剥ぎとられる黒翼
ちょっとアレな表現でサムイかも……苦手な人は飛ばし読みを……
挑発に乗っちゃうみやこちゃんだって悪い。
……と、思うのね。
──ちょっと、話は巻き戻って。
みやこちゃんがわたしに王様とのやり取りを話して聞かせてくれるその少し前。
わたしと愛那の二人が帰りをまっている控え室にしばらくしてやっとみやこちゃんが帰ってきた。
何やってんのかな、みやこちゃんは。
やっと帰ってきたと思ったら……。
ドアからひょこっと顔を出してこっちを窺ってる。
「そんなとこ居ないで入ればいいのに……どしたの?」
そんなみやこちゃんのじとっとした粘着力のある眼差しがわたしの瞳がぶつかり合う。
「ッ!──………………」
追い詰められたノラネコが威嚇も忘れたように止めちゃってこっちの瞳を覗き込んでくる、そんなシーンをなんと無ーく思い出しちゃって、ヘヘッて音が零れ漏れ出してった。
でも、中の様子が前と変わってるのに好奇心を擽られるっぽく、出迎えてドアの前に立ったわたしの肩越しにさらに奥、床だったり壁だったりにキョロキョロと視線は動く。
みやこちゃんてばビックリするほど警戒心。
何があったんだか……って、王様と話し込んでた以外なにかある、ってそんなわけある訳無いんだけどー……。
控え室はある出来事があって、その……ちょっと……ほんのちょっぴり、汚れてちゃってたんだけど、みやこちゃんってさすがマイペース。
部屋の中は警戒する必要ないと判ると、流れるような動きはスムーズで迅速。
まっすぐ机に歩いて、わってなるくらい瞬間移動、……そんな風に見えてるくらいなんだから何かスキルでも使った?
敵になるようなモンスターが彷徨いてたりするようなダンジョンに足を踏み入れる訳とは違って、必要ない城内でスキル使用するくらいにさっさと退散したかった……なんてゆー裏があったりするのかも無いと言えない事も無いんじゃないのかな?
さて、さてさて……長話のお相手・王様とどーにも拗れちゃってって、そんなトコ?
見えてるものに突っ込みを入れずに椅子を引いてドカっと身を投げ出すように座ると、そのままぺたんと机に上半身が寄り掛かるよう身を預ける。
「えっ……ええっ?帰ったら即、それ?こっちは長い長い間待たされてたんだよっ?せめて、謝って!」
「……ん、……待たせて……ゴメ、ン!……ってやつ?ゴメン……ね?」
お疲れ、なのかな?
昼前に城に着いて……今はだいぶ陽差しも弱く感じるから。
それだけ、時間が経ってるんじゃないの?
察している、わたしが居ることには居る……そんな認めてる部分もあるけど……だけど、もだよ?
言わせて貰いたい。
待たされてたんだよ、ねぇ……?
わたしたちは付いてきただけだけど、説明をしてもらえる権利くらいあると思うんだ……?違う、かなぁー……?
悪い、と思ってほしい……。
巻き込まれてるんだから、巻き込んだ張本人には一言、謝って欲しいのだ、うん!
決して、お腹がお昼をえんえんと延ばされて悲鳴をあげている、そんなことが一番痛烈にみやこちゃんを恨めしく思わせる原動力になってるとかそんな訳では無いの、そうじゃないと思っていたい!
わたしだけは、わたしを騙してあげたいじゃない。
ま、付け加えるとみやこちゃんのせいだからねって怒ることは簡単、それはこの時この瞬間、子供だったとしてすぐに実行できる。
うん、そのくらい簡単。
……後の、みやこちゃんの行動、普段の思考を思えば……愚かな行動でどーやってもわたしに振り返ってくる行動は不埒なことだったりするのかもって頭を過ってぐっと飲み込む。振り上げかけた手をぐぐっと握って下ろすことにした。
夜のみやこちゃんを思えば、下手な態度を取るべきでないもの。
……一生の痕を今夜刻むことになる覚悟はまだまだ、うんうん、しばらくそんなのは出来てないから、……そこまで考えて……、そもそも部屋のベッドに上がらせない努力をもっとしようと強く心に刻んだ……よっし、今夜こそは……。
当たり前な平和に寝付きたいよーぉ……。
「何か、……お腹空いたぁー。何か無い?」
「ん、……んっ?」
よくある、おやつの時間って言うとわかりやすくなったかな。
お昼もすっぱり抜いて、わたしたちってずーっとわちゃわちゃやってたんだなぁ。
少し経つと、みやこちゃんの視線はわたしから愛那に移っていった。
対面に座って紙の束をパラパラと捲っている、愛那に。
興味は持っていたみたいだったので、それは必然。
逆の立場なら……どうしてそんなことになってるのかって愛那の集中力をすぱっと切ってる、うん……まどろっこしく思うし、今も。
みやこちゃんが突っ込みを入れないのをだけど。
ただスルーしようとしてるのか、愛那に大して興味って持ってなかったり?
完全無視ってわけでも無いけど見てるだけ、……あ、これは茶化すっぽく声掛けるべきじゃない……って大人の対応、……いやいや。
まさか、あのみやこちゃんだよ?
別に死ぬわけじゃなかったら暴力で物理で何だって切り抜けてくるみたいな……こう言っちゃ、纏めてそーゆー対応見てきて思い浮かぶけど……周りに居ると、日本じゃぶっちゃけトラブルがあっちから引き寄せられてくるよーな………………えと、深く考えるのやめよ。
こんなの延々続けてたら、みやこちゃんの顔まともに見れなくなるって。
その時、頭に浮かび上がる日本でのみやこちゃんのポージングと、わたしの認識レベル的に近いモノって……うん!
漫画とかでライバルとかで居そうな立ち位置の暴走族とかチーマー、それもリーダー格!
うん、ぴったり!!
……みやこちゃんには言えないけど、こんなの口をすべらせちゃったりしたら……想像したくない、それはそれは、もう。
お腹空いたのはわたしもなんだけど、当たり前に愛那だってお昼はまだなんだし……。
目に見えてるはず、うん、視線は机の上のものに釘付けって言うととても大袈裟に聞こえちゃうけども、だけどよ……?
一瞬どころじゃないくらいに止まってんじゃん!
声には出して言わないけど少しは興味持ってるぽいの。
見てるだけって……声に出して思わず叫んじゃうだろうな、わたし。
「えっと、……凛子、妙な事に焚き付けられちゃったらどーする?」
視線を追うとわかるけど、ね。
気になってるみたいだけど無理矢理、話をすり替えて話題を変えちゃう辺りスルー技能高い。
「………………まさか?」
馴れちゃう、みやこちゃんと一緒にいると。
こんなシチュエーションは感じ取れちゃう、なんとなーくだけど……。
察した。
村でも、カルガインでもみやこちゃんが良くわからない笑みで、笑って無い瞳で、目線を合わしてくる。
そんな時は決まって、何かあるって事のサイン。
笑ってるようで、眉を下げて困ってるっぽく、それで更にどこかドヤ顔で。
黙ったまま、わたしを見つめ、真一文字に引いた唇から舌を覗かせて上唇を舐めるようになぞる、チラチラと。ヌラヌラと。
艶っぽく、嫣然と魅了する。
一連のみやこちゃんを見てる人が違えば一発でオトされちゃうんだって……ジピコス師匠言ってたっけ。
『なぁ、姐さんを真っ直ぐにいつも見てっけどよォ。あんなの、男の前でやられてみろ、決まった宿があってもよ。……姐さんトコに足がむいちまうよ、我慢できねんだ。だからよ、あんなヤベェの怖くて真っ直ぐ見らんねーな。俺だけじゃねーや、ゲーテだってよ、囚まれそうで見続けらんねー、いっつも一緒だからわかんだよ。あー、……あと、それとよ……姐さんにゃ言うんじゃねえぞ──』
小悪魔じゃ足りなくて色魔なんだと、それも歴史に1ページ刻んぢゃうよーな、各国の王子をとりこにして振り回しちゃう、そんな伝説上の怪女……と、それじゃ意味合いが違ってきたりしないかな、うぅーん……!
「うー、……んんぅ、…………んんん………………実は。……バレ……だった」
「んっ?」
いけないいけない、慌てて頭に浮かんでた思いでの中の過去のみやこちゃんとリンクしちゃうとこでぱたぱたと掌で扇いで吹き消す。
ジピコス師匠ぉ、恨むよぉ……?
バレてー……って!
それはにこりと笑い直して口にする言葉なのかな。
口ごもりながら、ゆっくり喋りながら、細まって、盛り上がった涙袋が押し上げた、瞳だけが視線が外れてゆらゆらと泳いでる。
今のみやこちゃんは凄く魅力的だ、女のわたしから見たってそう映るんだもん、性的に男子だったとしたら、これを見たらそれは狼さんにへんしーんしちゃうのかもねー。
「まさか、……?じゃないのよ。バレバレだったみたいでね、それで──」
それから長々とみやこちゃんは王様の話を聞かせた。
珍しく細くなった瞳は開いているか解らなくなるっくらい細くて。
そんなみやこちゃんを見てると意識してなくても伝わってくる、今静かにみやこちゃんはふつふつとした怒りを培養してるんだ。
みやこちゃんじゃなくても周りの友達にもこんな子居たし。
そーゆー意味でもじわじわと、みやこちゃんが話してるのを聞いてて共感できたんだ。
しつこいの、ねちっこくて、何がなんでも折れない、こっちがその内へばっちゃう。
絶対に『うん』て言わせる、それまでは譲れない我を通してきてがっちりと捕まえて逃がさない。
そんな王様の性格が伝わってきてみやこちゃんの事に同情しちゃう、思わず。
イライラっと来た、王様が引くわけに行かないカテゴリーな人だとしても、だよ。
あるって思うんだよね、ある程度、そんな迷惑ラインの限度って。
「──大体解った。そうじゃないかなって思ってたんだ」
「わたし、解った上で罠を踏み抜くの得意なの。とっても…………、それって刺激的だと思わない?」
ダメだ。
みやこちゃんてば、怒りがゴポゴポ煮立つよう、沸き上がってきてるのかって思わせて、その実……面白くて、楽しみで堪らないって事みたい。
逆三日月が二つ浮かんで、それとは方向性の真逆なもうひとつの三日月はぐぐっと端が持ち上がっていく、これはね、いかんよ。
みやこちゃんの豹変する微笑みは寒気がするくらい、狂気を撒き散らして……背筋が思わずシャキンと伸びて。ホラー映画を見たワンシーンがその瞬間、走馬灯みたいにフラッシュバック!
だって、日本人形みたいなんだもん……。
有名なあのタイトルのあのキャラを彷彿させて、わたしの瞳には映った。
──畏怖とか、そんなんじゃない……アスミさんの時もそうだったけど、刷り込み効果だよね、これは。
胃が下がる感覚がするくらい、ぞぉっと全身全部の毛という毛が逆毛立ちするくらい、放ってぶつかる雰囲気にあてられて震える、ぷるぷると。
人並みの恐怖心だって思う、瞳を逸らしたいのにぴくりとも離せない吸着力が働いてるみたいに。
今、わたしてばホラー映画でも見てるのか、それともリアル幽霊でも見てるってゆーの?
がくっと、下がる体感温度。
自問自答を続けたけどわたしだと納得いく解はとうとうでてこなかった。
そうしてる内に、長い時間にも感じていた一瞬は過ぎ去って。
嘘かなにか。
みやこちゃんの全部から撒き散らされたプレッシャーにも似た、自由を奪うような味わったことの無い奇妙で耐えきれない感覚は幻でも見ていたっぽくかき消えてしまった。
どーやってもコレは曲げることは出来そうにないや。
やーめたっ!
刺激的?
それってそんなにも素敵なことだったの?
解ってる罠って、……毒ってわかってるのにそれ飲んじゃうみたいなもの?
声に出してそれは言えない。
さっきのアレ、二度は食らいたくないし。
絞り出すように声にようやく乗せた、ぐっと飲み込んで……頭に浮かんでいたフレーズと違う言葉を。
「…………怖いことはしないでよね、約束」
「そう、ね。はい、約束した」
考えても答えは出ないし、考えは曲げられないみやこちゃんみたいな変態には言葉で言っても無駄。
態度ってゆーか、約束として覚えてもらう、これが一番効果テキメンだったりする。
小指を突き出したわたしに、みやこちゃんの小指が伸びてきて絡みとる。
改めて二人は互い互いに小指と小指を合わせて──やくそーく、げんまーんっ♪嘘付いたらっ──夜のベッドで自由にしていいよ、わたしを〜♪
小指に小指が絡み付いてくる、一方的にみやこちゃんの方から。
……な、何が。
途中から不穏な文句になってどん引くわたし。
それでもみやこちゃんは最後まで言い切っちゃう。ぶんぶんと小指を中心に腕が振り回されちゃう。
「あの、……自由にしていいとか無いから、最初から!で、実際さ。それより、……何から始めるつもりなの?みやこちゃん」
「えー、売れ残りとか嬉しくないんですけどっ!嫌いって言われたみたいでものすっごく悲しいんですけどー……っ!って、ま!
ぺろり、……何からって言われたらそれは。わたし、闘うだけよ。だから、ってわけで門の向こうのあいつらと再戦かな、まずは」
わたし、ノーマルだし!これはガンとして突っぱねないと。
その上で、話を長引かせると苦しむのはどっちみちわたしだし。
すぐに話のスイッチを切り替えに走らないとダメ!
うん、これは譲れない。
みやこちゃんてば、ムッと一瞬怒ったかと見せて、大袈裟に片方の手のひらで顔を覆ったかと思うと今度はしなっと言葉通り悲しさで泣きそう、だと演出して見せる。
演技、嘘泣きなんだよね、これってビックリするほど上手なんだよ……それから種明かしに悪びれて舌を出すとすぐ、瞳がギラっと光って。
冗談だよん、って瞳が語る。
「え、え?またぁー……」
「初めて会ったあの場所でいけるとこまで行こう、ですって。そんなの、周りの迷惑まるまるスルーってことじゃ無いのかしら。そう思わない、凛子ちゃん?」
「うぅーん、それをみやこちゃんが言うとやぶ蛇ってカンジ!」
「わたし、……迷惑ぅ?」
「ううん、周りのわたしたちとみやこちゃんがターゲットにした相手が振り回されてるってだけ、かなー」
「そう?……そうは思わないんだけど。意地悪なこと言うわね、凛子って♪」
それが平常運転だって納得できちゃうようになっちゃったわたしって割りとダメかも知んない。
結局、国王様とも闘うんだって……みやこちゃんと、もう修練の門で闘ってたの?
国王様と?
「ギッシュロミー……なんだっけ?」
「ギィーブルじゃない?」
「えっとぅ。それはぁー、ギッシュロミエールぅ。って言ってなかったぁ?」
「決めた!ギィーシュ、ギーシュってあいつの呼び方、命名!呼びやすくなったし、いい名前に変わったわね、うん!」
「王様の名前なんだよね……」
王様をあいつ呼ばわりなのもどーかと思うけど、勝手にあだ名つけるなんて、さすが。怖いもの無しのみやこちゃんが本気を見せ始めたようです。
何気に集中力を周囲にぶわっとオーラ?ATフィールド?のように広げて、入ってこないでー、……集中、集中力!
って感じの空気作り出してた愛那もその問答に絡んで来てたり。
「ギーシュ、ね。あいつ……どーしても欲しいみたい。だけど、わたしは要らないじゃない?オジサン趣味でも無いわ」
「どゆこと……?」
「黒翼よ。是非とも家族に、だっけ?あんまりしつこいから……で、……えへへ……」
「うわぁ……、ちょっと挑発もされた風になかったのに……みやこちゃん、……本気?」
解っちゃうんだ、態度と豹変する口角ですぱっと。
「まだ、何も言ってないのだけれど……?」
「悲しいけどわかっちゃいます。王様とバトるんでしょ、……よりによって!だよ?」
みやこちゃんと、口撃では長い間やりあってきてるし、ある意味では熟練の猛者なんだ、わたし。
こんなみやこちゃんだよ、トラブルをたぐりよせてくるのは……全力で否定したい。
やめなさいよって。
「一方的に戦わなきゃならなくなるように話を持っていったのは──残念ね、わたしじゃないのよ」
「王様が?」
みやこちゃんの顔、にんまりとしてやったりと──もうずっと視線は机の上の紙束を、それもずっと拾い読みしようと必死だったりして。
書かれているものに反応して笑ってる可能性が微妙にあるてしても、話してくれている背景を思い浮かべると全然安心はできそーにないんだけど……。
「そう、ギーシュが」
「未練たらたらっぽいや」
「ううん、血が、たぎるっ!とか骨がっ戦わなきゃっ!て告げている!!……とか、そんなのだったわよ。ホントにしつこいの!」
と、そうなんだ。
イケイケな感じだね、国王様って。
みやこちゃんの瞳がカアッと見開かれて二倍くらいに大きく。瞼まで剥がれて零れ落ちそうに膨れる感じに盛り上がる、そんなに興奮してたのかな、国王様って……どんだけ、みやこちゃんをものにしようって血眼になってんだか……。
本で見て、読んで、その名を知ってる。
ギィーブルだっけ?
え、違う?
で、その国王様が公的に相手するから又、修練の門で待ってるって……そうなの?
「怪我しないでね」
「こいつぅ……だぁれに言ってるのか解ってるの?わたし、負けないもの。絶対にね!」
イタタタ……。
でこぴんがわたしのおでこに炸裂した。
手加減してくれたとは思うけど、めっちゃ痛いよ!腫れちゃうかも……どーしよー……そうなったらどしてくれんのよー!
みやこちゃんっ!
心配なんかしなきゃよかった。
回りくどい気がするけど……それ以外無いならそうしてあげなくちゃダメなんだろうし。
みやこちゃんが、国王様をぶんなぐる、そんなイメージが何度も何度も殴っては戻り、殴っては戻り……リフレインしてる。
国王様、無抵抗でかわいそう……、ま、イメージ上の国王様なんだけどー?
で、その数日後です。
国王様がとんでもない発表しちゃったのは……、何がとんでもないかって言うと、わたし的に精神的に良くない中身だったんだよ……でね、その内容というのが……。
黒翼を配下に迎える、以上!
……って、……え……ええっ?!
みやこちゃん?!
どーして今さらそんな事になっちゃうのっ?
ギーシュ対笹茶屋シーンは割愛。
どっかの場面で出てくるかも、これ入れると仕上がらないのです…………