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仄暗い穴

駆け出したヘクトルにオークの群れが気付いて醜く叫び声を上げた。逃げ出したオーク。剣を、斧を掲げ向かってくるオーク。


ダメだよ、それじゃ・・・遅い。

横薙ぎに剣を振る。と、ヘクトルに気付いて距離を取り、こちらに背を見せ逃げ始めていたオークの背肉をザックリ斬り開き血飛沫が吹き上がった。充分離れていたにも関わらず。


飛剣──剣撃を飛ばす、〈剣スキル〉中級の技で、普通に斬りつける3分の1程の威力しか発揮出来ないみたいだけど。

近寄る必要が無い分、ザコ狩りにはとても使い勝手が良い。デメリットは、連射は出来ない事。


血飛沫を上げながら逃げ出したオークの背に今。寸暇の暇を空けず狙いを定め終わった弦を離す。見た目以上にダメージを受けたオークは鈍い、トロいっ。


避ける事もせずに矢は貫いて、更に追撃が襲いかかると哀れオークは断末魔を短く上げ、その場に突っ伏して果てた。後・・・9、10、11、12。


「・・・結構いんのな。」

斧を高く振り掲げ、ヘクトルの肩口に勢いよく振り下ろす。そこにはもう、居ないんだけどね。

一歩でオークの側面を取ってげんなりと口を開きながら、下段の構えから振り上げた。

オークは斧を握る両手を斬り跳ばされて失う一閃。


「───こいットロン!」


逃げ出したオークが一瞬の間に血飛沫を上げながら果てた事で、その場にいたオークが一斉に理解しえない叫び声をあげた刹那。


碧みを含んだ眦を吊り上げたクドゥーナの銀鎧の胸の前に突如として蛍光緑色の閃光が生まれる。彼女の喚び寄せた召喚獣──雷精トロンが彼女のはためかせた翼の間から顕現化したからだった。


何事か吼えながら襲いかかる数匹のオークにトロンは閉じていた瞳を開いて、紫電をぶっつけた。パチパチッと紫電は弾けオークの自由を奪った。



「アドルが見たら喜ぶだろーね。」


麻痺したオークは大きな的でしかない。汚くダラダラと唾を垂らし、舌を顎先に付けるまで出したオークを狙い、軽口を言う様に答えると弦を離す。

ヘクトルの振り下ろす斬撃に、首から胴がバイバイして声も上げれず倒れ、わたしの放つ矢が、追撃が並び立つオークの肩肉を深く突き刺し激昂する。アレぇ?倒せてない?それに気付くとヘクトルは返す刃で両断して派手に血で剣を濡らして止めを差した。


「かもな。さっさと終わらせて竜退治に行こう。」


血塗れた剣を血を払うでもなく休み無く勢い込むヘクトル。

トロンは紫電が溜まる度にその力を解き放ちオークの動きを止め、止まったオークは次々と突き刺さる矢が、襲いかかる凶刃が、その生命活動を確実に断っていく。


「さぁんせー。うち基本魔法だけなんで、それだけ覚えといてよ。」


クドゥーナはトロンに魔力を注ぎ込むだけ。辺りを見渡し、動くものは無くなると彼女はトロンに礼を言って還す。終わって見れば豚を虐殺しただけだった。


見なければ良かった。オークが、理由無くこんなに群れるわけ無いのに。

思えば、走り出した時には血の匂いが漂っていた様な気もする。

あんなに姦いクドゥーナが黙って俯く、ヘクトルが眉を跳ね上げ叫び激昂する。京ちゃんが、わたしが顔を覆って大声で泣き崩れる。

・・・イヤだ


そこにはヒトだったと表せる部位が、手だけになった血と泥塗れになった亡骸とビリビリに引き裂かれた服の切れ端が転がってあった。




あの後───名も解らない亡骸を土に埋め、盛り土の上に、転がっていた彼の着ていたものだろう服の切れ端を巻き付けた丈夫な木の枝を立てると、手を合わせて皆で弔う。


アドルには悪いけど、ここのオークの肉は食べれない・・・4人の内2人が戻すくらい凄絶な場面だったんだから。


うん、なんでクドゥーナは冷静にアイテムを漁ってるんだろう?


「んっ?なんでかぁー、・・・それはね生産者の『業』かな。悲惨とかよりさーぁ、勿体無いが先行しちゃうのね。たださ、死んじゃったって事実なんかより、悪いけど・・・素材をうちが使うコトで明日に繋げるってゆかさ。そゆわけで。」


アイテム化したオークを次々仕舞っていく彼女の背に問う。作業の手を休めずにクドゥーナは言い澱みながらもハッキリと答えた。

彼女なりのブレない生き方があって、素材をきっちり使う勿体無いの精神。クドゥーナは生産者の『業』だと言う。

わたしには真似出来ない、悼ましいの方が天秤を強く傾かせているもん。そんな事を考えていたら背中から声が上がる。


「これは・・・急がなきゃ、苗床を作っているかも知れないわ!この人がここまで迷い込んで単体で生き餌になってただけかも知れない?ううん、近くから拐われて来た可能性がある内は疑ってかからないと。だから、急がなきゃ、急いで巣を潰しましょう!」


静かに激昂する京ちゃんが火急に巣を潰す必要性を説くと、一同揃って力強く頷く。それだけで決意は固まった。


「得物これでさ。オークに近付いて殴るってもこれじゃねっ。て、捨てナイフもあるにはあるんだっけどさ。」


巣を潰すために、探して歩くこと数分。クドゥーナはどんな事があった後でも時が経てば陽気に喋りだす。


その時ヘクトルと京ちゃんが異様な気配に気付いて近付くと、山肌にウロの様な穴が見えて、その手前には木も生えていない広場があって数匹のオークが座って囲む。脳裏には先の凄絶な場面がフラッシュバックで甦ってきた。何故ならオークの向こうからは血の匂いが漂って来て鼻腔を刺激していたんだもん。京ちゃんの言葉が現実味を帯びてくる。

またか・・・涙腺が開いたわたしが構え直すより疾く。

───ダルキュニル!




巨大な氷の柱がオークに、大地に突き刺さった。その影から飛び出して勢い込むヘクトルが叩き付ける様に刃を振るう。

その後を追うように狙い済ました矢が残ったオークを動く間も与えずに射し貫く。


「弔うのは後よっっっ!」


怒気を孕んだ京ちゃんの力強い一言に、その場逃れかも知れない。けど、酷い惨状が広がっているだろう壁の様な柱の向こうに視線を向けずに済んで、ホっと胸を撫で下ろした。


「うっそ。別れ道ぃ?」


山肌に口を開ける穴が穿たれた暗闇に、身を踊らせて急ぎ足に歩むと有りがちな別れ道が。


勿論、そのままじゃ足下も解らないくらい暗いから京ちゃんがライトボールを唱えているんだよ。

魔光の灯りに照らし出された内部は鍾乳洞なのか、乳白色の壁を地下水が垂れて。所々背の一番高いヘクトルが屈まないと天井に当たるくらいの高さで、入り口から別れ道までは三人並べないくらいの横幅だ。


散発的にオークは逃げ惑ったり、襲いかかってくるけど。レベル29〜36程度のステータスでは、ヘクトルのクレイモアの露と消えるだけだった。

何度目のオークかを撃ち取ると、亡骸の向こうに横穴がぽっかり開いているのが見え、クドゥーナは相変わらず陽気に口を開いた。

うん、別れ道だねぇクドゥーナ。ちょっと今は黙って。


「ふたてに別れるしか無いな。」


本道とした方は今まで通りの道幅で、片方は穴が細くなって一人がやっとて感じ。

ヘクトルとクドゥーナ、京ちゃんとわたし。ヘクトルは横穴担当、京ちゃんが本道を進む。

どうしてこうなったかは、京ちゃんが目で、クドゥーナとは嫌とヘクトルに伝える事ができたからかも知れない。


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