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鬼神化〈バーサーク〉

ヘクトルとクドゥーナに道を別れて仄かな灯りを頼りに急ぎ歩くこと10分経った頃、


ドゥッゴウオオオオオオオオ!

突ん裂く様な爆音が聞こえて


グラグゥラグラァァァアアアアアッ!鍾乳洞全体を震わせる程の横揺れが襲ってきた。

横穴に入ったヘクトルとクドゥーナが何かしら片付けたか、それとも始めたのかも知れない。

前の時より頑丈な地形らしくどこかで崩れ落ちる音が聞こえたりはしないのはとても嬉しいこと。


やってるなぁ、こっちもそろそろかな?なんて思っていたら揺れに驚いたのか、爆音の方が気になって横穴へ向かうつもりだったのかオークが吼えて襲い掛かってきた。


「退けえっ、───レイジングスラッシュ!」


狂える程の怒りに塗た京ちゃんが上段の構えから放つ、必殺の一撃。


剣先が刺さった眉間から朱の光の刃が追撃する。目前にまで迫ったオークの頭をくり貫く様に貫いて、更に焦げ付く匂いがしたと思ったら中身の溜まっていた脳漿を辺りにぶち撒けた。


断末魔をあげる暇も与えられず果てたオークを楯に他のオークに狙いを絞って、構えた弓の弦を離す。

即死性の一撃を与えたいからドスタに、


「ホントに、本当に困った時にお使い下さい。」


と、念を押された強力な矢──魔石を鏃に張り合わせた特殊なその矢を番え、オークの鼻先目掛け放った。すると、狙いは大きく外れて肩口に鏃が触る刹那。

ボォッン!と軽快な爆発音を起てて、オークの半身を魔石に仕掛けられた爆風が捩りちぎった。と、同時にけたたましく聞こえる醜い叫び声。


「五月っ蝿いっ!死ね、豚がっ。」


嫌悪感バリバリに表した顔の京ちゃんは眦を決した。吼えながら、ダッシュで止めとばかりに斬り払って、半分に千切られた血だまりに立ち尽くすオークの首が壁に跳ね飛ばされ踏みつけられる。来る前までは、汚ないって言っていた京ちゃんの天秤を今、傾かせて突き動かしているのは純水な怒り。


そういえば『ゲームじゃ無くてリアルだ他人の死に様に一々感情的になってたら心が保たない』って言ったのは出逢ったばかりの京ちゃんだったっけ。


そんな彼女が怒りに打ち震えて、その怒りの負のオーラをあらん限りにオークにぶっつけているのが、あの頃を思い出されて少し笑えた。

あの頃の京ちゃんが今の狂える暴走化(バーサーカー)している京ちゃんを見たとして何を思うんだろう。

バカね。と、微笑うのかな?何してるのってビンタをお見舞いして止めるのかな?





思案を巡らせていたのはどれくらいの間だったか。

我に返ると京ちゃんを視界に捉えられなくなってて、焦って駆け出すと、


「アイス・フリーズっ!」


聞こえてくる声。辺りを見回すとオークが手に提げてたと思われる松明がパチパチと燃えて崩れた体のオークを焦がしている。更に、壁に眼を凝らすとここでも魔法を使ったようでカチコチに凍り付いていた。


「うぉおおおっ!」



追い付かないとと、走り出すと鍾乳洞は大きく弧を描き曲がる。その先から魔光の仄かな灯りが零れ出していた。


ブッジュゥッウ!


京ちゃんに追い付く刹那。とても耳障りで嫌な音を起ててオークが喉元をパックリ切り裂かれ、血玉の噴水を上げながらゆっくりと足が崩れ落ち自身のか他のオークのか、どす黒の血溜まりに沈んだ。

振り返る京ちゃんの相貌は鬼神のようで恐怖の中にも神秘性を持って美しく。

その双眸は光を失って靉靆としており彼女が精神的に壊れそうだと思わせる。



その理由の一端だったかも知れないと思ったのは、京ちゃんの踏み締める足元に夥しく散らばるもとの貌も判らないオークの残骸。


今、京ちゃんが負のオーラに呑まれて病的に精神を磨り減らして戦っているのかも知れない。


無言で前を向けば長い黒髪を振り乱し、修羅の如く残骸を避ける事も判らないながらにフラフラと歩む。その後ろ姿には負のオーラに依るものか、薄暗く視界を歪ませる、靄がかかったようで。


これはアブない。その背を懸命に追うと還ってきてと、想いを乗せ平手を一閃。パンッと音を起てると京ちゃんの頬が紅く染める。まだダメか、もう一回。もう一回。もう一回。・・・


パンッ!!



我に返った京ちゃんに跳ね上がる様な体重の乗ったビンタを返された。すると、光を取り戻し爛々と輝きだす金色の瞳。

良かった。込み上げてくるものに自然とに決壊する涙腺。


「京ちゃん!」



生恥ずかしいとかは無くて、唯無性に抱き締めたくなった。飛び付きながら叫んで抱き寄せ、長い黒髪を撫で上げる。


その後───歩きつつ横目でわたしを窺いながら、くすくすと微笑う京ちゃんの姿に、死にたくなる程の後悔の念に苛まれる事になったとしても、ね。




会話を交わす暇も無く襲い掛かるオークを斬り払い、首を跳ねて暫し、広まった部屋に出た。奥には一回り大きく、一際仰々しく貫禄のあるオークが石組みの玉座から零れ落ちそうに座っていた。

今、ぶっつけて首がバイバイしちゃったオークを京ちゃんが踏みつけているからか座っていたオークの眦が吊り上がった様にギラリと瞬いた。

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