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トラケスの革服

気が付けば何時の間にかもう夜が明ける前で紫に包まれる空。京ちゃんが襲撃して来て目を閉じて寝てみるものの結局起きてしまう。カーテン手に入れなきゃなー。直接外か鎧戸か極端なので本気で欲しい。段々と空が朱に染まって夜が明けていくのを目覚まし替わりにそんなどうでもいいですよ的な事を考えながら気合いの入らない頭が働く様に脳のエンジンのスイッチを入れて始動。


まだ微睡みに融けて包まれていたいのも山々だけどトラケスに会いに行かなきゃ。でもですよ・・・さすがに早いんじゃない。まだ来てないでしょ。自問自答を繰り返しながら愚図る理由を探してる事に気付く。だめだ、起きよう!起きて服を取りに行かなきゃ。


「初めまして、ブルボンの討伐隊に志願して付いて来ました。アスカムです、よろしく。」


「んー、ああ。ヒーラー君でいいよね〜。シーター?」


何かと理由を探して愚図ってた間にもう誰か起きてるみたいで話声が少し遠くに聞こえてくる。玄関に誰か来ている様で一人は京ちゃんだと解った。


廊下を進みリビングまで来ると挨拶を交わす二人の姿と話声を確認。ふとソファに視線を移すと気持ち良さそうに寝ているヘクトルが。


寝室まで行くのが面倒だったのかな。基本どこでも寝てみる彼だから気にはしないけど。せめてシーツくらい被れよ、風邪引いても知らないゾ。


そんな事を考えてる内にソファから転げて、いってーと声に出して起きるヘクトル。大きめなゆったりソファだけど彼の体格で寝返りするには無理が有りすぎた。


起き上がって来たヘクトルと目が合うとおはようとお互いに軽く挨拶を交わす。彼は事の顛末をわたしに見られていた事に少し不機嫌そうに廊下の奥に歩いていく。やれやれと、思った時思い出した。トラケスの所に行くんだった。玄関ではまだ何事か話し合っているようだったのでリビングの壁の壊れた所から外に出て北の広場を目指してまだ人通りの少ない大通りを駆け出すわたし。店の前に着くとわたしの姿を確認したトラケスが迎え入れてくれた。


店の中を見渡すと何の革なのか解らない色とりどりの鮮やかなカラフルな皮が天井に吊るされて壁一面に革を縫製した様々な服や同じ様に革をメインにしたアクセサリーが飾られている以外は片付けられていてシンプルだ。


後はカウンターと、入り口を入ってすぐ左側にあるテーブルが目につく。トラケスが作業をしているのだろうテーブルに革が乱雑に積まれていたり、裁断した皮の切れ端が山となっているあたり掃除はしても作業するテーブルは別問題なんだろな。そしてカウンターの上には赤いコルセットと青い革の服が置かれているのが確認出来た。あれなのかな?と思っているとニヤニヤ顔の髭面が目に入ってくる。


「やあやあ、お嬢さん御目が高い。今見ていたコルセットは僕の会心の自信作で、見て下さい。このステッチ使い、それにほらこんなにスタッドをあしらって防御力も申し分無いこの固さ。良いコルセットでしょう?それからそれからこっちの見栄えのするバームバニーの皮を鞣した服などどうでしょう。」


なんだなんだ?いきなりセールストークが始まる。わたしは服を貰いに来たんですよ、お客じゃないですよ、まだまだ買えないですよ。面食らって思案するわたしを無視してセールストークは続く。


「特別に、汗を掻いても被れないよう加工を施しました裏地はジエの皮を使って水弾きも格段にアップしてるんですよ。二の腕の脇側や背中や袖口などカットして空気が通り安く皮紐で調節出来る様になってます。今ならこのセットがタダ!試作品の為1着限りとなっておりまーす。」


「うわーい!何だかいきなりセールストークされて吃驚しちゃったけど、結局わたしの服だったんだね。」

「そうだよ、僕の初めて一人で作った服なんだ。店長も居ないから高いかも知れない皮も自由に使えるし、何より試作品だから商品にならないし。貰ってやってくれよ、お嬢さんよ。コルセットはおまけだい。大事に着てやってくれ。」


ああ、店長にはタダなんて絶対言うなよ?と口止めを付け加えるのも忘れない。取ってきた染料に見合わないくらい高い服と思えるセットを試しに作った物だからとくれるって言うんだから吃驚しちゃった。貰ってもサイズ合わなきゃ着れないんだけどさー。


着て見てくれ、見せてくれとせがまれたけど試着室も無いのにどうやってと問い返すと壁の方向いてるから奥で着てやってと期待に震えるような顔で服を渡される。試着室つくれよ。と思ったけど異世界にはその文化は無いのかも知れないと思い直し苦笑いを浮かべながら渡されたばかりの服を手に奥に向かった。


ああ。着心地いいわコレ。ジエって言ったっけ?裏地は肌に優しく冷たい。背中は大きく開いてスースーするけど慣れの問題だし、京ちゃんが着ている赤のワンピースはもっと大胆に肌が見えてた。わたしの為に設えたものじゃないからピッタリと言うわけでも無いけどかといってブカブカで着れないわけでも無い。


「どうよ?」


「うん、素敵に仕上がってるさすが僕の会心の自信作だ。」


着慣れ無いコルセットは付け方が解らなかったのでトラケスに手伝って貰うために彼に声を掛け近づく。締め上げはこれくらいか?と聞いてくるので痛くなる前に止めて貰ったんだけど。着ている服を一目見たトラケスは目を輝かせて自信たっぷりに何度も頷く。


髭面の褒めているのは革の服であってわたしに似合っているとかそう言った感想では無い。自分の作品に自信を持つ事は悪く無いけどさー。露骨にわたしを無視することは無いんじゃない。お金を払ったわけじゃないから図々しい事は口に出さないで思うだけにするけどさ。


彼は、お前のサイズはこのくらいかなと体型を思い出しながら真面目に作ったと言って照れ笑いを浮かべ鼻を擦る仕種をしている。採寸も取らずにサイズ大体合ってるって何気に凄いじゃんね、トラケス。大切に使いますと言って挨拶を済ませるとトラケスの店の前を離れる。


襟付きの革の服に身を包まれながら自然と体が軽くなる風に錯覚を覚えて屋敷に向けて軽やかに駆け出す。

『やっと、やっとごわ服脱出したぞー。』




品名・青兎の革服

耐性・毒-麻痺

制限LV・無し


DEF+4・MDEF+13・ATK+1・AGI+2


性能―革職人が精魂込めて縫製したバームバニーの革で出来た服。特別な拵えが成されている。





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