水浴び
オークの巣を掃討し、犠牲になった集落の人々を簡易的とはいえるものの弔った後、水場を探して歩いている。
ドラゴンも急がない訳に行かないけども・・・皆が血臭くて特に暴れていた京ちゃんが血塗れで何より、陽は傾いていてすっかり暗くなりそうになってきた。
クドゥーナを大空に昇らせて河か、湧き水が無いか視て貰っている所なんだけど。
血の匂いに誘われてか獣系モンスターがしょっちゅう目の前に立ち塞がるのも嫌になる。腰ベルトに挿した普通の矢束から1つ抜いて、ガルウルフに狙いを定め一気に放つ。これで終わらってくれないから、
「こっちくんなー!」
同じ様に矢を放ち2射目を入れると同時に、追撃が発動して動きの鈍った的をいぬく。それとは別に、大きく腹が裂けブッジュゥッウと音を上げながら玉大の血の噴水が吹き上がった。黙ってヘクトルが剣を抜き放つ、飛剣。
これが止めになってウルフより一回り大きな獣は事切れて動かなくなりその場に倒れこんだ。
「もう少しでねー、崖があってさ。今は森で見えないけど抜けると、ほら。左に滝が見えたよ。」
気付くとクドゥーナが降りてきてガルウルフをアイテム化してる部位を何とは無しに仕舞っている。
「新鮮な肉もげっと!だし、これでバーベキューにしよ。」
振り向いた彼女はわたし達ににまっと微笑えみ掛けながら。
森を抜けると水音が聞こえて来て滝が見えてくる。クドゥーナの言う通り。
滝の前には豊かな水を湛えた淵が静かに広がっていたから、我慢する事もできずに掌で零れんばかりの水を掬って口に運んで一気に飲み干した。
うん、美味しい。
周りを見舞わすとクドゥーナはバーベキューセットとテーブルを取り出して、準備が早い。京ちゃんはいつか言ってた臙脂色した革のビキニに着替えて水に浮かんでいる。ヘクトルも滝の方に泳いでいくのが眼の端で捉えた。皆、思い思いにリラックスを始めているみたいだ。
「なにからやろっか。」
「椅子を置いたら、皿をならべてだね。テーブルの上の野菜を荒くていいからザックザク刻んで、トレーに入れて終わったら・・・」
「はーい。」
「ボールの中の野菜をだね、ぶちって千切ってサラダにしよ。うちは火の番と肉の仕込みしてるから。」
「はーい、わかったー。じゃ、刻むね。」
その後、わたしもクドゥーナの準備の手伝いをかって出て、ある程度整ったから岸辺に足を入れチャパチャパと、音を立てて軽い水遊びに勤しむ。
「美味い狼肉の焼き方はねー、こーやって。マスタードをじっくり揉み込んでね。って聞いてるー?」
「聞いてるよ、うん。聞いてる聞いてる。」
血に濡れた鎧を洗い流すとクドゥーナの軽口に相槌を打ちながらタオルで拭き上げ一張羅の革服に着替えていく。
「手伝いましょうか?」
声のする方に視線を移すと魔光に照らし出されたビキニ姿の似合う黒髪からキラキラと水を滴らせた美少女が居てにまりと微笑うと、
「あ、お願い。」
わたしの相槌を待たずに背中の革紐を締めてくれた。勿論、京ちゃんなんだけど。
「あっ、キツくて痛いよ。」
「ほー、じゃ優しくするね。」
「そんなとこ触んないでっ。」
「こっちはどう?」
背中の革紐と革ベルトさえ決まれば、もう自分で出来るのに。矢鱈と京ちゃんは面白そうに微笑を浮かべて構ってくる。脇を触られて思わず悲鳴を上げてしまったくらいだ。
「これはいいの?」
「今から着ける意味無いでしょ。」
「じゃあ来て。ギュって、あの時みたいに抱いてよ。」
「・・・何言ってるんですか?」
一緒に出したコルセットを手に持って、わたしの腰に回し付けてくるから、振り向いてやんわり断る。すると、京ちゃんは両手を広げてウインクする。飛び込んできてって言いたげに。あのときはあのときだ。すっかり忘れてたんだもん。京ちゃんがそういう態度に出る変わった人なんだって事だって。
一瞬、素早い動きに視界から京ちゃんを見失ったら、
「ほら、揉ませてくれたら大きくなるわよっ?こうやって・・・っ!」
「うぅっ!ひゃぅっ!?」
何かのスキルを使ったか解らないけど、背中に回り込まれてぐにぐにと揉まれてた。わたしの胸っ、ちいさく無いもん。京ちゃん程じゃ無いけどさ。
「おっ楽しみですかあー!でも、準備も出来たし後回しにして肉焼いてさーぁ、食べよーぉよ?見てみ、もうヘクトルは食ってるからぁ。」
クドゥーナが助け船を出してくれたわけじゃ無いんだけど、バーベキューに呼ばれてその場はあやふやになって、心から彼女にありがとうを胸の内で叫んだよ。
「美味っ。肉汁がスッゴい出てくるわ。」
「おぉっ!見てる分には害が無いから邪魔すんなって言ったんだけど、な。」
「解ってるなら見てないで止めてよ。ホントだ、美味くて。思ってたより柔らか〜い。」
「ヘクトル今後もその調子で見守ってね。絶体オトすからねっ、てへへ。」
「彼女は変態なの?ヘクトル。」
「そだよ、愛那にも仲好くなったら襲ってくるぞ。なんて言ったかな、そーだビッチだっけな。アレなんだ。」
「はーい、ビッチですっ。あはははは!」
「ビッチ、・・・かーぁ。気を付けよ。」
美味しい料理を食べて程よく酒に酔うと焼き網の前では皆がはしゃいでいた。約一名、羽目を外し過ぎな気もするけどね。
忘れ切れたわけじゃ無いんだろうけど各各に整理を付けて前を向こうとしてるのかも知れない。し、何より暗いままのご飯は堪ったものじゃないよね。
一頻りバカ騒ぎをして、肉食べてその夜は毛布を並べると、安らかに微睡んでいった。 起きればいよいよドラゴンかなあ?