月の灯りと妖精
パチパチと木の燃える音で目を醒ます。と、お空には月が出ていた。今夜は燃える様な紅とかではなく普通に陽の反射の黄金色。再び眼を閉じ微睡もうとしたんだけど・・・目が覚めちゃったみたいなのか、寝付けないや。へへ、皆の寝顔でも見ようかな。
「起こしちゃった?」
体を起こそうと片足を立てて動いたら、突然の足元からの声に吃驚した。こっちを覗き込んでいる碧眼が妖しく輝る。
「あははは・・・この子とは、お喋りした事なかったなあって、ね。思って喋ってたの。こっち来る?」
半身を起こして利き手で支えて声の主に視線を向けるとクドゥーナが体育座りで膝を抱え、燃える様な妖精とこっちを見ていた。
火精と思われる悪戯っぽい顔をした小さな小さな男の子。名前をフリックと言うらしい。
「触っても?・・・あ、熱くない。」
クドゥーナに誘われて同じ様に体育座りで12㎝くらいの妖精に手を伸ばし指先で触れてみた。
考えてたのと違ってて全然、熱くない。体温よりは温かいって思った。
視覚では燃えてるようなのに。なんか不思議。
「ボクら、熱くないよ。きゃはは。」
また吃驚。妖精の声が聞こえたんだ。口許に両の掌を当てて子どもの様に微笑うフリック。良く見てみたら口パクみたい。念話ってのかな、フリックの声は頭の中に直接響いてる。エコーの様に。
「そりゃね、精霊様とかは物凄く熱っぽいけどっ。」
彼等は妖精。精霊はもっと触れる事が出来ないくらい熱かったりしちゃうのだ、たぶん。
「魔法見せてあげてみ、フリック。ちいさくね。」
クドゥーナに言われて片手を頭上に掲げ、えい、と気合一つ。
これって。
「ぷちファイアだ。」
「驚いた?でしょ、この子達はマナ要らずなんだよー、ね?フリック。」
「えへん。凄い?凄い?」
「うん、凄い、凄いや。」
「この子達にうちが渡すのはぁ・・・こぉれっ。」
「早くおくれよぅ、愛那ぁ。」
「へへ、まってみ。」
用意してたっぽいクドゥーナがポケットから無造作に取り出したのは魔石(小)。それを見たフリックが小躍りしてせがむ。
「あげすぎても良いことは無いんだけど、この子達は魔石はご馳走なんだよね?ね、フリックぅ。」
「知らなかったあ。いっぱいあるよ、ホントいっぱい。要らないからフリックあげ・・・」
「だーぁめだってば。この子のご主人様はうちなの、そこはキッチリしないと。」
「・・・あ、ごめん。そゆつもりじゃなかったよ。」
在庫整理を押し付けようと思ったらいけなかったみたいでクドゥーナに手の甲を軽くぴしゃんとはたかれて反省。
既にクドゥーナの指先から抱える様にフリックは強奪して満足気に吸収・・・あえ?こうやって栄養にするものなんだ。瞬く様に輝って、魔石は砂時計の砂が流れ落ちるみたいに消えてった。
「あー、ホント今更なんだけど。」
「ん?」
「クドゥーナは・・・」
「愛那がいいなぁ?」
「あ、愛那ちゃんは召喚できるんだ。」
「なぁにーぃそれ?うん。そだよ?」
「愛那はね、デカ尻なんだ。」
答えてクドゥーナが子猫の様な碧眼を輝かせて覗き込んで来る。軽口を叩くフリックは一層元気になって火釜を形作る石を片手で持ち上げて遊んでいるんだもん?
え?、二度見しちゃった。
え?、フリック凄い力持ちじゃん。
もち上げている石はフリックの3倍はあるかと思える、丸く囲んで火釜を作っていたもの。それを軽々と。
たぶん、火を絶やさないために木を追加で放り込んでいるから、石の表面は素手で持ったらわたしなら火傷しちゃう。さすが妖精さんだね、それとも相性が良いだけなのかな?解んないや。
それから他愛ない二人の会話を相槌だけ打って参加していた。ふいに体育座りのまま、大きく伸びをして空を見上げて欠伸をすると隣から視線を感じ、クドゥーナに視線を移したら彼女は月に向かって顔を上げながら指差して、
「月に何があると思う?」
ふいを突かれた。そんなの人類にわかりっこ無いから、翼があれば別だけど・・・ん?・・・困り顔のわたしが見詰めてくる碧眼を見詰め返し考えを巡らせても解らないから首を傾げて、左右にふるふると振りつつある事に気付いたのを気付いた彼女は、にんまりと三日月みたいに瞳を細めて微笑みながら、月に視線を戻して自らの羽をはためかせる。
ある。翼あるじゃん、クドゥーナに。
「飛んでみたけど届かないんだよね。翼で近づくのはさ、ズルをしてるってコトなんかな。行ってみたいよねーぇ?思わない?月が5コある理由はなんだろぅってさ。神様でも住んでたり、するのかな。」
喋りながらクドゥーナはわたしの瞳を覗き込んで来て、膝を抱えこむわたしの右手を持ち上げて両手で握りしめてくる。その時の彼女の寂しそうな顔。
なぁに?と聞いたら何でも無いって。はぐらかされちゃった。
「あ、何か眠くなったかも。またね、フリック。おやすみぃ。」
「寝ちゃうのか?おーぅ、またな!」
「ちょっち、待ってみ。」
「ん、ん?」
「名前を聞いてなかったーなぁって。良かったら教えて欲しいな?」
「なるなる、ふぅー。馬渕凛子って言います、でも普段はまぷちで通したいんだ。そこ、解って欲しい、ンダケド、、、」
何か気まずい空気になって、それから逃げようとフリックにばいばいして立ち上がる所を止められた。
困っちゃって彼女に振り向いたら俯いて、彼女はキャラじゃないのにもじもじとわたしの名前を教えて?なんて。
あ、寂しそうな顔してたのはコレだったのね。もじもじなんかしちゃう彼女は妹の友達みたいで可愛く見えちゃったからね、変なんだけどドキッとしちゃう。
母性なのかな?これは。なんて。落ち着け!って深呼吸をしてわたしの名前を教えたんだ。
『好きでした・・・ずっと。先輩!』
なぁんて無かったからね、それだけは言っとく。
それから、毛布に包まってわたしは微睡みの淵に瞼で揺蕩いながらゆっくり落ちていったんだ。それはとても気持ちを落ち着かせてくれる心地好い時間。
起きたら、昼には。・・・あれ?寝たよね?夢かな、これは。
───やっとだ。いや、こっちの話だから気にせずに。
男の声だ。
───えっと、僕は君の側だから。困り事があれば───
声のする方がわからなくてキョロキョロと辺りを見回す。
わかった・・・やっぱり、頭の中に直接響いてる?フリックみたいに。
待って!あなたは誰っ?
靄の中に居るみたいにふわふわした空間にわたしは叫んでいた。
返答は無くて、ってかスルーされて、
───あ、ああ、ノイズが酷い・・・。とにかく力に成れるなら力に───
そこで夢から醒めた。気付いたら、わたし───叫んでたみたいで皆に何事?って。心配されちゃった。ちょっと怖かっただけって。はぐらかして。
今度こそ目を覚ました。もう夜が明けそうで、空も紫からオレンジにグラデーションしていく。あれは何だったんだろう?思案を巡らせている内に日の出の陽光がじわりじわりと射し込んで来て。夜は明けた。