たとえばこんなラストバトル。って、アレっ?
いよいよ修練の門も最後。
絶対最後。
これ、ラスボスよねっ。
まだまだこんなもんじゃないぜ!ってそんな事ありそうだったりするんだけど……そうだと、やだな……。
そうならないように祈りましょう。
「これで終わり、そうなりますように──」
思い起こせば長かった……エタりそうになるくらいに。
あー、うん、そう……そんなのどうでもいいんだけど。
メイドさんコス、ゴスロリコス、魔術師の次は何が出るのです?
まさか、キャバ嬢とか出てきちゃうなら笑っちゃう!
まさかよね?
そんな事思うのも、サーゲートにも日本からの知識が文化が持ち込まれてる、そんな気がするもの……全体的に広がってなくてもコスプレ文化の片鱗をわたしは見たし、それもついさっき!
んむー、でも無い話じゃないわよね……なんたって日本人が居た形跡ってゆーか……神様が日本の知識を持ってて。それで授けてたのだしね、ニクスの人たちがそれの証明。
ニクスって言えば……エウレローラ、元気にやってるかしら?
それにシアラと……誰だっけ、あのちっさな幼女。
もう一度会いたくなっちゃうから深くは考えないようにしないとだわ。
わたしなりに考えてみると、あそこって古い日本の田舎……それこそジ○○の映画にでも出てておかしくなさそうなそんな雰囲気をさせながら、本質的に間違ってる感じの田舎だと思ったっけ。
一皮あか抜けてるというか、それとファンタジーゲームの街並みを足して混ざったみたいなそんな抽象的で微妙な感じ。
住んでる人が違うって?
そう言われちゃうとその通り過ぎて何も言い返せなくなっちゃうわね。
住んでる人が暮らしやすいように過ごしやすいように変化しちゃってっていうのは、当然と言えば当然と受け止めましょう……でも偏って微妙な感じはなんなのかしら、ね?
お城の外見が豪華なラブホか、良く言えば遊園地ありそうなの。
で、中はヤの付く職業の人が住んでそうな屋敷みたいに作られてて……日本の知識を持ってる、見えてこない存在も酷く偏って微妙に違う日本感を持ってるなぁって思いません?
そんなだから。
メイドさんが居たって、ゴスロリが居たって、ファンタジーゲームが棲みかだろって魔術師が出てきたってね。
そうは驚かせられないわよ。
自問自答。
どこか悟ったようにそんな事を思いながら長い通路を歩いていると見慣れた、よくさっきから見ている似たようなあの門が現れた。
これはこれは…………………………ご丁寧に。
ちょっと警戒しちゃう。
空城の計ってあるじゃない、アレっぽく見せているのかしら?
既に門は観音開きに開かれていてそこへ身を翻らせて駆け込む。
ちょっと……そっち?
驚かせられた。
ある意味。
「ごくろうさま。俺はここを任せられてる、ロンベルトってもんさ。お前が黒翼だ、それだろ?そうなんだろ?いや名乗らなくていい、解ってんだから。二度手間は何でもイラつくよなあ?」
ヤクザ風の紳士はロンベルトと両手を広げて見せて名乗った。と、同時に濃い殺気をぶつけるように張り巡らして。
何故ってそれは見た目ですけど。
何故って、……門をくぐる前と後じゃ感じるプレッシャーの濃さが違うと言う、言わば鴨がネギ背負って飛び込んできたから待ち構えてた捕食者が罠を発動させた、みたいな……………………?
ワインレッドのシャツに、スラックスは白。
すぐ横のテーブルの側には背もたれ付き、手摺付きの椅子があり。
その背にも、脱いでそこに放り投げたんだと思わせる、白いテラードスーツが掛けられていた。
ヤクザでした、コスプレの次は。
ロンベルトはシニカルな笑顔で待っていた。
意外なほどラフな格好で。
だから、余計に怖いんですけど……?
感じるプレッシャーと見た目は正反対ってことなのよ、なんなの、このチンピラが!
上唇の髭は短く手入れがされてるぽい。
そこ以外に髭は生えていない。
髪形はオールバック。
黒い髪を整髪料のようなもので後ろに撫で付けて流している。
そして尖った特徴的な耳を見ると、エルフかハーフエルフだと主張しているようにしか見えない。
眼光鋭い瞳の色はオレンジ。
美しい発色の、金より更に濃い瞳の色をしている。
喋り始めると一気にまくしたててくる。
負かされたつもりは無いけど、場の雰囲気と止まらないロンベルトの勢いに呑まれて頷くしか出来ない。
「うちのもんが世話になったそうで」
「だとしたら、なんだって言うつもりなのか、聞いてやろうじゃないか」
やっと言い返すことに成功。
と、ロンベルトの鼻先に近寄って距離を詰める。
さっきまでは5メートルくらいお互い離れた所から手振りしながら、くっちゃべり続けるロンベルトの話を頷きながら聞いていた。
これ以上無いくらいに近寄りながら思うこと。
こうやって近くで見ると彫りの深い、鼻筋なんかスッと通っていたりする整った顔をしている。
わたしには好みじゃ無いんだけど、イイ男の部類に入ると思う。
もともとは白かったロンベルトの肌が少し熱を帯びて赤く染まった。
「何よってきてんだ?ふん、強いのは認めてやってもいいよ。でもなぁ……、落とし前って……あんだろ……?」
明らかに怒っている。
それは尋常じゃない、ロンベルトの放つ殺気でわかる。
プレッシャーを感じてわたしは半歩下がってから口を開いた。
「ガンつけてきたのはそっちが先だからな?
認めてるなら通せ、ここが最後だったら……もう、帰ってやろうじゃないか」
わたしの言葉に、難しい表情に顔を歪めたロンベルトは首を落とし、肺の中の空気を吐き出すみたいに、長い長いため息を吐き。
「あはははは。まぁ、そんなに焦んないでくださいよ。たぁっぷりその身に刻んで帰って貰いますから、たっぷり……とね」
次に顔を上げたロンベルトはにまーといやらしい笑みを浮かべて、オールバックの髪を撫でながらそう言った。
「お昼が、まだだから」
「終わったら、昼くらい恵んでやろうじゃないですか。つっても、まともに食える体でいられたら大したもんだろうけどさぁ」
場を和ませるつもりの軽口も一蹴。
鋭い切れ長の瞳が更に鋭利に尖り、凍りつくような睨み一発で動きを止められる。
ぎゅっと掌を握りしめた。
じとっと汗を掻いていた。
びびっている……?
怖い、の……?
「決まったヤサがあってな。不慣れな飯は口に合うかもわかんないからな、そうだろ?」
いいわよ、……やるならやってやろうじゃない!
撒き散らすような殺気でプレッシャーを掛けてくるのに、ロンベルトは喋ってるだけで剣を出す素振りも無いのがちょっと気掛かり。
びびってなんかない!
そう、言い聞かせる。
「違わない。全く、その通りその通り。なんですねえ、顔も見せないから……一度、拝んでおきたいと思ったんですけどね。それをまあ……」
ロンベルトの印象からそう言う風に思ったんだけど、Vシネかヤクザ映画で見たおー○わみきおッポイド。
なんとなく口調もそんな感じ。
チッ、と舌打ちをするとわたしの脇を通り過ぎスーツを掛けていた椅子にちかよった。
引っ掻けたスーツに腕を通すと。
派手な音を立てて、椅子をわたしの方を向け乱暴に座った。
足を前に突きだし、組み直して不敵な笑みを浮かべるロンベルト。
座ってから。
がしがしと髪を掻きながらもう一方の手で手を何度か振ってみせる。
今まさにロンベルトがやっているのは犬か猫を追い払う時みたいにシッシッと言う、声こそ出さないのだけどあの動作で。
わたしは犬猫か!
イラっと来ましたよ。
まあ、いいや……、『お好きに通ってどうぞ』と言うロンベルトはどうも納得して通してくれる、って?……通してくれる?
いつの間にかロンベルトの右手には葉巻があり、みるみる内にその先から煙が上がると葉巻を咥えて一服。
余裕にも見える態度、不敵な笑みのまま吐き出す煙。
もうね、ヤクザそのまんま。
チンピラでもいい。
───どうでもいいけど、葉巻は椅子の横にあるテーブルの上に銀の小さなケースが見えるからそこに入ってたんでしょう、ホントにどうでもいいんだけど煙草独特の匂いは無い。
葉っぱの焦げる匂いがしたかな、くらいだった。
「そもそもねや、俺が最後ゆーことでもないがよ。この先にゃ、ここのもんにも、よそもんやろーがにゃ……だーれも勝てんお人が待ちゆうがやきに……」
笑みを浮かべて紳士的に振る舞っているつもりに見える。
ロンベルトの瞳まで笑っているかどうかは、細く閉じられていたので読み取れない。
とは言っても、額や頬に青スジがはっきりと見えるということは相当お怒りみたい……、キレてる?
そもそもさっきとは言葉づかいが変わって汚く、訛って。
ここデュンケリオンは、それも修練の門はあちこちから強い人材を揃えているからってことかしら。
いやぁ、まさか見た目だけじゃなく言葉までヤクザそのものだなんて。
気持ち、ドスの効いた低い声がぴしぃっとわたしの脳裏を叩いた。
「……最強だっていうのか?そいつが」
「……黒翼よお。おんしゃがどんばぁ強かろぉと、上には上がおるぅいう事ながやきぃ……さぁ、門の扉ぁ開きぃやあ……」
わたしの問い掛けに反応して睨むようにロンベルトの片方の瞳が、勢いつり上がるように開かれて。
ごくっ。
これまでより絶望的に強いやつ……。まだ、先がある……?
「俺の気ぃ変わらんうちに目の前からおんしゃ……さっさと消えんと……」
固まって思考するわたしはその時恐ろしいもの、今まで似たようなものを見たことが無かったものを見せ付けられる。
それはおもむろにロンベルトが左手を背もたれの後ろに伸ばしたら現れた。
「………………え?」
見たことも無い。
ノルンだとして、いや………………他のゲームや知っている限りの神話でもあったかどうか覚えてないのだけど……そんな物が登場する所を。
存在も。
製造方法がまずわからないし!
名状しがたい形状をしていた……剣、なのかしら?
剣だとして。
どうやったらアラビア文字かチベット文字みたいな形状の、この剣を作り上げれるの?
ロンベルトが手に握った剣は刃と思われる部分が真っ直ぐには見えない。
魔法とか魔術で何でもできるから思い通りの形状もやってやれない事はないっ、ってそんなことなんでしょうけど……。
異様だった。
ロンベルトが取り出して肩から首に担いだ、その何ともわたしには理解しきれない剣は。
剣……と言っていいかって思い悩んでしまう代物だと声に出して言いたい。
なんなのよ、どうなってるの?それ!
ロンベルトに掴みかかって勢い、問い質してしまい兼ねないのを飲み込んだ。
「生えた……なんだそれはっ」
いや、やっぱり我慢出来ない。
思わずロンベルトの握る剣を指差し叫ぶ。
剣らしき所と言えば、握った柄とその上の鍔の部分くらい。
何と言っても生き物のようにぬるぬると生えた。
生え続けている。
伸び続けている。
ゆっくり。
剣らしき概念を持たなければ、某トグロ弟のようなものか。
単に武器であり、剣にとらわれないとするなら『アレ』はそう言えると思う。
「おぉ……。これはにゃ、悪魔憑きながやき。俺にぴったり!やろうが。それとにゃ、これ以上は威しやすまんぜよ……」
今現状で名状しがたい形状のロンベルトの剣は、目測で彼の三倍から四倍ほどになる。
育った、というべきなの?
どこまでもファンタジーな人たちだけどね……これはもう、限度も限階も何物もそんな言葉では表せない気持ち。
超越していったとかウルトラだとかスーパーだとか、覚醒だとかどんな言葉でも足りない。
悪魔憑き……ナニソレ?
いい、それはいい。
それよりも。
こんな化け物が敵わないって。
そんな奴がこの先に居る!
──ワクワクもする。
するけど、いい知れない恐怖が急にのし掛かってる。
ズンと重い。
『威しじゃない』と静かな怒りを孕んだ台詞を言った、ロンベルトからのはね除けるような凄まじいプレッシャーにあっさり気圧され、次の門への通路を何か抵抗出来なかったのかと考えて後悔混じりに歩いている。
ゲーム換算で言えばロンベルトの持っていた剣は極レアなんてものじゃない、その上を行っている。
そんな気がする。
それだけの剣だと思った。
メサイアの作ってくれた剣だって、ドロップ品のどれより優れていたし極レアだった、すくなくとも当時はね。
稀少なレア素材とそれ以上のレア鉱石をベースにして作ってくれた剣。
メサイアの愛が篭っていた、もちろんノルンというゲーム世界……自由きままな異世界に対する愛。
運営の用意したシナリオやレベアゲといった乗らずにはどうにもならないレールのようなものもあったりはしても。
それは強制されたものじゃなく。
それは自分のやりたいタイミングで、気持ちの乗っている時に気楽にチャレンジ出来る、そんな自由なレール……って、この場合までレールが適当な言葉なのかはちょっとね、わかんないですけども。
その貴重な剣もいまでは鑑定不可能な青い剣?になったままだったりするんですけど……。
どれだけ思考を巡らせてみても。
瞳を凝らしても。
ズームアップしてみても。
なんだろうと、一目でわたしは見てはいけないモノを見ている。
そんな気がした。
ロンベルトが余裕しゃくしゃくでわたしを送り出したのには訳があった。それに気付いたのは、すぐだった。