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ドラゴンは倒せない。3

お昼を美味しく戴いてから直ぐのこと。

洞窟に踏み込むも、ここもやっぱり。人の手は入ってそうに無いんだよね。

京ちゃんをちらりと横目で追う。ゴブリンを憂鬱そうに蹴飛ばしながら、人の手が入った形跡を必死で探している。オークの巣を含めて全部で7つ。空打った洞窟の数なんだけど。


さすがにそろそろドラゴンに出会いたいよね、勝てるかどうか理解らないけど、さ。

経験増えないわーと嘆く様な京ちゃんの力無い声。

それに同調してヘクトルも同意の声を上げた。

横目で窺うと彼はうんうんと頷いて。


じゃあ、倒せる分は引き受けるよ。と、わたしは心の内で口から出せないまま叫んだ。わたしでも1撃、悪くて2撃のゴブリン相手じゃ二人は1の数値も経験にならないのは理解るんだけど。そこまで、顔に出さないでよ。

態度悪いよ?


考えてる間に目の前に一回りも大きなウルフが現れた。ガルウルフだ。茶の毛色をした大型のウルフが仁王立ちで数匹のゴブリンを襲っていた。


いままさに咀嚼していた様で舌舐めずりをするその大きな口は牙は黒ずんで見えた。血・・・どっちが棲みかにしていたのかは理解の出来ない所なんだけど、目の前は今までの洞窟よろしく行き止まり。


ここは巣、なんだろう。そして、お邪魔虫が荒らしに入って更にわたし達が来ちゃった───


けどね。



遭遇したからには見逃してくれそうに無いし、戦う!

構えた弓に既に矢は番えてある。弦を引き絞り。狙いを定めて弦を離す。


すると、矢は風切り音を伴って的をゴブリンから変えこちらに向かって唸り声を上げたガルウルフに飛ぶ。


ちょっと気付くの遅かったね、それが生死を別けたんだよ。カッコつけて心の内で呟いてみた。

ガルウルフの腹に突き刺さり、シュバッ!続いて風の刃が追撃でその周辺を襲う。


と、まだ生きて!

こっちに来る。と思って恐怖か後悔か理解らないけど眦を吊り上げた瞬間、ズゥッバァアン!!という肉でも裂く音とガルウルフのギャゥンッと断末魔が同時に聞こえて、動かなくなった。

ちらりと見ればヘクトルが剣を納めている所だ。

どうも飛剣で止めを差してくれたみたいで。


「やるなら最後までな?」


まるで軽口でも叩くようにヘクトル。

わたしは苦笑いを浮かべてうんと頷くと、ありがとうと続けてお礼を口に出した。


「結局、ガルウルフかゴブリンしか居なかったね。」


その後はサクサクと残ったゴブリンを逃がさず、弓の的にして勝負は決した。

京ちゃんは相変わらず憂鬱そうな顔で洞窟を来た方向へ歩き出している。それを追ってヘクトルもわたしに背を向けて歩き出す。


残された二人で泥漁りをしているとこ。

ゴブリンから魔石をひっぺがしながらボソリと呟いて、唇を真一文字にギュッと結ぶ。二人を追い越すなんて。ヘクトルにはあんな口利いちゃってもまだまだ無理だ。理解ってる。今のままじゃ唯二人のお荷物と変わらないって。


「ゴブリンが居着いただけでもー、ね。村の人にはさぁ、驚異らしぃいんだー、だから。」


ガルウルフをテキパキと仕舞うクドゥーナを目で追いながら、残りのゴブリンを漁る。

彼女の言う通り、戦闘手段を持たない周囲の住人にはゴブリンにしたって驚異だよね。

来たばかりのわたしも凄く怖くて震え上がって・・・見てるだけしか出来なかったもん。理解るよ──


「倒せるわたし達で退治しなきゃ、でしょ?」


今なら言える。いや、ビビったりせず、怖がらずに倒せる様になった今だから言える。

モンスターは怖い存在だ。放っておけばオークの巣で見た様に人に害を成す。

倒せる者の使命なんだ。

戦うと言う事。

頭では理解ってるつもりで全然理解ってなかった。人の死を見たのは初めてじゃない、けど。

なんてゆったらいいか、覚悟は無かったと思う。


この世界でわたしの生きていく意味とか、漠然と『生きて帰る』だけじゃダメなんだよね?目の前で救えない人の死をわたしの何倍も既に見ていた、会ったばかりの京ちゃんにはその覚悟があったんじゃないかな。

倒せる者が退治しなきゃ。


「そーそ、村の方にまでたまに来るらしいしさぁ。」


わたしの意気込みをどっかにすっ飛ばす様な間延びして場違いなクドゥーナの声に脱力感を覚えた。ハミングまで聞こえてくる。見れば真剣な目付きでガルウルフを魚でも捌くみたいに解体しているのは理解るんだけど、さ。・・・なんか違うと思うわけよ。


「で、どうするわけ?」


最後のゴブリンの魔石を掘り出してクドゥーナに訪ねてみる。


「移動してくれてー居なくなったらそれでいぃんだけどぉ。」


ガルウルフを片付け終えたクドゥーナは立ち上がって黒タイツに着いた埃を払い落としながら飄々と喋る。

じぃっと見てると太股をを払い終わって脹ら脛に移って払い始めた。


埃を気にして払い除けるなんてわたし、した事あったかな?京ちゃんがどこか男勝りだからか、それとも余裕が無かったからか埃を払い除けるなんて思い付きもして無かった。とかね、彼女を見てるとペースが狂う。


カルガインに居て頼れる人が限られたから余裕を無くしてた?ううん、レットも居たし他にもたくさん居るには居たけど、京ちゃんが止めるのを無視してわたしが突っ走った・・・事もあったよね。余裕が無かったのは、わたし?


「怖い顔してどぉしたの?」


「・・・でも、鉱山じゃないよね。この洞窟は。」


しばらく考え込んでて、ちょっと無言が続いて間が空く。話し掛けられて我に返ると、クドゥーナは埃を払い終わったのかじぃと心配そうにこっちを見ていた。


視線がばちんっと合って焦る。ドキマギして何でも無い言葉が出てくる。

でもホント京ちゃんも、ヘクトルも出てっちゃったし、ここにドラゴンは居るはずも無くて2階も無いんだ。


わたしの問いに眉尻を下げた彼女は、唇を真一文字にギュッと結ぶと小首を傾げ、人差し指を口の端に当てたまま、言葉を紡ぐ様に口を開く。


「浅いねーぇ。って、これじゃあ掘ってるって感じしないしぃ。・・・別の山も見てみるわ。」


いこ?と続けて。わたしの背中を押すクドゥーナ。

横目でちらりと覗くとその表情は溌剌として何が嬉しかったのか頬にまで朱を引いて。




「どーお?見えるー?」



洞窟を後にしてすぐ山の影にならない斜面にまで歩いて、クドゥーナは翼を羽ばたかせるとふよふよと宙に舞い上がる。


そんな彼女を目で追って顔を空に向けて天を仰ぐ。

そよそよと優しい風が吹き抜ける。陽は少し、傾いたけどまだまだ燦々と輝いてじっとり暑いくらい。

鳥の鳴き声も遠くに聞こえ、木々の囁き声のような擦れる枝葉の音。

雲は風に流されてゆらゆらと、視界から消えては現れ消えては現れエンドレス。

うわぁ、絵に描いたような陽気な昼下がりだよぅ。

まるでピクニックでも来たみたいにさ。


しばらく羽ばたき続けながら周囲を見廻している彼女に問い掛けてみる。京ちゃん達は近くの木陰に移動しちゃった。


盗み見るとグラスを出して、酒を注いでいるのかな?暇さえあれば京ちゃんは酒をあおる。

日々、忘れたい事が無いとは言えない日常だけど、さ。酔わない体質って言っても。

クドゥーナは次の洞窟を見つけられないのかキョロキョロしてやがて宙に浮いたまま叫ぶ様に、


「ちょーぉっと、待ってみ。反対側も見てみる。」


そう言ってくるりと身を翻すと更に、一気に羽ばたいて上空に舞い上がり姿が追えなくなる。陽の中に入ったのか、視界の外に消えたか理解んないけどね。


眩しさを保って太陽は陽光を突き刺してくる。待っても視界の中に戻ってくる気配も無いので木陰に避難、避難。


「マップ見ても洞窟は沢山あるのに鉱山は無いよね、なんでだろ。」


「洞窟の内部で別れるんじゃないの。別れ道の先が鉱山だってだけで、だから・・・」


何気無く京ちゃんの傍に膝を伸ばして座ったわたしがぽつり呟くと、わたしをちらと見てすぐグラスの酒に視線を戻すと京ちゃんは、くいとあおって口をグラスから離さずに喋り始めた。


なるほど、それだとマップ上では洞窟でしか無くて辿り着いて見ないと理解らないかあ。


「喋ってるだけなのに。」


ガサガサと物陰が動いて姿を現す。

ゴブリンが、団体さんの到着だ。



「ゴブリン、まだ居たんだ。」

むう、人が気持ち良く休んでるっていうのに。


「任せたから、ガルウルフ来たら手伝うわ。」


わたしが弓を取りだし構えると、やる気無い京ちゃんの声。

うん、いいよ。わたし、戦う!


狙いを定めた一射を終えると命中したゴブリンが血飛沫を上げて前のめりに倒れて絶命するのをみた他のゴブリンが殺気立つのが理解った。


木陰からゴブリンに近づくわたしの背からヘクトルの場違いな声が聞こえる。


「シェリル、酒は?」


そのままニ射を構え、放つ。

そこで焦って2人から離れるように洞窟の手前の木陰から山道までの小路へ誘導しながら三射を仕掛ける頃にはゴブリンにすっかり囲まれていた。

い、痛い。痛みの元を見ると、後ろから足を斬り付けられたのか脹ら脛から血が出ている。


ヒールを掛けてから、正面で高くダガーを掲げるゴブリンに四射を構え、放った。

矢が見事に大きく開いた口を貫通した後、そのまま2、3歩歩いてから崩れる様に絶叫を上げてその動きが止まった。


もう。そろそろヤバいや。

弓の特殊追撃があるっていってもね。数がね。・・・あと、8。


「にひひ、勿論!ニクスの城で貰ったワイン、みたいな酒。」


2人は気にせず、相変わらずの酒盛りを続けてる。二人のその場だけは空間が違うみたいに。

五、六射を撃ち終わった頃には倒れたゴブリンの血の臭いが辺りを包んでるって言うのに。

ゴブリンの血は・・・臭い。

しばらく嗅いでいると吐き気に襲われて、堪らないや。

それどころではない。あちこち切り傷だらけだよぅ。正面に立てば的になるのを理解ったのか側面、それに背中から襲われるのが増えてきた、しぃ。


「ちょっとー、ゴブリン。ゴブリンいっぱいだってばぁ。」


何射めだったか。助けを求めて矢を番えながら叫んだ。

囲まれちゃうと弓じゃ・・・間に合わないじゃん。

息も切れ切れ、肌はボロボロ、わたしは。

ヒールを重ねて唱えれば、うん。ばっちり回復。


「それくらい死なないから。LV15くらいじゃん、頑張んなさーい。」


叫んだし、わたし。助けて欲しいのに。京ちゃんの反応は残酷だ。2人が助けてくれ無いのがこんなに大変で、キツくて、わたしの心をすっかり折っちゃうなんて。

知らなかった。切り傷がこんなに痛くて、傷を気にして視界からゴブリンが消えるともっと・・・い、いったあああい!考えてる暇無い。止まると襲われる。目の前のゴブリンを殺し尽くさなきゃ痛みは後で治るから、傷は後で消えるから。


左目の端に鈍く輝るダガーに気付き、反射的に後ろに飛んで距離を取ると弦を弾く。矢はダガーを突いてきた目標を失ってつんのめるゴブリンに、突き刺さりついで発動した追撃の刃がその生命を刈り取る。


チラッと一瞬だけ、酒盛りしてる二人を睨んで視線をゴブリンに戻す。あと・・・5。


「普通の矢が無くなったら、どうするわけー?」


「矢くらいあるから気にせずじゃんじゃん射てばー。あ、・・・普通の矢じゃ無いわ。」


ドスタの特殊矢は使いたくない。ゴブリンなんかに。

矢束1つじゃすぐに無くなっちゃった。もっと買っておけば良かったや。

京ちゃんの反応を見れば何のか解らないけど矢はあるみたい。今ある矢は使いきってもいいんだね。



「ねぇ、これゴブリンの群れだよねえ。えい!・・・きっと、そうなんだ。ひっ・・・さっき潰したゴブリンより、えい!・・・多い気がするしー。」



駄々を捏ねる様にすがるように喋りながら正面のゴブリンを射つ。その隙を逃さず右手から回り込んで迫っていたゴブリン二匹が一斉に斬りかかってきた。


弓を楯代わりに1合。左足を軸に腰を捻った右足で蹴り上げると一匹は吹き飛んで脇の木立に刺さる。勿論もう一匹に対して隙だらけで手痛い一撃を貰っちゃったんだけど。

左脇腹が痛い。けど我慢して弦を引くと、蹴り上げたゴブリンに止めを刺すべく矢を放つ。結果を見る暇無い。

目の前にはわたしに傷を負わせたゴブリンがにぃと笑って迫っていた。

わたしの選択は一つ。

下がって距離を取ってからヒール。



「LV上がっていいでしょー?わたし達じゃ相手にしたって経験にもならないんだし。」


更に距離を取って矢を番い弦を引く。矢を放つと、続けて矢を番えながら距離を取って走る。

軽口が聞こえてきて、キッと睨むとグラスを掲げて微笑む京ちゃんの憎たらしい顔。

視線をゴブリンに戻すと恨みをぶつける様に弦を引いて連続して矢を放った。

こっちは大変なんだよぅ。ゴブリンがぴくりともしなくなるまで盛大に矢を喰らわしてやった。


「最後ーぉ、つ・・・疲れたぁ、精神的にー。はぁ。ふぅー。」


「お疲れ様。」


「おっ疲れー。ジュースあるからどぞ。」


我に返ると動くものは無くなって、ゴブリンの屍が森の小路に散らばっていた。


息を吸うのも忘れて弓を引いてゴブリンを全て殲滅出来た所で思い出した様に息を思いきり吸う。

肺に入り込んでくる新鮮な空気が美味しいけど同時に強烈な吐き気が沸き起こり、我慢できない。小路の脇にしゃがみこんでリバースしちゃう。


ものが無くなったその後、ヒールを忘れず唱えてからゴブリンから魔石をひっぺがし、洞窟の手前の木陰から小路を眺めていた二人の元へ帰ってきたら、二人から労いの言葉を貰ってその傍らに顔面からへたりこむ、わたし。


グダッているわたしの目の前に細い手がまず見えて、次に手に掴まれたグラスが差し出された。甘い香りのするニクスの国でわたしが気に入って飲んでいたジュースだ。匂いを嗅いだだけでちょっち元気出た。


「ども。はぁー、美味あーっ。」


なんとか体を起こしてグラスを震えの止まない手つきで受けとる。終わったら終ったで疲れより、慄然と強烈な畏れが全身を蝕んで止まらない。

ジュースは美味しい。これはいい。ヒールで疲れは飛んでいく。これもいい。血が流れ過ぎて足りない──肉を喰わないと治んないじゃない?血、血が足りない。これ、貧血かなぁ?それとも只の恐怖?


「おっまたせーぇ。あった!あったよぅ、洞窟の前にぃ箱とかー砂山なんかあってさ。それっぽいの、あっちに。」


震えの止まった頃だったかな。空から碧眼の陽気な天使がゆったり降ってきたのは。


後光のように太陽を背に、ユラユラと降りてきながら発見出来たのが嬉しかったのか笑い声混じりに指差す方向は山頂では無く、隣の山だったけど。

隣の山を指差すクドゥーナに事情を話して、それからマスタード漬けの肉を幾つか出して貰いレンチンして頬張る。


これだっ。もっと、もっと食べたい。クドゥーナが急遽出したテーブルの上で肉をわたしが悶えながら口に放り込み、ジュースで流し込んでいる間にヘクトルに手招きされクドゥーナが何やら話し込んでいた。

耳をそばだてるとどうも説教らしい。


「・・・違う山だな。」



余りヘクトルの声は聞こえて来なかったけど、そこへ加わってきた京ちゃんの不機嫌そうな声はハッキリと。

おお、怖。


「・・・そうね、検討違いだったの?クドゥーナ。」


「あ、うぅーん。村でお願いされたのはね。指差しでこの山を指してたの。・・・だからね、間違ってないもん。きっと、この山から道が続いてるとか・・・そんななんだもん。」


そこで気になって横目で窺うと、見下ろす二人とその二人を交互に見上げながら何事か弁解をしているクドゥーナが見えた。

わたしは耐えれず、そっと視線を目の前の肉に戻して。

何も聞こえない。何も聞こえて来なかったけど?

見なかった事にしてマスタード肉をレンチンして美味しく平らげていったんだ。涙声で謝るクドゥーナに一瞬びくっとしながら。



大人げないよ京ちゃん、まあ。何回も空振りさせた揚げ句場所が違うとか、ね。うん、存分にキレていいと思う。





しばらく。謝罪を強要する京ちゃんのいたぶる様な声と、それに応えてクドゥーナの謝罪をする声が聞こえてきて胸が張り裂けそうになった。啜り泣く彼女を叱り飛ばして泣く事も許可しないなんて、恐怖過ぎる。

彼女、中三だって言ってたよ?散々謝らせてあれって洗脳かな、マインドコントロール?最後は『生まれてきてすみません』まで言わせるなんて、鬼だね鬼。

わたしが口を挟んで止め様にも、一言目で殺気を孕んだ睨みが飛んできて、それはもう反射的に目を逸らして、いや何でもないですって逃げるしか無かったんだよ。


無言がその場の空気を支配して、やっと満足したのか唇を真一文字に結んで耐えているクドゥーナの左手首を掴んで引き起こすと、京ちゃんが口を開く。その表情は嫣然として怪しげな雰囲気を纏っていた。まぁ、クドゥーナを使ってストレス発散をしたんだよね、きっと。

彼女は知らないだろうけど京ちゃんの性格はそう言う事をしたり、怯える生け贄を見る事で悦に浸り悶える様に出来てるんだよ。つまりはそう言う事。

ま、何だ。夜になれば充分にケアしてくれる所までワンセットらしいよ?やりっ放しじゃ無いから、そう言うものなんだって、さ。

飴と鞭って感じ。


「うん、まぁいいから案内してくれない?」






「確かに、道は続いてたな。」


「村からこの道が近道だったとかかなー。」


「この山にも道があるじゃないの。」


憔悴仕切ったクドゥーナに案内されるままに隣山の山頂近くに踏み込むと、彼女の言う通り砂山やトロッコなどが手前にあり広場には重い物を何度も引き摺った轍が残っていて、明らかに人の手が入った鉱山と思える洞窟の前に着いた。


クドゥーナ以外のメンバーが揃えた様に声を上げる。アスタリ山から隣のヘレハン山へ渡る山沿いの斜面を通る道のりで既に気付いて居たんだけど、このヘレハン山にも道が整備されている様で下界へと続く道が霧がかかって切れ目切れ目にしか見えないけどあるにはあるくらいには確認出来ていた。

つまり、クドゥーナの勘違いに皆付き合わされていたって事。

説教だか洗脳教育か理解らない京ちゃんのいびり、詰りを引き摺ってるのか案内してくる道中も彼女の表情は暗い。

場違いに陽気なクドゥーナが気に入らなかったのも有るんだろな。逆に京ちゃんの彼女を見る表情は小悪魔めいて、それを目の当たりにしたら恐怖すら覚えた。

もう、止めたげて。



「うぅーん、考えても仕方無いからさっさと退治して帰ろ。」


わたしの先を促す声に一同頷いてクドゥーナの件は曖昧になった。彼女を助けるというより、本心から精神的に既に疲れてまいってしまいそうなのが重い。

洞窟の前に石を真横に切った調度良い平らな台があり、そこで洞窟へ足を踏み入れる準備を整える。京ちゃんのライトボールの発動を合図にいざドラゴンと、一歩足を踏み入れて今までの洞窟と明らかに違う事に気付いた。


入り口こそ鍾乳洞そのままだったのが、行き止まりに矢印がふられてそのすぐ右の壁に人、二人分ほどの大きな孔が穿たれている。

孔に近づくと人が鉱石を求めてそこら中を掘った形跡と強度を増すための×字の横木に組まれた太い木の杭の土壁。その奥には更に広い空間が広がっていそうだった。


「・・・まさか、こんな所に居るなんて、ね。」




孔を最初に抜けた京ちゃんの声。少し震えが混じったその声に慄然とする。

ワームを見ても最初はなんとも思って無かったあの京ちゃんが、恐怖し圧し殺す様に震え声を上げる敵とは──






「後ろにあるの。あれっ、階段だよね。」


それを何と表現したら良いか・・・紺色、の壁?いやいやいや、壁が動いたりしない。蠕動している、生きている。

恐らくは、これがドラゴンの一部なんだろう。


「こりゃ、邪魔くさい、な。」



ヘクトルが孔を抜けて呟いた時、それは起こった。

壁の蠕動が強まり、そしてピタリと収まる。

そこにそれまで無かったものが生まれた様に現れた。ギョロリと睨み付ける一つの瞳。金色の爬虫類のそれの様に楕円を描く黒い瞳孔が品定めをしているかの如くそれぞれへと視線を動かし。


目の前にドラゴンが現れた。


顔の一部だけど、圧倒的な恐怖を伴ってその場の空気を支配していた───

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