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有り難くない選択

「特に食べるものとかもってないしなあ……ごめんな」


目の前にはワッと泣く少女が居たりする。


うぅ、どうして泣き出すのかってその理由が知りたくなるわ……お腹空いたってだけでしょ?


アアシャを泣き止まそうと、腰をアアシャの目線に下げて頭を撫でてやる。

あやすように。


すると一瞬びくっと震えて、それから少しずつゆっくりと上目遣いでアアシャがこちらに視線をびっくりした表情をしてから向けてきた。


うぅっと恨めしそうに喉を鳴らして、そこで再びのお腹の音。

きゅるるるっ!


唇を噛むのが見えた。

未だ癒す見立ての着いてない腹を押さえると、アアシャは長い睫毛を下ろして体を縮める。


そんな事されちゃうと、庇護欲って言うの、これ?

ぎゅってしたくなってしまう。


……いけないいけない、今のわたしは黒翼じゃない。黒翼ならどう振る舞うか。

それを考えて動いて然るべきで無いのかしら。


「ご無事でなによりだったよ。しっかしなあ、まさかだっての。凶暴化したアアシャは、ただの暴力でしかねーのに。やるじゃんかよ、アンタ。つーかな、言いづらいんだけどよ……」


「勿体ぶるな、続けろ」


出来る事が無いと解れば、黒翼なら目先のことなんかに心を砕かない。

黒翼なら。


その時。

話し掛けるタイミングを計っていたぽく、いつの間にか側に寄ってきていたヴェーレッタハイムが左側から口を挟んできてアアシャとの戦い振りを熱高く誉めてくれ。


そんなヴェーレッタハイムにも何か伝えづらいことがあるみたいに、視線が彼方を見るようにあからさまにあさっての方を泳いで、それまで回転の滑らかだった舌が止まった。


言葉のアイドリングみたいにううん……と唸ると、言い澱んで苦い表情を浮かべているヴェーレッタハイム。


埒があかないとは正に今、目の前のめんどくさい男にこそ掛けてあげるべき素晴らしい言葉じゃなかったかしら……こうしてる場合でも無いし。

先を続けさせた。


いいから、続けて続けて。

言わないで済むって訳で無いならそこで止める意味は無いのよ。

そう、思うんだけど。


「イノヤが気合い入れて負けた時点でな、アンタを大将のとこまで邪魔せず通せって命令が来ちまってたんだわ。どーせ、うちの大将が満足いく状態でアンタをぶちのめしたい、とか。ま、そんなとこだっての」


うわ、ちょっと、それって…………。

心にダメージを受けた、そんな気がした。


「…………案外と夕げよりは早く、ランチにありつけそうな事になってきたな。有難いか、有難くないかは別として」


有り難くない。

ま、まあ?

もう、何もしなくても有名になってしまうのは確定しちゃったってとこだし。


そう思えば諦めることぐらい簡単……確定なのかぁ、あとはエスカレーターってこと?


少し、寂しくも楽できる。

お昼が抜きになるって重大な過失は回避できそう。


「アアシャもこんなんだし、ホラよ。俺の鍵だ。で、あったあった。こいつはアアシャのとこの」


ヴェーレッタハイムの言葉の殆どを上の空で受け止めたわたしは。

どこかボーっとしていた。

おかしな流れでシェリルの名が一人歩き仕出しちゃったから、代わりに黒翼で有名になってシェリルの悪名を上書き。

それがここに居る理由の大本命、わたしの。


喜んでいい。

有名になる、願いは叶えられた、大筋はきっと。


なのに、なんだ?

どうして?

こんなにも酷い脱力感は。


「ホントならあたいがお前なんて通さないんだけどっ……今日は、もう力が出ない……」


片膝を立てた胡座座りで座っている、一戦終えたアアシャが強がりを言うのを聞いて、


「ベーレッタハイムに食べさせて貰えよ。この先気掛かりになるのは嫌なものでな。約束してくれ、この子に飯を出すと」


ベーレッタハイムにアアシャのお昼を押し付けようと思う。

その時のアアシャは希望に満ち溢れたって感じでその瞳の中には星まで線を引いて飛んでいるっぽく、わたしの瞳には映った。


わたしに熱い視線を向けてからベーレッタハイムにその熱は移っていくアアシャ。

ううん、どれほどお腹空かせてるのよ。

まるでペットみたい。

ペット、………………ペットかぁ……。


このくらいの可愛いのを首輪にリードを着けて。

わたしの好きにする…………それは何て言うか桃源郷?じゃなくてエデン?


あ、あああ!

いけないいけない。

一瞬、現実逃避を。

ダメね……。


「ああ、わーったわったよ。引き受けた」


という確約も取れたことだし。

ベーレッタハイムとアアシャを背に、わたしは次の門へと向かった。






その後、やはりベーレッタハイムが言っていた命令が正しく実行され。


後の番人たちは。

やる気とか、

覇気とか、

テンションとか、

まるでそれまでの誰とも違うように感じてしまう。


「ここをむざむざ通すという事は甚だ不本意な所だが、これも上からの命令だ。不本意ではある、不本意ではあるが……………………通さずに手を下すと言うわけにもいかんよな。諦めよう……いいぞ、通れ。先へ急ぐがよいわ」


後で聞いた話、仏頂面でこっちを睨み付けていたこの人。


名前をトータスヴィルと言って、象の獣人ってことだそう。


鼻は鷲鼻で、人よりは長いかも知れないけど、特に、誰も皆が思い描く動物園にいたり、図鑑に載ってたり、アニメで有名だったりする象さんのようには見えなかったけど。


象って言えば長くて大きい耳でしょ?


それでもとにかく象の獣人だって事みたいで。

あ。

あの、大きな耳だけど特長といってもいい、あのトレードマークの耳だけど。


これぞサムライっぽい大兜に、今も昔も変わらずずーっと続いてる大河ドラマちっくな上から下までがっちりしてる大鎧を着てて、これで面まで着けてたら春頃によくデパートなんかにある五月飾りのスケールが大きくなった奴って感じだったんだ。

それっぽくわたしの瞳には映った。


イコール、耳はみえない。


大きな耳も、長い鼻も、無いみたいだけど……これでホントに象って言えるのかしら。





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