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納得できないんですってば!

だめじゃん……


……えーと、そうじゃなくてぇ


……はいはい、や、……それ、わかって言った?


解ってて声にだしてるの?




図書館では必要不可欠な、でも勉強不足なわたしがサボってた、そんな部分を埋められたんじゃないかなーと。

そう、思いながら暗く陰っていく街中の喧騒を人波を避けながらわたしたちの泊まっている宿に歩を進めている。


「もう少しで帰れるね、シロイ。って、……本当にあと少しかってわかんないんだケド……こんなとこからじゃ、ねー」


勿論、シロイの背中の上が今のところ、わたしの居場所。

話は一応できるんだけど、シャダイアスたちはってゆーより、シロイがかな……気分屋っぽくて返事をして言葉をかえしてくれるのも気分しだい。


独り言みたいだけど、ま、伝わってるはずと思うしかなくてね。

歩くのに神経をびっくりするほど使っていてそれで無視してるのかも知れない……取り敢えずポジティブに、ポジティブに考えよう。

「わたし、一人で帰ってるなんてこれっぽっちも思ってないよ?シロイが一緒だから寂しいとか……そんなに感じずにいられる……ンだから、ね……」


泣けちゃうな、シカトされてるとかだと……。


こっちに来て、デュンケリオンにおっきな図書館があって、本を読めたのは有意義だった。

読書を終えた今はなんとゆーか、その……。

文字は何となく読めてたけど、イマイチ確信は持ててなかったのが確実性をもって目の前に迫ってくる気分。


読書は嫌いでは無いし、これからも図書館にはまだまだ通うことになるっぽいなー……疑問はまだ幾つもあるんだよ。

残ってるんだ。


シロイの背中に乗ったそんなわたし、どうにか宿にたどり着けたのは夜。

オレンジの夕日も沈んでしまった後で。


一冊読み終わるのに、時間がかなり消費してる……これじゃこの世界の基礎知識を覚えるまでどれくらいかかるやら……。


読み終わったのも、手付かずに終わったのも併せて片付ける暇もないままにそうかと言っても、さ……そのままに借りたテーブルの上に残していくってわけにもいかないでしょぉー?


時間も無いから、受け付けカウンターの上へ。

や、悩んだんだよ?これでも!


それなのに、図書館から帰ってきたわたしをいきなり拉致しようとする力強い腕。

ドアを開けて、宿の広くないロビーを通り過ぎて。

精神的にも疲れてしまって、くたっと肩を落として階段に向かってるわたしの首にするりと巻き付いてくる。


きゃぁああ!って思うけどちらっとその腕を見ると見覚えが。


あれ、これって……考える間もなく頭に思い浮かぶ。


細くて、白くて綺麗な腕を惜し気もなくさらけ出す、その持ち主は疑いようがなくて勿論、京ちゃんのもの。


「ちょ、……苦しっ!」


「飲めるようになったわよね?」


おやぁー、そのワードだけ聞くと変な想像ができちゃいませんかぁ、みやこちゃん?


お酒のことかな……ってそれ以外無いって知ってるくせにわたしったら……。


「うん……」


「じゃ、付き合うわよね。はい、決定。酒場にgo〜♪」


こ、この人は……。

いつも勝手な思考でイエス、ノーを省かれるや。

どーしたって、もう決まっているんだからノーを言わせないンだよね。


嫌でも無いけど……?

そーゆーとこ、小さな時の葵ちゃんと重なるんだ。

わたしの幼なじみで、ワンマンで、無茶で、頼りになって、わたしの手を離さなかった隣に住んでる女の子と。

葵ちゃんはワクワクさせてくれた、胸を弾ませてくれた、いつも……いつだって……あ、葵ちゃんは今ごろどうしてるかな〜?





「でね、本にはそう書いてあったの。この瞳で見たもん!酷くない?!」


「へぇー。……んー?じゃぁ今言ったそれって『青戦争』の事なのかもぉー!」


「クドゥーナ、それっ、同感ー!話聞くとそんな感じに思うわよねっ」


「この街にぃ、あんまり人間が居ない理由と答えが『青戦争』に隠されてるのじゃぁー♪なんか、それってぇ、ミステリーぃ?」


「……青戦争ぉーーー?」


みやこちゃんと、愛那に想いのたけという愚痴を溢す。ぶつける。


わたしの話を聞いてみて、二人は思うところあるみたい。

なんたってわたしがほっぽってたシナリオや、全く知らないクエストとかでノルンの事に二人とも詳しい。


今わたしの座っているテーブルの右隣に座っている、クドゥーナこと愛那は酒場に早くから来てて、わたしが連れ込まれるともうそこに座ってた。


今日の彼女の格好はクリーム色で纏めましたみたいな出で立ち。

ボタンを止めずに胸元のはだけたワンピースに、胸元の隙間から覗く格好になるタートルネックのカットソー。

膝まであるワンピースから生える足を包み込むソックスも。


いつもの緑色一色の姿とはまた違った印象を植え付けるとゆーか、可愛く纏まってるな、と。


こっちはそのままってパターンだったかぁー。


足元のブーツだったり、外してテーブルの上に起きっぱなしのグローブだったりは相変わらず緑色のままだったりなのは、やっぱりって感じがする。

そんな細部まで視線を巡らせると、この子はこうでなくちゃって思わせるんだよね。

着てるものは変わっても、使っていてお気ににしているものは、こうと決めたら使い続けるとゆーか。


愛那のその手にはジュース。

当然なんだけど、一滴も飲めないから……愛那ってば。

無理に飲ませると大変って知ったあの夜、その後はみやこちゃんも勧めたりしない程度に危険なんだよね……この子。


いつものオレンジみたいな味のするジュースじゃないと気づいた、だって。

そのグラスからはグレープジュースのあの匂い。


葡萄のいい匂い……あ、葡萄欲しいな、葡萄いいかも。


コンコードとか、果汁100みたいな濃い果実の香りがして、鼻を思わずヒクヒクって。

喉が鳴る。ごくって!


ああ、けど……。

今は京ちゃんに付き合わないとだもん……名残惜しいけど、後でわけて貰お。ひとくち。


そんな、シェリルこと、京ちゃんはぴったりと肌に吸い付くような、胸を強調するような黒のトップスに白のシースルーで袖のないカーディガン。


木製のジョッキを傾けてくいっと流し込むと、


「差別されてるって意識して歩いてるのよ。気になるって言う時点で周りの視線を気にしすぎ!ふふ、意外とまぷちってさ、自信過剰なんじゃない?」


なーんて、みやこちゃんは言うのが変わった考え方してるなって思っちゃう。

自信過剰?

意識し過ぎ?

え、違う。違うし。


「違うよ、絶対………………うん。本にかいてあった通り、これは自分たちより下にわたしなんかを置いてるの。だって……ねっとりしてるもん」


街でわたしに向けられた視線が……。


「ウチも獣人さんとはぁ違うからぁ、なんてゆーかぁ……いや〜ぁな空気出してるのが居るのん感じるぅ」


だって、愛那はこんな風に言ってくれる。

愛那に尋ねた訳じゃないけど。


「どーいう風にみられるようになればお前の心は満足できるんだ?」


それってどういうことって思わず聞き返しちゃったのはぐーちゃんの一言に対してだった。


最初からそーいえばぐーちゃん、居たんだったや。

敢えて触れなかったけど。

……何その格好、は。

マネキンにされてるようなものなのかな。


愛那の背中の方に視線を向けるとこっちを向いて肩越しに難しい表情が見える。それはぐーちゃんで、そのぐーちゃんの今日の格好はと言うと。


どこかの国のお姫様?

豪華な真っ白いドレスに、柔らかそうな薄手のグローブをした掌。

長髪を纏めて結い上げたボリューム感すらあるアップヘアーの上には神々しい白銀のティアラが。

ドレスのスカートの裾からは上品気な光沢のついたタイツ……ストッキング、かな?


まず、京ちゃんはこんな格好はしないって思わせるスタイルのぐーちゃん。


京ちゃんに瓜二つってよりコピー品、クローンて思わせる姿かたち。

そんなぐーちゃんは着せられれば素直にそれを着ちゃうんだから京ちゃんにいつも遊ばれてるってわけ。


「……どういう風に……わたし、は……思われたい……?」


「はい、はいっ!ウチはぁー、名前がわかってぇ話した事のある人以外からぁなんて思われてもー。関係ないんじゃぁーって思っててぇー」


わたしのそんな呟きに隣のクドゥーナはガタッと椅子から立ち上がって手を挙げる。


ここは教室でもないし、日本でもないから手をあげてから発言権を主張ってへんだよ……?


言いたい事を言った彼女はすたっと着席して、テーブルの上に広げられた料理のひとつに手を伸ばしてる。


川エビみたいなのを辛めに味付け、ハーブ系の香草と焼いた、見た目も美味しそう。美味しいよ、って料理から主張が聞こえても不思議じゃない。


「え……嫌じゃない?ふつーに」


白い目で見られてるのって、冷たい視線って。

しかも……これからずっととか……。


「まぷち、自信過剰♪ってことが決定〜♪あはっ、アハハハハっ♪」


「……シェリルさん……そう、かなぁ……。そう、なの……?かなぁ……」


自信過剰。

そう、かなぁ?

そう、……じゃない!


だって、サーゲートが……獣人さんが勝ち取った権利みたいなもんだし、差別して良い!って公式に宣言してあるよーなもんだと思うし。


いつか、終わるなんてものじゃない!


ジョッキをくいっと傾けて空にすると、干した肉……ジャーキーかな、それを噛んでぶちっと千切るみやこちゃん。


わたしの視界は段々と狭まってくる。

眠いわけでもないし、どーしてだろね?


「そんなのぉー関係ないない、一瞬の事を気にしたりぃー悩むくらいならぁハッピーなことっ♪考えよおぅー♪」


羨ましいその脳、作りを見てみたいから一度パカッと割って見せてほしい……。

にぱっと笑って、半径いちめーとる、周囲キラキラマークのエフェクトでも見えそうなクドゥーナに対して、わたしの声は届いてない。



「暗い、暗いぞぉ!真っ黒まぷちだなっ、ほら、クドゥーナを見習ってみるんだ。この笑顔」


「わっ、ぐーちゃん!……真っ黒?……そんなこと言ったってー、……人間考える時だってあるんだよ?

……クドゥーナみたいにハッピー、ハッピ〜ってそんなんじゃ不幸は飛んでかない!気休めだよ、ううん……誤魔化し、紛らわしてるだけっ、何ひとつ……っ解決しないもんっ!」


「わーぁっ、言い過ぎぃー!悩んだらぁ、前に向けないじゃあないのっ?良くなるかなんてぇー、そんなのずっと。答え出ないかも知んないんだよぉ?」


「はい、まぷちダウト〜!そんなにがんじ絡みじゃどうやって進むのよ?悩むな、気にしない!いい?気・に・す・る・な、これは命令よ〜!」


「命令ぃ?!……シェリルさんだって、立場同じだったでしょー……、向けられた悪意にはコントロールできてたとは思えないんですけどっ」


そんな風に段々とヒートアップしていく、わたし達を鎮めたのは意外なとこからの声だった。


「なんや、なんやぁ〜?うちもまぜてぇや。おんもしろそな話やなぁ〜、パーティ解散の相談なんやろ?皆して荒っぽいこと言いよるみたいやったよぉー?意見の不一致で解散やなんてありふれた解散理由やろしぃ〜…………ん、何やのー?ちょ、止めてーな。うちの顔、そんな注目の的んなるよーな顔してへんって〜」





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