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こんなとこで死ねるかっ!!!

扉の先には──


「あっ、あっ。アハハハハハハハハハハ。そう、来るか……、なるほどな。確かに今のいままでのどの相手より強いって言われる訳だ──」


初顔合わせ、初見だとは思うんだ。

でも。


それでも───国王の肖像は商店の店先でも露天のカウンターぽいテーブルぽい台の上でも街中の目立つ所と言えば必ず一つや二つ飾られているから。

勿論、わたしが入り浸ってる酒場の壁にでも掛けられている。

一つだけで綺麗にされてるって感じはしないですけど。


国王の事を尊敬しているって言われなくても解っちゃうよ。

うん、この国の人たちが。

もし、強制してたりしたらこの思いは踏みにじられたって気がするんだろうけど。


もし、……だけど。

そんな事は無いと思ってるんだけど。


酒場でたまたま話し掛けてきた酔っ払いが、我が事であるように国王を褒めたたえ、褒めまくり、褒め倒してわたしの鼻先で暑苦しいのに熱っぽく、恋する乙女、それもJKのように取り憑かれた表情で語っていたのを聞いて知ってしまったら。


まさか、目立つように肖像を飾らせてるは強制とかって思えないの、どうしても。


もう、解ったね?

理解したでしょー?

こんなに説明しておいて『実はまだまだロンベルトの凄い部下が!』みたいのはそういうの無いから。


いやぁ、だけどね。

コレ……。


国王、…………………………なのか?

尊敬を集め、誇りを多くの人たちが感じる……国王が……こんなでいいとでも?!


扉の向こうには国王がいた。

ただ。

寝、ていた。

まあ、そうねー。狸寝入りの可能性が無くはないですけど。


国王、イライザの父。

イライザが暴れた時、物理的に止めた唯一の存在。


イライザを止める。

……つまり。

強いのだ、イライザより。

だけどさ。

高いびきも雄大に、まあ……思いっきり寝てるぞ、今。


「……………………!」


緊張をぶったぎってくれた。

一本の糸がはらはらと細くほどけて、千々に千切れて、周囲に散らばるイメージ。


くぅっ……。

張りつめるように集中してたわたしの心を掻き乱した。

完成したジグソーパズルが力の限り壁に叩きつけられてピースがバラバラに一気に崩されたようにパーン。


周りを見回してみる。

その光景に心乱されるのから一瞬でも逃げ出したくて。

改めて、少しでも心を落ち着けようと。


「ふっ、実力はわかっておるのだ。……くっちゃべる必要もなかろ。では、ぞろ手合わせしてやろう。さあこいっ、息抜きにつきあって貰うぞっ。せいぜい、死なぬように頑張れよおっ」


白い石の壁。

それと対になる、ここまでの通路に敷かれた一枚岩のような、姿が映りこむような鏡面仕上げをされた黒い石の床。


……他には何にもない。

黒い石の床に敷かれた絨毯があるだけ。

そう、だだっ広い今までの部屋とどこも変わらない広さの部屋。

そう、映った。

わたしの瞳には。


視線をそれまでより落とす。

高そうな毛皮の絨毯に寝そべっていたのは、漂わせる雰囲気からしてラスボス……じゃなくて、王様……。

起きなくていいのに……。



誰より偉いからって見下した口調と態度。

大きくあくびをして。

それからわたしに目を留め、『お前!』と、わたしに気付く。

そこから一気に捲し立てながらごそごそ。

あちこち動き回って頷いたり。




放り出してた、こいつ……。

汚い青錆びた剣と、それとは別に銀色に煌めく美しく見事な剣。

白地に赤の丸が描かれた楯。

楯と同じ色使いで白地に赤の鎧甲冑。


……待ちかねた、とかじゃ説明がつかないくらい、ずいぶんと無茶苦茶余裕見せてくれるじゃない──嘗められてるってワケっ……かしらっ?


国王は寝てた時、クリーム色のゆったりしたローブのような上下を纏っているだけだった。

それが、今。

完全武装の姿を見せている。そう、歴戦の英雄のような。


そのくせ、痛いほど肌に伝わってくる戦慄くような殺気。


こ……こんなの嘘だっ、本気で。ホントのホントに、ラスボス級じゃないっ!!!


す、すくむっ?

体が意味もなく震え出した。


殺気──いきなり夜空にうち上がり、爆発の大輪を咲かせる打ち上げ花火のように一瞬で瞬間的に膨大な、尋常じゃないレベルの殺気が現し、すぐさま全身を襲う苦しいほどのプレッシャー。


本能から脅え始めてる、わたしのものじゃないみたいに体が言うことを聞かないっ!


強いとかそんなレベルの問題の相手じゃない!

ボス部屋入るのに十分な準備だって出来てない。

経験則から言うと、大概こーゆーとき大体は。


死に戻りのパターン。

地面にみっともなく倒れ臥して動かないわたし。

全身をわたしの血で濡らし、あっさりこと切れるわたし。

そんなイメージが頭を過る。

物騒な!


だって。

相手はこの国を治める王様で、この国で一番強くて、この国で一番偉くて、……何より、わたしが異世界に来て初めて負けた強敵であり仲良くして貰ってる友達でもあるイライザの父親で。


イライザが父には勝ったことが無いって言ってた事を考えると、これはどう転ぶかわからない。


敗けは確定の上で、あっさりライフがゼロになって死んじゃう……かも……って……そんなのは嫌。

いや、イヤ、いヤ、イや、嫌嫌嫌、いやぁーっ!!!


やり残した事だらけだしっ。

この異世界でだってっ、異世界から帰った後の地元でだって!


死にたくない。

死ねないっ!


こんなとこで死ねないんだっ!!!



「──ダルテっ!」


国王の動きを奪うのが目的に放った、わたしのお気に入りの範囲魔法が。

冷気から凍気にまで登り詰めて辺り一帯を瞬時に凍り付かせる、必殺の凍結の嵐が。


……嘘、だぁ。


目の前の光景に思わず瞳を疑ったわたし。


国王の周囲に迫ったところで、まるで掃除機か空気清浄器に吸い込まれる汚れた空気のように、国王の左手に握られる楯を起点として削ぎ落とされるのが見えた。


「これ、は報告には無かったの。危ないところであった。なにごとも備えは必要ということがわかったのは良かったわ」


危ない、と言ってるけど相変わらず声のトーンも落ち着き払ったままの国王。

極大魔法を瞳にしてのこの態度に感じるのは、嘗められてると感じてイラつくって事で。


そう、なんだ。宵闇のマントと同じ。

そこに大きな口が開いているみたいに、冷気が凍気が食われる。

魔力を喰った、白地だったところが青銅色に染まる楯。

国王、隙が無い。

眉ひとつ揺らすことが出来ないと、そういうこと……?

わたしの魔法じゃ……!


「ん〜〜?こんなもんか?」


「……マジか……」


「正直、見かけ倒しだの。黒翼よ、魔法を使えるのは隠しておったのか……まあ、いい。期待はずれであったわ……」


呆れ果てたように構えを解いて溜め息まじりに、そんなことを吐き捨てるみたいに国王が口にした。

その瞬間。

なにか爆ぜた。


プツン、と。


軒並みな表現しか出来ないけど確かにそんな音が耳の奥で響いた。

わたしの中で。


抑えていた感情が堰を切ったように流れ込む。

もう、ぐっちゃぐちゃ。


キレていた。

思わず声となって表に現れる感情。

吼えていた。


知らず知らず格ゲーのゲージ溜めみたいに腰を落として両の掌を力いっぱい握り込む。


「うわあ゛ぁあああっ!……言ったな?貴様、き期待外れだだとおっ?」


魔法が喰われるのを見て無力化されちゃったと気付くまでは良かった。

充分抑えられていた、うまく感情を。


だけど、嘲りを孕んだ、期待外れって台詞で全てがフッ飛んで。


もう、ダメ。

泣かせてやりたい。

国王だと?

そう、そんなの、どうだっていい。


丸ごとくっちゃくちゃにしてぼろきれにしてやりたい。

黙らせたい。

口は災いの元だって……アレ、ホント良いこと言ってる。


わたし、もう……行くとこまで行かないとダメな気がする。


表に表れる怒気はホントのホントだった。なのに、妙に頭の中は冷静に目の前の敵だけをくっちゃくちゃにしてやるって望みを達成するための手順を算段していた。


だって、わたしの吠えた低音ボイスが耳に届いたのを普段なら心地よいと思えたのにそれなのに、邪魔。ってくらいにしか思えなかったから。


「ほほっ。闘志は切れてはおらんか。ならばよし、黒翼よ……来るがよい。ただし、何度試したところで魔法など利かぬ。わかったではないかな、無粋であろうよ?」


「全力で押し倒すっ!」


国王の声は耳に届いていたか疑わしく。

なんか言ってる程度にふわふわと聞いていた。

頭に血が巡りきって、何倍もの量で流れ込んできたアドレナリンが既に脳を支配してしまった。


「く、くくっ。やってみるがいい♪」






「は、はは……はぁーっ……」


一気に息を吐き出す。


空気が欲しい。

握った掌が熱い。

じとっとしている。

フルフェイスの中で頬を伝っていく、生ぬるい水滴。

こんなに汗をかいて。

でも、ね。

拭うことも出来ない、……キモチワルイ……。

鎧内部は温度調節しているし、ちょっとくらいなら汗を掻いたそばから乾いてくはずなのに。


決定的な一撃を与えれない。


「んーっ……!」


これ見よがしにこきっこきっ首を鳴らした国王。


まだまだだ、と声にだしたわけでもないでも態度に出てる。


全力のレイジングスラッシュも。

首を断ち切るつもりで放ったブラッシュスナイダーも。

厄介な楯を砕きにいったパンツァースラストも。

国王の猛然な切り落としに弾かれ、払われ、はたき落とされる。


くそぅ、くそぅ、くそぅ、くそぉー!


仕掛けてきたのは国王からだった。

どのスキルも攻撃を躱してカウンター気味にここだっここしかないっ!てとこで放った……それなのに。


ヤバ……MP切れそうなんですけど……。そう言えばなんか言ってたっけ───回復アイテムを使った時点で修練は終了でここから叩き出すからな!

とか……だったかしら?


かと言って。

まだまだ自信たっぷりな英雄様を泣かせるには、これっぽっちの事でマナ切れ起こしてたらどだい無理なんだし。


もう、修練の門は終わっていることだし……失格だろうと構うものかっ!


ごくっ。

ボックスからマナチャージを取り出し一気に絞り出す。

ごくごくっ!

ぷはっ……。


飲みきったマナチャージを磨きあげられた床の黒石に叩きつけ、と同時に。

思わず声に出てしまった。



「さあっ、第二ラウンドといきますかっ!!」





黒翼はこれにて御仕舞いっと。

またゆるゆるデュンケリオンでの日常話になるかなと……。



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