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駆け足で駆け抜けた

それはまあ、置いておくことにしましょうか、今は。

…………で、今までに比べるとここから戦闘らしい戦闘も無いままに。

ただ、それぞれの門を通されるようになった訳。


それはそれまでの、番人とのお互い探り合いを続けるような今までとの戦いと比べてだけど。


「ゆっくりとしていきませんの……?そうですわね、実力の一片でもをお前に吐き出して良いのでしたら、バラッバラに刻んで!これ以上ないくらいの!惨めな最後を!迎えさせて差し上げますのに、……ざぁーんねん!」


次にわたしが視線を交わしたのはコクレとか名乗った少女。

エルフのような長い耳も、獣人のようなふさふさしたケモ耳も生えてはいない、わたしの瞳に映る姿はそんな何でもない人間に見えるらしい。


だけど、それは逆に疑わしいのよ。

このノルンではニンゲンは弱い、脆い、鈍い。

いいとこないのがニンゲンってワケ。


繁殖力は強いみたいで数を揃えて、ごり押しなら。

または策に嵌めての搦め手ならニンゲンって互角以上に戦うんだって言うのは、セレンの小さな酒場で飲んでた時に、隣で大盛り上がりしてるきこりだっていうテーブルから聞こえて来たかな〜。


ちょっと考えれば同じ戦力なら、速くて堅くて強い獣人のようなチートにニンゲンが勝てるはずないって判るだろうけど?


ついでに言うと、エルフはエルフでニンゲンの三倍賢いんで、謀略で敵を圧倒しちゃうんだってさ。


寿命長くて、頭良くて、おまけに……見た目が綺麗って獣人とは違う意味でチートの血統じゃないの。

ニンゲンが獣人に勝てるのは賢さくらいで、エルフに勝てるのは丈夫さかな。

エルフ、徹底的に体が弱い。


鍛えて無いエルフだと、咳が出始めると……10日で衰弱して30日で亡くなるって…………なーむー……。


これって、風邪っぽいのに当たっちゃうとエルフだと治る見込みなくて死んじゃうってことなんじゃない?わたしの見立てのはなしなんだけど。


エルフの中にも例外が居て、病気に絶対的に強いのが……ダークエルフ。


別に悪くなったエルフじゃなくて、ニンゲンの呼び方がそうであるだけで肌が黒、灰など濃い色をしてるエルフの事を指す呼び名らしい。


さらにダークエルフも含めてエルフって全体的に、死活問題になっちゃうほど繁殖力がすさまじく低い。

男のエルフがとにかく生まれないって言うことらしい。


生まれることがあれば、一族の宝って言われるくらい、集落とか村とか地区とかそんな集団ぐるみで宝物扱いされちゃうってくらいには激レアアイテムみたいな存在。


純粋なエルフ、という括りだとですけど……。

………………それは繁殖力がどうこうとか、死活問題にもなるわよねぇ。


え?そんなに雑魚いエルフを熱っぽく語って何が言いたい?


そう、それよ。


こんなオンボロなエルフより人間って括りの種族は今は、下等に扱い受けてるんだってこと。


修練の門に居る以上は、この国最強最大位のクラスで凄く強い奴なはずなのに、この子ってどうみたって人間にしか見えないのよ……。


だから、……逆に不気味でしょう?


そう思わない?


わたしの瞳に映るコクレは椅子に座って静かな殺意を散らしながら、紅茶を飲んでいるので高さは正確には測れないけど、それでもわたしや凛子より高いとかには見えないの。


クドゥーナと同じか、それよりは高いかな?どうかな、くらい。


そんな彼女は白いボンネットに、白地に黒のエプロンドレスを身に纏っていてまるで、そう。ね、……わたしはこれをこれまでに知っている……いわゆるメイドさん。


しかも、コスプレっぺぇ、なんてゆーか……………………黒髪に黒い瞳だから、日本人ぽく、メイドカフェの女の子っぽくどうしても見えてしまうからなのかもだけど。

コクレにメイドコスが似合っているかどうかはともかく。


通っていいみたいだから、何か挑発してきてるみたいだけど無視無視。


コクレの事を我関せずと通り過ぎようとしたら、どこからともなく虚空に浮かび上がる柄の無い、それでいて厚みのある刃だけの鎌。


いや、それでもそれはそれも挑発。

わたしが反応しなければいいだけなんだ。

やる気あるなら、とっくに襲いかかってきてるだろうから。

そんな訳で大人しく通してくれるコクレ。


って言っても、ただで通すの相当に悔しかったんじゃないかしら。


刃幅の長い、正に死神の鎌って表現がぴったりな得物を……何等かのテレキネシスよね、これって。

手に触れるでもなく、その死神の鎌『たち』は鳥という訳でもなくどちらかってゆーと、夜に闇に踊るように空を舞う蝙蝠にも思わせられるように浮遊していた。


一本だった。

コクレが取り上げた時、確かに死神の鎌は一本しか無かった。

それが気付けば……これはこれは。


見事にぐるりとわたしを囲んで、凶まがしい鎌たちはいつでも一斉に襲わせられるってそう言うことな訳……、ふうん。


必殺といいたげな死神の鎌は部屋中に浮かせたままで、その上威嚇するような口調で、でもコクレは丸テーブルの上のティーカップを口に運びながら、テーブルと同じ白に統一された椅子からぴくりとも立つでもなく。


冷たい視線を刺すようにわたしに投げ掛けながらも、どこからともなくチャリンっと音を響かせ鍵を取り出す。


その手でパシンと丸テーブルを叩いた。


ねぇ。コクレ、無様ね。

声には出さずに心の奥で悔しそうに表情を歪めた少女の事を嘲笑うわたし。

それは、まぁ。

悪い癖。




「大将がそう言い出したらそれはもうしょうがない。アイツはどうも許せないラインがあるみたいだから。いつだってそうだ、スタンドプレーをやらかしてくるんだ。叶うなら、このゲオレル様がっ!黒翼、お前を叩きのめしてやりたい。が……まあ、いいや。興がそがれた事だしな、諦めよう」


身の太い、朱く大きな長槍の柄を脇に抱える、目の前の戦士風の男はゲオレルと名乗った後で。

わたしの、黒翼の周りを動物園の檻の中の熊のように落ち着きなく、ぐるぐると品定めするみたいに歩く。


さっきから『殺してやりてえ』って殺気がダダ漏れ。

襟無しのYシャツみたいな服の胸のところ、筋肉がビキビキと音を奏でてるみたいに跳ねる。


そう、伝達を聞いてからなのかはわからないけどゲオレルもコクレと変わらず、口では挑発してきててももう戦う構えはしてない。


上半身なら鎧は脱いでシャツ姿、下半身はまだ攻撃から体を守る具足を着けたままって格好だし。


まだ見てない彼らの大将格からの伝達を無下にするつもりも無いという事なんでしょう。


舌打ちをひとつすると乱暴にわたしの胸を叩いてゲオレルは手のひらに握っていたものを見せる。

見慣れてしまった鍵。

門を開く、あの鍵が握られていた。


わたしに鍵を渡すとさっさと行け!だけ言って背を向けて離れるように歩き出すゲオレル。


「次に会うその時は、存分に手合わせをしような」


返事は待たずに黒翼の低音ボイスを聞きながら、門を開くとその先を見てわたしは歩き出した。


「アハハハッ、僕らも本気で戦いたかったな。ねっ、そう思うよね?ね、ね、ね?」



双子が居た。


その名もマーキスとマーカス。


どっちがマーキスで、マーカス?


容姿も同じ。

金髪に金眼。


男のコだよね、そうだとしたら絶対的に変わってるとこがあって。


着ているコスチュームは男っぽい鎧でも、普通な貫頭衣なんかでも無く。


ゴスロリ。

これは、たまにTVでも目にするあの特徴的なぶりっぶりレースが丹念にあしらわれた……男っぽさは微塵もない衣装。


片方が闇に彩る黒なら片方は白く高潔そうな……コスプレ?


これはあれですか?

そういう趣味の子なのか、コクレのおもちゃにでもされてるってことなんですかねー。


どこからかボウガンを取りだして一度矢を放ってきたけど、黒翼たるわたしに急速に迫るそれを、手で軽くはね除けると二人のゴスロリコスは微笑んで大人しく鍵を差し出す。

黙ってそれを受けとるとこれ以上何にも無さそうだったからその場を離れることにした。


実際、何にも特に無かったのよね。


コクレにおもちゃにされてる様じゃわたしと本気(ガチ)でやりあったら……逆にハードモード突入って事が透けて見える気がする。

あっさり殺しちゃわないように気をつけなきゃ。

そんな本気の喧嘩無いよ?

世間ではそれを八百長って言うんだってさ。

そんな双子に負けるイメージは全くと言っていい。


無い、どうやったら負けるのか……いい勝負になるのか……教えて欲しいと思っちゃうんだ。




「あ、どーぞどーぞ。鍵はドアに差しておきました」


その先に待っていたのは、白地に青の線を走らせるローブをすっぽり纏った魔術師。

魔術師は腰を折っておじぎをして見せ、そう言って急かすように門を通してくれる。


と、その横を何の警戒もなく通り過ぎようとしたその時。


むう。

見えないの、見えないけど壁を感じる。

バリア的な存在を。



少し障害はあったけど忠実なわたしの下僕(マント)が障害は排除してくれる。

つまり、この見えない壁が魔力で出来ている証拠である。


白いローブの奥は暗くてその表情や、顔は見えなかったけど白い歯だけは見えた。

つまり白いローブの魔術師は薄笑いを浮かべてたワケ。

でも、みるみる内に薄笑いは消えて、ギリギリっという奥歯を噛み締める音が聞こえた。

障害が障害で無くなってしまったから。



逆ににやり。

自信があったんでしょう。

その究極と信じていた自己満魔力バリアを、わたしがスイイーっとまるで最初から何にもない風にあっさり通ってしまったから。


なぜだ!?どうして!?って、頭の中で絶叫してるの想像できる、きっとそうなんだろうなって。





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