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漆黒の死神

「───てことは。それじゃ、あの二人を連れてニクスに行くんだな?」


「──そういうことになるわね」


向き合うみやこちゃんとヘクトル。

ぱちっと片眼でウインクをヘクトルにしてみせる。

そんな二人をわたしは声を掛けるでも無く、むうう。

っと低く唸って見守っていた。


今わたしは屋敷のリビングのソファに腰を沈めて、硬くなった革に背をもたれかけさせて二人の話を耳に入れている。

目線は何を捉えるでもなく俯き気味にしたまま、家政婦は見てしまった!的な盗み聞きを実行ちう。

あの、二人って……?

成る程。そうかな、イライザとダンゼを連れていくことをヘクトルに伝えてるってわけ。

だけど、だけどね……?


そんなことを話すのにどーしてそーなるかな?ひそひそ。

いや、まあまあ……。

みやこちゃんとも、ここんとこスレ違いもあって話し込むタイミング逃してたけども!

ヘクトルもどーしてみやこちゃんにばっか視線合わせてるのかな……って、そりゃそっか。

今、話してるのは二人っきりだもんね。


「で、どうなの?オーバースキルは───」


なんっかイライラする。

疎外感。

わたしは、除け者?

わたし、要らないこ?


「なんの為に契約神に挑んできたかを、よーく考えてから発言しろよ?」


実際、そう思われてなくても集まる機会が無かったしお互いに忙しくって夜だってきゃっきゃっ騒ぐことも無かったよーな?

いや、無くは無いんだけどわたし、態度悪かったかも……疲れてるから寝かせてっ、て。

なんだそのサラリーマン、しかも男子みたいな言い訳……。

思い出すと色々と酷くね?

わたし。


「強く、なってるのかしら。表にはそれは現れてないようですけど?」


でも、しっかりみやこちゃんはわたしの事を抱き枕にしないと寝られなくなったとかって駄々こねてわたしがベッドインしてるのを見つけるとちゃっかり潜り込んでくるんだよ、そうだよ……猫か……飼い猫っぽいよ、みやこちゃん。


「連絡する手も無いようなとこで試練を受けてだな───」


我が儘なとこもそうだし。

すぐ不機嫌になってツンツンするとこもそう言えば!


一致するとこ沢山ある。

淋しがりで体温さぐってくるとこもそう。

あ……、猫ほどは寝てないかな?


「試練、ね。思うに聖域に居たってとこでしょ」


眠気より、本能に従ってやりたいようにやるのがみやこちゃんな特徴と言えば特徴だったし。


「いわゆる聖域だよ、そうだよ。そこに今まで……時間の概念を消された状態で居たんだ」


ま、まあそんな感じでみやこちゃん側から間に入るのは空気読めないこって思われそうだから。

こんな時はヘクトル、おまいがフォローしてよ。


「時間を凍結されるってことは経験値も貰えないかぁ……って、よく続けられたわね?立派な悪質バグダンジョンじゃない?」


ねぇ、ねえってば!

って、……テレパシーは一方通行。


「逃げようにも、どうやったら帰れるのか……全く。困ったぜ……それでも、希望は有った。前を向けば嫌でもダンジョンが続いてる。ああ、俺はまだ終わってない。終われない、って思えたからなー。へへっ」


まだまだ、難しくてわたしがちょっと言葉が出てこない話を続けてくれちゃってる。

ヘクトルには通じませんでしたとさ。

いやいや、空気読んでよ。

わたし、居るんだよ?

ここに。

わたし、空気じゃない!


「ヘクトル、あなたみたいのを一言で表せる言葉があるの。聞きたい?

聞きたいわよね?それってね、……バカよ。未だにゲーセンにでも通ってるつもりでいるんじゃないの?ダンジョンが続いてるから、終ってない。なんて、そんなの。くるくるぱあよ?この頭の中身は何ですか?ゲームのチップか、IC?……まさか、ビットで出来てたりしないわよ、ね?」


ヘクトルともちょっと挨拶とか、必要事項を話しただけで。

ちゃんと時間を取ってじっくり話してないなぁ。

いざとなったら、うーん。

どうしても女子だとべりべり超okみたいに何でも来い来い!なのに、男子とは面と向かって話せなくなるなんてやっぱりわたしって臆病者。


「酷くね?さすがに俺だってグッサリ刺さったぞ。今のは……。電気回路内蔵の脳みそなんて、したら俺は改造人間かよ。そりゃいい、くくくっ」


ヘクトルを男子とは思わなくていい、ただ仲良い何でも話せる仲間だって……思い込もうと意識した事もありましたよ?

努力してるんだよ、今だって。


「改造人間ですかぁ?特撮ヒーローっぽい答えじゃない。なんか、クマーを思い出すわ。フレなんでしょ?お似合いよね、話合いそうですよ?お二人さん」


二人の会話に口を挟む隙を探してるんだもん。

わたしが付いていける話題が始まるのを今か今かと。


「肥後クマさんの事か?まあ、熱い血が流れてそうな性格してる気はしてた。そういや、チャットでも擬音多かった。あれは、BGMのつもりだったんだな」


えっ?

わたしって腹黒い?

そうは思わないんだけどなー。

女子はチャンスをいつだって狙っているんですって。

ヘクトルが好きか、これが恋かは別としても……ね?

わかるでしょ。


「あの、さ。クマーは帰れるとしても帰るの渋るかもなのよ。なんか、ハマってる街なのよね……ぴったり。あの子を街自体が求めて放さないって言ってもいいぐらい。ヘクトル、あなたは男だから特撮の中の人になりたい、そうやって憧れたりもしたことあるでしょ?無いとは言わせないわよ、非常識な頭の回路してるくせにね」


一年もこっちの世界に居着いちゃって心配しないわけないじゃん。

いつだってそのことを思い出すと頭に浮かぶ言葉がある。


───いつになったら帰れるのかな、もし、もしかしたら。もしかすると、……ううん、帰るの!

帰れない、なんて無い!

そうじゃないと、じゃないと……今のわたしが、過去のわたしが、未来のわたしを許せない!

やってきたこと、積み上げてきたこと、今の今までの全部、頑張ってきたことが無駄になるじゃん!


そうやって自問自答を繰り返してきたっけ。


「ん、……うん。ま、そうか。アイツは、肥後クマさんは……本物を見つけたってわけか」


つまり、同郷のヘクトルをそういう意味で求めてるんだ。

ゲーテや、ジピコスや、ダンゼとかじゃなくササミンでなく……ヘクトルじゃないとダメ。

埋めることの出来ない、心の隙間のピースはどうしてもヘクトルじゃないと。

だからだよ、うん。

疎外感でイライラしちゃうのはこれは嫉妬とかじゃなくてそう。

もうね、解っちゃった。

これって……そうだよ。


「ぷっ♪本物ってなによ。今度はエロゲ脳ですかぁ?悪を少しずつでも掃除出来るだけのね、能力を持ってて、それで悪を見つけると……。はい、頭の中がヒーロー一色のあの子が見て見ぬふりが出来ると思う?………………答えはノー。というより、嬉々としてギャング達を蹴散らしてたような風にも見えたかしら」


我が儘。

だって、ヘクトルを独占したいとかそんなのじゃなくって。

ただ、話してる輪からこぼれてる今が淋しい。

悔しい。

痛い。

ただ、そう……身を引き裂かれるように苦しい……。

それだけ。


「肥後クマさんが、そこまで熱いとかは。気づけなかったな、チャットしてるだけじゃ。いやいや、嫌でも連れて帰る。じゃなきゃ、家族に悪いだろ」


うーん。

アスミさんの事を話してるの?

わたしが知ってるアスミさんはスッゴい怖いけど、スッゴいスッゴい優しくて。

遺伝子に【人助け】って刻み込まれてるくらいには特撮TVの中のヒーローしてたっけ。

自分からは自慢したりしなくって、気付いてくれたら満足みたいなそんな自己犠牲にも映る思考回路してる子。

しっかりしすぎてて、まさか……年下とは思えなくてね。

ちゃん、呼びは出来なかったなー。


「後で帰る、片付けてから帰るって言っても不思議じゃないのが怖い所なのよ。わたしも少しやってみたの。やっぱね、悪党退治はスカッとするの。それが止めようとしても止めれない麻薬みたいにハマっちゃうとこ、かも知れないですけど?」


何にもしてない時は泥みたいに眠れるって言う特技っぽくない特技持ってたなーそう言えば。

天然物だけど。


「麻薬、か。そんだけ悪がアイツを放っておいてくんねぇってなら───俺たちが力になってやればいいんじゃないか。悪党が居るから残るって言うんだろ。綺麗さっぱり、ズバッとやったら心残りもなくなるよな?」


ダメだ……話題に隙がない。

わたしがバカなのか、次元が二人とは違うのか。

なんか、口を挟むとっかかりが欲しい。


「───理由はわかった。行ける、のか?偶然たどり着くってのもあるだろーけどよ……」


それからもしばらくあーだこーだヒーロー感か、正義感か精神論が二人の話題を占拠してるのが続く。

それからそれから、ちょっと眠ってたっぽい。

頭を必死に使って考えることがあったからオーバーヒートして強制フリーズしたのかも知んない。

その間にずいぶん口を挟むのは簡単だけど、うん、かなり口を挟みやすくなってたんだけど。


あ。これ今行くしかない!

ここを逃すな、って口が滑った。


「行ける。うん、行けるよ。強い想いが導いてくれるんだよー」


ふふん。

タイミングは逃していない。

ここしかなかった、絶妙、まさにピンポイント!


「お前、クドゥーナに似てきたな」


「えっ、嘘!」


あ、あれ?

おかしいな、クドゥーナっぽくなったって何だろ?


わたし、今までのわたしと何が違うかわかんないよヘクトル。


「今はわたしとヘクトルが話してるの、よ?」


暗に、邪魔するな。

と、顔が語っている。

つう、とわたしに向けられた視線が刺さるように痛くて冷たい。


話の腰を折ってしまった?

もし、そうならみやこちゃんの態度も解る。

……て、うーん。

話の腰を折るような感じはわたし的にしなかったけどなー?


「……あ、ははは」







「────で、……?

どうして昨日はあんなに元気だったシェリルさんが病欠なの?」


「後から追っかけるってよ。行こうぜ」


「……うん」


その後、出掛ける一行を見送りながら屋敷から這い出してくる……完全装備の黒翼の姿があった。


笹茶屋は笹茶屋で、ニクス行きを楽しみにしていたなんだかんだといいながらも。

それを蹴って、突然ドタキャンしたことの裏を返せば遠足か修学旅行気分ではいられない事態がすぐそこまで近寄っていたからに他ならない。

それから3日後に笹茶屋はやっとでニクス行きの一行に追い付いた。

ぽっかり空いたその3日はただ移動日というわけでもない。

血で血を洗う、いうなれば……ぼっちで戦争をやってきたのだ。

相手はイーリス教徒一万。

その内、二千が黒翼の剣の前に物言わぬ亡骸に変えられると教徒たちの中には我に還るものが出始め、その場に武器を放り出して逃げ出した。

笹茶屋が背負った氷壁をただ一人として越えてカルガインへとたどり着く兵は居なかった。

楽勝気分だった指揮官も脂汗を流しているわけで、恐怖を圧し殺して戦場に立っていた。

額を手の甲で拭いながら、配下を突撃させる。

次第に従うものは少なくなり、周りでは武器を落としてしまい凍り付いたように積み上がった亡骸の山に目を見開いてただ呆然としている兵の姿が目立つようになる。

怒声が戦場に響き渡るが虚しく流れかききえた。

教団の威光も、目の前の圧倒的な恐怖の対象を前にしてどこかに忘れさられたよう。

こうして、黒翼ただひとりに遠征軍は大敗北を喫した。

次の朝には援軍を加えて再編されたイーリス教徒一万足らずが対面する。

そこに彼らの見たものは漆黒の死神、黒翼とその腰掛けている夥しい数の同胞だった亡骸が積み重ねられて作り上げられた小高い山。

もとは平地である戦場に山と積み上がった骸は見上げるほどの高さになってしまったのだ。

あるものは見るだけで震え上がりて武器を取り落とし、あるものは呆然としている。


そこに昨日の指揮官の姿はなかった。

逃げ帰ったのか、不義を問われて処刑されたかは解らない。

だが、それが不幸だった。

黒翼の怖さを知らないという不幸。

指揮官が震える指を翳してふりおろす。

それと同時にときのこえがあがった。

教団兵がいっせいに黒翼の座する小高い山となった亡骸に殺到する。

勝負はその時に決した。

黒翼が舞い降りた先、それは指揮官が立つ陣幕の前だった。

一瞬でこの距離を黒翼は飛んだ。

飛燕のようであった。

もとより、笹茶屋の瞳には人として映ってはいなかった。

ただの敵。

雑魚い敵キャラとしてか取り扱われていない。

人として人殺しをしているという意識を持っていればやってのけれないそんなとんでもない事をここ2日の間に体験していた。

笹茶屋ひとり対一万という、有り得ないこの戦いをして戦争と言えるだろうか?

ひとりで一万と渡り合える、いや……一方的に踏みにじり、息の根を止めた。そんな事は戦争と言うよりは───虐殺。

または、屠殺といえばいいかも知れない。


この戦いをして、イーリス教徒からは黒翼を指して『死神の翼』と呼び、恐れ始められたのだった。


しかし、黒翼に付加価値が付いた、名が広まった事で恐れる者だけではない。

死神の翼と戦って暇潰しをしたいと思うものもチラホラと沸いて出てくるのも当然といえば当然なのかも知れない。



魔人たちが、好敵手を見付けて色めき立った。


やりたいことが何だかわかんないよ。

こんなプロットじゃ。


お久しぶりです。

そろそろエンジン入れたい、入りそうな季節になってきた感じですってゆーか、夏には終わらせるつもりだったエリア書いてると……なんか鬱に。


軽くね、ホント軽く。


風邪で湧いてる間に新作思い付いて、せかせか設定作って書いてたのは今思えばなんだったんだろーかなって。

さぁ、ミリしらに取りかかろっと。



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