表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

229/229

再びのニクスは

はあ……。シアラとみやこちゃん居ないだけでこんなに疲れる道のりだったんだ。ここって───




サーゲートで出会ったお姫様、イライザとその側近ダンゼを連れて……二人は駆け落ち、とゆーか……面倒事をさけてとゆーか、生まれ育ったサーゲートを離れて逃避行。

そんな二人を見過ごせなかったわたしたちの取った行動は、サーゲートからの追っ手がたどり着けない場所へ二人を連れていってあげること……殆ど、みやこちゃんの思い付きなんだけどね、これ全部。

そんな……わたしたちの向かう先、ニクスへの通り道はやっぱりあの気味の悪い魚と戦うのは避けれなかった。


それだけならまあよかったんだけど、……良くないか、良いとはいえないよね……うーん。


そもそも、エウレローラの待つ地底湖を目指してマトーヤ洞窟へ乗り込んだ、以前わたしたちの通ったあのルートが存在してなかった。

なかったんだよ……行き止まりを壁の薄いとこ壊して先へ進む、前に通った時はそんなルートだったんだけど。

行き止まりになってたあの通路自体、歩き回って探したけど同じとこはなくって。

結局、ね。

ヘクトルの力技で壁をぶち抜きながら地底湖まで来るっていう有り様だし。

薄いとこを見つける、つまりマトーヤ洞窟の隣のダンジョン──マトーヤの洞窟に限らずこの辺りには色んな名称のダンジョンがあって、勿論……名前だって付いてないようなダンジョンだってある──に、むりやりまた繋げようと壁を叩いて、その向こうにあるはずの空間を探してるってゆーわけなんだけど……らちが明かないって呟いたヘクトルは穴を空けた。


大きな穴を。


それも、足下に。

そうだ……ってことは。

それまでそこに当たり前にあった存在してた地面がいきなりなくなる、つまり踏ん張ることもできずに支えられなくなった体重に引っ張られるまま落ちるってことで……まっ逆さまに。


そんなこんなで、薄暗いダンジョンの中をあっちこちさ迷いながら地底湖に着いた時には皆はもうくったくたな状態。

ヒールで治癒できるのは体だけ。

精神的なあれこれや蓄積される疲労は『治った』風に思えるだけで治ってないの。

栄養ドリンクの力みたいなもので先送りにしてるようなものなんだ。

人間、便利なあれこれに頼ってても休息は必要ってことなんだよね。やっぱり。


あ、……この中に純粋な人間はわたしだけって突っ込みは別に要らないからね……?


そんな感じのどこか疲れた空気の漂うなかわたしが愛那のことが途端に恋しく思ったのは、たくさんの材料とか珍しいスパイスとか持ってるのはあの子だったからかなあ?

地底湖に辿り着くまでで思った以上に時間掛かったわたしたちはここで一夜を過ごすことにしたんだ、追っ手だってここまでは来ない……はずだし。

来ないって思います。……来ない、よね?

そんな夕食の準備をしているイライザと、その横で何かの野菜をザクザク刻んでるダンゼも地底湖に着くまでは、ダンジョン中を徘徊してるモンスターに出会うたびにばったばったと倒してくれてとても助かってる……ま、モンスターと言ってもここまでのダンジョンじゃゴブリン、強くて大きなスライムだったていど。ホントに大変なのは……この先の水の中……なんだよね。


「まぷち、面倒でもやんないとメシは勝手には出てこないからな?」


「ごめんごめん。めんご、ちょっと考え事。またこの先にはあの魚、ペリディスとかが居るんだって思うと……ゆーうつで……あはは」


ヘクトル……そーゆうけど、予定ではもうニクスに着いてて美味しい日本食もどきを食べてる頃なんだよ?予定ではね。あくまでも。ちょーっとくらいふてぶてしくなってても見過してくれたってばちは当たらないと思うんだけどなー。


わたしたち四人は地底湖の岸からは離れたところにキャンプの出来そうな広くて平たい場所を見付けてキャンプファイアよろしく、石で組んだ釜戸を囲んで。

ちょっと勢いのある炎からは離れる。今はそこでイライザとダンゼ、ヘクトルとわたしと別れて食事の準備ちう。

丁度いいテーブルは重宝することを冒険者してたら悟ったのでBOXにいくつか放りこんである。

小金持ちなくらいに稼いでいたら気に入ったデザインのを買うとこだけど、悲しいことに余裕ある生活にはまだほど遠いわたしの冒険者生活。

ぐっと我慢。で、当たり障りないていどの安テーブルがふたつ、今この場にある。

まな板だって愛那のとこに出向いてB級品を貰ってきたくらいだもん。そこ、ケチって言わない。節約なのです、あくまでこれは節約ですからっ!


生産で成功した愛那と依頼しだいの冒険者してるわたしとじゃ、解るでしょ。メチャメチャ差がついてるんだって。これくらい貰っても悪くないよ、うん。


今この場にある素材は冒険者もしてたし、持ち腐れになってるていどにはBOXの中に仕舞ってたのを放出することでまともな夕食を食べれるってわけなんだけど。

手持ちの肉はちょっと少なめ、シロイの餌もバカになんないから。


しょーがないことなんだけど。

来る前に何日ニクスに留まるかわかんないからベイスさんにシロイを押し付けた。代わりに金貨も数枚、それにオーク肉やウルフ肉みたいなサクサク手に入る素材肉、ドロップ肉は保存に困るって嫌な顔されたけど足りなかったらシロイが可哀想だから押し付ける。

……シロイが暴れちゃう方が心配かもしんない。

そんなこんなで貴重な肉以外は手元に無いので、今?これ食べちゃうの?ここで?って勿体無いとわたしを諭してくるもう一人のわたしと必死に戦っている。

残っている肉はこれが最低グレードだ。


ベルテルという、大型な牛より大きなサイズの鳥の貴重な肉。

デュンケリオンで冒険者をしてた時たまたまエンカウントしてドロップしてくれたレア肉なんだ。って、一緒に戦ったグラウシェって山羊タイプの獣人さんから聞いた。

レアだし、焼いて食べたら旨いって。

金額では見合ったグリムは出てこないけど、貴重な肉ですごい価値があるんだって。


そんなこと言われてたから、これを味わうときは皆でって思ってたのに、お世話になってる皆に振る舞おうって決めてたのに。

これを省くと、一応ドラゴン肉なワイバーンの肉だったりダンジョンのボスだった大蛇の肉とか同クラスのトカゲ肉。

こっちは素材としても金額で高値って聞いてる。

正直、悩みまくりだよ。

貴重な肉を放出か高値い肉を放出かってそんな切実なお財布を秤にかけた悩み。


地底湖は水は流れ込んでいるみたいなのはみたいなんだけど光り物、照明になりそうな苔が天井や壁やに生えてて淡い光で照らしてくれてる。

だけど、これだけだと手元までよく見えない。

やっぱり生活魔法で明かりを確保する必要があるんだ。

頭より高いとこで浮いてるまあるい光の珠はライトの魔法。それはふよふよと漂うように。


「ああ、しかもシェリルもシアラも居ないわけだしな。代わりにあいつらがいるわけだが……正直、俺は実力を見ているわけじゃない。やれる、んだろ?」


ヘクトルはそんなライトの光に照らされながら目を細める。

あいつら、そう言うと右手の親指の先でクイックイと。

もちろんのその先にはイライザとダンゼ。

二人のいちゃいちゃしてる光景が見えた。

最近のふたりは放って置くと二人だけの空間を作ってる、なんとゆーかそれは絶対不可進のATフィールド。みやこちゃんがそんな風に茶化してたっけ。

二人を見てるとなんか、わたしが悩みまくってることがホントに小さくて些細なことに思えて悩むのを止めた。

手に取ったベルテル肉をスライスすることにした。


「強いよ、イライザは。ダンゼだって、そのイライザに付いてあちこち回ってるって話だし。うん、足を引っ張る事は無いと思う」


二人だけにしておくと、あんな風に華やぐ雰囲気を漂よわせててデレッとした顔で尻尾をパタパタしてるけど、実際にイライザは強いんだ。

みやこちゃんが苦戦に苦戦を重ねて結局負けちゃった相手だし、変身しなくても剣の鋭さとスピードだけでもその辺のモンスターじゃ手も足も出ないって格上の風格。

側近のダンゼだって、変身すればオークていどにはあっさり勝てる。

獣人である二人は獣化っていって変身して獣になっちゃうのだ。

獣に変身したって四つ足になるってわけでもないけど代わりに筋骨隆々な筋肉ダルマの体つきになって、全身をびっしり厚い毛で覆われちゃうし顔まで別物になるし。

獣の特徴な鋭く尖った牙や、肌を容易く切っちゃう硬くて鋭利な爪がにょきにょきって生えてくる。

水中でそんなに強いかは、想像できないとこあるけど……わたしよかは強いよね。きっと。……多分。


と、思いながらヘクトルに返事もして。

そんな手元は大きな鳥肉をまずは切りやすいサイズに目分量で刻んでいるわたし。さくさくと。

見よ、このナイフ捌き。

最初なかなか馴染んでくれなかったナイフ類だって冒険者してたら自然と指に手に馴染んで今は何でもなく扱えちゃってるのだ。成長成長、日々これ成長。なんちゃっつって。アハハハ♪


「……そんなの、当然だろ。今はガイド無しで危険で帰る保証もないエベレスト上ろうとしてる気分だっ。

ま、……それは言いすぎだろうな。でもな、無茶をやろうとしてんだ。戦力として数えれないつーんなら、クソ強い魚に会った時点でまた来世。って、ことになりかねないって心に刻んどけ。遠足じゃねーから、気ぬくなよな?」


「ふふ」


「何がおかしい?」


無口でないにしても大事なこと以外は口数が減るヘクトルがちょっと会わない内におしゃべりになってたので、少し。可笑しかった。自然、無駄に頬が緩んでしまう。


「おしゃべりになったなぁって、ね♪」


こちらを向いたヘクトルと瞳がぶつかる。

その目には語気と同じで強さは見えない。

どちらかとゆーと、だらけたまではいかないけど覇気ってゆーかね、それが感じられない。

いわゆる普通のヘクトル。

そんな薄紫色した顔が照れたように下を向いて視線を外す。


以外と顔近かったかも?なそんな距離。


「シェリルが居ないからな。言っとかなきゃダメなことをあいつの代わりに言ってるだけさ」


「ヘクトル、変わった♪」


「ふん、強くなった。つもりなんだぜ」


おっと、外した視線が戻ってきた。

ヘクトルが顔をあげてこっちを見てくる。

視線がバチっと合うと左手で顎を擦って何か決め顔作ってる。

顔の真横まであげた右手には出刃包丁。

なんでそんなの持ってるの?ここは日本じゃないですよ。


そんなヘクトルのまな板の上には細かく刻まれたにんにくもどき、確かヤームーの木の実とか言ったっけ。

ヤームーの木の実もそうだけど、ヘクトルもBOXからいろいろと放出してくれてる。

スパイス的なのはわたしは手持ちになかったから、そっちをヘクトルが手持ちにストックしてあってホントに助かったよー。


「お互い様、だよ?それはわたしだって……ちょっとぐらい、できるようになってるんだからねー!」


見ててよ、ヘクトル。このナイフ捌きっ!タ、タタタン!柵状に見えなくもない形までバラしたベルテル肉。

ゴロゴロした肉もいいけど、焼き肉もしてみたい。

楽しみにしてたんだ。なんたってクドゥーナ商会公式の焼き肉のタレも購入済み。

刺身の柵状態の大きさな肉を食べやすいサイズにタタタタン!

と、すると。まな板の上にはドミノ板サイズに切り揃えた肉が並ぶのです。


「そうか。頼りにしてるよ」


あ、ヘクトル見てないし。

わたしの勇姿もとい、職人さんばりなナイフ捌きを……うーん、肉繋がっちゃってんじゃん。まだまだダメだなあ。


「こっちは準備終わったんだけどな。……そろそろ、刻んだ野菜を鍋に入れた方が良くないか」


「あ、ダンゼ。ごめんごめん、今……やっちゃうから」


そうしてるとこにダンゼが声をかけてくる。

声のした方に顔を向けると愛想笑いを張り付けたような普段のまんまのダンゼがいた。

そうそう、鍋。デュンケリオンでは愛那か、みやこちゃんが始めたのか、日本風の鍋が露天なんかで新しいスープとして売られている。

実際、アスミさんかも知んない。

そんな出所のわからない鍋料理だけど一様な存在感でもってデュンケリオン市民にすっかり受け入れられて『鍋』といったら、日本風のこの鍋料理を指す、いまやデュンケリオンでだって通じるだけのアイコンになってるのだ。

なんといっても全てはクドゥーナ商会の成功のおかげなんですけど。


最初でコケてたら愛那もここまでのバリエーションを拡げることは出来なかったはず。

ダンゼもイライザも便利なクドゥーナ商会のあれこれを持ってきてた。

これって生産チートってゆーんだっけ?日本風の商品を生産で再現しちゃうとか正にチートだよ。

ま、そんなアイコンにまでなっちゃった鍋はイライザもダンゼにも大好評だったみたいで今この場にもポン酢がある。

いってもポン酢もどきだと思うけど、その味はびっくりするほどソックリだと食べたことあるから知ってるんだな、わたしは。


ダンゼに急かされるままに華麗なナイフ捌きを見せて、鍋に投入する分のベルテル肉を用意する。

焼き肉用のとは別に。

こっちは鍋にピッタリなゴロゴロサイズ。


「ごめんな、メシが遅れて。実は、作戦会議をしていたんだ。……お前らの実力を知らないからな。俺は」


「では、一戦お相手して貰えますでしょうか。食事の後で」


「そういうことにしておこう。なら───」


「──酒だよな!」


「前言撤回、撤回。……ヘクトル、変わってない」


わたしが肉を用意する横でヘクトルがダンゼに牽制攻撃。

もう、わたしは食事の気分になってるのに。もう!

まーた、蒸し返してご飯を後回しにするかな、ヘクトルは。

……と、思っていたら。

違ったのね、やっぱりヘクトルは酒とは切っても切れないみたいで。

そんなことを言ったあとでダンゼに拳を突きつける。

同じように拳をつくるダンゼ。

二人はごつんと拳をぶつけて叫んだ。酒だ!って。


変わってない……むしろ、悪化してるかな。

みやこちゃんがもう一人増えたみたいな。


食事が終わると。約束通り二人は一戦始める──だけど。

始める前に酔い潰れてフラフラ。……飲み過ぎじゃん。

明日、ペリディスに勝てるのかなー。こんなので。





で、次の日の昼頃。

わたしたちは立って居た。ニクスに。

ペリディスも出てきたけど、わたしたちの成長があっさり以前のわたしたちを越えてたってわけ。

イライザやダンゼが泳げない、金づちみたいなオチがつく。って、……思うところもあったけどそんなことは無かった。

優雅にバタフライ、得意気にクロールなんてのはさすがに無い。

だけど、平泳ぎですいすい泳いでた。

危ない場面もあったにはあったけど、死中に活路を見いだすというかそんな時には遅れ気味なイライザもものっすごいスピードで一心不乱。

ま、なんてゆーか。そんなあれこれがありながらわたしたちは着いた。ニクスに。


見た目は結構ズタボロになってしまった。

だけど、ここまで来たんだ。

みやこちゃん抜きでもやれないこと無い無い。

ちょっと自信ついた。

───そんな、わたしのニクス行です。ベルテル肉はなんやかんやで美味しかったー♪



ヘクトルもゲーム中ドロップの素材を溜め込んでます。愛那、みやことは違う、必要ない素材でも店売りせずにたくさん。

必要になるかも知れないって思ってですねえ。小さな魔石からボスドロップ参加賞まで色々と。

やっと、……ニクスきたかあ。ニクス行くって決まったの夏……で、いま冬。……ちょっとハンパない遅さ。スミマセン……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ