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ドラゴンは倒せない。1

「────そうだな、花嫁が欲しい。」



目前の床はドラゴンが現れた時に崩れて無くなっちゃった。取り敢えず、ここから目に見えて確認出来るのは金色の瞳、紺紫の肌、紺と黒の鱗、・・・緑色の牙、1フロアーでは入り切らなかったんだろうな、階下に口が見える。角──なんかも有るんだろうけど、他のパーツは大きすぎてフロアーに収まっていない、みたい・・・


「──はぁ?」


思わず声が出ちゃった。

ドラゴンが求婚してきた。もう一体同じドラゴンを捜すなんて相当難しい気がするんだけど。


「竜の花嫁ってワケね・・・頭痛いわ。」


「あははははは!どうにも何ともなんないよねー。」


「今日は帰るって事でいいか?」

皆が思い思いに喋っている。ヘクトルなんか諦めて帰るつもりだし、クドゥーナは体を退け反らせて笑っている。何がツボったのか知らないけど。

京ちゃんは目を閉じ腕組みして思案中みたいだった。

「・・・喋ってくる竜を袋叩きにするのは寝覚め悪くなりそうでイヤかな。倒せる、倒せないは別にしても、ね。」


今、ドラゴンに敵意は無いみたいでこっちが陣形も何も崩れているのに行動を起こさない。唯じっと金色で大きすぎてヘクトルより大きな目玉がギョロリとこちらの様子を窺っている。


「どっちにしても、もう山下りるの難しいしここでご飯にしよっか?ね、ね?はいっ、決まり!そうしたらっ・・・」


言うが早いかクドゥーナはニコニコとテーブルを取り出して、テキパキと人数分の椅子を並べると今度は携帯コンロ──ボンベで点くわけじゃないから変わりに魔石が代用されているらしいそれは、キッチンに設置されている物と大差無い大きさになっていて充分な強度も有りそうに見えて、振り回せばゴブリンやウルフくらいなら倒せちゃいそう、なのだ。

わたしは食べるのは好きだけどこんなに嬉しそうに料理は作れないな、まだ。

どれだけ、彼女にとって料理が大切な物か理解る気がする。なんて、考えている間にテーブル回りは見えて完成した様で素材を取り出して料理を始めようとしていたので声を掛けて手伝うことにした。


「んーと、ここ借りるよ?えっと名前なんだっけ、ドラゴンさん。」


テーブルを余分に一つ出して作業台に、なんかまるでさっきまで殺し合いの戦闘をしてた場所とは思えないぞ。それに同調してキャベツの様な野菜を今、半分に切っているわたしもわたしなんだけど。

更に、作業をこなれた手付きで進めながらドラゴンに軽口を叩く様に名前を訊ねていた。


「・・・名前は長いぞ。好きに呼べ、好きにしろ。」


ドラゴンは面食らった様に目を瞬かせると目玉がギョロリと動き、クドゥーナを見詰めて呆れた口調で口を開いた。


「長いんなら、最初の文字は何て言うの?」


料理をしている間もヘクトルと京ちゃんが会話に参加して無いわけじゃないけど耳に入って来ない。悪いけど、ドラゴンとクドゥーナのやり取りからまた戦闘になるかもと思って精神的にキツい。和やかにクドゥーナは話しているけどね。何がドラゴンの逆鱗に触れるか、機嫌を損ねちゃうか理解んないんだもん。


「ふんっ、グラクロデュテラシーム・・・」


名前を訊ねられて困ったようにドラゴンの目玉があっちこっち。鼻息を一つ。名前を言うくらいいいか。と、軽い口調で長ったらしい名前を延々と喋り始めるドラゴン。5分くらい続いた所で、


「グラちゃんでいっか。よっろしくー、グラちゃん。」


何時まで続くか理解らないドラゴンの自己紹介をぶった切るその一言。最初から決めていました!と言っちゃいそうな勢いでドラゴンの呼び名を決定するクドゥーナ。



「グラクロて呼ぶね。こんなイカついドラゴンにちゃん付けはちょっと。」


便乗してわたしも。

見ればドラゴンは鼻息を一つついただけで了承するでも拒否するでも無く金色の瞳はギョロリとこっちを見ている。


・・・何故喋る竜の相手をする事になったかを説明するには、オーク退治を決める更に前にまで、話を戻さないと駄目だと思う。あれはクドゥーナが両手を揃えてお願いをしてきたからだったかなあ───






「拠点にしてる村の村長から頼まれちゃってさー。ほら、うちはレベル高くないでしょ?さすがにソロでドラゴンなんか無理でしょーよって、ワケ。で、party探してエリアチャ飛ばしてたってコト。」


ね、ね、と承諾を促す様に一人一人わたし達の顔を窺い顔の向きを変えながらクドゥーナは翼をはためかせてドラゴン退治を手伝ってと頼んで来た。

その態度を見て鳥の一種に既になっちゃってるのかななんか思ったりしたっけ。その後も『お願い!』と手を合わせ顔を歪めて本気で頼み込んでくる彼女を見てヘクトルが京ちゃんに視線を動かす。まるで、引き受けてやれよと言いたげに。ヘクトルに同調してわたしも京ちゃんをじっと見る。そんなわたし達の態度に京ちゃんがやれやれと、


「・・・大体はわかったわ。けど、ドラゴンに因るわよ。」


クドゥーナの肩に手を置いて彼女のきょとんとした瞳を見詰めて一応の了承をしたと、返す様に口を開いた。

クドゥーナの瞳に色が浮かぶ。しかし、口調で乗り気じゃないのが付き合いの有るわたしやヘクトルには理解るのでお互い苦笑いを浮かべて目を合わしてからクドゥーナに視線を戻したら、


「ウルティマヌスとか、心配しないでもっ、そんなんじゃー無いから。聞いた話だと一般的なデカさ、なんだって。」



ちょっと、わたしには理解んない名前が出たのでヘクトルを見る。青い顔をしているのは元からだった。でも、どこか嫌だなって雰囲気を顔に張り付けている気がした。京ちゃんに至っては唇がひくひくと吊り上がって震える。震えを圧し殺す様に口許をギュッ!と一文字に噛み締めるとゆっくりと言葉を紡ぐ。


「・・・ウルティマヌスって神竜なんだけど・・・一口で街を飲み込んだって言うから、最初から喧嘩売れないでしょ。」


勝てるわけないじゃない、死ぬよ?とつけ加えてワナワナと震える右掌で拳を握るとクドゥーナの胸元をドン!と叩く。

顔は笑っているのに瞳は笑ってない京ちゃんに何処と無く黒いオーラが見える。戦き怖じ気づいちゃう、わたし。


「え゛?一口で街を、飲み込んだ?」


思わず声が喉を突いて出る。

そんなドラゴンに勝てっこ無い。カルガインの英雄と呼ばれた京ちゃんにも無茶ってものだよ。

街を飲んじゃう時点で勝負ってか戦いの雰囲気じゃない、逃げなきゃ死んじゃう。大きさだって相当だもんねきっと、ワーム所の堅さじゃないんだよね。・・・そうなると、打つ手無しなんじゃないの?


同意を求めてヘクトルの方を向く。


「わりと最初のシナリオで話に出てくるだけだからな。そんなの運営の最終兵器だろって思ったくらいだ。」


ヘクトルだって運営の最終兵器って揶揄するぐらいなんだ。party戦でどうやっても倒せそうな気がしない。ここの軍隊を出して貰って何とか出来・・・無いよね、やっぱ。

答えはすぐに聞こえた。


「そうそう、まず目にするコト無いってー。あはは。」


ころころと笑い出すクドゥーナにその場の空気がガラリと変わる。脱力感。さっきまでのぴりぴりした嫌な空気が一変して友人のライブに来て知らないけどそこそこ頑張ってライブをしているバンドを見てるみたいな不思議な雰囲気に包まれた。

わざとやってるワケじゃないんだろうけど独特の間というか、足を踏み込めないフィールドを持っている、そんな気がした。


「・・・クドゥーナが名前出したんでしょ?」


ころころと笑い続けるクドゥーナに業腹と言わない迄もイラっとする。

思い起こせばこの時にはもう彼女がペースを握っていたね。


「比べられるドラゴンとして名前言っただけだもーん。」


笑い続けながら悪びれずに指で溢れる眦の滴を払い除けて言い放つクドゥーナ。


「ま、ウルティマが出ないにしても。倒せるかまでは解らないわよ?ワームでギリギリなんだから。」


「ドゥームドラゴンとか巨大竜もダメだな。バックアップも前衛も足りない。あ、俺は壁火力な。」


京ちゃんもヘクトルもある程度以上のドラゴンだったら勝てないとクドゥーナに向かって説く。

ドゥームドラゴン───普段は眠りに着いていて此方から何かしら行動を起こさないと襲ってこない。大きさは個体差はある物の城と同等。支配者の名を冠するこのドラゴンはひと度目醒めると辺り一帯を荒野に帰すと言われる。洞窟に限らず暴れた後眠りに着くので街を枕に地中で眠りに着いている場合もある。

京ちゃんの説明は大体そんな感じ。ウルティマヌスと変わらない、現れたら逃げなきゃ。


「あたしは中距離。一応、ダルテが使えるわ。」


ヘクトルが役割を口にしたので京ちゃんも蘊蓄を披露する口を閉じ、自らの役割をクドゥーナに教える。

知らなかった、京ちゃんの役割は中距離って言うんだ。


「・・・急に皆さん専門用語連発されちゃっても。うち、その・・・partyでボス戦とかした事、ぶっちゃけ無かったりして、さ。あははは・・・」


理解らないと言いたげにクドゥーナの顔がひきつって軽く響き続けていた笑い声が止まる。

言い澱みながら喋り続ける彼女がボス戦経験が無いなんて重要な事を口にした。乾いた笑いに変わる。

ゆっくりと翼をはためかせながら。


「わたしも最近まで無かったよっ。ナカーマだねっ。」


ひきつった顔が張り付いたままのクドゥーナに向かって声を掛ける。振り向く彼女はまだどこかひきつった様な表情でわたしを見詰めていた。


「良く見たらLV25か、それでドラゴンはキツいな。俺でもギリギリなのに。」


相変わらずの無感情に戻ったヘクトルが思い出した様にクドゥーナのLVを見て口にした。


「44と、57と17でしょ?──何とかなると思っちゃったりしたンだけど。うち、25だし。うん、完璧だねっ。」


狼狽え顔からぽやんとした顔にいつの間にか戻っている。軽口を叩く様にクドゥーナは人差し指をぴんと立てて確認しつつ何を思ったか完璧と胸を張って見せる。わたしと同じ・・・いや、勝ってるかなわたし。やったね。


「ぱっと見の感じ、火力じゃあ無いわよね?」


「ん?火力志望ってか、何でも生産は基本はソロで色々やってくワケですよ。だから──」





苦笑いを浮かべた京ちゃんに問い掛けられると言い澱んで言葉を選びながら答えを導くように喋るクドゥーナはゆっくり目を閉じ、碧色の髪が浮き上がりキラキラと何等かの力が働いて彼女の廻りはそれはまるで魔法少女が変身シーンを見せているみたいに光の粒子がぐるぐると帯を引いて舞う。思わず魅入られてしまって声を失った。


「こいっ、ウェリア!」


続いて渦を巻いて水が虚空から産まれる。クドゥーナの呼び掛けに答え何者かが彼女の羽ばたく胸の前に顕現化しようとしていた。

光の粒子が更に数を増しみるみる内に渦巻く水流を包んで現れたのは、


「こーゆことね、やってんです。お疲れ、還っていいよ。」


蒼い人形大の妖精。ウェリアと呼ばれた彼女は人形大の体にも関わらず出る所は出て括れる所はすっと括れている少女の形を取っている。もし同じ大きさなら京ちゃんに劣らぬ容姿でナイスバディなんだろう。

此方にウインクしてみせたウェリアは名残惜しそうにクドゥーナの頬にキスをしながら光の粒子に戻って、やがて何事も無かった様に消えた。言葉通りなら、還ったのかな。


「スッゴい!わ、わたし、ヒールくらいしか出来ないよ。」


思わず声を喉を突いて立ててしまう。吃驚した。見入ってしまったのもそうだけど、驚いてばかりだけど。クドゥーナを見てるとそう思う。

白い足元まである翼を羽ばたかせながら碧色の髪を優しく吹き付ける風に靡かせ、ニコニコと此方に向かって微笑う彼女のキラキラと輝く二つの碧眼。


わたしはクドゥーナの召喚を初めて目にして今までに無いワクワクとドキマギを感じていた───

長くなって行き詰まったのでサクッと分割。要らない説明もあるしね。しょーがないね。

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