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王様はみやこちゃんをお気に召した♪のようです

「──随分と謙虚な御仁達だ。申し出れば、褒美は望むがままであるというのに……我が国の英雄ともなれば、他国に行くなりカルガインに帰るなり、悪いことにはなりはせんだろう……しかし、だとして無理強いは出来んか。かと言っても礼を述べるに留めて置くだけになるのでは儂の気がすまんが……仕方あるまい。……本当にこの度は、娘の命、それだけでなく。口には出来ぬ国の大事をおさめて戴き、感謝の極みである。本当に……本当に」


………………あれ?

オークの事とか、もしかしてもしかして国王様ってば知ってたりする………?

英雄かー、……英雄はねー、何て言われてもみやこちゃんはうんて言わないって。


メリット、デメリットどっちも大きいんだって言ってたし。

デメリットある時点で引き受けたりするはずないもんね……だって………………みやこちゃんも、わたしたちと一緒に日本に帰るんだもん……絶対に帰るんだもん!


それにこのタイミング、……みやこちゃん、イライザと結婚てこともなくは無い……あるある!


図書館では美談っぽく書かれたそんなお話が本になって残ってた。

あれは、確か……。

そう、そう!

思い出した。


えっと、うん。

こんな感じだったかな?


サーゲートは新しい国だけど、獣人さんたちの社会はずっと、ずーっと昔から続いてて、社会のトップとゆーか団体、集団のトップが同性でも結婚して繁栄は続いていくみたいな……そんな……そんな、BLorGLっぽい物語。


ふつーの結婚じゃなくて縁を結ぶだけの結婚。


獣人社会には珍しくはないんだって……その、女性だけの結婚。

もちろん、そのままだといろいろ困るから縁無しで血を入れて……詳しくは難しい事になるから省くんだけどそんな感じで結婚できる事っぽい。


つまり、それって重婚?

そうなんだけど、ここじゃ重婚は悪いことになってないんだって、さ。

これも本を読んで解ったこと、……なんだけど……ね。


日本人の常識は通じないって思いしらされちゃうよね……何でもありなんだもん、これも平和じゃなくて……いつ、あっさり死んじゃうか解んない世界だってことでそうなってるのかも知んないな。


さすがファンタジー、って言葉で終らせらんないのはそれだけ切実に生と死が表裏一体。

ぼやってしてたら死んじゃうか、取り返しのつかない大ケガでリタイアって事になりかねないんだよね、しかもそれが毎日のことなんでホンっトに大変。


ここって魔法があっても、それ以上に危険な世界。

獰猛なモンスターと隣り合わせで暮らしていくということ。


隣で笑ってたあの顔が、次の瞬間にはもう無いってことが当たり前にあるって経験は日本人にはなかなか出来ない……出来ない方がずっとね、幸せなことなんだよってわたしの番にならないと、自分でそんな目に合わないと気づけなかった事なんだけど……。






イロイロとホントに色々とお礼を言われて、わたし達は部屋を出る。

ドアをくぐる、その間際に呼び止められた。


「んんむ、そうであった!

シェリルという者、少々……ゴホン、他には、ぅんっ、聞かせられぬ話もある、余とふたり、話そうではないか。なに、そう長話はせぬつもりだ。よいかな?」


「そう、良いわよ。そう……そうくるのね……ふふ」


何々、みやこちゃんを気に入ったんだって?


王様がみやこちゃんだけと、話したいって、さ。


それで仕方ないからわたしと愛那はじっと待ってるってことも出来ないし、でその場をモヤモヤしたのを抱えながらも退散。

愛那と控え室に帰ってみやこちゃん、待つことにした。


「──王様とふたりで、話ってなにかな……?はぁぁ…………………………んんん、……ぅぅう……。何にもしないで待ってると、イロイロ考えちゃうなぁー……。ヘクトルとも暫く会ってない……し、結局……ヘクトルは強くなっちゃったの、かな……?また、距離が開いてっちゃうの、かな……」


わたしだって健全な女の子。

そういう意味では、どーしたって手持ち無沙汰な時間が出来たらイロイロ考えちゃうんだ。


身近な異性のことなんか、”好き“というわけでも無くても気になってしまうんだね。


気になってしまう、それそのものの意識で、それはもう”好き“の始まりって言うけど……ここだとそれは適用されないんじゃないかな……ヘクトルしかいないんだよ、だって……そんなの……健全な女の子です、気になった所で好きとは違うんじゃないかな……って………………何、考えてるんだろ……、ぼうっとする時間がなかなか今まで足りてなかったからかも……こんなことを今考えちゃうのは……。


嫌い?かって、ゆーとー……ううん、キライじゃないよっと答える。


好き?かって、ゆーとー……ぅぅう、好き。でも、そっちの意識ある好きとは違う。これは、友達としての無条件の好き。葵ちゃんや、みやこちゃんを好きと答える意味と同じ。でも、そこに微妙に違う意味で、女の子の友達と同じ意味じゃ男の友達をカテゴリー統一はできないんだよ、ね……。


ぅぅう、ふぎー!こんがらがってきちゃった!


現実逃避でもしたい。

今したい!


ちょうど同じ空間に、今いる部屋にもう一人いるんだし。


愛那と話そう。

何でもないこと話して今の頭の中で考えちゃったこと忘れちゃおう。


「愛那、……な、に、してる、の……?…………んんんっ!」


その時、隣からはガリガリと軽快に固いものを掻きむしるような音がしていた。

そう言えば、考えてる間もずっとこの音してなかったっけ……うん、してたね!






「余とふたり、話そうではないか」


「そう、良いわよ……」



「名は……そうだ。シェリルと呼べばよいかな、それとも。……黒翼と呼んだ方がこの場に相応しいかのう?」


「いえいえ………、黒翼?って、それ何のこと?

わたしの名はシェリル。ですよ、イライザからは聞いているんでしょ?」


びしっと力強く指差し、王様。


ちょっと引き気味にみやこちゃん。


この辺はみやこちゃんに後で聞かされた話だからその場にわたしは居ない。


「改めて黒翼に名乗ろう。我こそは──建国王フィオレイレミスを祖父に持ち、三代目サーゲートの国王である。そして、その名もギッシュロミオール。……覚えておけよー?」


まず、王様は名前を名乗り直して、それから歩いて机に向かい、執務机の椅子に座った。

その後でみやこちゃんを椅子に座るように手振りで勧めたんだけど、みやこちゃんは従わずに……。


「どーしたって黒翼と呼びたいなら、それに従いましょう。でも、ね?

──何、企んでるか知らないけど……中身全部ぶちまけて貰わないと見えてこないんですけどっ!

話してくれますわよね?今、このとき、この場で……」


執務机の紙をバサッ!

紙を払ってから散らばる紙の上から机の上に腰を乗せて王様の顔をにらめっこするみたいに顔を寄せてロックオン!


……さすが、みやこちゃんと思う。

相手はサーゲートの王様だってわかっててそんなの……、出来るか?……まず、マトモな常識な視点をしてるって思う、わたしな見方から言うと……そんなのとてもできないんだけど……、てゆーか!

止めるし、絶対に。わたしが居たらね、その場に居たら。


「はぁ……?隠そうとするのは、目立つ事が気になってかのう。しかし、どーして目立ちたく無いと言うお主が儂の暇潰しに付き合ったのであろうな」


「…………何、手の内を見せて貰えないのなら。これ以上話すことはわたしの方には無いのですけど」


「匂い、それにな……あの者と纏った雰囲気が、あの時のそのまま儂の目の前にある。隠そうとして顔を出さずとも、儂にはわかるんじゃよ?

この感覚を隠すことは出来んぞい。のう、黒翼よ……」


王様の視点は強くみやこちゃんをにらみ返してしていた。

瞳から炎が出てる風に感じたって言ってたみやこちゃん。

それだけ、強く。

只、みやこちゃんの瞳だけを見ていた。


みやこちゃんは暫く考えちゃうしかなかったみたい、王様にそこまで言われちゃうと言い逃れ出来なくってぐぅぅっとなるのわかる気がするね。


「沈黙は時として肯定しておる事と同じじゃものな。それでは『はい、そうです』と言いながらも逃げる算段をしておる風にしか見えんがの、今のお主からは」


バレてた。

みやこちゃんと、シェリルとの接点。


そして、……黒翼も。


「はい、そうです。……そんなこと、わたしの瞳が言っていますか?言ってませんよね」


「瞳で嘘はつけてものう。意識ではコントロール出来てはおらん。シェリル、黒翼ではないとお主が言い逃れようと、黒翼と『違うでしょ』と瞳で語ろうと……ふふふ、……儂は見ている景色がそんな瞳に映る、観てくれと”着飾った殻“では無くてな?黒翼の本質、……あの日、あの時、触れ合いぶつかり合った我々の魂が語りあっておるのだ。解らんか……?儂の血が、肉が、骨が、体の奥底にある心がっ!ギッシュロミオールというものを形どる芯から全てっ!お主を、黒翼だと言うておる!再びの邂逅に喜び、うち震えておるのだっ、ぁあっ!」


「……うるせえ……」



興奮していった王様は口から滑り出てくる歌のようなフレーズに酔うように椅子から立ち上がって。

二人の鼻がぶつかるくらいに顔を寄せて狂喜が揺らめく瞳を輝かしたかと思うと。


今度は、背を向け後ろの壁に穴が大きく穿たれた窓に向かって叫んだ。


ぶるぶると全身を震わせて立つ、わなわなと両手を広げて天井に吼える王様。


その背に心底イラっとしたみやこちゃんは無意識に吐き出す、そっけない一言が零れる。


「……お前が、お主がっ!」


「な、何よ…っ!」


「欲しい!我が妻に、娘に、家族に欲しい!ほ、欲しいのだ!その才覚がっ、溢れ出しみなぎる……触れてはそれだけで散るように砕けて無くなってしまうようなその魂が!」


「………………はぁっ?」


「嫌か?イヤだと言われると、それを解らん儂ではない。何が望みだ、そうだ……望みは無いのか?何だろうと叶えてみせよう、その為ならばっ、サーゲートの全てを懸けてその望みに答えよう」


「国に帰りたい、……それが叶うなら家族になろうじゃない……はぁ、……今の、無し!忘れて……?そんなの無理だもの、やっぱり」


「………………?そんなことでよいのか?使いのものをすぐに当たらせよう。そう、か。……しかし、カルガインに帰りたいというだけが望みか、案外、簡単な作業であったな。もっと無理難題を背負うことも覚悟しておったのだが」


「……え?……ええっ?……いや、いやいや。カルガイン、なんかじゃないわよっ!」


「んん、では……。どこに帰るとゆうのか、南の大陸かハイランドか……そうなると、長旅となる。……しかし、黒翼と家族になる、……黒翼を我が家族に迎えるとなればハイランド行きも苦しくはないぞ、うんっ??どうした?」


目の前で小躍りし始めるっぽく、ニコニコと頬を崩していく王様の姿を見て。


キレた。

っぽいの、盛大な勘違いヤロウと心の奥で毒を吐き、王様に勘違いを勘違いだと解らせる為に口を挟んだ。


ほっておくと、すぐにでもプランを練ってハイランド行きの船でもチャーターしそうに思えたって言うし、どれだけ王様は喜んでたんだよ、ってみやこちゃんに突っ込んだっけ。

王様のこの時のこの一言から導き出すと……、相当みやこちゃんってば曇り顔してたか、よっぽどキレちゃって満面の笑みを浮かべてたのか……どっち?


「南の大陸……、ハイランド?そんなのいつかは行ける!頑張っても帰れないのよ、わたしの生まれた所は!」


異世界・日本から来たって言うか迷ったけど、それって王様は信じそうにないと思ったみやこちゃんは……王様にそれとなく導き解いて欲しい、と頭を過る。


そこから。

頑張って帰れる場所じゃないって伝えることに。


でも……、それに……みやこちゃんの言った”頑張って帰れる場所じゃない“という世界が、ココには大昔から存在してたんだよね。


そう、空に浮かぶアレ!


「と、なると……月か。そうか、月か。黒翼が天空人(てんくうびと)ならばその常識ではお目に掛かれぬ魂の根源も素直にうなずける。そういうことなれば、アレを急がせよう。月も帰れないというわけでは無いのに、どうした?その瞳は??」


それから色々、イロイロあったらしいんだけどみやこちゃんの言った言葉そのままであらわすと。


『アイツ、話してる内にどんどんウザくなるわ。解る?あー、もう!思い出したくも無いのよ、一を話して百返されるって言葉あるの知ってる?あー、それがぴったりと言うのかしら。と・に・か・く!

ここ、から後はっ!凛子にも伝えなきゃいけないトコだけ話すから……。落ち着いたら、端折ったとこも話せるかも。だけど、今は無理!』


瞬間湯沸し器の、色違うばーじょんっぽく白い頬が青く、サァッと表情が変わるみやこちゃん。

それでもすぐ、白く塗り染める。気合いで。


最後は顔を両手で覆って天井を仰いだ。

そのまま吐き出すように叫んだ。

無理、って!


「──なれば、叶う術がないのならばっ!我が配下をひれ伏し、我が血肉を、我が魂を、本能を!一目で、目覚めさせた黒翼の姿だけでもこの、デュンケリオンに置いていって欲しいのだ。これは儂の願い、差し出がましい願いでしかない事は重々承知している。それは承知の上で、頼んでいるのだ。

どうか、どうかどうか……黒翼という証明を残してやって欲しい……チラッ……、代わりと言っては何だが見合うだけの代価を用意しよう、何を望む?お前は、何を望むのだ?黒翼よ……?」


「……鎧、欲しいんだ?わたしの」




つまり、国王様は……みやこちゃんが欲しいけどそれが叶わないなら、その外側だけでも手に入れたい。


そーゆー話なわけね?


ちなみに、わたしの服装は白づくめ、アスミさんは赤一色、愛那は緑一色て様相がだよ?

指定されてこのフィオレランクツエに入城させられるってゆー、この時点でおかしいじゃん!

おかしいじゃん?


でも一人指定されて無かった、一番露出が多くて注目も集めてて……それって、わざとなんだけど、さ。


村での悪名を払拭は出来ない、それは無理ってみやこちゃんも解ってて、性悪エルフで広まっていっちゃったシェリルの名前を上書き出来るだけの話題作りの為に、それだけに産まれたのが──黒翼。

その話題作りには何をすればいいか?って、なってね。

あーでもない、こーでもないて感じになったのを、その空気ズバッと!切り裂くようにアスミさんは言いました。


正義の味方をやってみない?


と、アスミさんの言葉を借りると──せやな。ウチ、良いこと思い付いたんよ、あんなぁ……。


正義の味方してみとぅあらへん?





……さぁ、その黒翼が、だよ?

黒翼だけ、入城指定ないだなんて……最後の確認だったんじゃないの、もう……ほとんど100パーセント見抜かれてて、見抜いててさ……。って後から思い直すとそうとしか思えないよっ、てゆーかてゆーか……、気づけよって……わたし!


ばっくれてて、城なんか来ない方が良かったよ。

アスミさんみたいに!


あ、悪いけどこの話。

続くんだって、さ……。




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