつきたいのに食が進まない、ちょっと休まないと無理かも・・・丁度良い具合に、この部屋には椅子が無い変わりにベット代わりなのかな?明らかに空き箱を並べて、板でそれっぽく仕上げ、その上からシーツの掛かった寝転べるスペースが有った。


迷わず、倒れ込む様にそのスペースに滑り込んで天井の沁みを眺めて今日のわたしの独り反省会をしていたら、ノックが聞こえてザックさんが入ってきた。

だらしなく大の字に寝そべるわたしとザックさんの視線がぶつかる。

この姿勢じゃ不味いと思い、疲れた体に鞭を入れ、膝を立てて上半身を持ち上げて起きようとすると、ザックさんはそのままでいいからね、聞いて?と言って椅子を引っ張って座ると、




「はいはい、今日はありがとね!冒険者を村が集めてるから普段より人手が必要だし、客は多いしでてんてこ舞いだねえ。ホンっトありがとね。連れて来てくれたあの綺麗な姉ちゃんにもよろしく言っといてよ、食事まけるから又来てよって。ああ、まぷちちゃんだっけ?忙しさにかまけて名前もうろ覚えでいかんな!ははっ、明日も手伝ってくれたら嬉しんだけんど。どかなあー?」



「は、はいっ!伝えます。来ます、また、皿割っちゃうかもですけどいいですかっ?」





口を開いて一気に捲し立てて来た。

どうも今日の労いと、京ちゃんに伝言、それに明日も来てよって言いたくて厨房を誰かに任せてわざわざ来てくれたみたい。

わざわざって、厨房の脇なんだけどね。

間髪入れずに返事を返すとザックさんは苦笑い。

わたしは店のお皿を10枚割っちゃったしね、あは、あはは。




「皿かあ・・・ホドホドに頼むよ、ジョッキも。予備が手に入らなくなるかもだろ。」



「で、ですよねー、ははっ。」







ホントに布少ないんだ。

でも、凄いね、熱量が。

ああ、歌も上手いんだ京ちゃん。

何でも、そこそここなしちゃうんだったや、京ちゃんってば。


───あの後、賄いをパクついて食堂を出ると宿とは逆方向に凄い人だかりを瞳の端に僅か捉えて、そちらに顔を向ける、思い出した・・・そう言えば京ちゃんが終わったらバイト見に来いって言ってたや。

しゃーない、行くか・・・。

トボトボと着替えるのも忘れて夢遊病者ぽく人だかりに吸い寄せられ、そこの前に辿り着くと、1ステージ200ファタルだと、わたしよかちょっと年上かなって女の子に言われて、ザックさんに渡された今日の給金から100ファタル銅貨を二枚掴むと女の子に渡して布で出来た幕を捲り、中へ入ると何だか知らないけど大音量。

あれか、これもマナで音を限界まで上げてたりとかしてるのかも知れない。


きっと元は倉庫だったはずのその場所に10人掛けくらいの長椅子を横に2列、縦5列並べてライブハウスぽくして、スポットライトが眩しくステージを照らし、間接照明が仄かに倉庫全体を灯すなか、ライトに照らし出されるテカテカした、ド派手な衣装を着た女の子がキラキラと輝きながらダンスを踊っている───勿論、京ちゃんだ。


にしても、この見世物小屋?布で仕切って隠しただけで、ステージも板を重ねただけ?何かまるで・・・京ちゃんが口添えなんかして無理矢理用意したみたいな。

うん・・・きっと、たぶんそうなんだろうな。

衣装が京ちゃん好みだし、男好きしそうな際どい肌の露出の感じ。うわあ・・・やっぱり、気に入ってたみたいだから、手出しちゃうと思ったけど、ニクスの国では当たり前な格好だったテカテカの光沢あるカエル革の・・・ビキニ?水着だよね、エリクネーシスみたいにムダにリングや露出高くなってるとかじゃ無いけど。

でもね、京ちゃんはチョーカー凄い好きだから、チョーカーとか、ベルトに良くあるバックルとかこのビキニには付いててビキニ?ってなっちゃう。

着てみたいなんて思わないけど、ほら、子供体型だから?見てる分には凄いなーって、ね?思うだけならいいじゃん。

・・・わたしじゃまだまだスク水止まりだよ・・・はぁ、それでいい、きっと何時かはビキニとか似合う体になるもんね。

成長しろよ!わたし!

それとなく胸や腰に叱咤してみた。


「次がラストでーす。休憩を挟んで次のステージは────」



ぼぅっとしてた。

だからステージが終わったのに気付かないで長椅子に座ったまま、隣に危険人物が座ったのも気付く事にやや懸かって。



「見てた、見てた?」


ぐいっと首に細い腕を絡めてくるのは京ちゃんだ。

ステージ終りでわたしの横に座った格好はチョーカーから垂れた三本のベルトが胸を慎ましやかに覆う、ハーフカップを持ち上げ臍までのコルセットがそのカップと一体化しているボディスーツ型をしていた。

コルセット部分から垂れた二本の飾りベルトが、太股まで届くオーバーニーとを繋いで引っ張りあげている。

これぞファンタジーと言える、日常ではまず見掛けない格好。

これを作らせられたニクスの職人も苦労したんだか、京ちゃんから齎された新しいアイデアに目を輝かせてたんだか知らないけどね、御苦労さまです!



ぼぅっとしてた。だから、この危険人物が次の行動に移る刹那を解らなかった。

気付けばわたしの胸がっ!もにゅもにゅと、細い手に揉みしだかれるのに吃驚して変な声が出ちゃった。


「ひゃうっ!」



ステージ終りの光量抑えた薄暗い仄かな灯りの中、ふざけて京ちゃんはわたしの胸を揉み、更に耳元に口許を寄せて息を軽く吹き掛けて、わたしの様子を窺うぽく嫣然な笑みを投げ掛けてくる。

そう言うのは男子にしてあげてよ?わたし、違うんだから・・・え?ぼぅっとしてた。

だから、嫌がる声を上げて無かった。そしたら、紅い唇が。

目の前に迫って、ドギマギしちゃってすぐに声が出な・・・い。

ちゅっ!て音がして、耳に届いて、脳に響く。

ああ、うん。

口づけをされた、頬にだったんだけど、胸が、心音がおかしいくらい早鐘を叩いて口から心臓、飛び出しちゃいそう・・・やぁっ!京ちゃんに聴かれちゃう。



なんじゃっ、これ!



そんな事しといて、細い白魚の様なその人差し指をわたしの唇にそっと寄せて、



「続きは後で、ね?にひっ。」




いやいやいやいや、わたしはノーマルなんだ、えっと、好きになった男子だって居たんだ、うん。

近所のお兄さんとかさ、えっとそう、一年の時のクラス同じだった陰山くんとか。

うわ、自分で自分の事言い訳に始めるようじゃ重症だよ・・・このまま、いつか、流されちゃうのかな?やだなー。

男子と恋愛したいよぅ。

早く、帰りたいよぅ。

葵ちゃ・・・ん?何で葵ちゃん?違うんだから、違うっ、違うもん。

葵ちゃんは家族、そう、家族だよ?お姉ちゃん代わりだもん。

だから───って、うわわわわわっ!またっ言い訳にしてる、わたし。

普通の恋愛がしたいです、神様。

京ちゃんの傍に居て、このままこの世界に染まっちゃったら、一線越えちゃいそうで心配なんです、自分で自分が信じらンないくらい。

本能のとこの何かが、理性を飛び越えて来ちゃったら、わたし。



ううん、こんなのもう。

考えたく無いのにーやだーっっっ!


思案を巡らせてる間に、次のステージが始まってて、そこには綺麗な歌声と爆音を響かせて先と別の衣装に身を包んだ京ちゃん。

今、わたし、顔真っ赤だよね?熱い・・・変だな?知恵熱かなあ?そこで意識はぶらっくあうと。







次に気付いたらベットにいて、京ちゃんが腰掛けてて・・・冷たいタオルを額に乗せてくれる、わたしが目覚めたの気付いてるのか気づいてないのか。



「・・・京ちゃん。」



気持ちイイ、、、ありがとう。


「お、起きた?もう少しゆっくりしててよ。」



そう言う京ちゃんは着替えてる合間に、わたしの介抱をしてたぽくオーバーニーを膝下まで下げながら振り向かずにベリベリとカエル皮のオーバーニーを脱いでいく。



「───わたし?」




その姿を見ていて急にはっと頭が晴れて、本格的に目覚めた。


「・・・ここどこ?」




ステージ途中に熱っぽくなって確か、あ、そこで記憶ないや。

気を失ったのかも。



「今、ステージ全部終わったトコ。倉庫を改造した控え室って言えば解る?」


「あ───!」





「なに?急に。・・・それよか、吃驚したんだから、ね!ステージ中に倒れたから、飛び出してここまで運んだんだから。」



ふっと思い出して。

気を失う前のわたし、どうかしてたわたしを。

思わず手が頬に伸びる、熱は下がったみたいだった癖に段々と熱を帯びる。


急に大声を張り上げたわたしをチラッと横目に窺って京ちゃんはもう片方に取り掛かりながらわたしが倒れた後の説明をしてくれた。



「あ、あはは・・・ありがとね。・・・ごめん・・・」



つまり、それって抱っこされてここまで運ばれたのか、京ちゃんに。

そう考えると頬の辺りがカーっと熱くなるのを感じて恥ずかしくなった。



「感謝は貰っておくけど、謝らなくていいし。風邪ひいた?」



心配そな声色で京ちゃんが喋り掛けてくる。




「どうかなー?もう大丈夫・・・だし。えぇと・・・」



心臓、早くなる。

鼓動が、脈打つ音がどんどん大きくなる。

・・・ヤだ、こんなのは違う、違うのに。


「風邪のウィルスがこっちにあるかどうかも解んないしね?」


「あ、あはは・・・知恵熱かなあ。」



京ちゃんに応え返す声が、上擦る。


変だ、わたし。



「ホント心配させて、悪い子だ、凛子は。」



着替えてる途中の京ちゃんの細い腕がわたしの額に伸びて優しく撫でてくれた。───これが男の人なら、とか考えて、思考停止。

そんな事考えるとかもうヤバい!

で、視線を京ちゃんに向けて気付いて逡巡してから口を開いた。




「・・・はい。あ、あのね。」


「───ん?」


「目のやり場に困るかなって。」


「へ?コレ?あはは、このまま迫っちゃおっかなー。」




ずれてるずれてる、カップが。

見えてるから、京ちゃんっ、その、アレが。

ぴんく色の蕾。

笑ってから京ちゃんはカップを直し、嘯く様にそう言うとわたしに覆い被さって、



「やっ、・・・ん?」




フリだった。吃驚だよ!

こっちはもう変な感じにヤバいんだから。



「って、嘘。さすがに倉庫の持ち主来るって、あはは。あ、これ脱ぐの手伝って。」




「あ、そだね。あ、あはは。あははははは。ん、解った。」




二人で気まずい笑い声をあげてから、京ちゃんの着替えを手伝う。


コマをギチギチに締め上げた背中のベルトを外すんだ。

胸のカップに繋がるベルトを外して、コルセット部分から伸びるベルトを外して、更にコルセットを結い上げる革紐を外して手伝うとこは終了。


するとふいに、京ちゃんが振り返って、



「期待、───した?」


「うっ、違う、違うもん。」



魅惑的な瞳でじぃっとわたしを見詰めながら、溜めて意味あり気な言葉を唱えるぽく声にするから。

何でも無いのに・・・無くは無いのかな?凄くドギマギしちゃう、じゃん。



普段だったら、平気で『バカなんですか、わたし、ノーマルですからっ』って言い返せるのにっ。

何故か、そんな簡単なあしらいも出来なくて。




「あれあれあれ───顔真っ赤だし、普段と違うゾ、ふふっ。」



鼻先までわたしの顔に近付く、金色の綺麗なふたつの瞳。

京ちゃんの長い黒髪が頬に触れるくらい。


「───もしかして・・・」




キュッと結んだ京ちゃんの紅い唇から、チロリと艶っぽく舌が覗いて舌舐め擦りをした。

瞳がみるみる内に、色付いて嫣然に微笑んで口をゆっくり開く。


「───陥落しちゃった?」




「ううん、違う、違うもん、違うからあっ!やだやだやだっ!」




熱い何かが頬を伝って落ちていくのを感じる、涙の滴だとすぐに理解った。


泣いていた。

何故だかわかんないけど、涙ぐっじょぶ。

これで逃げられる────この京ちゃんの支配するわたしにとって凶悪なフィールドから。






「ぷっ、ちょっち、からかっただっけなのにナー!」


わたしから視線を外して、軽く吹き出すぽく笑う京ちゃんは普段の顔に戻ってて。


「何で泣いちゃうかなー。へ・ん・な・の!凛子ちゃんてば。ふふっ。」



おちょくる様にわたしの額で人差し指を上下に振ってから、そのまま自分の口許に戻すと何が楽しいのか、両手で含み笑いして見せる。




「・・・京ちゃん・・・」




わたし、玩具じゃないんだけどなー。

けど、思わせ振りな京ちゃんからいつもの京ちゃんに戻っててほっとした、わたしも居るわけで。


明日もバイト頑張らなきゃとか、もうわたしは今さっきの一連のわたしと京ちゃんの出来事を早く忘れちゃわなきゃならない!

と、必死だったのでした。


京ちゃんから一歩、下がって宿までの帰路もなるべく今日は京ちゃんから離れようと心に決めて歩いた。





百合(?)成分多めでお送りします。

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