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ドラゴンは倒せない。5

───逃げちゃダメだ!


───逃げちゃダメだ!


───逃げちゃっ!


───逃げちゃっ!!


───逃げちゃっっっ!!。




「ヒール、ヒール、ヒールっ!」


ここに来たのは単にドラゴンを見に来ただけじゃない。よね?倒せなくてもっ、大人しくここに居て動かない訳じゃないでしょ?

金色の瞳に睨まれてすくんでしまうけどっ、それでも。

咄嗟にヒールを皆に唱える。帰ってもダメだ、きっと後悔する。

まだ死ぬと決まった訳じゃないから。

ヘクトルの折れてしまった心の芯を癒して欲しい、京ちゃんの畏れからの震えを吹き飛ばして。

理解ってる、ヒールにそんな効果は無い。

そんな事は解ってる、このままじゃ帰れないからっ。

だからと言ってヒールを唱えずには要られない。何か解らないけど、とにかく胸を打つんだ。わたしの内の何か。


「ドラゴンさん、お願いします。お願いだから、そこを退いてあげて欲しい。」


思い直してわたしは叫んでいた。喉から口へ突き刺す思いで。強く。感情を迸らせる。

そこをどけよ!!邪魔なんだよ!

それは言葉には出来ない内なる叫びだったけど。

ドラゴンとどうやって意思を通じ合わせて喋っているかわかんないんだから、もし。テレパシー的な念話だったら、ドラゴンを怒らせてしまったかも知れない。だから、


『あ、今のナシ。ナシね、えっと・・・ごめんなさい!謝るね、だから。ここから出てって!!』


心の中で謝りながら何回も叫んだ。ドラゴンが理解って念話してるのか確認も兼ねてチラチラと金色の瞳を見詰め反応を見る。


「ふむ、眠っていた儂を勝手に起こしたのはお前らだぞ?それを『どいて欲しい』など、どうして言えるのか理解らんな。」


ドラゴンがテレパシー的な念話してるのか不明なまま、金色の瞳がギョロリと動いてわたしを刺すように見詰め、声が響き、鼻息なのか軽いブレスなのか地響きを起こし床が震え、少しドラゴンの傍の地面が階下に落ちた。

ドラゴンが驚異で無ければそのまま寝ていてくれていいんだけど。

確か、『このドラゴンはひと度目醒めると辺り一帯を荒野にするまで再び眠らない』って京ちゃんの説明にあったよーな?


「石を掘ってさ、暮らしてる人が、ドラゴンさんに居られると困ってるの、ね。で、うちが皆に頼んでね。手伝って貰ってさぁ、ここまで来たんだぁ。」


言葉を選びながらゆっくりとまったりと喋るクドゥーナ。その顔を見れば真剣なのは解るんだけど、ね。

どこか逆撫でるんだよ、さぁ神経を。

京ちゃんのクドゥーナが好きになれないトコ、こんな事なんじゃないかな?知らないけど。



「ぶわははは!笑わせる。元より儂の棲みかなのだぞ?」


耳鳴りを伴う、けたたましい音量のドラゴンの激しい笑い声に身がすくんじゃう。


逃げずに向き合わないと、このドラゴンがいつここを飛び立ち街を襲うか、いつまたあの波動の様な振動波の様なブレスを吐いて周辺を更地にしてしまうか理解らないんだから。


「・・・叶えられる範囲であれば望みは聞くわ、言ってみなさい。」


黙って思案を巡らせていた京ちゃんの苦しげに呻く様な絞り出す様な答え。

ドラゴンの反応を窺いながら続ける。


「ここじゃないとこでもいいでしょ、隣の山にも洞窟はあるし。だから・・・」


京ちゃんも瞳に色が戻ってきている。畏れから震えていた京ちゃんでは無く、普段のイキイキとした京ちゃんだ。

提案をした。ドラゴンがそれで言う通りにしてくれるとは限らないけど、意思の疎通が出来る様な相手なんだから。と、言うわけでも無いかも知れない。

望みを聞く・・・昔話だとぉ、こういう時ってぇー。確か。

竜とか、龍神とか、妖怪とか、化け蛇とかの要求ってさぁ、イケニエだったりしなかったっけ?生け贄にはなりたくは無いよ?やだよ、竜に食べられて終る最後なんて!


「そうだな・・・何も、此処でなくともよいが──此処でない必要も無いんじゃが?その上で儂の望みを聞くのか、人の子よ。」


ゆっくりと間を取って喋るドラゴンの冷え冷えする様な低い声。

それを聞くだけで畏れなんてバッドステータスに冒されちゃいそう。声が怖いのだ。威圧感がある、と言うか。支配者然としている、と言うか。今までで最もそれを感じる。

えっと、京ちゃんはエルフの亜種なんですけど、そこの所も踏まえて人の子って言っちゃいますか?


「偉そうにっ。」


思わず口を突いて言葉が飛び出して、ハッと口を押さえるけど、こんなの全然遅い。ごめん。皆、ドラゴン怒らせてしまったかも。ホンっト、謝るよごめんなさい!


「儂は強いぞ。眠りに着く前は神すら恐れる竜の中の竜・・・なのだぞ、偉そうでなく偉いのだよ。」


傲岸不遜な態度にドラゴンは変わった。でもでも、良かった。怒気は感じれ無いよ。ドキドキ、胸を押さえれば心臓を飛び出してしまいそうなほどに早く、鼓動が脈打つ。ビビったよぅ!


「その割にわたし達は生きてるわね?どういうわけ?ひよってるの?それとも──弱ってるんじゃない?」


畏れに絡み取られ震えていた時だって京ちゃんはドラゴンに疑いの眼差しを向けてた────いやまあ、ぶっちゃけこのドラゴンに暴れられてたらわたしは塵になってるでしょう、ね。

それにしても、鎌懸けみたいだってすぐに解る問い掛け。


「ふんっ、遠からず近からず。と、言っておこうか。目醒めて直ぐだ、体の自由は効かん。加減せねばそれでも人の子ひとりふたり寸暇の暇無く、塵となろう。と、そろそろ望みを思い付いた。言ってもよいか?」


その疑問の答えはすぐに齎される。ドラゴンは鎌懸けお構いなしに鼻息まじりで一息に吐き出した。


「無茶なレアアイテムじゃ無きゃあげるわ。」


「二言は無いな?──お前を、よこせ。」


自信無さげな京ちゃんの控え目な言葉に、喰い気味でドラゴンが口を開く。

今までで一番弾んだ声だった。

もし───ドラゴンに表情があったら物凄く喜んだ顔をしてるんじゃないかな。喜色満面。

それはもう。欲しかったゲーム機や玩具を与えられた純真無垢な子供の様にね。



「───はぁ?」


当人の京ちゃんは勿論、その場に居たわたし達の時間が止まった。凍りついた。

言葉が出てこないかな?京ちゃんは口をパクパク鯉が餌をねだる時の様に。

やっと出てきたのは疑問を含んだ乾いた言葉で。


「シェリルさんが欲しくなったの?」


京ちゃんがドラゴンのイケニエ?


「え、えぇ?」




「儂を見ても震えて逃げ出さぬ強い人の子とならば退屈なぞしない。と、そう思ってだ。何も、喰らうわけでは無いぞ。」


わたし達の態度を窺う金色の瞳がゆっくり声を上げる。

イケニエじゃなかった。良いんじゃない?チラッと横目に京ちゃんを窺うと


「いやいやいや、竜の嫁なんて・・・いやいやいや。」


茫然自失と魂が抜けかけてる・・・わたし達をにがしてくれる為に人柱になってくれんだね、ホンっトありがとう!京ちゃんの雄姿は忘れないよ絶対?

脳内では京ちゃんはドラゴンと連れ添ってライスシャワーを浴びてるンだけど、どうかな───



「ふざけた竜だ、シェリルが好みか。」


「うん、シェリルさんを差し上げたので退いてよ。ね、クドゥーナ。」


「こら、わたしはアイテムじゃ無いのよ?はぁ?何でこの竜と暮らさないと行けないのよっ!!」


ヘクトルが茶化し、わたしが納得の言葉を発すると京ちゃんが我に返りぷりぷりと怒り始める。最後には涙まで溢れさせて。

可哀想だけどわたし達の為にここでドラゴンの姫になって!機嫌悪くしちゃったら皆、塵にさせられちゃうかもだし!

わたしがクドゥーナに同意を求める様に振ると、


「近隣の村の平和の為に?」


あっけらかんとした答えが返ってきた。実にクドゥーナらしい。京ちゃんを差し出したら一先ず目先の危険は無くなるからその通りなんだけど。


「わたし達じゃ勝ち目無かったし、シェリルさんを差し出すだけで。ほら、万事解決。ね、良かった良かった。」


「こいつ、ほら。退屈がどうこうって言ってた。ね?言った!だからわたしじゃなくて退屈じゃ無くさせてあげればいいんじゃない、そうよねっ?」


わたしの京ちゃんを説得させ様とした言葉に必死になって反論する。涙を浮かべたままわたし達の同意を引き出したいみたい。京ちゃんなら隙見てドラゴンからだろうと逃げ出せると思うんだけどどうかな?

ここから居なくなったら王国に救援依頼はだそうじゃないかぁっ!だからここは泣いて欲しい。


「眠りに着いた理由も退屈で仕方無くじゃからの、では──人の番いをよこせ。なあに、この女でなくてよい。」


決死に愚図る京ちゃんの態度を見て軟化するドラゴンは京ちゃんを諦めようと言った。いやいやいや。それはダメだよ?絶体他の人じゃドラゴンの姫には向いてないですって。一目で気絶しちゃって、退屈じゃん。その点、京ちゃんなら怖がらずに向かっていくからいい玩具になると思うんだ、どう?


「いやぁ、シェリルさんを逃したらドラゴンに喧嘩売れる女の子は見つかりません。どうぞ、差し上げますから。」



わたしも必死になる。ドラゴンの言いぶりに、退屈になったら街襲いそうなんだもん。一時的にでも京ちゃんを渡して遠くへ行って欲しい。えっと、ヘクトルの言ってたリヴィンス火山とか?



「あっはっはははっ!お前シェリルに滅茶苦茶にされるぞ?おっかしくて笑えるけどな。」


突如、わたしの必死にドラゴンを説得する言葉に吹き出すヘクトル。ちょっ、わたしは滅茶苦茶にはされたくないよ?むしろ、そう言った京ちゃんが嫌なんだもんねっ。ヘクトルがこちらに振り返り見てみろと指差しする。

チラッと京ちゃんを窺うと後ろを振り返って視線がぶつかる。これは・・・オークの時の鬼神の様に瞳に光を無くして周囲を凍てつかせる真っ黒な闇のオーラが背に沸き上がり、天井まで浮かんでまるで───邪悪な大魔王。

背筋が凍りつく顔とはこういう顔なんだ・・・と、ゾワリ全身が凍りついて京ちゃんから視線が離せなくされちゃう。蛇に睨まれた蛙、殺される!


「ふははは!面白い連中だわい。では望みは聞き遂げられた、と。この女を貰うぞ。」


洞窟を震わせるドラゴンの笑い声にその場の全員が金色の瞳に視線を集中させる。よ、良かったー。京ちゃんもわたしから視線を外してくれたよ。これでロックオンも外れてドラゴンにタゲ移ったよね?

と、思ってたら肌が出てるとこが急に冷たい。

周辺の空気がキンと音を立てて冷気を帯びる。


「大人しく・・・してたら、つけあがりやがって・・・わ、わたしにはまだ手があるの、よ!───」



これは京ちゃんがやってるんだよね。ドラゴンから視線を京ちゃんに戻すと俯いてギュッと掌を握り込んで、ぷるぷる震わせながら喉から絞り出すように、吐き出すように叫んだ京ちゃんが左手の人差し指を天に突いてそこから振り下ろす。

金色の瞳に恐怖の影は無い、むしろ楽しんでる?


「──ダルテ!」



洞窟内に生まれた冷気が凍気にまで高まった。洞窟内全てを凍り付かせるつもり何だろうか、層になって壁や天井まで氷塊に変わる。集中して何度も、何度も襲いかかり凍りつかせ、みるみる内に目標が凍てつく極大氷結魔法。でも・・・金色の瞳がギョロリと動いた。


「もう良いか?」


ドラゴンから飄々とした声があがり、京ちゃんが青い顔で口をパクパクと動かす。声にならない言葉をごくりと音をあげて飲み込み、


「はぁっ?全く凍らせられないって・・・嘘。」


吠える様に叫ぶ。極大魔法で一欠片も凍り付かせる事の出来ないドラゴンの皮膚。発動した氷の礫が金色の瞳に、黒い鱗に突き刺さる勢いで激突音まで聞こえていたのに。か、固い。ひたすら堅いんだ。斬撃も跳ね返し魔法も内に響かない強靭な鱗に皮膚。


「まだやる気なら待ってやらん事もないぞ?やってみるがいい。」


ダルテの冷気が晴れると、金色の瞳に睨まれた京ちゃんは茫然自失と瞳を見詰めていたが、ドラゴンの嘲り混じりの声にカッと眦を決した。飛び退り、俯き低い唸り声を上げて全感情を込めて集中する。


「ドラゴンさん、この子じゃだめ?」


泣きそうな顔でクドゥーナが両手を差し出す。

開かれた両の掌の上ではクドゥーナと話し合ったんだろうトロンが覚悟を決めた顔で震えながらも金色の瞳をキッと見据えていた。


「ふははは!妖精では連れ添えぬよ、話し相手にはなろうがな。それに──触れば消えてしまう体の妖精などこの女と秤にかけるまでもない。」


楕円の瞳孔がふるふると大、小に震え、金色の瞳がギョロリとクドゥーナとその開かれた両手に立つトロンを睨む。そして、視線は低い唸りを上げ続ける京ちゃんに注がれた。


「ドラゴンさん、そんなに退屈してるの?」


「悠久の時を過ごしてなお朽ちる事の無い体を持ったが為に、な。退屈で仕方無いわ。」


わたしの問いに再びギョロリと金色の瞳は睨み付けてくる。馴れれば唯大きなだけの瞳。それでも何とも言えず恐怖に包まれてしまう。ドラゴンは眠る前の事でも思い出しているのか重い目蓋を閉じて話始めた。

そして退屈そうにため息を一つ。すると、それだけでほぼ形を変えてしまった床の一部が崩れて階下に落ちる音が耳に届いたんだ。どんだけ、大きな溜め息。


「へえーぇ。」


わたしが相槌を打つとずっと聞こえていた低い唸り声が止まる。


「待たせたわね──」


俯いた顔を上げながら眦を決するほど見開かれた京ちゃんの周囲に突如生まれる膨大な殺気を孕んだ白くて蒼いオーラが揺らめく。瞳まで金色から蒼く染め上げられて。


「ふむ、神気を取り入れたか──期待はできぬが。」


金色の瞳に睨まれた京ちゃんの周囲に揺らめく青白いオーラが爆散する。

それを見て瞳孔が細まりドラゴンが口を開く。



「黙れ黙れ黙れ!っ──はぁあああ!」




爆散したオーラが掲げる青い刀身に集まっていく。絡み付く様に全身から揺らめく青い光が刀身に結び付いて爆ぜる。


「これでぇっ!」


凍てつかせる様な蒼い瞳が、音すら残して駆け出し疾ると、また元通り返る様に全身から揺らめく青白い焔の様なオーラが刀身にうねって流れていく。


「決めるっっっ!!」


不安定な床を蹴って金色の瞳に目掛け飛び上がる。すると、刀身が一層明るく輝いて京ちゃんの周囲をキラキラとダイヤモンドダストの様な光の結晶が舞う。



「──エクセ・ザ・・・」


急激に青白いオーラが吹き上がると金色の瞳が京ちゃんを睨み付けている。

すると、火の点いた蝋燭が噴き消される様に刀身に纏まって絡み付くオーラが高質量の気体に剥ぎ取られるみたいに吹き飛んだ。

一瞬何が起こったか解らなかったのか言葉を失った京ちゃんは自由落下を始めた体に気付くと大きな舌打ちをして、ドラゴンの鱗を蹴ってその場を離れた。


「ふむ、何かしたか?」


嘯く様にドラゴンはフフフと笑い出す。


「は、ははは!発動を止めるなんてっ。」


着地すると項垂れて突んざく様な大きな声を上げて笑い出す京ちゃんの声は次第に金切り音に変わっていった。

あれを使ったんだから相当に体が重くて疲れてるんじゃないかな?ヒール!、重ねてヒールを唱えていく。


「それをまともに貰っては痛いだろうからな、さて──覚悟はよいか?」


イタズラが成功した子供の様に無邪気に喋るドラゴン。ふいにその声は無邪気さなど消し飛んで冷え冷えとした低い声に変わった。


「何・・・の。」


「儂のものになる、ということだが?」


項垂れたまま苦しげな眠そうな声を上げて京ちゃんは必死に起き上がろうとする。今の京ちゃんにはそれが叶わないの?ヒールは悲しく洞窟に叫ぶ声だけが反響して。

その姿を見詰める冷徹な金色の瞳が今更何を言っていると言いたげに小バカにした言葉を投げ掛ける。


「シェリルさんシェリルさん、諦めが肝心。」


大人しかったクドゥーナが弱々しく項垂れている京ちゃんの背に浴びせ掛けるようにそう言った。

すると、金色の瞳は視線を彼女に移してすぐに京ちゃんに戻す。容易い───そう言いたげに瞳孔が細まって、元通りになる。


「ッ──他人事だと思ってえええ。」


項垂れたまま振り返り睨み付けてくる京ちゃんは追い詰められた手負いの虎の様に全身から止まない殺気を迸らせている。


普段なら眠気に負けて夢の世界に旅立っている所なんだけどなあー?立場が相当に危うくなって気力で眠気に打ち勝ってるのかな。

体に無理強いしてでも抗いたいんだとすれば。よっぽどこのまま場の空気に流されてドラゴンのものになっちゃうのが嫌ってことか。

「嫁さん、おめでとう。」


「うちからも、おめでとう?」


「うん──理解った。理解った・・・でも、残念ね。そうでしょ?わたし、この世界に居ないもの。ね?」

ヘクトルが涙声で───笑い過ぎてだけど。何がめでたいの?と首をコテンッと傾げながらクドゥーナがそれぞれお祝いの言葉を京ちゃんの震える背に投げ掛ける。

すると、気力を迸らせて。怒りのぱわーかも、怒りのぱわー恐るべしっ。項垂れて立てそうも無かった京ちゃんがのそりと立ち上がり半身で胸を張って怒気を孕んだ言葉を吐き出し、金色の瞳にびしぃっ!と人差し指を突き出しながらわたしはこの世界に無い!と啖呵を切った。

その横顔は会心の一撃を叩き込んだと言いたげに溌剌として余裕を取り戻したのか嫣然と微笑む。妖しく瞳に色を忍ばせて。

その様子にぎょっとヘクトルとクドゥーナが顔色を曇らせる。京ちゃんが化け物染みてさえ見えるからだ。わたしだって吃驚だよ。眠気を噴き飛ばしちゃったの?と、逡巡して京ちゃんの言葉を思い出してみる。


「なるなる、確かに。そうだよ、シェリルさんもわたしも皆も───この世界に居ない。」


わたし達の体じゃない。この世界に順応した、チュートリアルで選ばされ創った体でしか無い───と、すると京ちゃんの態度も頷けるよね。わたし達って死なないかも知れないってコト。わたしの本当の体はこんなにカラフルじゃ無い。

ちょっと冒険しても染まったブラウンの髪くらいで。思い出してみれば燃える様な紅い髪色なんかしている、今。

黒い瞳だったはずの目にはカラコンをした様に水色に変わっているし。

コレハワタシノカラダナンカジャナイ!


クドゥーナを見れば視線がぶつかる。よく解らなかったみたいでポカンと口を空けている。


「うは・・・うわっはははは!ますます愉快愉快。」



抱腹絶倒と言いたげに豪快に笑うドラゴンの声に、洞窟の凍り付いた壁を、天井を震わせてゴァアア・・・と音をあげてその勢いで周囲の氷が剥がれ落ちて割れる。



「何が?愉快な事の一欠片も無いでしょ?」


気付いたけど喋る京ちゃんの瞳が金色に戻っている。その瞳には焔みたく熱っぽく爛々と光を湛えて。

もう、ドラゴンの姫にされないって勝手に勝ち誇ってるのが態度の変わり様で、付き合いの長いわたしには手に取る様に理解る。



「退屈では無いぞ?これで、愉快では無いなど、言えぬよ。」


含み笑いを続けながら、面白くて堪らないぽく金色の瞳は、転がる様な声音で未来の妻に話し掛けている。含み笑いくらいでは天井にも壁にも変化は無かった。ドラゴンの声音に変化が産まれる。


「世界の果てに行ったとて。・・・お前らの様な、連中には、会えない・・・だろう。だから、」


寂しそうにゆっくりと言葉を選ぶ様に、ギョロリと瞳が動く。徐々に目蓋は半目に閉じられ、わたしにはすがり付くぽく見えたけど実際は瞬いただけかも知れない。そんな微かな機微。


「今、今一度言おう!───お前が欲しい!」


カッ!と眦を決した金色の瞳に爛々と光を湛えて、少し溜めてからドラゴンが吐き出す、力強い言葉を胸に感じる。

ドラゴンの告白?コクったの?今。


「なんだ、寂しいだけなの?それで?わたしが欲しい───へえー。」


視線を京ちゃんに向ければ蠱惑的な微笑みを湛えて。金色の瞳に話し掛けている。

えっと、こーゆー顔をした京ちゃんは好意が無い。敵に向けて見せる表情だったや、残念。

ドラゴンさん、残念。


「ふざけんなっ。人外に、ドラゴンにモテたって嬉しく無いわー!」


顔は微笑みを張り付けたままぷりぷりと怒り始めると金色の瞳に指差して振り向いてわたし達にキレた。

システムが働いてたら青筋マークなんか浮かんじゃうかな?今です、今。


「まぁ、ここは。折れるべきだよ、ね?クドゥーナ。」


京ちゃん、ドラゴンの姫になっちゃいなよ。こんなに求められたらいいじゃん。その内、その内ね。絶体助けに行くから。死にそうに無いしー。


「──そうです、素敵じゃあないですかっ。こんな凄い彼、出来ません。日本じゃ。」


わたしがクドゥーナに同意を求めると、瞳にキラキラ星を飛ばしそうに目を輝かせて彼女は京ちゃんの瞳を見詰めながらうっとりと喋る。

そこまで素敵じゃ無いと思うよ?実際は。そーね?確かに凄いけど。日本ってワードは今、使っちゃいけなかったかも、よ?


だって。


こっちを見ていた京ちゃんの表情がワナワナと変わっているし・・・ほら、掌握り込んでプルプル震えてるよ。半ギレだったのが、ぶちギレになるかもよ?

しかし、


「いやいやいやいやいやいや、なんか───終わらせようとしてるけど、わたしは。あっちに帰るからねっ?日本が大好き、地球が大好きっ!故郷が、・・・残して来た人達が大大大大・・・ッ───大好き!」



意外に、本当に意外に。

口を開いたら京ちゃんはキレて無かったぽく、冷静にかつ、普段なら絶体言わない恥ずかしい台詞を、ぺらぺらと一気にまくし立てる様に吐き出した。


彼氏でも居たのかな?京ちゃんの場合カノジョ?どっちにしても大切な人を残してきてるから、絶体、日本帰るってことで、ね。









それからしばらく。『本音』で自爆しちゃった京ちゃんの可愛かった事、可愛いい事。

これをネタにゆすれるンじゃないかってくらいに。言い終わったと思ったら、すんすん泣き出して床に崩れ込んじゃって───残して来た人への思いなんか、溢れちゃったかな?泣き止む気配無くて。



何で────こうなるかな?京ちゃんをあやす羽目にどうしてなるのよ?歳上だし、背だってこの中じゃ一番。なのに何聞いても、知らない言いたくないって、泣いて愚図って。


こんなに面倒くさい人だったっけ?どこか我慢してた感情が噴き出して止まらないのかも、ね。真相は解んない、だって。泣いてるばかりの仔猫気取って、何も言わないし。あー、わたしが聞いてもちょっと入り込めない大人な事情なのかも。そうだと思うと、ちょっち面倒くさいけど髪を指で鋤いて、頭を撫でてあげるくらいいいか、とか思えちゃったり。

でもでも、わたしのおっぱいは枕ではありませんので。ん?これって・・・今頃アレ来ちゃった?どうもそれっぽくすやすやと京ちゃんは寝息を立てて夢の世界にレリゴーしちゃった───



こうなると逆にその場の雰囲気をサラッとぶっ壊してくれるクドゥーナに感謝しないと。

彼女なんと、いきなりテーブルを出してドラゴンに了承を取ると料理を作り始めちゃった。

しかも、ドラゴンの名前を聞いて、聞いたのに最後まで聞かずに途中で寸断して一言。


『グラちゃんでいっか。よっろしくー、グラちゃん。』









「で、どうするのっ?」


「ふむ、ここは退くとしよう。それに付いていく事にした。シェリルの考えが変わるかも知れない。」



わたしが問い掛けたんだよ?どうして京ちゃんを見てるの。

何かリラックスしちゃってさ、背中で掌なんか合わせちゃって。金色の瞳に聞いてみたら、何かあるのかクドゥーナを見てるの。そして、まあ、当然ぽく京ちゃんに視線を固めるんだけどさ。


もう無理強いはしないぽいから軽く、ほんとに軽〜く全員分自己紹介をしたのです。


「わたし、まぷち。あっちの肌が紫のがヘクトル、妙に馴れ馴れしいのがクドゥーナ。んで、この、寝てるのがシェリルさん。」




「グラクロってさ、デカくて町入れないよ?」


「そうだな、それは何とかしようぞ──」


グラクロなんちゃらってドラゴンさん、このでっかい図体でどうも着いてくるつもりらしい。


金色の瞳をギョロリと回して喋る。

何とかするって、どうやっても街壊してくれちゃうよね?瞳だけでたぶん5㎡くらいかな。・・・話せたから良かったけど、意志疎通出来なかったら塵になってたかと思うと、ゾッとする。

こんなの街の近くに飛んできただけで相当な騒ぎになっちゃうでしょ。

ほんとにどうにか出来るのかな?








「なぁんて事言ってたけど、どうしたって入れないのに。」



ヘレハン山を村へ下りながら──この道は村に着くまでアスタリ山道を使うよりもゆるやかな、来た時とは明らかに違う時間が懸かる事は確実な獣道だ。

道とは呼べない部類かも。それでまた慰霊碑を通って忘れた方がいい事も思い出すよりはいいと──皆で決めた。話し合った時は、思い出してしまったけど次は手遅れにはしないと誓った。

なので、犠牲者も許してくれると・・・いいなあ。


わたし達にも、勿論住んでいる人達にだってこの世界は不条理だ、不条理だらけかも知れないけど、生きていけるそれで、それだけでいいんじゃない?


「わあ、夜明けだ。」


獣道を歩きながら下界へと降りていく。京ちゃんを毎度だけどヘクトルが背負って。

ああ、しんどそうに顔をしかめちゃってさぁ。

ふいに陽光が。朝日だ。

クドゥーナの言う村なんてまだまだ見えないけど、道なき道を歩いてる気がしないでも、無いけどっ!


生きているって素晴らしいと思えるからっ!





「これが?」


結果から言うと。村には着いた、着けた。昼も過ぎていた。今わたし達が座って居るのは村外れの道端にテーブルを出して並べた椅子の上。


京ちゃんの言う通りそれはそこに居た。と、言うか───


なんだ?このドラゴン。


ドラゴン完結+残り、まくあいがありです。はぁ。まくあいって事にしたけど実はラストに持ってきてた文だったわけですよ、それが。


長くなりそだし、とりまここでキレるし、引っ張りまくるですかと!幕間に引っ張りまくりました。後悔はしてない。

ここ乗りきれば、シリアスしばらく無い────筈。


いやあ、長かった。プロット作った時はオーク戦含めてドラゴンは倒せない。っなので、だったのでっ。


もう少し、ドラゴンさん続きます。

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