懐かしい街───カルガイン
「みて、見えたよー。あれっ門だよ!皆、元気してるかなー……何か言って出てきたわけじゃないし、死んだんじゃ……とか思われてたりして?そんなだったらヤだなー」
「まぷちも色んな事に頑張って強くなったじゃないですか。見違えたところを見せて差し上げれば宜しいのですよ♪」
木々の切れ目から真っ直ぐ伸びた塔はずっと見えてたけど、やっと。
カルガインの街らしいのが視界に入ってくる。
何か、いろいろ有って一年近く帰りそびれてたわけだけど、わたしの、わたし達の初めての異世界ってココだったんだもん。
カルガイン───誰もてっぺんを見たことが無い塔が立つ街。
懐かしい顔が浮かぶ街。
酒場のマスター・ディアド、カルガインで知らない人は居ない冒険者のレット、それに街の警備員・ベイスと串焼き屋のおばさんと……他にもいろいろ居てそれに勿論、やっぱりヘクトル!
強くなってこの異世界から、絶対、ぜーったい!日本に帰るって、一緒だよ、一緒に帰ろうって言って……そのキッカケを掴みに旅立ってたヘクトル。
帰って来てるはずなんだよね、なんか嬉しくなってきちゃうよー……う、……うう……ヘクトルとずっと離れてたからかな?
もうすぐ会える、前みたいに、変わらずずっと会えるって思ったら頬が無意識なのに緩んじゃうな〜わたしって欲求不満?
ヘクトルに会えるってだけで、日本にもうすぐ帰れるとかじゃ無いってゆーのにねー……えへへ。
「そ、そうだよね。よぉっし!ありがとう、イライザ。なんか、元気もらったよ!前とは違うわたしを見せて、強くなったんだってわからせてやる〜(特にヘクトル)!」
その意気です、とかってイライザが手を叩いて励ましてくれる?
じゃないけど、わたしに賛同してくれるからそんな感じで賑やかに弾む会話。
ダンゼのツッコミも、イライザとダンゼのイチャイチャもありつつ楽しく思い出話をしたり、聞かせて貰ったりしてたらだよ。
手綱を取ってシロイを走らせてるみやこちゃんが参加出来ずにチッ!とか舌打ちをしてくるけど、みやこちゃんじゃないとモンスターをいち早く見つけられないし……。
交代したげたいけど効率とかあれやこれやで手綱を取って見張りもこなせるのは、みやこちゃんだけって言い出したのは当人のみやこちゃんだしねー、残念だけど我慢してもらってカルガインに急がないと。
「サーゲートは、色んな所に役人として赴任して足を運びましたけど、カルガインは初めてです♪
どんな所なのでしょう!楽しみですね、ねっ!ダンゼ!楽しみですよねっ!」
イライザはライオンっ子の本質を上手く隠せてるよ、こんなおっとりした女の子が実は、みたいなとこと言いますか、耳を見て貰うと解ると思うんですけど注目してください!
ケモ耳ですよ、長くてふわふわの巻き髪に隠れて見えづらいけど丸くてでも毛で覆われてて先端は尖った、そんなケモ耳ですよ。
そんなおっとりしてても、隠しきれないミーハーな心をお持ちみたいで、まだ見たことないカルガインに興奮気味になっちゃってる。
「ラザ、はしゃぎすぎないように」
「はぁいー!」
わたしと話してたはずなんだけど、だったのに……隙見てすぐにダンゼとイチャイチャ始めるのも、イライザのデフォと言いますか……もう直そうとしても直せない性格なんじゃないかな、きっと。
「ホントにわかってるんですか、ラザ?
いつも生返事で中身は全く理解してないでしょう。私の苦労を少しは知って欲しいん、だ・が?」
ダンゼは狼の獣人で、デュンケリオンでも珍しい種族なんだとか。実際、イライザと幼いときはド田舎で文字を覚えることより自然相手に走り回っていたって言う自然児とか……でも今は事務方の役人の職ばかりやってたせいでなのかー、どことなく言葉の言い回しとか口調がこりっこりに固いんだよ。
愛那と喋ってた時のダンゼの顔が忘れられない、あんなに微妙な笑顔でずっと渡り合ってたんだもん。
そーとーイライラしてたんだって思うよ?
イケメンなダンゼの顔が蒼く歪んでたし。
愛那って独特の間みたいなの崩さないから余計に、馴れないと嫌われちゃうとゆーかなんとゆーか……難しいのかもね。
馴れちゃうとこんなもんか、で済んじゃうんだけども。
愛那はバカみたいに明るいし、何も考えてなさそうでやっぱり何にも考えずに思い浮かんだまま声にしてそのまま伝えてる感じだから……誤解させちゃうんだよね、どーしても、悪い意味で空気読めないとゆーか……けど!
愛那一人居ればその場の空気がどんなに凍りついててもじんわりと溶けちゃうのは持って生まれた天性って言っちゃっていいと思うんだよね、うん、才能だよあれってさ。
愛那の性格を知らない人だと、引くか気分的に逃げ出したくなっちゃうとこもあるんだろーけど、うん!
ダンゼも最初はだから、すごく居心地よくなさそうで……瞳で訴えてたよ?
早く、早く代わって!もしくは、この場から立ち去りたいです、って♪
勿論、みやこちゃんは瞳の色を変える程度に嫌ってたよね、最初は愛那のこと。
「盛り上がってるとこ悪いけどっ!デカいのっ、来るわっ!」
みやこちゃんが叫んだ。
わたしはその声を聞いて辺りを見回す。
デカいのって言うだけあって大きい!
「どうして!ココ、は───」
空の上から、ケーーー!と鳴くオウムのような大きい鳥の鳴き声がして。
首を振り上げて顎を天に向けた。
そこには、鳥!
巨大な鳥系モンスターにみえるんだけど、首から下の胴体なんかや脚が獣の姿で。
グリフォン。
後からみやこちゃんが言ってたんだけど、『あれってね?胴体はライオンで、ワシっぽいけどどこか違う巨大な鳥の首と、それらを支えて飛べる大きくてしなやかな翼を持ったカッコいいモンスターなのよ♪
ボス部屋に居るのは雑魚グリフォンと違って、風属性の魔法も使うし、羽だって一本一本手裏剣のように、当たれば刺さるし、翼を寝かせてで体当たり気味に突っ込んでくるとカマイタチっぽくざっくり切られちゃうって事もあったわね。そう、それに雑魚グリフォンだって嘴だって爪だって十分危険な武器よ?
引っかき一つで柔な鎧は部分破壊しちゃうでしょ、それに嘴は踏ん張れなかったらぶっ飛んで浮かされたところをリンチに遇うわ!
だからって、雑魚は雑魚なんだけどね……ま、中級者くらいなら無理すればレベル上げに使えないことも無いかな。湧き次第だけど……。場所によっては集団で一気にどさっと湧くのが特徴なの、そんなことになったら中級者だと一度退く感じかな。要は、……油断大敵、動きだって速いから隙見せたら即あうとー!』
だってさ、そんな大事そうな事ってふつー先に言ってくれなきゃでしょー?
みやこちゃんは余裕、わたしはこっち来んな!
イライザとダンゼはびっくり状態で。
本物は見たこと無いってイライザが呟いたのが聞こえたくらいだったし……。
そんな場合でも暇も無かったもん、贅沢言えないか。
ん、?
みやこちゃんは余裕だったんじゃん!
「凄い、シェリルちゃん。グリフォン相手にまったく五分なんて!」
手綱はとっくに離しててグリフォンに向かって真っ直ぐ飛んでく、みやこちゃん。
ジャンプって言われて納得出きる高さじゃないから、魔法?それとも、スキル使った?
視界に映りこんだみやこちゃんは勢いのまま両足を折り畳んでキック!からの、腰をぐりんて捻って全身の体重を乗せて叩きつけるようなパンチ!
体制を崩してこっちに……落ちてくる?
グリフォンは銃で撃たれた野鳥を見てるみたいに真っ直ぐ落ちてきた。
「──先行って。コイツ、仕留めてから入るわ」
イライザもダンゼだって充分に戦力になる、って言ったのはみやこちゃんだったのに……二人を数から外して逃がそうとする。
「シェリルさんっ、残るならわたしもー」
まさに成長したわたしを見せつけるちゃーんすっ!
今!
チャンス到来!
って、言ってる場合じゃないかも知れないんだけど……わたし、だって───グリフォンなんて初めて戦うし!!
「しょーがないわね、でも……ありがと。無理しないでいいわよ」
そう言うみやこちゃんの余裕の笑顔の後ろの方に、イライザがシロイに向かって叫んでるのが聞こえたけど、重要なのは今、こっちだもん!
『こ、この子っ、言うこときいてくれないよーーー!』
頑張れイライザ、お腹空いたら勝手に止まるから……。
それまで、我慢するか手綱さばけるように、なってね♪(にっこり)
「地に足が着いてる方が安心できるから先に行かせただけだもの。行くわっ───よ!レイジィーングっ、スラストぉおおーーーっ!」
以外と雑魚敵だったのかにゃ?
みやこちゃんが放った発色の良いピンク色の閃光がグリフォンを貫いた。
ばさり、と羽ばたいてからグリフォンは落下して動かなくなる。
いちお、ヒール掛けるけど……あーん!
わたし、……見せ場無かったよー!
つ、次があるもんっ!!
「48だって。レベル……カルガインだよね、ここ」
グリフォンを倒してドロップ品を漁ったあと。
アイテム化したのはグリフォンの羽根に、グリフォンの翼に、力を失った?腕輪。
知らないアイテムですね……、鑑定スキル必要だったりするのか……、魔石……を疑ったけど落ちてないって事は召喚って訳じゃないんだ、この子……!
え、えーと、つまり……。
この、グリフォンみたいなのが!
カルガインみたいな街のそばでエンカウントするようになったって事ぉぉお?!
「いろいろ変わっちゃったんじゃない?悪くないわよ、スリルあってね、ふふ♪」
わたしっズーンとショック受けてるのに、すぐそばで対照的に余裕そうににこにこ笑ってるこの人、……なんとまぁ、素敵な笑顔だ事ですね?みやこちゃん?
「……だね。じゃ、イライザもダンゼだって待ってるよ。いこ?」
スリル♪って音符マークが飛んでそうに今の状況で口に出来ちゃうみやこちゃんが羨ましい!
早く……わたしだってそうなりたいんだ、みやこちゃんと一緒に時には隣で、時には背を預けて笑ってたいんだ。
追い付きたい、並びたい、そんで……いつか!
追い越して新しい風景を味わいたい、みやこちゃんがわたしに見せるみたいな、あんな笑顔だってお返しに見せてやりたい……究極はそう、ざまぁ!ドヤ顔をみやこちゃんに見せつけるわたしになりたい!
日本に帰るまでに……、せっかく異世界にいるんだから──一度くらい!
自分より、わたしより超強い、スゴい人を負かしたいじゃん!
そう思わないかい、諸君?
熱血?
そうっ!
わたしだって、葵ちゃんに連れ廻されて育ったんだ!
だから、……わたしの根底を形づくる芯の部分は───熱い血が流れてる。
沸騰を待ってるだけで今は。
葵ちゃんにも、アスミさんにも負けないドロドロで負けず嫌いで何にだって、どんな困難にも立ち向かえるヒロインじゃない、ヒーロー気質が!
……あるはず、なんだよ、うん!
わたしの性格を作った創造神は言ってみればずーっと隣でわたしの手を引っ張って新しい世界へ導いてくれてた───葵ちゃんに間違いない。
あの、葵ちゃんの熱い性格がわたしにも宿っている、はず。
あんなにいつだって、近くに居たんだから。
いつだって、見ていた景色はどこまでも同じだったんだから。
「そう、ね。帰りましょう、わたし達の街───カルガインへ」
見てて!
みやこちゃん、絶対越えて見せる!
今は───後ろを着いていくしか出来ないけど、必ずその日は来るから。
────・・・
丁度その時、カルガイン東の門の手前辺りでは男女の入り混ざった賑やかな話し声が響きわたっていた。
「ねぇねぇ。エクトの『場所』なんでしょっ?」
「ん、ああ。久し振りに帰ってきたな」
(へへっ、エクトォ!なァに笑ってんだァ?……無視すんなよォッ俺とも話そうぜェ、なあエクトォ!)
「わ、わわっ!なんなのよっ、あの、デッカくて!おおっきくてっ!太いの!」
「陛下。言葉はお選びくださいね……」
「ぶぅ、シャリア姉。言葉なんてえらぶなー。無礼講じゃ♪公儀で無いぞ、お忍びの旅じゃもん♪パーっと!ダぁーっと!いってみよーう」
その何日か前、グロリアーナを発ったエクトら一行の姿がそこにはあった。
御忍びで……、つまり観光目的で公務を投げ出してカルガインに遊びに来た、そういうわけなのだ……この、まだ幼児から小児ていどの姿にしか見えないエルフの女王は。
そう、驚くことに幼いながらにこの中で経てきた年月は最も長いのはハーフエルフであり、純エルフの血濃い女王、グロリアーナ。
「陛下は陛下ですよぉ。ただの配下なんですから……今のわたしは」
そのロリっこ……ていどの幼児をたしなめるように御者席から振り替えって声を掛けているのは、エルフの王国・グロリアーナの最高神であるサロ神のたった一人の巫女、その名をシャリア。
困り顔を浮かべる彼女の真の姿は、このように情けないものではなく多くの、国中の、ハーフエルフたちから羨望の眼差しを向けられる存在である、王国騎士団の騎士なのだ。
「暗い、暗い!全部まとめてッポイ!」
グロリアーナは、シャリアと共にあれば容姿通りの言動を繰り返す子供に戻れるが、本来のグロリアーナと言えば、獅子姫と呼ばれる王国最強の剣であり、政務に追われる王国最高権力である女王。
「っ───!はぁぁ……、門をくぐるぞ。すぐに町だからな、はしゃぐの止めろよ……」
そんな、二人をなんとか纏めようとして気苦労が耐えない毎日を送る羽目になったのはエクト───その容姿はホビットのようで、純粋にホビットなのかと問われるとどこか違うホビット亜種であり、日本人のエクトだった。
こうしてカルガインに、エクトは再び舞い戻った……、遠足気分のハーフエルフ二人を連れて。