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罠か本気か

「ユーデイルが負けて、ってゆーのは、はっきり言って何かの間違いかと思ってたのに。ここまで来るなんて」


「あ、どーも。ここの守り番を任されてる者です。名はベーレッタハイム」


イノヤとのヒリヒリと感じられた程の激戦が終わり、次の門を開いて左右を確認すると右側にいきなり人影が。


わたしの位置、門を開いた所から人影は5メートルくらい離れている。

部屋はどういう仕組みか薄明かるい。


これまでの部屋はライトボールか何かの魔法の灯りだったり、松明だったりでそれとなく何をしなくても明るかったのに。

あ、解ったし。これ、ヒカリゴケってやつ、多分……。

青銅色に染め抜かれたように見える壁、良く見ると壁全体的に淡く発光してるのかしら。

ヒカリゴケを自生させてるのか、持ち込んで張り付けてるのか知らないけれど、びっしりと群生してるその壁の隅に持たれるように座り込んでいた人影は男の人で、おじさん……三、四十代くらいかな。


唇の上に存在感を放つヒゲが立派で、教科書や伝記なんかに載ってる偉人なんたらさんみたいな。

それでいて元は純白、パールホワイトそんな表現が適当だったと思う、今は黄ばんで使い込まれててクリーム色って表現がぴったりな昔話の騎士とかTVで見たどこかの国の何か式典のパレードでビシッとキメてる兵隊さんとかが着てそうな上下で。


そのおじさんがこちらをジィッと見ていてその視線と、わたしの辺りを探る視線とがぶつかった!


まるで待ち構えてたみたいにするすると起き上がり、ぬるっと近付きながらその人がわたしこと、黒翼に向けて取った最初の行動は自己紹介。


こちらに向かって、にこやかに微笑みを浮かべている、ベーレッタハイムと名乗ったその人は今の今までのどの番人とも違って。

ピリピリ警戒する張り詰めた空気なんてものが無くて。


どちらかとゆうと、てろーんとだらしなく緩んでいる、………………覇気が感じられない。

某ゴムゴムの人の覇気とは違くて。

なんてゆーか、生きているエネルギーってあると思うの、そのやる気ってやつの方。

………………生気ってゆーかさ。


ベーレッタハイムからは特に、その覇気ってのを感じないのよね。

それは誰でもが必要ありそうな、持ってなきゃ……それこそニートか引きこもりなんじゃないかって思うの。

ま、今はそれはいいにして、と。

続けましょうか。


見たまま不揃いで、伸ばしっぱなしで肩を越す、男の人のってゆーと長いんじゃないのかなって思うくすんだ金髪。

ザッと整えるくらいにでも手入れをすれば、綺麗な金髪の紳士さんになるのでは無いかしら?


偉人さんほにゃららっぽいヒゲとは対照的に、口の周りと両の頬からも下唇のしたも不揃いの絶望的にみすぼらしく見えるし思えるのだけど無様な無精髭が散って生える、などと言うのは目にするだけで……剃ってあげたい衝動が走る。

……汚いわね……。


鎧ではなく、細々とした防御パーツをクリーム色の上下の上から着けているのが少しはやる気あるのかな、と思わせてくれるのは有り難い。

など言っても。

鎧が、とは言わないけどしっかりとがっちりと防具の装備くらいはしておいてくれないとそう言うのわたしは心配。


見た目がそんななんだから、期待は出来そうにないかしら?


わたしも細いけど、男の人にしては肉の付いてない、一応あるにはあるけど細っひょろい腕。

穿いている布製パンツを足首で絞ってるのを、視線で捉えた時に見たその細さはわたしより細かった。

髭と手入れされてない金髪とウェスタンハットみたいな帽子のつばとの間から垣間見える群青のように濃い青の力無い瞳。


観察はまだまだ続く。

ケモ耳もない。

勿論、尻尾もない。

耳は尖ってなく、丸い。

肌も白い、病人みたい。


あ、この人、…………ふつうに人間なんだ。

獣人とかじゃなくて。






「面白い。これは随分と凝ったバトルフィールドだな」


「いやいやいやいや……見た目だけですって」


喋った声からも力を感じない。

聞かれたから答えた、ただそれだけって思える。


「中央が浮いている。あなたの特性にあわせてるのだろうな?」


「いや、ま……そうっちゃって言えばそうなんですよ。ああ、でも。いーかげん手抜きが出来ないって、あのイノヤが通した……それもみたとこ……どこにも怪我も無いって感じだし。それって俺がここで全力出そうがなんて事ねーってことでしょ」


「なぜ、そうなる? まずは試してみないのか……?」


観察するべきものをベーレッタハイムから部屋の中央に移してから、思わず唸ってしまう。

そこにはどうみても逆ピラミッドな舞台が、異常な存在感でわたしを待ち構えているという風に感じられた。


その一方。

どこか、ベーレッタハイムからはやる前から諦めている空気が伝わってくる。

そして、その空気はやる意味ないと肯定されてしまったら、ここに今わたしのいる理由が踏みにじられたような、そんな気さえしてくるから不思議よね……。


どういうつもりなのか訊ねてみる。

本心が見えない、本気で何もするつもりが無いと言うんじゃ無いと思いたかった。


「やる前からわかってるくせにぃ、やだなあ。ほらよ、得物はコレだ」


「………………なるほどな」


すると、ベーレッタハイムの腰に巻き付くように嵌まっている、防具辺りに手を伸ばしてから抜きだすと手に取ったのは短剣。


刃渡りも手首から指先くらいの20センチとやや、いやかなり見劣りする得物でしかないように思えたから一応ううむと納得してしまう。


わたしの長剣が、地に突き立てて鳩尾の辺りまで刃があるのと比べると、どうしても……コレじゃあね、と。

鬱だわ、このベーレッタハイムから漂ってくる陰鬱な空気を何とかして。


わたしにまでその暗い空気に染められちゃいそうって思う。


「鎧を通して、身に届くと思えねーでしょ。何より、俺っちの方がリハビリちうでさ」


ヒカリゴケの淡い発光以外に光源も無い部屋は、ギラッと鈍く光る刃物を指先でもてあそぶベーレッタハイムを白く包み込むように照らす。

光源が近いのが問題なのかなあ、目の前のベーレッタハイムが暗いって感じるのは。


「そう言えば……イノヤも言っていたな。そう言えば。苦し紛れの言い訳という事では無かったのか」


「まぁ、火遊びの結果ってやつですよ。大人しくマニュアル通りやってたらこんな怪我はしなかっただろーけどねー、イノヤも。俺もさあ」


そこまで降り始めの雨みたいにぽつりぽつりと喋ったところで、ベーレッタハイムはかくりと縦に首を落として俯いた。

はぁぁぁぁ……。

胸に溜めた空気を一纏めに吐き出すみたいに、ため息が溢れる音が聞こえ。


「ぺらっぺらだけど、吹けば飛ぶよな誇りだとしてもよ。守りたかったものを守れてよかったって思えたら、それで……なーんもかもチャラになっちまったのよ。……綺麗な生き方は出来ない性分なんでしょうよ」


ベーレッタハイムが話す語気に力が込められた気がした。

それまでの陰鬱で、澱みがたまったようなどんよりとした空気が少し変わって。


どこかどうしようもなく重くて、暗く灰色っぽかった場の空気が青くらいに色付いた。

でもやっぱり、負け犬気質なのが透けて見えると言うか。


後半はもとのベーレッタハイムの声量に戻ってしまって、また聞き取りづらくなっちゃったのにはイラつく。


「後悔するよりは動いた方がいい、そういうことか?ベーレッタハイム、お前の言いたいのは」


「ちちち、ちょっと違うな。後悔じゃあねーんだよ、寂しいのさ。情けなくなっちまう……ン?」


ベーレッタハイムは一瞬ぽかんと固まりすぐに、ハッと覚醒してからこっちに視線を向けると。

ぴんと立てた人差し指を大袈裟に振ってみせた。


言葉に出してないけど、ベーレッタハイムは『解ってないな、アンタ』とでも言ってるみたい、言葉には出してないんだけど。

そう、思った。


そして、何か言葉を続けようとしたベーレッタハイムは考えが変わったのか解らないけど、落ち込んだ時のように背中から沈むように俯いて視線を真下の足元に落とした。

疑問符を口にした後で俯いた顔をがばっと持ち上げ、下に落としたはずの視線を異変を感じたみたいにすぐ部屋の奥に移す。


ベーレッタハイムのその瞳を見れば明らかに面倒そうな、全てを知っているのに敢えてそれを見てない知らない事にしたいと、とても嫌な事に関わってしまいそうで逃げ出したいけど逃げれない自分を密かに呪っているような、苦しそうに細め微妙に暗い色が浮かんでいる。


「へっ……」


諦めたように薄笑いを浮かべて唇を歪めたベーレッタハイムが視線をわたしに戻し、頭をかりかりと掻いているのを目に止めゆっくりと口を開くわたし。


「この先の、通路のあるあの門の方から聞こえた気がしたんだが」


ゆっくりとわたしの左手側、ベーレッタハイムから見て右側の奥に向けて指先を持ち上げ、そこに見えている赤錆のように紅い門扉を指し示す、黒翼としてのわたし。その瞬間。


ドッ!

ドンッっっっ!!!


壁を激しく叩きつける轟音が聞こえて。


さっき聞こえた音は気のせいじゃない。

誰かが門の向こうに居る。

門の横壁をもう一度叩いた轟音がその前までの轟音より尾を引いて部屋中に響きわたると、耐えきれないダメージを包えた横壁は埃のような砂煙をあげて崩壊を迎えたみたいだった。


るぅうううぁああああああああああっっっ!!!


突如、意味を為さない持たない吠え声が耳に届いて。

門の横壁に開けられた大穴の奥から、ぶうんと風を巻く音を上げてわたし目掛けて斬り付けてくる。

は、速い!


次の瞬間、隠すこともしない殺気の塊がそこに居た。

静かに唸り声を洩らして鋭く睨み付けてくる。

飛び込んできたのは──銀の穂先に朱色の柄の薙刀っぽい武器に見える得物を握りしめて、その癖鎧っぽい防具は朱色の膝当てくらいしか付けずに、市松模様に似た黒と白で配色された装束を着た、わたし目線的に小さくて鳩尾くらいの高さくらいの身長しかない可愛らしい少女!






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