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カルガインにて、

「うぁあああーーーっ!」


………………!

街に入ってディアドの酒場に向かってたら、とんでもないのに会っちゃった。


フードを被ったノルンユーザーと、もうひとりは金髪の長身で。

新しいユーザーと会うの久々って気持ちと、街の往来でなにやってんの、迷惑考えなさいよっという気持ち。


ユーザーの方の名前は見えてる。

それによると、エクト。

と、いうらしい……いや、らしいって……ハンネなのは確定してるんだけど。


金髪の長身の方は、ユーザーじゃないからちょっとわかんないかな。


とりあえず、ウズウズしちゃってるみやこちゃんを『ダメだよ』って待てを掛けた。


犬か、犬なのか?

みやこちゃんはじろっと睨んできたけど、ひとまず見守るってことで納得してくれた。

……いつまでもつかな……?


戦闘狂で露出狂って救えないな……ネジ閉め直したいんだけど……見当たらないや、……なんて。

そんな、一連のみやこちゃんを見てたら思っちゃうわけで。


あ、もひとつ。

アル中もあるよね、みやこちゃんを救えないトコ。

お酒は、悪くは無いけどみやこちゃんを見てたら引く!

ペース、おかしいし。


そんな、みやこちゃんを思いだしドン引きしてたとこに、その時。

ガキンっ!

金属と金属とが打ち合う音。


さっきまではエクトって人の方は鉄の棒みたいのを振り回してたけど、金髪の長身の人は前に進みながらひらりひらりと、飛んでいる小虫でも躱すみたいに首を傾けて躱しながら見切ったっぽい仕草でエクトに向かって歩きながら話しかけてるって感じで。


エクトって人が一方的に金髪の長身の方に仕掛けてるように見えてたんだけど、ついに。

金髪の長身の方も武器を構えた。

銀色の刀身のロングソード。

刃は手首くらいの太さがあって、寝かせて横にした剣を右手で刀身を押さえて、下からエクトの金属の棒を受け止めてる。

いい加減にしないか、とか聞こえるけどどっち?


そうそう。

そういえばもう、お昼も回っていい時間だからかな。

野次馬の列がぐるりと出来てる。

もちろん、わたしたちもそこの中の一人の野次馬なんだけども。


「───ふん」


「っ──!これなら、っどうだー!」


野次馬をかき分けて一番前まで出るとちょうど、エクトの方が立ったままでぐるんと横回転。

その勢いで鉄の棒を金髪の長身に叩きつけるとこだった。

ま、それも縦に構え直したロングソードの腹を叩いてガキンッて音を出しただけに終わったんだけども。


で、そこからが……ダメ。


エクトは魔法を、こんな野次馬でごった返す人垣の出来たちょっとした大通りの真ん中で後先考えてないっぽく発動させる。


ブレイズ・ヘル!


右の掌全体から黒く暗いもやがモワーッと湧き出す。

それはゆらっと揺らめき。


螺旋をぐるぐると描いて。

熱を持っているっぽく離れてるのに一瞬、熱を感じた。

正気?


周り、こんなに人が居るのに。

ちらっと見ただけでも、なんだなんだと騒いでる人たちで百以上、ううんもっと。


「しゃあしゃあと。まったく、正気を疑う。ここがどこだか───わすれたか?街中だろうーがっ」


金髪の方に向かって迫る黒く暗い熱が、銀色の閃光が煌めくと蒸気てゆーか何かの気体に変わって辺りに散って消える。

金髪が剣で魔法を斬った瞬間の出来事。


あれ、ただの剣では無いね……みやこちゃんの長剣より良いものじゃないけど、……魔法を斬ったんだからミスリル……だと刀身の色が違うか。

てなると、セライアの可能性が高いんだよね……手に入りづらいってドスタ言ってたっけ。


「なら───外に出るか?やってやるっ」


エクトが魔法を消されるその後ろから飛び出て手に握った鉄の棒を叩きつけた。


チィィィィィッン!

金髪のロングソードが鉄の棒を受けて擦り合わせながらぶうんと払われてそんな音を発てる。


そこからは、書くにあたってどうかな……と思う、……罵詈雑言を浴びせ合いながらエクトが繰り出す連続攻撃を全て、金髪の長身の方がロングソードで激しく金属音を響かせながら斬り払い続けるって時間があった。


「いい加減にしなよ、二人とも!」


誰か女の人の声が響き渡って二人が反応する。

どちらかの連れなのかな、みやこちゃんの凛々しい声と似てたけどちょっと違って、なんか澄んでる声で心地いい声だなって思った。


「五月蝿い……」


「ひっこんでろっ」


「これ以上、街をどうにかするつもりなら───お二人様、案内したげるわ♪黄泉でも天国でもねっ!」


二人が女の子の声に言い返して動きが止まったその時。

みやこちゃんの凛々しい声がその場を駆け抜けた。

うん、駆け抜けたって表現がぴったり!


血は流れてないけど、ずいぶん激しくバトってた二人はなんてゆーか……街中で戦うってことがどーゆーことになるか判ってない。

違うかな、そもそも頭にそんなこと思い浮かべる余裕もなくってかな?


金髪の長身の方の斬撃で足元の石畳はめくれ上がったり、大きく傷がついて痛んでしまってるし、エクトの鉄の棒だって勢い余って石畳に刺さった時は小さくクレーターぽくへこんで穴を作っちゃう。

そんな事おかまいなしに大立ち回りをしてたんだ、街中で。

修復に何日かかるかな?


にしても、みやこちゃんの鬼気としてやる気みなぎるオーラを放ってるのこっちまで感じるのに、真逆に嫣然とした笑みを浮かべるあの嬉しそうな顔……耐えかねたとか、じゃないよね?


これ、絶対。

楽しそうに見えたから混ざりたくってたまんないだよ……戦闘民族だっけ、日本人って?

もっとわたしみたいに平和主義だと思ってたんだけどな……。


みやこちゃんからは平和とか安定とか静かなイメージは、ホントに浮かんだら頭からすぐに消える。

騒がしいのが好きなのか、騒がしいのを呼び込む性格なのかってそれは知らないけど。


「やる?」


「───ふん、少々はしゃいでしまったようです。私を止めるあなた、お名前を聞いても?」


みやこちゃんが人差し指をびしぃっと二人を指ししめしながら叫ぶ。

人垣から踏み出して、つかつかと近寄っていく。

同時に鬼気というようなオーラが強くなるのを感じて。

みやこちゃんの背を見つめながらブルッ。

身震いした。


金髪の長身が、構えた剣をゆっくり下ろしてみやこちゃんにゆっくり向き直る。

その瞳は笑っている、にやりと。


「俺を、……止め……よ?……アレ、お前!」


「わたしの名はシェリル。無茶しないでよ?わたしの家だってあるんだから」


みやこちゃんを見て、エクトが何かを気付いたように固まる。

声からも力がぬけていくような気がした。


そんな、エクトは完全スルーっぽく金髪の方に目線を向けてそう言って名乗った、みやこちゃんの手にはいつのまに……いつかの、細い槍が握られていて。


「シェリルさん、ですか。覚えました。私は、クーブリル」


「覚えておきますよ、クーブリルさん」


では。そう言ってみやこちゃんと名乗り合った金髪さんは人垣の向こうに姿を消した。

とくに鍛えたっぽく見えない外見だけど、発するオーラは全身から吹き出して。

みやこちゃんの黒く暗いオーラと対照的に、クーブリルと名乗った金髪さんのオーラは白く眩いオーラ。






その後、しばらくして野次馬の人垣は何もここで起きてなかったように散らばって無くなっていく。

カルガインの中心部に少し距離はあるけど大通りの往来でバトってたとか、どんだけ迷惑なことしてたんだこの人たち!


人垣も無くなって、避難していた露天なんかが店を出し始めると騒動があったなんて嘘みたいに普段のカルガインの街に戻るあたり、パワフルというか慣れてるとゆーかね……でも、バトってた証拠はないわけじゃないの、足元にはくっきりと傷がついてるし、めくれたままの石とか、穴ぼこがへこみを作ってる。


「おい。シェリル、だっけ?ま、そーか。見たままだった……ユーザーとか久し振りに見たよ。また来てたんだな」


わたしがそんな風に街の変わらない空気を感じ取っている間、エクトとみやこちゃんでまた……ひと悶着ってゆーか、ヤな空気になってて。


「えっと……エクトさん?魔法は無いんじゃない。火遊びが、火傷になると熱い……でしょう?」


みやこちゃんの性格から、すぐにでも槍を突きだしたくてウズウズしてたんだと思うんだ、だって、バトルが終わって時間も経ったのに槍は握ったまま。

声に反応してちらっと横顔を見るとまだあの微笑みを浮かべてて。

魅力的で心を持っていかれそうに吸心力を持ってて、それでおまけに艶もあって……化粧なんてしてないはずなのに頬にチークでもしたっぽく朱色に染まってる。

そんな、みやこちゃんはエクトを見下ろすように向き合って唇をにぃと持ち上げた。


槍を握った手がゆっくりと持ち上がっていく。

ぴたりと止まったのは、エクトの胸の辺りの高さ。


……うわ、みやこちゃん。

それは無いよ、もう終わったんだから挑発しなくても……いいじゃん。


「こっちだってな。やりたくて暴れてんじゃないからな?」


エクトの右腕がみやこちゃんと交差するように上がっていく。

その手にはやっぱりあの鉄の棒。

わわわ……、やる気じゃん、エクトまで!


「シェリルさん!」


「エクト!」


声がかぶった。

わたしと、もう一人はエクトの連れだったかな?

バトルの最中にも何回か聞こえた声。

澄んでいて心地いいと思ったあの声がした。


エクトを止めようと右腕を掴む、その声の持ち主は可愛らしくて真面目そうな顔をしていた。

整った顔の上に金色をしたボブカットくらいのふわっとした髪が乗ってて、意思が強そうに主張するように輝く、大きな青い瞳。


エクトよりも頭ひとつ高いかな、伸長は。

それでみやこちゃんと同じように長い耳、それは一目でエルフという証拠になるような特徴。


おっといけないいけない、わたしもみやこちゃんの機嫌を取って落ち着けないと!


「やめてやめて。シェリルさん、暴れないよね?街、ここ街なんだよ?止めておいて再開させるとか、今日のシェリルさんどうかしてるよ、解ってる?周り見てよ、こんなに道ボロボロになってて元通り直すのに時間かかるって思わない?これ以上暴れないでって言った本人が暴れるとか本末転倒もいいとこじゃん!」


みやこちゃんは駆け寄ったわたしの声に我を取り戻したっぽく、びくんと震えてじろりと見下ろしてくる。

機嫌を取るつもりが、ちょっと今の感情を抑えられなかったかな。


「シャリア、あいつは……俺が倒すから」


シャリア、そう。

腕を掴んできた金髪のエルフの少女の名前をエクトはそう呼んで、掴まれている腕を横に大きく動かしてエルフ少女をはね除けて鉄の棒を体の前で構え直した。


「どう?あっちはやる気みたいよ。街、そうね……街の中じゃないならいいってことか。なら、これでっ!」


そんなのって、アリ?

みやこちゃんはエクトが挑発に乗った事と、わたしの言った言葉の意味をまぜこぜに考えてるように呟いて、にたっと歪んだ笑みに変わる。

次の瞬間、エクトは宙を舞っていた。


真っ直ぐエクトの懐に入り込み、腰の辺りを握ったかと思うとそのまま投げた。

見えたんだよね、そんな風に。


後で聞くと、腰ぷらす腕を持って変則的な背負い投げでとばしたんだってさ。

ふつーやろーって思い付いてもやんないよね?

そんなの。


だけど、そこは。

今いるのはふつーじゃない異世界でわたしたちも、ま……ふつーじゃないから。

怪我しても、血がスゴい出ても、骨折ったって、ヒール重ね掛けで何とか元通り!

こんなの、ふつーじゃないから。


そーゆーのって地球だと、死んでる可能性がなくないレベルで悲惨な状況なんだもん!


「街に被害が出るからおもいっきりやれないなら。外に無理矢理出せば解決よね♪」


ふつーじゃないって事でも実行しちゃえる下地みたいなものが経験としてあるんだよね。


言ってみれば、後の事は後回し!

やってやれなくないから、やった後で考えよう!


「シェリルさん……」


「これでいいんだよねっ」


なんだ、その……とびきりの笑顔は…………。

くるりと、わたしに向き直ったみやこちゃんの無邪気な、イベントが楽しみでしょうがない小さい子みたいな天真爛漫な笑顔を浮かべてた。


だけど、エクト……レベル、みやこちゃんの67より高かったよ?


「あーあ、行っちゃった……」



大丈夫、なのかな……エクトを放り投げた方にびゅんって飛んでっちゃったけど、ホントにロケットかニトロみたいな爆発的な速さでさ。


────・・・


「なぁによおー……拗ねてんの?」


「べっつにぃー。拗ねてなんてないですけども」


「そう、その態度がらしくないんだけどなー?」


「長湯したらヘクトル寂しがるよお?」


あの後、みやこちゃんとエクトは街のすぐ外、南門の近くでなかなかな派手で迷惑なバトルになった。

エクトが黒い暗い炎を出してみやこちゃんの足元から燃やせば、それに待ってましたとあらかじめ用意してたっぽく、ダルテで周り全てを急速に冷気が強くなって黒い暗い炎の熱を奪う。


次の瞬間にはぶつかり合う金属音。

みやこちゃんの手には細い槍、エクトは鉄の棒。

二人は同時に手を突きだし、見え見えのその突きはかすりもしない。


わたし、眺めてた。

野次馬に囲まれながらその決着のつくまで長くなりそうに思えた戦いを。


「今は、りんこちゃんとぉー。りんこちゃんを、使ってぇー、遊ぶ時間でしょ♪」


それで……今居るのは……。

みやこちゃんが買ったあの屋敷に作った岩風呂。

わたしとみやこちゃんはお互い硬い岩肌に背を預けて、昼間の反省会をしていた。


それが。

どうしてか……わたしが一方的にいじられる流れになってる。

最初、おとなしくわたしの説教……愚痴かな?を、素直に聞いていたみやこちゃんも少しすると大あくびをして。

それを切っ掛けに。


立場ががらっと逆転したっぽく、攻めに展開してたわたしが今は守りってゆーか、一方的受けとゆーか……。

ぎゅっとリードに繋がれた飼い犬みたいにやり返せる空気じゃなくなってて。

良いように言い負かされる。


遊ぶ、って……わたしはおもちゃか!


冒険者をやって、少しは強くなって、自信も着いてきてたのに……みやこちゃんを相手にすると視界からひゅんて。

瞬間的に姿が消える。

うっわ……。


「ひぅっ」


「んー、変わらないわねー。やらかぁい」


そう思った次の刹那、感触は胸から伝わってくる。

ひぃ……、胸揉むなぁ……。


無意識の空気が漏れるような声。

びくってした。

隣に回り込んだみやこちゃんに横から手を回されて胸が触られてて。

揉んでくる、むにゅむにゅと。

動かしてくる、わたしの胸に指をぴったりと這わせて。


気持ち悪いとは思わないのは、知らない人じゃないからか。

それとも、体はみやこちゃんに堕ちてて言いなりだったりするの?

寝付いた後、気付けば抱き枕にされてる夜が続いてて。

みやこちゃんの意のままに慣らされてる可能性も無くはないもん……。

わたしが知らない、わたしの体の反応をみやこちゃんだけは知ってる可能性があるわけなの。


「昨日も触っておいて!変わる、変わらないの問題っ?」


ノーマル、ノーマル……。

わたしはノーマル、みやこちゃんの良いように流されないて、これは心の中で必死に繰り返したわたしの本心。


何から何までお世話になってるって負い目は少なくともあった。

今は無いけど……宿代も、食事とか雑費も冒険者のバイトで潤ったわたしの財布から出せるようになったから。


何度も何度も命を救われた、大事にされてるって恩はもちろん感じてる。

重みになってる恩はいつか、返すよ。

でも、……それは……体で返すってわけじゃないんだから!


それとは別に。


「やーだーなっ。もちろん、一年前くらいの感触とー、りんこちゃんのー、お・む・ね!変わってないなって思うんだけどー♪」


嫉妬もやっぱりあって。

サイズ、みやこちゃんのと比べたら半分くらい?


おっぱいには夢と欲望が詰まってて、ちっぱいには未来への希望が詰まってるって聞いたけど……あからさまに変わってないとかいわれちゃうと嫉妬も怒りも絶望なのかも判らないし、押さえきれなくなる、今のわたしの感情。


「うぅわ。うるさい、うるさい!ちょっと……ちょっとくらい……成長してるもん。してないとおかしいもん!まだまだ成長期だし、わたし!まだまだこれからだって信じてるもん!」


嫉妬の象徴でもある、みやこちゃんのおっぱいに手を伸ばして掴んでみた。

え、なにこれ……手から零れるんですけど手から……?


ふに。

柔らかい、からだのどの部分よりやらかいと思えちゃうその感触。

何よりも、……わたしは手を広げれば十分なのに……と、考えたとこで頭がおかしくなった、真っ白!

さっきより強くみやこちゃんのおっぱいに力を籠める。


ぐにゅ。

したら、みやこちゃんの圧し殺すような『ん』という声が聞こえて、ぼーっとした……のぼせてるみたいな頭が妙にしゃっきりして、視線を胸からゆっくり上げていく。


みやこちゃんの赤く染まった顔。

視線のその先には、お風呂にのぼせてるのか夕焼けに照らし出されたみたいなみやこちゃん。

おかしいのは、暴挙にでたわたしなんだけど……みやこちゃんもみやこちゃんでおかしい。

だって、瞳を細めて気持ち良さそうにしてるんだもん。


いくらね、おっぱいって言っても。

数回、揉まれただけでいきなりこんな顔したりしないと……わたしは思うんだけどー?


「おっきいよりこれくらいのほうが……張りもあって、垂れなさそうでよかったじゃない」


申し訳なく少しでも思っていた、一瞬前までのわたしをわたしは全否定した。

きっと───


「良く?良かった?」


ふるふる。

みやこちゃん、あなたはきっと、ううん、絶対に……わたしのこの恥ずかしくって、悔しくって、スッゴくムカついた今のわたしのモヤモヤしっぱなしの気持ち。


理解らないんだろうね?

なぜなら、悩んだこと……無いんだもんね?

較べられることはあっても、ずっと勝ち続けてるんでしょ?


負け、負けっぱなしのこのわたしのぶちまけてもぶちまけ足りない感情を理解出来るわけないっ!


なんかね、自然とみやこちゃんの瞳を見て首を何回も振ってた。


不公平だよ、こんなに外見的優劣が付きやすいもの……耳や鼻の大きさみたく、適度な大きさから下には成らないように作れなかったのかな───ね?神様?


コンプレックスにもトラウマにだってなるのに!


「わたしがっ、良くないのっ!そんなのっ、ある人が無い人を慰める定番なせりふじゃんかぁ!」


「それを言っちゃう?肩は凝るし、妙な視線を休みなく感じてるわたしの気持ちも解らないでしょ?ホラ、……同じじゃない。大きくたって小さいのだって悩んだこと無いなんてこと無いのよ」


みやこちゃん……、自分から見せに行ってるよーな気がしないでもないよ?



「そんなの、勝ち組のいいわけだもん!」


わたし、駄々っ子みたい。

みやこちゃんのおっぱいが勝ち組だからってそれを言ってどうなるものでもないのに。


にしても……お風呂って、裸同士って、普段じゃ言えない胸に仕舞いこんでてナイショにしてる事もぽろっと零れ出ちゃう気がする。

口が軽くなるってゆーんじゃないけど、普段よりゆるゆるだ。

あ、てことはやっぱり口が軽くなっちゃってるのかな?


考え事してて、胸への警戒がゆるんでた。

しまった。

と、思う少しの時間も貰えなかった。


「なら、負け組はみんなこれがコンプレックスなんでしょ。こうすれば大きく育つわよ」


「んっ」


もにもにゅ、と正面から手が伸びてきて胸が揉まれた感触。

恥ずかしい声が出た。

のぼせてる?

わたし、頬がさっきよりずっと熱い。


「そうじゃなくてっ!」


ダメダメ。

そんなのは望んでないんだ、わたしは!


みやこちゃんの手を払い落とす。

うー……。

どうして、わたしが胸揉まれる流れになっちゃうんだろ……。


「今より大きくなれば悩みが解決するんでしょ。成長することは、希望になるものね、気持ちも楽になるわよ。頑張って育てて見せるから」


わたしが嫌がってるのにさっきより更に、ニタニタ笑ってて、楽しそうにしてるみやこちゃんに胸が揉まれる。


やらかいと、胸を揉み続けたいって原動力になるのかな?


正面からわたしの視線と瞳を絡ませながら胸にぴたと張り付いてる指をゆっくり動かしてくる。



「も、揉むなぁ。やだ、ってばぁ……だからっ、やなん、だってもうっ!」


このままだと、普段よりおかしなことになりそうな感じだったから飛ぶように脱衣室に逃げ込んだんだよね。

低い岩肌を跨ぐように這い上がって。

タタッとお風呂の扉に飛び付いて。



何だかんだ言って仲を壊そうって気なんか無いんだから、みやこちゃんに嫉妬するのも愚痴っぽく説教するのも、そう。

喧嘩できるほど仲がいいって思うんだけど、どうかな……?




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