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やっぱり、な展開〜出発したはいいものの

「やりのこしたことがあるってゆーんだからしょうがないでしょ」


「アスミさぁーん。元気で……っておかしいな。また、会えるよね?」


「せや。ヘクトルはんによろしゅうなー」


カルガインへ出発したのは、わたし、みやこちゃん、イライザ、ダンゼの四人だけになってしまった。


アスミさんは裏でコソコソ……正義の味方っぽい世直しがたいへん気に入ったみたいでさ、んだねー!

どうしても行けないんだって。


デュンケリオンの正義を貫かなきゃあかんのや。みたいな……、どこかで聞きあきてしまっていそうな事を言ってわたしの説得にも、みやこちゃんの恐喝にも巌としてうん。とはいってくれないんだもん。


白影……ジャシって呼ばれてた人からみやこちゃんの聞いた話だと、素性を隠して暴れまわってるみたい。

うーん、きっと正義の味方なんて……帰ったら出来ないから満足いくまでアスミさんは悪を(ただ)すつもり、なんじゃないかなぁ、きっとね。



───・・・



デュンケリオンは平和に見えて、裏は複雑になってるんだってね?

「この街じゃなぁ、……知っちゃいけねえ、後悔しちまう裏の顔ってのがあんだよ……へへ。俺も聞いた話でしか無いんだけどな?」


「へー。グラウシェくらい強かっても後悔すんの?そいつって!」


「あんまり、言うんじゃねえよ。好奇心に負けて、負けまくってるお前にだから釘さしてんだっつの。わかれよなー」


冒険者をしてたから、そーゆーのも耳に入ってくるし……人間と、獣人さんたちの溝が相当深いんだってよーくわかったんだ。


「グラウシェだって、人間は嫌い?」


「嫌い……か。嫌いじゃねーけど、しょーじきあいつら何しでかすかよ、わかんねーつーの?そーいった怖さがあって、……付き合えって言われたら勘弁な。え?そんな話じゃねーのか、女しょーかいしてくれんじゃねーのか、そっか……」


「アホだ、こいつ。はつじょーきなの?やめてよねー!」


「違うわ。人間と一緒にすんな!」


「わたし、人間だよ……?」


グラウシェはジョッキの中の冷えた水を流し込む。

この記憶は、国民センターの前のカフェでの事だ。


このカフェ、【楽園】で酒は出ない。

珈琲に似た、何かの種を()った煮汁とゆー……まんま、珈琲だよね的な作り方の偽珈琲を出してくれる。

どうしてカフェなんてあるのか、この時は気にもしなかったんだけど……。


「…………はつじょーきとか、な?昼間に口にするよーなことでねーんだっつの。(ねや)ごとは閨で愛を確かめながら、な」


グラウシェは顔をずいっとわたしに寄せて声をひそめてそう言って教えてくれた。

後から、今でこそ……獣人にとってとても、とってもえっちぃことをわたしは真顔で口にしてたんだなって。

知らなかったこととは言え、恥ずかしい……。


テーブルも無い、カフェの前のベンチ。

に、二人でそんなにも距離を空けずに座ってて話す内容じゃなかったよね、アハハ……反省!


「ねやごと?……てゆーか人間とは、向き合えない?やっぱ」


なんか、そーいえばこの時グラウシェって顔赤かった、そうでもないかもだけど。

そんな気がした、今思うと。


「お、……おう。まぷちは危険じゃねーし、悪いやつじゃねーのわかってるって。ただ、よ。街の一部の人間とは誰も関わりたくねーんだよ、だからお前の言う……変な嫌な視線っつーの?

そーゆーのも向けた事ねーとは言わねえ。ただの人間とは、ダメなんだよ俺たち」


グラウシェってゆーのは山羊の獣人で冒険者仲間。

頼りになる前衛で、わたしがヒールを使う回数もパーティー内で最も多くて、人間っていうわたしの事をいろいろあってなんだかんだ認めてくれてる。


グラウシェが居なかったら、パーティーなんて入る気も失せてたし、まず入れてくれる獣人さんは居なかったかな。

グラウシェが居ないと彼以外のパーティーから何だかんだで『またの機会に!』ってなるし?


彼が言うように人間視されると差別的な瞳になって、嫌な気分になる、仲間内だって最初はいつもそう。

グラウシェとは、ダンジョンで迷ってたわたしを助けてくれた時に知り合った、数少ない『わたし』が一人で話せる獣人。


誰かがいれば、誰かの付き添いなら獣人さん達だって嫌な顔のひとつくらいしてはくるけどそれだけで済む。

わたし一人で、人間一人で話そうってなると嫌な顔をするだけじゃ済まなくてそのまま話自体が終わっちゃうてことになっちゃってもおかしくない。


わたしが何をしたって、そう……一年くらいそれに時間を注ぎ込んだって悪化はしても、何にもいい方向には進まないんだって身に染みたもん。


ササミンだって、結局は獣人側だから……今のデュンケリオンに溜まった空気を入れ換えるのは無理だからやめなよって注意してくるくらいなんだよね。


「結局、同じなんだ。ササミンも、同じなんだ!バカにしてるんだ。人間を!」


「……バカにしては無いけど。言った通り、僕らと人間の間には歴史がとおせんぼしててさ。過去は変えれないから、どうしても……歴史が邪魔をするんだよ。まぷち姉のやろうとしてるのは、そう……いうこと……なんだよ?……わかってよ。手を貸したら、その何倍もの人が手を貸した方の人を敵と見てくる。……これはそういう問題があるんだよ?」


新しい風を吹かせるには、役不足でさ。

でも、この問題はわたしにしか出来ないから。

みやこちゃんの中身は人間でも、どーみたってハーフエルフなんだからね、デュンケリオンにいる人たちはそんなんじゃ心を動かせないもん。


やっぱり。

もう一度帰ってきてわたしがやらなきゃなんだ!

この事を忘れてなんて、帰れないもん。


わたしが味わったような嫌な瞬間を嫌な時間を、みんなはずっとずっと受け続けてるんだし……とか、言っちゃうと偽善っていわれちゃいますか?


その為に動きたい、って思ってるこの気持ちは偽善じゃないと思うんだよ。

思うんだよ、思いたいんだよ。

わたしが、人間としてノルンに来て無かったら気づかなかった事かも知んない。


でも、気づかなかったんだ、って……自分に嘘を吐けない、つきたくない!


知ってしまったら、気づいてしまったらもうそれは当事者なんだもん!



────・・・



「ジュースちょーだい」


「はい、どうぞ♪」


出発したわたし達、四人はシロイの上でそんなやり取り。

いつもと違うのは、既視感がなくて新鮮なとこはメンバーが違くて愛那とぐーちゃんとアスミさんが居なくて、代わりにイライザとダンゼが乗ってるってとこ。


シロイの手綱を握ってるみやこちゃんが前から後ろのわたし達に手を伸ばしてくる。

BOXがあるから、一人で自己完結できるはずなんだけどそうしないのは……一人旅じゃなくてわたし達が居るから、なるだけ関わりあっておきたい……言ってみれば、寂しいんだと。

一人、かやのそとになってしまうのが嫌なんだろーね。


伸ばした手に目の前のバスケットのようなカゴから手渡したのはイライザ。

さっきから、甲斐甲斐しく世話を焼いてる。

わたしはってゆーと……にやにやしてしまう。

そんなやり取りをみてるとついつい微笑ましいなと思えて、ほっこりしつつ。


「ラザがそんなことしなくていいだろーに」


「お姫さま。は、もう終わり。だから、昔のようにもどるんだ」


ダンゼが言うようにお姫様がやることじゃないよね、でもイライザは楽しそうじゃん!

普段しないから、イライザにとっても新鮮なことだったんじゃないかな。


人目を気にせず、やりたいと思ったことを思うままにやって見せる事ってデュンケリオンに来てからは無かったんだってさ、イライザ。

ダンゼが止めなくても、誰かが止めるから。

やりたいと思ったことが出来ないと悶々して悔しかったんだって、イライザはそう言って綺麗に手入れをされた手の掛かった金色の髪をバサって風に遊ばせてる。


……シロイのスピードが上がったら、そんな余裕なくなるからね?


「無理に戻さなくていいのに……」


そう言って苦笑いするダンゼ。

いろいろと考えてる彼だから、この先に何が待ち構えてるか心配なんじゃないかな……役職を捨てて駆け落ちする二人。


たどり着いた先でこのお似合いの二人が、幸せな時を過ごせるといいなってわたしはそう思ったんです。

食生活がガラっと変わるのも受け入れられるかちょっと心配!






「───グラは離れられないし、クマーは残ったし、バカ鳥は来るなら後からだろうし、戦力的には良くても数としてはどーしても少ないのよねー」


みやこちゃんがくいっくいって人差し指で呼ぶ。

視線は差すようにわたしの方。


ずりずりと、タカタカ走るシロイの背を移動。

電車の車両移動とわけが違うんだよ、落ちるよ!

気を少しでも抜いたら振り落とされそうなのにー。


(みやこちゃん、何か起こると思ってるの?)


(起きないなんて、思えないでしょ。今のわたしたちは逃亡者、フォリナーなの)


(フォ……。まだ、見つかってないと思ってたんだけどな……)


二人には届かないていどに絞った声のトーン。

みやこちゃんも同じようにボリュームを下げて喋る。

マルセラドを過ぎて、冒険者内では有名な、他より狂暴なモンスターが居ると聞いてるそんな荒野に入った頃。


わたしは楽観的に、みやこちゃんは心配症だなぁとか……思ってたのに、まさか本当に追っ手がこんなに早く見付けるなんて。


「───早速来たわね」


みやこちゃんの声に緊張が走る。

BOXから弓を取りだし構えようかとした時に、みやこちゃんが見付けた追っ手が姿を現した。


広い荒野に大きなトカゲのモンスターを倒してその仰向けになった腹の上に人が。


獣人、それも山羊のような立派な角を持った、まさかグラウシェが?

と、思ったけど身長はすごく小さい。

まるで、わたし程度。

グラウシェはみやこちゃんくらいの身長があったし、別の山羊さんだね、これは。


「別に、そこのお姫さまなんぞに興味は無い。オレはイノヤ!お前に用があってこの任を引き受けたんだからなっ!勝負しろ、シェリル!」


イノヤ。と小さいのは名乗った。

男の子か女の子か、性別まではよくわからない。

声を聞く分には高い声。

だけど、手にした斧は長くて大きい刃が。


被ったフードで顔はここからじゃ見えないけど、……真正直に相手しないよね?みやこちゃん。


「足止めされたくないのよ、今は構えない。おとといに来て欲しかったわ」


「じゃぁ、通りたかったら。オレを倒さなきゃいけないな♪かかってこいよ」


「や。よ!」


「───逃げるなぁぁあ!!!」


いや、……考えたらわかるじゃん……こんなに広いのに相手しなかったら逃げられるって……。

それくらい考えよ?


みやこちゃんが避けたのは意外だったけど……シェリルの悪評か何かを知ってるか、シェリルそのものを知られてるような言い方じゃなかった、ね?

みやこちゃん?


「───で、また?」


「いい加減にしろよ。何回も何回も逃げやがって」


「イノヤ。もう、そこがセレンよ。さすがに見逃しては貰えないですか?」


「姫様。ダメです、姫様。他のやつに譲るつもりがまるで起きないんだよなー、逃げた先にどこまでも、どこまでだって追いますから、オレ……って」


「居ねえし……、ちっ!」


セレン手前で。

今度は、何回も何回も敵視されてるみやこちゃんに代わってイライザがイノヤの相手をしてあげてた。

もう、何日目かわからないけど毎日どっかから姿を見せるんだよね。

馬を使ってるようにも見せないけど、途中で乗り捨てるような感じだったりするのかな?


ラミッドを過ぎると、十回目の遭遇。


「軽く、ストーカーよ?元の国の法律じゃ立派な罪に問われるのだけど、イノヤ」


さすがに、呆れて……その上でイライラしたみやこちゃんが答える。


「や、やっと。……追い付いた……オレ、に……そんな……無体な……はぁ、言……葉……しか、はっはぁー……ねぇ、……はぁっ」


「一度、わからせてあげないといけないわよね。ここで、因縁を払うとしましょうか?やってやろうじゃないか。しょーじき、メンドくさいわよ、お前!」


イノヤはやっぱり、寝ないで走ってる感があった、目の周りクマがメガ盛り。

疲れも見えた、それでも瞳の奥は死んでる感が無い!

みやこちゃんが勝負をうけるって言うとさらにそこから瞳にどんどん光が戻っていく、そんな風にわたしには映ったんです。


「や、やっと……やる気、……はぁっ……そうか、来い!いまこそ、黒翼の借りを返す時だ!」


「───で、なぁにが……借りを返す時なのかしらね?いつのことだったのかしら」


勝負は見えていた。

シロイから降りたみやこちゃんが、目の前で構えを取ろうとして足から崩れるイノヤを引き起こすのを見えたから、明らかにイノヤの足は限界を超えてる感バリバリで。

そんな、へばっていたイノヤは獣化になる準備すらかなわなかった。


「クソ、万全なら……。こんなハズねぇのに……うがぁあああっ─!」


「往生際が悪いです。イノヤ!」


吼えて悔しがるイノヤ。

それをなだめるように声を掛けたのは。

突風に髪を踊らせるイライザで。


今いるのは、小高い丘。

ここを越えて少し行くと森を北に見ながら、ラミッド街道も平坦な道に変わるって昨日の宿で聞いてた。


風に浮かされてフードが捲れた、そのフードに隠されていたイノヤの顔は……女の子?

しかも、目付きはあれだけどよくよく見るとかわいい感じの。


みやこちゃんにやたらと執着してたみたいだけど、この女の子にみやこちゃんが何をしたんだろーね?


「姫様。……ま、なんだ。負けたけど満足はしたぜ。オレは戻るわ、他のやつは知らねぇ。行きたいとこにいけよ、シェリルぅ!」


イノヤは倒れたまま動けないのか、動きたくないのかどっちかわかんないけど寝転んだ土まみれでイライザに向かって返事をする。

後半は言いたい事を言ってただけみたいのが、負け犬の遠吠えにも聞こえてちょっと哀れ。


「本当のイノヤは凄く強かったわよ。だから、また会いましょうね」


そうやって慰めるみやこちゃんは既に歩き初めてて。

わたしも、イライザもその後を追う。


イノヤは諦めてくれたし、ラミッド街道を少し東に進めば───そこはもう、カルガイン。

って、街は更に北に道を進まなきゃなんだけど。




───・・・


「───褒めんなよな、どーせなら。あの時の、黒翼の声で褒めて貰いたいじゃんかよぉっ」


あの後、イノヤは褒められたのが余程嬉しかったのか、うち震えながらその幸せ気分に浸っている。

そんなだから……シェリル達はとっくに姿は無く、既に行ってしまった後で。


イノヤがその事に気づくのは随分、イノヤ自身の中で黒翼であるはずのシェリルの言葉をなっとくがいくまで反芻させて、リフレインさせてからの事でしたとさ。


いきなり、褒められたのがどうにもこっぱずかしいとか、そんな事がイノヤの心を支配した。

それがすぐさまイノヤが振り返ってシェリルの姿を確認できなかった大きな理由。


イノヤは黒翼に恋していたのだ、完全実力主義の獣人社会に於いてはそれもまた当然。

追い始めてイノヤはすぐに黒翼と同じ『匂い』のようなものを嗅ぎとるに至っていた。


それは軽く絶望と、同時にまた『熱いバトルの予感』が彼女の心を充たしていった。


しかし、イノヤはあっけなく……バトルらしいバトルも出来ずにこの追いかけっこから脱落。


そんな、イノヤの見事なまでの失敗に強化されたのか、これまで以上に知った顔が現れるようになった、ヴェーレッタやマゴニーなども追っ手としてやってくる。


ヴェーレッタは短剣を操るものの、王族に手をあげる暴挙という単語に心の方が根をあげてしまい、結局、道を譲る始末。


「俺は陛下を信じた、信じてんだ。俺の忠誠は、役人や太守にじゃねーってのよ。この忠義は───陛下が居ないなら王族の方に向けるべきなんじゃねーのかよ!」


マゴニーに至っては、ジャンピング多角形攻撃と見せかけて高度なフライング土下座でシェリルを見送る具合で。


「イノヤが勝てなかった相手を俺じゃ勝てねえに決まってるってもんですよねー。どうぞ、気にせず先にいってやって下さい」


それらをはち倒し、時には完全スルーし、ついにカルガイン手前に広がった森を目の前にした。


カルガインはもう、すぐこの先である。






ヘクトル》 よう


懐かしい便りはそんな時に届いた。

誰もが予想通りのベタな展開で、ベタベタなオチ。


ベタは悪くないと思うんで、それだけ正当派ってことでしょ?


カルガイン来た!

ヘクトルも来た!

で、あの人も……あの人だって……な次回!!


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