黒錬洞の道
「案内をお任せです。」
シアラはそう言って目の前の山肌の足元に口を開ける洞窟へ滑り込む様に足を踏み出した。
それに着いてわたし達も入っていく。仄暗く口を開いた穴へ。
洞窟内部は風が吹き抜けていって肌寒い、入り口だからか。
シアラが言うには元々鉱石の採掘目的で古くは、シアラやエウレローラの祖先が住み着く前から掘られていたみたいで、所によっては崩落して先に進めなくなっているんだって。
怖いのは崩落は最近もあって今、崩れ始めるってゆーのもあるかも知れない。
黒い壁面を調べる意味も込めて触ってみると・・・指先が触れたら砂や土が崩れて落ちて、ボロボロと。えっ、こんなに簡単に崩れたらダメなんじゃん?危ないよ、ねえー。
「何やってんの?早くいくよー。」
「あっ、うん。」
そだよね。いきなり崩れて閉じ込められたり・・・ないよね?
シェリルさんの声に我に還り後を追う。サラサラと触って無い側の壁面が小さく崩れたとも知らずに。
「んー、こっちです。」
シアラの案内で別れ道まで来たんだけど。
いまいち信用出来ない・・・かも知んない。
この辺りは入り口より広さは広くなってるけど、通路だったのか、通ってきた道は大人ひとり通るのは余裕、ふたりだと避け合いかな?くらいの広さで。
高さも鉱石掘ってたくらいだからホントに適当、柱をあちこち十字やバッテンに組んで強度を上げてあるだけマシな感じ。
これはナウ崩れても不思議に思わないね!危険だよこの洞窟。
それにね、あ!出た。
「そっち行った。」
「はーい。」
わたし、ステポ振ってちょっと、ホントちょっと、
強くなった。
今わたしが戦っているのはグリーグスってゆー、甲虫モンスターで。
見た目はゴ◯、速さは蚊、大きさはやっぱり◯キ、最悪なのは・・・とにかく飛ぶ!
「ていっ、ていっ。」
群れて飛ぶ!それをひたすら叩き落として踏み潰す。
泥は拾った棒切れでほぢくり出すけど・・・アイテム化するのは小さな魔石と、甲虫の翅、あれ?たまにバイタル(小)が落ちてるなー。
「シアラー。虫出ない道無いの?」
「ヤー。贅沢言わないでです。道が崩れてて直で行けないんです。この道であってる・・・です。」
不安気なシアラの声に一同はもっと不安だよ!
彼女の言う通りここまであちこち崩れまくっててマシな道を探しつつ前進、行き止まり、戻って崩れた壁を何とか向こうへ行けないか?シェリルさんが凍らせて+ヘクトルが穴を開ける、の力技でやっと通れた道もあったくらいで。
「また来たー。」
「次はコウモリか。」
スリングで応戦。引っ張って、てい。引っ張って、ていっ。ふみふみ。
ヘクトルが飛び掛かってくるコウモリを避けて、避けて、避けて、剣振り下ろす。
あれ倒せてない?以外と固いんだわコウモリ、引っ張って、ってい。
「その調子、その調子。こっちも凍らせとく?」
「ヤー。お願いします、です。」
壁が柔らかく危ないので、シェリルさんは戦力で無く壁の応急措置。
こんな事で2歩進んで1歩下がる探索でね。まぢお腹空いたー。
アドルが簡単に言うから、シェリルさんに、
「簡単そうならパパッと行ってパパッっと終らせて帰ってこよっ。って思うんだけど・・・どーよ?」
って言われた時に、『簡単そうにアドル言ってたよ。』なんて言っちゃってご飯後回しにしちゃったじゃん。
責任取れ、馬鹿アドル!
今倒したセイム・バットの泥はコウモリの鋭牙、コウモリの羽、鉄塊(小)、おお、鉄だ!レアっぽい。
「やっと階段です。・・・面倒なの居ます、です。」
何度か行き止まりを例の合体技でぶち抜くと広い空洞に出た。更に進むと、この洞窟最大の広い空間が広がっていた。そこでシアラの声が上がる。
シアラの目線の先に視線を移すと今までと違う下へ続くスロープが。
でもその前にネズミだ、しかも人間大の。
「お化けネズミ?でもちょっと、見たこと無い色ね。」
「倒せば・・・いいんだろ。」
赤茶色のお化けネズミがこちらに気付いて醜悪な叫び声をあげる。すると仲間が現れ2匹、3、4匹に。
1匹目に狙いを定めて引っ張って、ってい。その後間髪入れずにヘクトルが垂直斬り、横払い。
次の動きに移ろうとした時にネズミからの、大きく頭上で溜めた爪の1撃を喰らいそうになって。
「へっ、食らうか!」
叫ぶが早いかバックステップで大きく避ける。
駆けて下から斬りあげる、取り返して払い。
今度は後ろから噛み付かれ・・・あ、避けた、避けた。
「ヒール!」
アスカムがヒールを唱えて、援護した。
アスカム居たっけ?ヘクトルが1匹を倒して2匹目に挑む頃、シアラは3匹目を相手に、ジリジリと距離を詰めていた。
「貫くですっ!強衝貫ですっ。」
両手で溜め、飛び込んで来た所を捻りを、腰のひねりを加えた一撃がネズミの腹を貫通し、動きを止める。
脳髄、胸、右の太ももを刺す素早い三連衝でトドメを差し、肉塊に変わるお化けネズミ。
3匹目を倒した瞬間、気を抜いた刹那の時間。
「ぐぅうっ!?」
後ろに回り込んでいた5匹目に噛み付かれ激痛に悶え倒れるシアラの悲鳴。
「大丈夫?ヒール!」
「違うっ、この場合は。ペルナっ!」
そんなこと言われてもヒールしか無いんだしー。
アスカムが急いで近寄ってペルナを唱える。
すると、激しかったシアラの息使いが収まっていく、段々と。
「こっちは片付いわよ。」
5匹目をシェリルさんが倒したみたい、見てなかったけど。
残りは4匹目だけ、だけど・・・苦戦してるっぽいね?
動きにキレが無いんだ。
ヘクトルも噛み付かれのかも!!
「ヘクトルにもペルナを。」
やばいんだよ、やばそうなんだよ。アスカムの肩を掴んでそう言うと彼は振り返り、視線をヘクトルに変えて魔法を唱えた。
引っ張って、ていっ。引っ張って、ってい。
わたしだって。
「ち、マズったぜ。」
全滅させた後、ヘクトルは吐き捨てる様にネズミの骸に向かってイラつきながら
アイテム化したのは黒曜石(小)、黒錬鉱(小)、ネズミのしっぽ、お馴染み魔石。
おっ、小さいけど石といいサイズの魔石ゲット!
「シアラ大丈夫?」
「うぅん。ヘイキですぅう。・・・ちょっとふらふらするだけです。」
「ふらふらするんなら、毒消し貼っとけ、傷口に。」
「効きが悪いですね、もう一度ペルナっ!」
「ヤー。元気です、大丈夫ですー。さ、行きますですよっ。」
シアラは一ヶ所咬まれて、顔真っ青の上、息使いが激しくなっていたのに。
魔人だからか何ヵ所も咬まれ、引っ掻かれたヘクトルの方は戦闘も終わる頃には普段と変わらなくなっていた。
ペルナ・・・毒消しの魔法みたいけど、このお化けネズミに咬まれたり、引っ掻かれたりすると起こっていた異常は猛毒。
どうもペルナでも完全に消せてないのかも知れない、シアラの状態を見るに。
ヘクトルもシアラも口々に大丈夫と言って一同が安心してスロープに向かおうとした時に異変が起きた。
ズズズ・・・ゥズズウン!!!
「―――何の音?」
「またした。どこか崩れましたね。」
「遠いな、耳や感覚のいい者にしか解らないくらいの音だ。」
「ま、マズいです。・・・最悪、生き埋めになるです・・・」
「えっ?」
最初に気づいたのはシェリルさんで、さすがエルフ耳は伊達じゃない!
次はアスカムとヘクトル、遅れてシアラが難しい顔で反応する。
壁に体を寄せてアスカムは犬耳を研ぎ澄ませ。
「まだ遠いみたいだ。でも連続した鈍く重い音が聞こえた。ここに来るまでにあったよな?なかなか大きい広場、あれ。まるまる埋まったかも知れない・・・。」
何とも言えない表情のアスカムが歯ぎしりをして最悪の予想図を喋るけど、そんな。アスカムの言う事が当たっていたら生き埋めになったって事じゃない。
「それがどうしたの。生き埋めにはならない、今は前に進むっ。」
「・・・だな。」
ふんっと鼻を鳴らすとシェリルさんが命令口調でその場の空気を変え、シアラとアスカムも頷いてスロープを下へ歩き始めた。
何らかの奇襲も考え最後尾はヘクトル。
ま、お化けネズミの後は出てきてもグリーグスやコウモリの群ればかり。シアラとシェリルさんとわたしで何とかなる敵だったから良かった。
2階は大して迷う事も、崩落して通れない事も無く3階へ降りて暫くすると大きく廻りに反響する声が聞こえ、
「龍神様の声です、もうすぐですよ。」
安堵の笑みを溢すシアラがそう言って足を速める。
そもそも龍神様ってどんなドラゴンなんだろ?◯ェン◯ン、まさかね。
「ここの先に龍神様いるです。」
それは壁。シアラの指差す方を見ると崩落して通れなくなって、大きな岩が塞いでいる。
さっきまでのシェリルさんとヘクトルの合体技でぶち抜けるんじゃない。
「凍らせるわよ。・・・アイス・フリーズ。」
手を壁に翳し、アイスフリーズを唱えるシェリルさんは余裕顔で。パキパキパキっとみるみる内に氷で覆われていき氷壁と変わった土壁をすかさず取り出したハンマーでヘクトルがぶち抜くとその先には・・・